近年、くるみを含むナッツ類が原因となる食物アレルギーが増加しています。特にアレルギーを起こしやすい特定原材料等に、くるみ、カシューナッツ、アーモンドが指定されています。食物アレルギーはなぜ起きるのでしょうか。くるみが原因で起きる食物アレルギーの症状、発生メカニズムはどのようなものなのでしょうか。くるみで食物アレルギーを起こさないための注意点とあわせて、薬剤師が解説します。
食物アレルギーはなぜ起きるのか
食物アレルギーは、特定の食べものに含まれるたんぱく質を自分にとって異物と認識して、それを排除しようと免疫系が働くことによって起きる症状です。
食物アレルギーの原因となる食べ物の多くは、人間にとって有害なものではありません。しかし食物アレルギーの人はそれを有害物質と判断して、それを排除するためにアレルギー反応を起こします。
食物アレルギーは、その人が生まれながらに持つ体質と、食事を含めた生活環境が関係していると考えられますが、体質や生活環境に問題があるわけではありません。たまたま、そうなっているだけなのです。
近年増加しているアトピー性皮膚炎や花粉症もアレルギーの一種で、日本人の3人に1人は、何らかのアレルギーを持っているといわれています1)。今から50年前、日本ではアレルギーはほとんどありませんでしたが、欧米や日本などの先進国でアレルギーは大きな問題となっています。そのため、工業化・文明化とアレルギーは密接な関係があると考えられています。
くるみはオメガ3脂肪酸が多いヘルシーフード
くるみ(胡桃)は、クルミ科クルミ属の樹木にできる種子で、非常に堅い殻で覆われています。くるみの木は日本にも自生していますが、日本で食べられているくるみのほとんどは、アメリカから輸入されたものです2)。
もともと和菓子や洋菓子、パンなどの副材料として使われていましたが、近年、ヘルシーフードとして注目され、ナッツとしてそのまま食べる人も増え、輸入数量は増加傾向にあります2)。2018年のナッツの種類別輸入数量では、アーモンドに次いで多くなっています。
くるみに多く含まれる栄養成分として、オメガ3脂肪酸があります。
脂肪酸にはコレステロールや中性脂肪を作る飽和脂肪酸と、体の働きを調節したり、血液をサラサラにする不飽和脂肪酸があります。オメガ3脂肪酸は不飽和脂肪酸の一つで、α-リノレン酸、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)の3つに分けられます。
DHAやEPAは健康食品の成分としてもよく使われるので、聞いたことがある方も多いと思いますが、くるみには、オメガ3脂肪酸のうちα-リノレン酸が豊富に含まれています3)。
食品名 | α-リノレン酸量(可食部100gあたり) |
---|---|
くるみ/いり | 9,000mg |
アボカド/生 | 120mg |
カシューナッツ/フライ/味付け | 76mg |
アーモンド/いり/無塩 | 10mg |
えごま油 | 58,000mg |
あまに油 | 57,000mg |
α-リノレン酸にはアレルギーの原因物質を抑制する、血圧を下げる、血栓ができるのを予防する、といった効果があるとネット上には書かれていますが、α-リノレン酸の摂取と、循環器疾患の発症率及び死亡率との関連性について否定する論文もあります。ちなみに、18~49歳の日本人のオメガ3脂肪酸の食事摂取基準は、男性が2.0g/日、女性が1.6g/日となっていますが、通常の食生活を送っている日本人においては、α-リノレン酸の不足を心配することはないといわれています4)。
くるみアレルギーの症状とそのメカニズム
くるみが原因となるアレルギーには、大きく分けて2種類あります。即時型アレルギーと口腔アレルギー症候群です。
即時型アレルギー
一般的な食物アレルギーで、食べた直後から2時間以内に、
- 皮膚のかゆみ、じんま疹、紅斑(赤く腫れる)
- 目のかゆみ、充血、まぶたの腫れ
- 口やのどの違和感・イガイガ感、唇や舌の腫れ
- くしゃみ、鼻水、鼻づまり
が見られます。なお皮膚の症状は、食物が原因で起きる即時型アレルギーの90%で起きるといわれています。
さらに症状が重い場合は、
- 声がかすれる、のどが締め付けられる、息苦しさを感じる
- 腹痛・吐き気・嘔吐・下痢
- 脈が速くなる、手足が冷たくなる、唇や爪が青白くなる(チアノーゼ)、血圧低下
- 意識がもうろうとする、尿や便を漏らす(失禁)
といった症状が見られることもあります。このような場合は直ちに救急車を呼ぶ必要があります。
くるみによる即時型アレルギー(一般的な食物アレルギー)は、くるみに含まれるたんぱく質が原因で、体内にIgE抗体がつくられることから始まります。IgE抗体は体内に侵入した異物を排除するために作られるもので、多くの人はくるみのたんぱく質に対するIgE抗体は作りません。ところが、くるみのたんぱく質を異物と判断する人は、くるみのたんぱく質が体内に入ったときに、IgE抗体が作られています。
再びくるみのたんぱく質が体内に入ると、IgE抗体はそれと結合し、ヒスタミン、ロイコトリエンといった炎症メディエーターを大量に放出します。その結果、上で説明したようなアレルギー症状が起こります。
口腔アレルギー症候群(OAS)
原因となる食べものを口に入れた直後から数分以内に、口の中、のど、唇がピリピリしたり、かゆくなったりするものです。多くの場合、症状は口やのどに限られ、食べものを吐き出したり、呑み込んだりすることで、症状は治まります。
即時型アレルギーとの違いは、花粉症が関係している点です。花粉症は植物の花粉に含まれるたんぱく質が原因で起きるアレルギー反応です。花粉のたんぱく質によって、鼻や目の粘膜にIgE抗体が作られ、ふたたび花粉と接触すると、炎症メディエーターが放出されて、鼻水、鼻づまり、目のかゆみを感じます。
口腔アレルギー症候群は、この花粉のたんぱく質と構造が似たたんぱく質を含む食べもので起こります。くるみ(クルミ科)やヘーゼルナッツ(ウルシ科)は、ハンノキ、シラカンバといったカバノキ科の花粉が持つたんぱく質と似たたんぱく質を含んでいます。そのためカバノキ科が原因で起きる花粉症の人が、くるみやヘーゼルナッツを食べると、そのたんぱく質が口の粘膜にあるIgE抗体と結合し、口の中で炎症メディエーターが放出されることで、上に示したような症状を示します。
くるみアレルギーを発症しないための注意点
乳幼児にくるみを食べさせる機会は少ないと思います。過去にくるみを食べたことがないこどもが、くるみを食べて即時型アレルギーを発症したケースがあります。くるみを食べていないのに、なぜくるみのIgE抗体が体内にできたのでしょうか。
既に説明したように、くるみはヘルシーフードというイメージが定着しており、健康やダイエットのために食べる人が増えています。また料理にくるみを使う機会も増えていると思います。くるみの破片や粉が多い場所では、くるみの粉を息から吸い込む、くるみのたんぱく質が皮膚や粘膜を通して吸収されます。
皮膚から吸収されるなんて・・・と思うかもしれませんが、小麦成分を含んだ洗顔石鹸による小麦アレルギーや、おむつかぶれ防止クリームに含まれていたピーナッツオイルが原因のピーナッツアレルギーなど、皮膚を通じた食物アレルギーの例はいくらでもあります。
アレルギーに弱い体質の人への配慮
過度に神経質になる必要はありませんが、アレルギーに弱い体質の人が家庭内にいる場合、くるみを食べる際には、破片や粉を飛び散らさないように注意をし、こまめに掃除をした方がよいでしょう。アレルギーに弱い体質とは、具体的に次のような場合をいいます。
アトピー素因がある
アトピー素因とは、アトピー性皮膚炎、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎、結膜炎のうちいずれかを自分自身または家族が持っていることをいいます。アトピー素因がある人は、IgE抗体を作りやすい傾向があるため、食物アレルギーになりやすいといわれています。アトピー素因の遺伝には複数の遺伝子が関わっているため、100%ではなく、ある程度遺伝すると考えられています。
花粉症を発症している
花粉症を発症しているということは、アレルギーに弱い体質である可能性があります。
くるみを食べ過ぎない
アレルギー反応は、原因となるたんぱく質に繰り返し接触することで、起きる場合があります。花粉症はある日突然、症状が現れますが、それまでに花粉のたんぱく質に繰り返しさらされたことで起きたと考えられます。またベーカー喘息という小麦アレルギーは、日常的に大量の小麦粉を吸い込むパン職人や麺職人の人がかかるアレルギーです。
花粉症もベーカー喘息も、原因物質と接触しなければ症状は出ませんが、いったん発症すると、元の状態に戻ることはありません。
くるみを食べるのは悪いことではありませんが、健康になることを期待して、毎日大量に食べ続けるのは、止めた方がよいと思います。くるみがスーパーフードだと書いてあるネット記事は、誰が書いているのか、よく確認してください。多くの場合、くるみの販売に関わっている人たちです。
くるみアレルギーかどうかを検査する方法
くるみアレルギーの人は、体内にくるみに対するIgE抗体が作られています。そのため血液を採取して、IgE抗体の量を調べることで、くるみアレルギーかどうか、判断することができます。
この検査は病院(内科、小児科、アレルギー科)で行うことができ、健康保険が適用されます。
まとめ
- 食物アレルギーは、特定の食べものに含まれるたんぱく質を自分にとって有害と判断し、これを排除するために起きるもの。発症には、生まれながらに持つ体質と、食事を含めた生活環境が関係している。
- くるみはオメガ3脂肪酸を多く含むことから、ヘルシーフードというイメージが定着しており、消費量が増えている。くるみにはオメガ3脂肪酸の一つであるα-リノレン酸が多く含まれるが、通常の食生活を送る日本人は、α-リノレン酸の不足を心配することはない。
- くるみが原因となるアレルギーには、一般的な食物アレルギーである即時型アレルギーと、花粉症の人に発症する口腔アレルギー症候群がある。即時型アレルギーは90%に皮膚症状が見られ、重症の場合は呼吸困難になることもある。口腔アレルギー症候群は症状は口とのどに限られ、時間が経てば症状はなくなる。
- くるみアレルギーを発症しないためには、アレルギーに弱い人がいる場合に、くるみの破片や粉を飛び散らさないように注意する。またくるみを食べ過ぎないことも重要。
参考文献
1) 厚生労働省、食物アレルギー
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf
2) 東京税関、ナッツ類の輸入、(2019)
https://www.customs.go.jp/tokyo/content/toku0111.pdf
3) 文部科学省、日本食品標準成分表2020年版(八訂)
4) 厚生労働省、日本人の食事摂取基準(2020年版)