セカンドミール効果というのは、最初に摂った食事が、次に摂った食事の消化・吸収に影響し、血糖値の上昇が緩やかになることです。
Ⅱ型糖尿病やその予備軍の人は、食後血糖値が急激に上昇しないよう管理する必要があるので、セカンドミール効果は重要です。健康な人がこの効果を期待して、朝食のメニューを変える必要はありません。
セカンドミール効果は正しい
セカンドミール効果(second-meal effect)とは、最初に摂った食事の内容が、次に摂った食事の血糖値の上昇に影響するという考え方で、これを実証した医学論文が多数出ています。
実は、これはよく考えるとあたりまえのことです。最初に食べたものが消化・吸収のよいものだと、次に食べたときには小腸での吸収が終わっているため、次に食べたものも速やかに吸収されます。一方で最初に食べたものが消化・吸収に時間がかかると、次の食事を摂ったときに、前に食べたものの吸収が小腸で続いているため、次に食べたものの吸収速度が低下するのです。また最初に食べたものによって、腸内細菌叢が変化したことで、次に食べるものの消化・吸収速度に影響するともいわれています。
炭水化物(糖質を含む)が消化されて小腸で吸収されると血糖値が上がるので、血糖値の上昇速度にも差がでます。
糖尿病とその予備軍の人のための食事法
人間は主にグルコースをエネルギー源として生きています。グルコースは小腸で吸収されたのち、血液に乗って全身に運ばれ、あらゆる場所で消費されます。血液中のグルコース濃度のことを血糖値といい、人間の健康状態を知る重要な手がかりとなります。血糖値が低くなると、脳がエネルギー不足になり、汗をかく、手足が震えるなどの交感神経症状、頭痛、目のかすみなどの中枢神経症状が現れます。一方、血糖値が高くなると、喉の渇き、尿の増加、倦怠感、視力低下などが起こり、血糖値が高い状態が慢性的に続くようになると、糖尿病になります。
健康な人では、血糖値が一定の範囲になるようにホルモンでコントロールされており、小腸でのグルコースの吸収が増えると、インスリンが分泌されて、血液中のグルコースを細胞内に取り込み血糖値を下げます。このインスリンの分泌が少なくなった状態、あるいはインスリンが効かなくなった状態が糖尿病(その手前の糖尿病予備軍を含む)です。
一時的に高くなった血糖値を下げることができないのなら、血糖値が上がらないよう、自分で注意するしかありません。食べものに含まれるグルコースが吸収されると血糖値が上がるので、吸収速度を調節するための手段がいろいろと検討されています。その一つがセカンドミール効果なのです。
セカンドミール効果がある食品
どのような食品にセカンドミール効果があるのでしょうか。最近の医学論文から見ていきましょう。
全粒ライ麦製品
全粒ライ麦製品(全粒ライ麦穀粒パン)には腸内細菌のエサになる成分が多く含まれるため、腸内細菌叢を変化させ、糖分解細菌の数を増やします。そのため3時間後に食べた食事のエネルギー摂取量を11%減少させることがわかりました。また全粒ライ麦製品を食べることでビフィズス菌(善玉菌)が相対的に増加し、バクテロイデス(日和見菌)が相対的に減少したことがも2014年に出たデンマークの論文で報告されています1)。
キヌアとそば
キヌアは雑穀の一種で、食物繊維が多いことで知られています。そばは日本で製粉して麺にして食べられているものです。エジプトで行われ、2016年に発表された研究では、Ⅱ型糖尿病の患者さんの病状悪化を防ぐための食事療法のメニューとして、キヌアとそばを食べたときの食後血糖値と、セカンドミール効果について調べています2)。
まずそばを食べると、白パンと比べて、食後血糖値の上昇は明らかに緩やかでしたが、キヌアは白パンと差はありませんでした。一方、そばとキヌアを食べたのちの2回目の食事では、どちらを食べた場合も、2回目の血糖値の上昇を緩やかにする効果が見られたということです。
精製大麦粉パン
こちらは日本で行われた研究です。ふつうのパン(精製小麦粉パン)の代わりに精製大麦粉パンを食べると、食後血糖値の上昇が緩やかになりました。これは大麦に含まれる水溶性食物繊維であるβグルカンの効果であると考えられます。さらに2回目の食事後の食後血糖濃度を調べたところ、精製大麦粉パンには、2回目の食事後の食後血糖値の上昇も抑える効果があることがわかったとのことです。
つまり、大麦粉で作られたパンには、食べた直後も、次の食事でも、食後血糖値の上昇を緩やかにする効果があるという結果です。しかし大麦粉で作られたパンはほとんど見かけません。ちなみにこの研究は、大麦粉のメーカーと山梨大学が共同で行ったものです。
たんぱく質
欧米では朝食にオートミール(オート麦ベースの朝食用シリアル)を食べることがよくありますが、これは高炭水化物の食品です。2018年に発表されたカナダの研究では、オートミールを食べる際、牛乳を摂ることで、食後血糖値の上昇が緩やかになることが示されています4)。また牛乳に含まれる乳たんぱく質濃度が高いほど、2回目の食事(昼食)を摂った後の血糖値の上昇を抑えるとともに、満腹感が得られることもわかりました。
このほかにも、セカンドミール効果に関する論文は多数ありますが、効果があるとされる成分は、食物繊維とたんぱく質です。
一般の人がセカンドミール効果を気にする必要はない
健康に関心が高まっているいま、さまざまな情報が飛び交っています。やせたい、健康で長生きしたいと誰もが考えるので、それに効果があると聞くと、やってみようと考えるのは自然なことです。ただ考えてほしいのは、さまざまな食事法や健康法がある中で、どれが費用対効果が高いか、ということです。
セカンドミール効果を勧める人たちの理論は、次の通りです。
↓
朝食後、昼食後とも、食後血糖値の急激な上昇を防ぐことができる。
↓
食後血糖値の急激な上昇は、肥満や糖尿病の原因になるため、これを防ぐことができる。
この考えは間違っていませんが、これを実践するために、朝食に、
- 食物繊維が多く含まれる食品
- 低GI食品(GIとはグリセミックインデックスといって、食後血糖値の上昇しやすさを示す)
- 高たんぱく質の食品
- 食物繊維やたんぱく質を含むサプリメント
などをわざわざ食べる必要はありません。
肥満や糖尿病にならないようにするために重要なことは、
- カロリーを摂り過ぎない(食べ過ぎない)
- カロリーを消費する(運動する)
の2点であって、これを行わずに、糖質の吸収をおだやかにするために、値段の高い食品をわざわざ買うというのは、明らかにナンセンスです。
もしあなたが、インスリンの分泌量が減っていたり、インスリンが効かなくなっている場合は、医師の指導のもと、食事療法を始めてください。その際、セカンドミール効果を考慮したメニューを勧められるかもしれません。
そうでない人が、糖質の吸収をおだやかにする目的で、セカンドミール効果を期待した食事を摂るのは、意味がありません。
まとめ
- セカンドミール効果とは、最初に摂った食事が、次に摂った食事の消化・吸収に影響し、食後血糖値の上昇が緩やかになること。
- Ⅱ型糖尿病の人は血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が減ったか、あるいはインスリンが効かなくなっている。そのため食後に血糖値が上がらないように、自分でコントロールする必要がある。セカンドミール効果は、食事に含まれるグルコースの吸収速度を調節するための手段の一つ。
- 食物繊維を多く含む食品や、たんぱく質を高濃度で含む食品に、セカンドミール効果があることが、研究論文で報告されている。
- 一般の人が、セカンドミール効果を期待して、セカンドミール効果があるといわれる食品を摂ることはナンセンス。ダイエットが目的なら、食べ過ぎないことと、運動することが重要で、糖質の吸収をおだやかにするために、値段の高い食品をわざわざ購入する前にやるべきことがある。
参考文献
1) Ibrügger S, et. al., Second meal effect on appetite and fermentation of wholegrain rye foods. Appetite 80 248-256 (2014)
2) Gabrial SG, et. al., Effect of Pseudocereal-Based Breakfast Meals on the First and Second Meal Glucose Tolerance in Healthy and Diabetic Subjects. Open Access Maced J Med Sci, 4 (4) 565-573 (2016)
3) Matsuoka T, et. al., Consumption of a meal containing refined barley flour bread is associated with a lower postprandial blood glucose concentration after a second meal compared with one containing refined wheat flour bread in healthy Japanese: A randomized control trial. Nutrition, 72:110637 (2020)
4) Kung B, et. al., Effect of milk protein intake and casein-to-whey ratio in breakfast meals on postprandial glucose, satiety ratings, and subsequent meal intake. J Dairy Sci, 101 (10) 8688-8701 (2018)