最近、ヤクルト1000が人気です。その理由はストレスをやわらげ、睡眠の質を高める機能があるという表示があるからです。あまりの人気で品薄になり、高値で転売されるなど、話題になっています。既存のヤクルト400を3本飲めば、全く同じ効果が得られるはずなのに、ネット上にはそれを否定する記事が出ています。ヤクルト1000が手に入らなければ、ヤクルト400で代用できることを、薬剤師が科学的に説明します。
ヤクルト1000は睡眠の質を高める機能性表示食品
2021年4月から全国販売されるようになったヤクルト1000。正確には、宅配商品のYalult(ヤクルト)1000と、店頭商品のY1000の2種類があります。どちらも機能性表示食品で、機能性関与成分は乳酸菌シロタ株(L. カゼイ YIT 9029)、届出されている表示内容は次の通りです。
本品には乳酸菌シロタ株(L. カゼイ YIT 9029)が含まれるので、一時的な精神的ストレスがかかる状況でのストレスをやわらげ、また、睡眠の質(眠りの深さ、すっきりとした目覚め)を高める機能があります。さらに、乳酸菌シロタ株(L. カゼイ YIT 9029)には、腸内環境を改善する機能があることが報告されています。
実は、Yakult 1000とY1000は、届出表示の内容が微妙に異なるのですが、言っている内容は同じなので、ここではYakult 1000の届出表示を転記しています。違いを知りたい方は、こちらの記事のヤクルト1000の部分をご覧ください。
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乳酸菌シロタ株というのは、ヤクルトのCMでよく聞く名前で、ヤクルトと名の付く乳酸菌飲料に含まれている菌の名前です。ヤクルトと似た乳酸菌飲料はいろいろありますが、ヤクルト以外の乳酸菌飲料にはこの菌は含まれていません。この乳酸菌シロタ株には、
- 一時的な精神的ストレスがかかる状況でのストレスをやわらげる。
- 睡眠の質(眠りの深さ、すっきりとした目覚め)を高める
- 腸内環境を改善する機能がある
といわれています・・・とみなさん思っておられるのでしようが、実はそうではなく、特に①と②はメーカー(株式会社ヤクルト本社)さんがいっているだけです
機能性表示食品は、事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するものとして、消費者庁に届け出られた食品です。特定保健用食品(トクホ)のように、国による個別審査を受けたものではなく、事業者による届出だけでOKなので、国はその機能について何ら責任を負っていません。もちろん、届出にあたっては、科学的根拠となるデータが添えられており、消費者庁のホームページで公開されています。
ヤクルト1000の「一時的な精神的ストレスがかかる状況での睡眠の質に対する機能性」についての研究は、テスト前の94名の学生(21~27歳)を、ヤクルト1000を飲むグループと飲まないグループに分けて実施されました。眠りの深さは脳波の測定によって、すっきりとした目覚めは主観的評価(質問に対する回答)によって行われ、ヤクルト1000を飲んだグループの方が、飲まないグループに比べて、眠りの質が改善された、という結果を出しています。
この研究はヤクルト本社と徳島大学の共同で行われ、結果は第三者が審査した論文として公表されているので、正しいとは思いますが、研究を行うための費用は、ヤクルト本社が負担していることも、忘れてはいけません。
ヤクルト1000とヤクルト400は何が違うのか
ヤクルト1000には、宅配商品のYalult(ヤクルト)1000と、店頭商品のY1000 の2種類があります。これらの商品と宅配商品のヤクルト400の概要について、整理してみました。
Yalult 1000 | Y1000 | ヤクルト400 | |
分類 | 機能性表示食品 | 特定保健用食品 | |
原材料 | 砂糖(国内製造)、脱脂粉乳、ぶどう糖果糖液糖、高果糖液糖/安定剤(大豆多糖類)、香料 | ぶどう糖果糖液糖(国内製造)、砂糖、脱脂粉乳/香料 | |
容量 | 100ml | 110ml | 80ml |
乳酸菌シロタ株の菌数 | 1,000億個/本 | 1,100億個/本 | 400億個/1本 |
価格(税別) | 130円 | 150円 | 80円 |
ヤクルト1000とヤクルト400の根本的な違いは、
- ヤクルト1000は機能性表示食品、ヤクルト400は特定保健用食品
- 含まれている乳酸菌 シロタ株(L. カゼイ YIT 9029)の菌数
という2点だけです。
機能性表示食品と特定保健用食品の違いについては、後ほど説明するとして、乳酸菌シロタ株の菌数の違いだけなら、ヤクルト400を3本(80ml×3=240ml)飲めば、ヤクルト1000を1本飲むことで体内に入る菌数を上回ります。ヤクルト1000が手に入らないのであれば、ヤクルト400を3本飲めば、同じ機能が得られるはずです。
ヤクルト400を3本飲めばヤクルト1000と同じ
ヤクルト1000が品薄になってから、ネット上にはヤクルト400で代用できる、できないの記事が出回っています。先に結論をいいますが、ヤクルト400を3本飲めば、ヤクルト1000を飲んだのと同じことになります。
菌の濃度が違うというのはナンセンス
ヤクルト400でヤクルト1000を代用できないと主張する人は、乳酸菌の濃度が違うことを理由にしているようです。すなわち、ストレス緩和・睡眠の質の向上という機能を得るためには、高い乳酸菌濃度が必要といっているようですが、まったくナンセンスです。口から入ったヤクルトは、食道、胃を通って小腸に届きますが、小腸に到達する前に、胃液や膵液で希釈されます。食事や飲み物と一緒にヤクルト1000を飲めば、さらに希釈されます。ヤクルト1000とヤクルト400の菌の濃度の差は、たった2倍なので、乳酸菌の濃度など、関係ありません。
ところでヤクルト1000には、摂取する時間も、摂取する方法も指定されていません(睡眠サプリメントの中には、摂取する時間を指定しているものもあります)。もし濃度が関係するのなら、「空腹時に水なしで服用してください」などの注意書きが必要になるはずです。
メーカーは絶対に同じとは言わない
ヤクルト本社の見解というのもありますが、そもそも、ストレス緩和・睡眠の質の向上という機能で機能性表示を届け出ているのはヤクルト1000なので、それ以外の商品に同じ機能があるなどということは、口が裂けても言えません。しかし科学的に考えて、乳酸菌 シロタ株(L. カゼイ YIT 9029)にストレス緩和・睡眠の質の向上という機能があるのであれば、同じ菌数であれば、同じ機能が得られると考えるのがふつうです。
うがった見方をすれば、メーカーとしてはヤクルト1000が品薄になって話題になることで、きわめて大きな宣伝効果が得られています。1年近くたっても、品薄状態が続いているのは、なぜなんでしょうか。
そもそもどの程度効果があるのか疑問
ヤクルト1000が機能性表示食品であることは先ほど説明しましたが、ヤクルト400は特定保健用食品(トクホ)です。トクホは、からだの生理学的機能などに影響を与える保健効能成分(関与成分)を含み、その摂取により、特定の保健の目的が期待できる旨の表示をすることが許可された食品です。ヤクルト400の関与成分は、ヤクルト1000と同じ乳酸菌シロタ株(L. カゼイ YIT 9029)ですが、許可されている表示内容は次の通りです。
生きたまま腸内に到達する乳酸菌 シロタ株(L. カゼイ YIT 9029)の働きで、良い菌を増やし悪い菌を減らして、腸内の環境を改善し、おなかの調子を整えます。
ヤクルト1000と同じ乳酸菌シロタ株が含まれているにもかかわらず、ストレスをやわらげ、睡眠の質を高める機能は許可されていないのです。
これはどういうことなんでしょうか。
・トクホは国が審査して、特定の保健の目的が期待できる旨の表示をすることを許可したもの
・機能性表示食品は、事業者の責任で機能性を表示することを国に届け出たもの
という違いがあります。
ストレスをやわらげ、睡眠の質を高める機能はあると認められるが、特定の保健の目的、すなわち、ストレスをやわらげ、睡眠の質を高めるという目的が期待できるとまでは言えない、とも考えられますね。
ただ、この菌数の違いだけで、ストレスをやわらげ、睡眠の質を高める機能に有無が生じるのは、少し考えにくいように思います。
あくまで個人的な意見ですが、若くて偏差値が高い国立大学の学生94名を対象とした、たった1回の実験結果だけで、飲んだ人すべての「ストレスをやわらげ、睡眠の質を高める」という機能があるというのは、少々無理があるような気がします。
まとめ
- ヤクルト1000は一時的な精神的ストレスがかかる状況でのストレスをやわらげ、睡眠の質を高める機能があると表示した、機能性表示食品。機能性表示食品は、事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示したもので、国はその機能について何ら責任を負っていない。
- ヤクルト1000とヤクルト400の根本的な違いは、ヤクルト1000が機能性表示食品で、ヤクルト400が特定保健用食品であることと、含まれている乳酸菌 シロタ株(L. カゼイ YIT 9029)の菌数が違うことだけ。
- ヤクルト400を3本飲めば、ヤクルト1000を1本飲んだのと同じことになる。乳酸菌シロタ株にストレス緩和・睡眠の質の向上という機能があるのであれば、同じ菌数であれば、同じ機能が得られると考えるのがふつう。ヤクルト1000とヤクルト400は菌の濃度が違うが、腸に到達するまでに希釈されるので、飲むときの濃度は関係ない。
- ヤクルト100が、ストレスをやわらげ、睡眠の質を高めるという機能の裏付けになっているのは、若くて偏差値が高い国立大学の学生94名を対象とした、たった1回の実験結果。ヤクルト1000を飲んだすべての人にこの機能があるというのは、少々無理がある。