小麦、大麦、ライ麦、オーツ麦、もち麦の違い、特徴、用途を解説

小麦、大麦、ライ麦、オーツ麦は種が異なる別の植物なので、その粉の性質も全く違います。

大麦、ライ麦、オーツ麦は小麦に比べて固く、粉はあまり使われません。大麦は麦茶やビールの原料として主に使われます。もち麦は大麦の仲間で、もちもちした性質があるため、ごはんに混ぜて炊いたり、めんに加工されたりと、最近、人気があります。

このほか、麦と名前が付くものについて、詳しく解説していきます。

麦と名の付く食べものはこんなにある!

まず、麦と名の付く食べものを集めてみました。

植物の品種

  • 小麦
  • 大麦
  • ライ麦
  • 燕麦(エンバク)
  • オーツ麦
  • ハト麦

麦の品種(亜種・交雑種)
亜種とは品種は同じでも一部異なる関係、交雑種とは掛け合わせでできた品種のことです。

  • スペルト小麦
  • 古代小麦
  • はだか麦
  • もち麦

麦の加工品または麦から作られたもの

  • 丸麦
  • 押し麦
  • 米粒麦
  • 白麦
  • 麦芽
  • 麦芽糖

小麦、大麦、ライ麦は異なる品種の植物

まず、麦という名前のついている植物の品種について説明しましょう。小麦、大麦、ライ麦、燕麦・オーツ麦、ハト麦は、属が異なります。これに対して、スペルト小麦、古代小麦は小麦の一種、ライ小麦は小麦とライ麦が掛け合わさったもの、はだか麦ともち麦は大麦の一種となります。

近い関係か、遠い関係かは、その品種の属ずる「属」が同じか、異なるかで判断することができます。さらに上位の分類に「科」がありますが、科が異なれば、全く違う植物と考えてよいでしょう。

わかりやすくするために、動物で例えますと、ヒト、オランウータン、ゴリラは、同じヒト科に属しています。一方、ニホンザルやテナガザルは、テナガザル科に属しています。小麦と大麦は、ヒトとオランウータンのような類縁関係ということでしようか。

整理すると、次のようになります。

イネ科 コムギ属 パンコムギ(普通コムギ)
スペルト小麦
デュラムコムギ
エンマーコムギ
アインコムギ
オオムギ属 オオムギ ハダカムギ(大麦の変種)
モチムギ(大麦のうち、もち性を持っている品種)
ライムギ属 ライムギ
カラスムギ属 エンバク(=オーツムギ)
ジュズダマ属 ジュズダマ ハダカムギ(大麦の変種)

それぞれの特徴については、のちほど詳しく説明します。

小麦、大麦、ライ麦、オーツ麦、ハト麦の特徴と用途

小麦

小麦はほぼ全量が小麦粉に加工され、食用となります。小麦の種子から外皮、胚芽の部分を取り除き、粉にしたものが小麦粉です。

小麦粉はパン、めん類、菓子の材料になるほか、世界中でさまざまな料理に使われます。小麦ふすまあるいはbran(ブラン)と呼ばれる外皮、胚乳部分は、飼料などに使われるほか、これらもまとめて製粉した全粒粉も使われています。

何にでも使えるイメージのある小麦粉ですが、他の粉と大きく異なる特徴は、グルテンというたんぱく質を含んでいることです。グルテンは小麦粉に水を加えてこねることで、生地の中に作られる糊状の物質です。このグルテンがあるおかげで、めんにコシが生まれ、パンが膨らみます。グルテンが含まれる穀物は、小麦のほかに大麦とライ麦ですが、含まれている量は小麦が一番多いです。

ところで、世界の小麦の生産量は年間7.6億トンで、穀物としてはトウモロコシに次いで多く、米とほぼ同じ量となっています。日本ではお米に次いで多く消費される穀物です。日本での生産量は年間70万トンですが、これに対し国内消量量が年間650万トンであるため、国内自給率は12%しかありません1)。パッケージに国産小麦使用と書いてあるのは、貴重な国産小麦を使っていることを、強調したいからです。

大麦

大麦は、ビール、焼酎、ウイスキーなどのお酒や麦茶の原料になったり、お米と一緒に炊飯して食べられています。また九州でよく使われる麦味噌は、大麦が原料です。

小麦と比べるとマイナーな存在ですが、麦飯というと大麦の入ったごはん、麦茶いうと大麦を焙煎して抽出したお茶のことを指すなど、「麦」と名の付くものの多くが、「大麦」から作られています。

ところで、大麦粉ってあるんでしょうか。実はあります。大麦の外皮と胚芽を取り除き粉にしたもので、薄力粉と同じように使えます。大麦にもグルテンは含まれますが、小麦より量が少なく、たんぱく質の種類が若干異なるため、パンやめんを作るのに最適というわけではありません。もちむぎうどん、もち麦めんという名前で売られているめんは、大麦の一種であるもちむぎのほかに、小麦粉も含まれています。大麦だけでめんをつくるのは、難しいようです。

世界の大麦の生産量は年間1.6億トンで、小麦の1/5程度です。一方日本での生産量は年間22万トン、消費量は年間40万トンなので、自給率は55%です。思ったより高いことに驚きです。

ライ麦

ライ麦というと、ライ麦パンくらいしか思い浮かばないのですが、ライ麦ってどんな麦で、何に使われるのでしょうか。

ライ麦はもともと小麦畑に雑草として生えていたものが、栽培品種となったものです。寒冷な気候や、栄養分の少ない土壌でも生育することができるため、小麦の栽培に適さない地域、すなわち小麦が栽培されている地域よりも緯度が高い場所で栽培されてきました。ライ麦粉にしてパンに加工するか、ウイスキー、ウォッカなどの原料として使われます。ドイツの代表的なパンは、少し黒い色をしていますが、これはライ麦が入っているためです。ライ麦粉と小麦粉をいろいろな比率で混ぜ合わせたパンがあり、ライ麦の比率が高いほど、色が黒っぽく、酸味が強いといわれています。ライ麦は、食物繊維やビタミンBが小麦より多く含まれるため、健康志向の中で、ライ麦パンが注目されています。

ライ麦はもともと、小麦よりも安い穀物でしたが、いまは生産量が少ないため、ライ麦粉は小麦粉より高い値段で取引されています。国内ではほとんど栽培されておらず、ほとんどがカナダなとどからの輸入となっています。なお、ネット情報の中には、ライ麦にはグルテンが含まれていないと書いてあるのも見かけますが、小麦よりは量は少ないですが、含まれています。

オーツ麦(カラスムギ・エンバク)

オーツ麦、オート麦、カラスムギ、エンバク(燕麦)は、すべて同じものです、「燕」は「ツバメ」なのに、どうして「カラス」なのでしょうか。またオーツ麦を使った食べものは、オートミールくらいしか知りませんが、なぜわざわざオーツ麦を食べるのでしょうか。

まず最初に、カラスとツバメについてです。カラス麦という名前は、食用に適さない麦という意味でついたとのことです。カラス○○という植物はほかにもありますね。一方、エンバク(燕麦)は、穂の形がツバメの羽根に似ているからだそうです。ここでは英語のOatsから取ったオーツ麦という名前で説明します。

オートミールは、手軽に調理ができるうえ、オーツ麦に含まれるβグルカンという物質に、血中コレステロール値や血糖値の上昇抑制作用、降圧作用などがあるといわれ、健康的な食品というイメージが定着したからです。もともとオーツ麦は、小麦が生育しない地域で栽培され、粉にしたのち、ビスケットやパンとして食べられていました。小麦の普及とともに、オーツ麦の消費は減少しましたが、オートミールの発明により、手軽な食べ物として、再び普及するようになりました。オートミールとは、オーツ麦を脱穀した後、加熱してローラーで延ばしたもので、素早く煮ることができます。現在、食用のオーツ麦のほとんどが、オートミールに加工されています。さらにオートミールを使ったグラノーラやグラノーラバーなども開発され、健康ブームの中で、需要は伸びています。

オーツ麦は世界で年間2,000万トン生産されています。これがすべてオートミールになるわけではなく、その7割は馬の飼料用です。馬はオーツ麦の種を好んで食べ、また藁も飼料となりますが、馬の飼育頭数が減少傾向にあるため、オーツ麦の生産も減少しています。

ハト麦

爽健美茶や十六茶に入っているハト麦って、どんな麦なんでしょうか。なぜお茶に入っているのでしょうか。小麦の代わりに使えないのでしょうか。ハト麦にまつわる疑問について、説明します。

まずハトムギという名前がついていますが、植物としては小麦や大麦よりも、トウモロコシやススキに近い種です。東南アジアで栽培されており、食品や医薬品原料として使われています。食品としてはハトムギ茶がよく知られていますが、お米に混ぜる雑穀としても販売されています。医薬品というのが、気になりますね。「ヨクイニン」って聞いたことありませんか。漢字で書くと「薏苡仁」です。これはハトムギの皮を取り除いた粒で、滋養強壮、いぼ取り、消炎の効果があるといわれています。イボコロリ内服錠は、ヨクイニンが主成分となっています。またハトムギエキスには、保湿作用、美白作用があるため、皮膚に塗布する基礎化粧品に配合されていることもあります。

ハトムギは国内でも栽培されていますが、量は年間1,000トン程度です2)

麦の加工品と麦から作られるもの

丸麦

大麦を食べるためには、大麦の外皮と胚芽の部分を取り除き、胚乳の部分だけにします。この作業を精白といい、精白された大麦が丸麦です、お米で言えば、玄米から白米にした状態になります。スーパーでふつうに麦として売られているものは、この丸麦です。茹でてスープやサラダのトッピングとして使われたり、白米に混ぜて炊くこともできます。

ただ、大麦はお米と比べて水を吸いにくく、煮えにくいため、丸麦を白米にまぜて同じように炊くと、大麦が固いまま残ってしまいます。そこで煮えやすく、食べやすくするために加工されたのが、押し麦、米粒麦、白麦です。

押し麦

押し麦は、丸麦をローラーで押しつぶして平たくしたものです。押しつぶすことで吸水しやすくなるので、白米にそのまま混ぜて炊くことができます。丸麦には粒の中央に黒い線(黒条線)が入っていますが、そのまま押しつぶすため、押し麦の中央には黒条線が残っています。そのため白米に混ぜて炊くと、大麦が入っててるのがすぐにわかります。

米粒麦(ベいりゅうばく)

精白した大麦を、中央にある黒い線(黒条線)に沿って2つに割っで作ります。こちらも吸水しやすくすることが目的ですが、形が米粒に近くなり、また黒条線も目立たなくなるため、見た目が白米に近くなります。

白麦(はくばく)

精白した大麦を、中央にある黒条線に沿って2つに割り、黒条線を取り除いててから、蒸気で加熱しながらローラーで押しつぶして作ります。黒条線が取り除かれているため、白い色をしています。また押しつぶされているため、吸水しやすくなっています。

麦芽

小麦も大麦も、植物の種なので、水を加えて適切な温度にすると、発芽します。小麦や大麦が発芽した状態のものを麦芽といいますが、通常、麦芽というと、大麦麦芽のことを指し、小麦から作られた場合は、小麦麦芽ということが多いようです。

麦にはでんぷんが含まれていますが、お酒や酢、水飴の原料として使うためには、でんぷんを分解してグルコースを得る必要があります。麦が発芽すると、アミラーゼという酵素ができ、麦に含まれるでんぷんが分解されて、グルコースなどの糖類が作られます。グルコースを得るために、わざわざ発芽させているのです。

麦芽をそのままにしておくと、成長して麦になってしまうので、蒸気で加熱して、成長をストップさせます。そして麦芽を乾燥して粉末にしたものが、麦芽として使われています。

麦芽糖

麦芽は、でんぷんを分解してグルコースにするという説明をしましたが、でんぷんを分解して作られる糖類の一つが、麦芽糖(マルトース)です。麦芽から得られることから、麦芽糖という名前が付きましたが、現在は大麦や小麦ではなく、トウモロコシでんぷんから作られています。ですから大麦や小麦の成分は含まれていません。

まとめ

麦という名前が付くものって、たくさんありますね。最後にもう一度整理しましょう。

  • 植物の種の名前 … 小麦、大麦、ライ麦、オーツ麦(=エンバク)、ハト麦
  • 同じ種に属するが、品種が異なるもの … スペルト小麦(小麦の一種)、古代小麦(小麦の一種)、はだか麦(大麦の一種)、もち麦(大麦の一種)
  • 大麦を加工したもの … 丸麦、押し麦、米粒麦、白麦、麦芽(小麦から作られる場合もある)
  • 麦と名前が付くが直接関係ないもの … 麦芽糖

データ
1) 麦の参考資料、農林水産省 (2020)
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokuryo/200331/attach/pdf/index-25.pdf
2) 手塚 隆久ほか、日本のハトムギ栽培、特産種苗(3)6-12 (2020)