スポーツドリンクは水よりすばやく吸収されるというのは間違いで、汗が出て脱水状態にあるときは、水の方が早く吸収されます。
ただ水ではミネラルや糖分が補給できません。汗とともに失われたミネラルや消費されたエネルギーの補給には、スポーツドリンクが適しています。
一方、ダイエット目的でスポーツをしている人は、スポーツドリンクには注意してください。糖類を多く含むものもあります。
スポーツドリンクは水より吸収が速いというのは間違い
汗をかいたあと、スポーツドリンクを飲む人は多いと思います。水や麦茶と比べて、スポーツドリンクは人間の体液の浸透圧に近いから、すばやく吸収される、という話を聞いたことはありませんか?
実は、これ、間違っています。
浸透圧というのをご存じでしょうか。膜を隔てて、濃い液体と薄い液体があると、薄い液体の水分が濃い液体に向かって移動し、圧力差が生じます。この圧力差を浸透圧といいます。
水分は小腸と大腸で吸収されて、血液中に入ります。汗をかくと、からだの中の水分が失われているので、血液は通常より「濃い」状態になっています。このとき腸にある「濃い」液と「薄い」液のどちらが、血液に吸収されやすいでしょうか。答えは「薄い」液です。
「濃い」液、「薄い」液の例えを実際のソフトドリンクに当てはめると、次のようになります。
やや「濃い」液 … スポーツドリンク
「薄い」液 … 水、緑茶、麦茶
汗をかいた後は、スポーツドリンクよりも水、緑茶、麦茶の方が、水分はすばやく吸収されます。
スポーツドリンクの多くは「アイソトニック飲料」といって、人間の安静時の体液と同じ浸透圧の飲みものです。アイソトニックはからだにやさしいイメージがありますが、水分の吸収速度が速いわけではありません。
スポーツドリンクはミネラルの補給に効果的
汗をかくと水分と一緒にミネラルも失われます。
汗の成分は個人差があり、またコンディションによっても異なりますが、ある実験での測定結果の平均値はナトリウムが 863 mg/L、カリウムが 222 mg/L、 カルシウムが 16 mg/L、マグネシウムが 1.2653 mg/L でした1)。
スポーツドリンクには、発汗によって失われたミネラルを補給することができるように、塩化ナトリウム、塩化カリウム、乳酸カルシウム、硫酸マグネシウムなどが配合されています。スポーツドリンクが登場する前は、食塩をなめることで、失われたミネラルを補給していたようですが、スポーツドリンクは、このほかの微量元素を含め、必要な成分をバランスよく配合しているため、発汗で失われたミネラルの補給に効果的です。
スポーツドリンクはエネルギー補給にも役立つ
人間の主なエネルギー源はグルコースです。激しいスポーツをするとグルコースが消費され、血糖値が下がります。
これを補うために筋肉や肝臓に蓄えていたグリコーゲンが分解されて、グルコースとして血液中に供給されます。スポーツドリンクには糖類が含まれています。例えばブドウ糖(グルコース)は小腸で血液中に吸収され、そのままエネルギー源として使われます。砂糖(スクロース)も消化酵素でグルコースとフルクトースに分解され、小腸で速やかに吸収されます。
ただスポーツドリンクでエネルギー補給したくない人もいます。ダイエット目的で運動している人たちです。
彼らが運動する目的の一つは、体脂肪として体内に蓄えられたエネルギーを消費することです。血糖値がある程度低くならないと、体脂肪はエネルギー源として使われないので、このような人たちには、すぐにエネルギー源となる糖分(グルコース、スクロース、果糖ぶどう糖液糖など)を含んだスポーツドリンクは向いていません。
スポーツドリンクはいつ飲むと吸収がよい?
スポーツドリンクの多くは「アイソトニック飲料」といって、人間の安静時の体液と同じ浸透圧に調整してあります。スポーツで発汗した後に飲むより、スポーツの前に飲む方が、効率よく吸収されます。発汗した後は、スポーツドリンクより水の方が、すばやく吸収されます。
脱水症状になったときは水、スポーツドリンク、経口補水液のどれ?
激しい運動や熱中症で脱水症状になったとき、水、スポーツドリンク、経口補水液のどれを飲ませるのがよいでしょうか。答えは経口補水液です。水分は主に大腸で吸収されますが、経口補水液は大腸より手前の小腸で吸収されるように設計されています。
ブドウ糖(グルコース)は小腸で吸収されますが、このとき水も一緒に吸収されます。またブドウ糖のほかにナトリウム(食塩)があると、さらに吸収速度が上がることがわかっており、ブドウ糖1分子とナトリウム1分子が存在するとき、小腸での吸収速度が最大になるといわれています。ブドウ糖1分子とナトリウム1分子というのは、ブドウ糖180gに対し、食塩58gで、重量比でいうとおよそ3:1になります。
水やスポーツドリンクの場合、水分は主に大腸で吸収されるため、吸収されるまでに時間がかかります。これに対して経口補水液は胃のすぐ下にある小腸で水分がすばやく吸収されるうえ、ナトリウムとグルコースも同時に吸収されるので、水分補給・栄養補給に効果的です。
スポーツ前後の水分補給の注意点 炭酸飲料はデメリットのみ
炭酸水は加圧することで水に炭酸ガス(二酸化炭素)を溶かし込んだものです。飲むと炭酸ガスが口の中を刺激することで清涼感を感じたり、また炭酸ガスが胃を刺激することで、食欲増進効果があるといわれています。ただ圧力が下がると、炭酸水から二酸化炭素がでできます。そのため、胃や腸が膨らんだ感じがしたり、げっぷが出ることがあります。
スポーツをした後や発汗した後は、少なからずからだにダメージが生じています。このような状態で炭酸水を飲んでも、デメリットしかありません。
口を通ったときは一時的に清涼感が得られるかもしれませんが、ただでさえ機能が低下している胃腸を刺激して、さらに症状を悪化させます。さらに二酸化炭素は水分とともに血液中に吸収されます。スポーツで体内の酸素がただでさえ減っている状態で二酸化炭素を取り込むなどという、おろかなことをやるべきではありません。
炭酸水や炭酸飲料がからだによい効果があるという誤解
炭酸水や炭酸飲料には二酸化炭素が含まれており、これを飲むと水分と一緒に二酸化炭素が血液中に取り込まれます。血中の二酸化炭素濃度が高くなると、からだは「酸素が不足している」と感じて、血管を拡張して血流量を増やします。その結果、心拍数が上がり、呼吸が活発になります。
某テレビ番組で、このことが紹介され、「炭酸水はからだによい」という誤解が広がったようですが、これは現象の一部分だけを切り取っています。炭酸水に代謝を高める効果があるのは事実で、血行が促進され、冷え性が解消されるかもしれませんが、どれだけの炭酸水を飲めば、冷え性が解消されるのか、全くわかっていません。
目的と場面にあわせたおすすめのドリンク
スポーツで汗が出たときに何を飲めばよい? といっても、アスリートとダイエッターでは全く違います。ここではスポーツの目的や場面にあわせて、何を飲めば最も効果的か、また何を飲んではいけないか、説明していきます。
アスリートや部活などでスポーツをする人にはこれ!
カロリーの消費量も発汗量も多いのて、失われたエネルギー、水分、ミネラルはきちんと補給しましょう。スポーツ前にはからだに余計な負荷をかけないこと、スポーツ後は早くからだが回復するよう、飲み物を選んだください。
スポーツの前
- 糖類やミネラルをバランスよく含むスポーツドリンクを飲みましょう。
- スポーツの前に炭酸飲料や冷たいものを飲むことは厳禁です。
- 水、お茶以外のカロリーゼロの飲料(スポーツドリンクを含む)は飲まないでください。これらの飲料にはカロリーゼロの甘味料が含まれています。これは人間が消化・吸収できない成分で、胃腸に負担をかけることがあります。カロリーゼロだから何を飲んでも問題ない、というわけではありません。
スポーツ後
- 水、緑茶、麦茶で水分補給しましょう。
- 体を冷やす目的で、冷えた飲料を飲むのは効果的です。
- 炭酸飲料は飲んではいけません。飲む場合は、からだの状態が回復してから飲んでください。
- 消耗が激しい場合は、経口補水液も有効です。
飲んではいけないもの
- スポーツ途中や直前、直後を除けば、何を飲んでも問題ありません。
ダイエット目的でスポーツする人にはこれ!
カロリーの消費が目的なので、糖類を含む飲料は飲まないでください。ただ発汗で失われる水分とミネラルは補給したほうがよいです。またどれだけ激しいスポーツをするかにもよりますが、通常はジョギング程度なので、一度に大量の水分が失われることはあまりないと思います。
スポーツの前
- できるだけ常温に近い水、緑茶、麦茶で水分補給しましょう。
- 冷えた水、お茶は胃腸を冷やすので、やめておきましょう。
- スポーツの前に炭酸飲料を飲むことは厳禁です。
- 水、お茶以外のカロリーゼロの飲料(スポーツドリンクを含む)は飲まないでください。これらの飲料にはカロリーゼロの甘味料が含まれています。これは人間が消化・吸収できない成分で、胃腸に負担をかけることがあります。カロリーゼロだから何を飲んでも問題ない、というわけではありません。
スポーツ後
- できるだけ常温に近い水、緑茶、麦茶で、直ちに水分補給しましょう。
- 冷たいものや炭酸水は少量ならかまいませんが、上記の水分補給が終わってからにしましょう。空腹状態で冷たいものや炭酸水を飲んではいけません。
- カロリーゼロのスポーツドリンクは飲んでもかまいません。
飲んではいけないもの
- 糖類を多く含む飲みものは飲まないようにしましょう。清涼飲料水はもとより、野菜ジュースやヨーグルトドリンクにも糖類は含まれていますので、栄養成分表示を確認してください。ダイエットのためにスポーツしているのに、糖類を摂っては、元も子もありません。コカ・コーラ350mlに含まれるカロリーを消費するためには、20分間のジョギングが必要になります。
万一に備えて経口補水液を用意
- 最近、熱中症になる人が増えています。熱中症になった場合、躊躇せず救急車を呼ぶべきですが、とりあえずの応急処置用として、経口補水液を用意しておくことをお勧めします。下痢で脱水状態になったときの水分補給にも使えます。
まとめ
- スポーツドリンクは水よりすばやく吸収されるというのは間違い。汗が出て脱水状態にあるときは、水やお茶の方が早く吸収される。
- 汗をかくと、水分と一緒にナトリウム、カリウムなどのミネラルが失われる。これらの補給にはスポーツドリンクが適している。
- スポーツドリンクには糖類が含まれているため、スポーツで消費されたエネルギーの補給にも役立つ。スポーツドリンクは、スポーツで発汗した後に飲むより、スポーツの前に飲む方が、効率よく吸収される。
- スポーツ前後の水分補給に炭酸飲料は向いていない。炭酸飲料を摂ると、血液中の二酸化炭素濃度が上がるため、デメリットにしかならない。
- スポーツで汗が出たときに何を飲めばよいかは、スポーツをする目的や場面によって異なる。
参考文献
1) Montain SJ, et. al., Sweat mineral-element responses during 7 h of exercise-heat stress. Int J Sport Nutr Exerc Metab, 7 (6) 574-582 (2007)