もともと葛粉はクズというマメ科の植物の根、わらび粉は山菜のワラビの根、片栗粉はカタクリというユリ科の植物の根から採ったでんぷんでした。
いまは生産量が少なく、なかなか手に入らないので、別のでんぷんで代用されています。
値段は、本葛粉 < 本わらび粉 < カタクリから採った片栗粉 の順に高くなります。
本葛粉の値段は高く、葛粉に栄養はあるのか
葛粉はスーパーでときどき見かけますが、これは別の安いでんぷんか、またはこれから説明するでんぷんに別のでんぷんを混ぜたものです。
昔からあった本当の葛粉は「本葛粉」という名前で区別されています。
本葛粉は、クズ(マメ科)の塊根から採ったでんぷんです。クズはつる性の多年草で、秋の七草のひとつです。繁殖力の強い雑草なので、一度は目にしたことがあると思います。根はとても太くなるそうで、この根からでんぷんを採ります。
採秋から冬にかけてクズの塊根を掘り起こし、細かく砕いたのち、水を加えて叩くと、水の中にでんぷんが出てきます。このでんぷんをさらに細かくし、乾燥させたものが、本葛といわれる塊です。この塊を細かくしたものが、本葛粉です。
本葛は塊の状態でも、粉の状態でも販売されています。値段は100gあたり460~1,200円と高価です。ちなみに1kgのクズの塊根から70~100gのでんぷんが摂れるそうです。クズはどこにでも生えているような雑草ですが、太い根を見つけて、それを掘り出し、そこからでんぷんを取り出すのは、手間がかかる作業です。
本葛のでんぷんはなめらかで口当たりがよいが、多少の苦みがあります。でんぷんをお湯で溶かしたものをが葛湯です。葛湯はとろみがあるため冷めにくいので、体を温めるといいますが、本葛粉自体に、体を温める効果があるわけではありません。
また成分はでんぷんで、消化・吸収されやすいため、胃腸が弱ってふつうの食事が摂れないときに、栄養補給のために使えます。
一方で葛湯にダイエットや便秘の解消に効果があるという記事もありますが、何の根拠もありません。
お湯で溶かした本葛粉は、冷めると透明になって固まりますので、葛切り、葛餅や料理のとろみ付けに使うことができます。ただ、とろみ付けだけであれば、馬鈴薯でん粉(片栗粉)の方が値段も安く、使いやすいと思います。
葛切りや葛餅も、葛本来の風味を味わうことが目的なら、本葛粉を使えばよいと思いますが、見た目だなら、他のでんぷんで代用した葛粉で十分です。
葛粉という名前で売られているものは、馬鈴薯でんぷん、甘藷でんぷん、コーンスターチなどを混ぜたものがほとんどです。また中国、台湾産の葛でんぷんも使われているそうですが、これは日本のクズとは違う品種です。
また加工食品では、加工でん粉や増粘多糖類を入れることで、食感をいかようにでもコントロールすることができるので、市販の安い葛切りや葛餅は、もはや「葛」とは何の関係もない食品になっています。
葛は薬として効能があるが、葛粉の成分はでんぷん
葛は昔から薬としても使われてきました。
これは葛粉ではなく、太い根の皮を取り除いて天日乾燥し、0.5~1cmのサイコロ状にしたもので、「葛根(かっこん)」と呼ばれています。
葛根は現在でも生薬として、日本薬局方に載っています。葛根の有効成分はイソフラボン配糖体で、最も多く含まれているのがプエラリンです。
イソフラボンは化学構造が女性ホルモンと似ており、女性ホルモンと似た作用をすることがわかっています。最近、大豆に含まれるイソフラボンが健康によい、と注目されていますが、それと同じものです。
配糖体というのは、イソフラボンが糖と結合した形で存在しているということです。ちなみに日本で生薬として使われている葛根の大半は、中国から輸入されています。
葛根は他の生薬と混ぜて使われますが、有名なのが、かぜ薬として使われる「葛根湯(かっこんとう)」です。葛根湯には、葛根のほか、大棗(タイソウ)、麻黄(マオウ)、甘草(カンゾウ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、生姜(ショウキョウ)が入っています。
葛根湯はかぜの初期症状に有効で、頭痛、発熱、悪寒などに対し、発汗させることで熱を下げる効果があります。これは体が本来持っている防御機能を助けることで、このような効果を発揮するものです。
葛根にこのような作用があることから、「葛粉にはスーパーフードといってよいほどさまざまな成分が含まれている」と書いている記事がありますが、全く馬鹿げています。
スーパーフードということば自体、かなり怪しいものですが、人間が必要とするさまざまな栄養素をバランスよく含んでいる食品をスーパーフードと呼ぶことが多いようです。
葛粉は所詮でんぷんです。葛根に含まれる成分も多少は入っているかもしれませんが、葛粉に何らかの健康効果を期待するのは間違いで、ただの「おいしく、口当たりのよいでんぷん」に過ぎません。
本わらび粉はなぜ高い?
ワラビ(シダ植物)の根茎から採ったでんぷんです。
ワラビは山林でふつうにみられる野草の一つで、春から初夏にまだ葉の開いてない若芽(葉)をあく抜きしてから食用にします。でんぷんを摂るには、冬に掘り起こした根茎を叩き、ほぐしたのち、水の中で洗います。そして水の中に溶けだしてきたでんぷんを乾燥させたのが、本わらび粉といわれるでんぷんです。
灰褐色の粉で粘りが強く、でんぷんの粉臭さがないといわれます。1kgのワラビの根から、わずか7gしかでんぷんが摂れないので、大変貴重なものです。
ワラビのでんぷんに水と砂糖を加えて火にかけると、でんぷんが糊化してどろどろになります。これを常温で冷やして固めたのが、わらび餅です。
わらび餅はもともとワラビから採れたでんぷんで作られていましたが、現在「わらび餅粉」として売られているのは、甘藷でんぷん、タピオカでんぷん、葛でんぷんなどを原料にしているものが大半で、ワラビから作られたでんぷんは「本わらび粉」という名前で販売されています。価格は100gあたり1,400~1,800円と非常に高価です。
片栗粉は現在では馬鈴薯でんぷんが代用されている
もともとは自然に生えているカタクリ(ユリ科カタクリ属)の地下茎(鱗茎)から採ったでんぷんでした。
江戸時代には日本各地で生産されていましたが、明治時代に北海道で馬鈴薯が大量に栽培されるようになり、また自生カタクリが減少したことで、現在、カタクリの鱗茎から作られる片栗粉は、一般には出回っていません。
カタクリの群生地は各地にありますが保護の対象となっており、地域によっては絶滅危惧種に指定されているようです。カタクリから片栗粉を摂りたければ、自分で苗を植えて、鱗茎を収穫するしかありません。カタクリの苗は直径1cm、長さ5cmくらいの苗が、1本600円くらいで販売されています。
カタクリを育てている人の多くは花を楽しむのが目的で、でんぷんを摂るのが目的ではありませんので、何年栽培すれば収穫できるのか、全くわかりませんが、鱗茎が成長するまでに数年はかかると思われます。
カタクリは3~4月に開花した後、7月ごろから9月ごろまで休眠期に入ります。その後10月ごろから活動をはじめ、また翌年の春に開花するというサイクルを繰り返します。
でんぷんを摂るためには、花が終わった5月頃に鱗茎を掘り出し、天日干しします。そして外側の皮をむき砕いたものを、すり鉢でさらに細かくします。最後に水を加えたものを木綿の布でこし、白い液体を乾燥すると、でんぷんが得られます。乾燥した鱗茎の40~50%がでんぷんのようですが、鱗茎が小さく、また成長までに時間がかかるので、非常に貴重なでんぷんです。
幻の片栗粉や高級片栗粉という名前の商品があり、通常の片栗粉の3~5倍の価格で販売されていますが、これはふつうの片栗粉と同様、馬鈴薯でんぷんで、カタクリの根のでんぷんではありません。
カタクリの根から採った片栗粉が江戸時代にどんな料理で使われていたのかわかりませんが、本葛粉と同じようにお湯で溶いたものを、胃腸が弱った人に食べさせることは行われていたようです。
片栗粉の成分のでんぷんは消化・吸収がよく、小腸ですばやく吸収される一方で、胃や腸に負担をかけません。下痢止めになるという情報もありますが、下痢で排泄するものがなくなれば、下痢は止まります。下痢をしているときに片栗粉をお湯で溶いたものを摂れば、下痢が止まるのは、それが理由です。
また薬用効果があるとの情報もありますが、根拠を確認できていません。基本的にでんぷんなので、効果・効能を期待するのは間違っています。
カタクリのでんぷんが市販されていないのは、カタクリは栽培が難しいこと、でんぷんの収率が低いこと、カタクリのでんぷん固有の食品がないこと、などが理由ではないかと考えられます。
まとめ
- 本葛粉はクズ(マメ科)の根、本わらび粉はワラビの根から採ったでんぷんで、現在も生産されていますが、値段が高いです。片栗粉はもともとカタクリ(ユリ科)の根から採ったでんぷんでしたが、現在は馬鈴薯から作られており、カタクリから採ったでんぷんは一般に流通していません。
- 本葛粉は、葛湯、葛切り、葛餅の原料として、本わらび粉はわらび餅の原料として使われます。
- 葛の根は葛根と呼ばれ、現在も生薬として使われています。