グルテンフリー米粉、ノングルテン米粉、ふつうの米粉の違いは

最近、ノングルテンと書かれた米粉を見かけます。ノングルテンとは、グルテン濃度が 1 ppm 以下という意味なんだとか。一方で、グルテンフリー認証と表示してあるものや、何も表示されていない米粉もあります。何が違うのでしようか。ノングルテンの方が、からだによいのでしょうか。何の違いもないことを、科学的に説明していきます。

グルテンとは小麦などに含まれるたんぱく質

最初にグルテンについて説明します。

小麦粉に水を加えてこねると、粘り気が出てきます。この粘り気のもとになっているのがグルテンで、水を加えてこねることで、小麦粉の中に含まれるグリアジンとグルテニンという成分が絡みあい、網目構造を持ったグルテンができ上ります。

ベーキング

グルテンがあるおかげで、パン生地が醗酵したときに膨らみ、パンがふわふわになりますし、めんをこねることでめんにコシと歯ごたえが生まれます。

ところで、グルテンは小麦、大麦、ライ麦とその交雑種だけに含まれるたんぱく質です。交雑種というのは、違う種の植物が交配してできる種のことで、具体的にはライ小麦というのがあるそうです。

小麦はパン、ピザ、めん類の原料になるほか、天ぷら、お好み焼き、フライなど、さまざまな料理に使われるほか、たいていの加工食品には入っています。

小麦はまれに食物アレルギー(小麦アレルギー)を起こすことがあるので、容器・包装された食品で小麦を原材料として使っている場合は、それを明記するルールになっています。原材料欄やアレルゲン欄に「小麦」と書いてある食べものをよく見かけますね。

一方、大麦は小麦ほどよく使われませんが、割と身近な食材です。例えば麦ごはん、もち麦めん、麦味噌、ビール、麦茶など、大麦を使った食品はたくさんあります。麦ごはんの場合は、「押麦」、「米粒麦」、「はだか麦」などと表示されている場合がありますし、またビールの場合は「麦芽」と書かれていますが、これらはすべて大麦です。

最後のライ麦ですが、日本より緯度が高い地域で栽培される麦で、日本では馴染みがありません。ふつうのパンより色が黒いライ麦パンや、ウイスキー、ウォッカの原料として使われています。

このグルテンは一部の人にアレルギー反応を起こすことがわかっており、その人たちはグルテンを含むものを食べないようにしなければなりません。

欧米ではグルテンに対する食物アレルギーの研究が比較的早く進んだこともあり、グルテンを含まない食材・食品にグルテンフリーという表示をすることが一般的になっています。またレストランでもグルテンフリーと書かれたメニューがあります。

[ブログカードurl=https://glutenfree.empacede.co.jp/as-for-glutenfree/]

 

グルテンは体に悪いの? 表示ルールと許容濃度

グルテンフリーの表示ルールは、国によって若干違います。

例えばアメリカでは、食品中のグルテンの濃度が 20 ppm 未満のとき、グルテンフリーと表示することができます。ちなみに 1 kg 中に 1 mg 含まれるときが 1 ppm となります。アメリカとほとんど同じなのですがヨーロッパでは 20 ppm 以下のとき、グルテンフリーと表示できます。

この20 ppmという数値、ピンときませんよね。感覚的にいうと、米粉 15 kg に小麦粉が小さじ 1 杯 入っているくらいの量です

では、この 20 ppm という数値はどのようにして決められたのでしょうか。グルテンによる遅延型食物アレルギーであるセリアック病の患者さんが食べても、からだに影響がない濃度です。ただこの基準は濃度なので、たくさん食べればからだ体に影響がありますし、そもそもグルテンに対する感受性には個人差が大きいので、とりあえずの目安にすぎません。

グルテンフリーの表示は、自主規制なので、表示するにあたって事前申請などは不要です。ただ、アメリカの場合は食品医薬品局(FDA)が抜き打ちで検査をし、この数値を上回っていたら、不当表示で罰せられます。

一方、GFCO(Gluten-Free Certification Organization、グルテンフリー認証機構)という組織が認証したうえで、GFマークをつけている食品もあります。この場合は、食品中のグルテン濃度が 10 ppm 以下であることをGFCOが保証しています。このマークを付けるためには事前に申請し、費用を支払って、認証を受けなければなりません。

ノングルテンというのは、農林水産省が2017年に作った制度で、米粉と米粉加工品のみが対象です。この表示をするためには、グルテン濃度が 1 ppm 以下でなければなりません。こちらは日本米粉協会という組織にお金を払って申請し、認定してもらうことになります。

まとめると、次の通りです。

 

グルテンフリー
Gluten-free
GFCO認証済み ノングルテン
含まれる
グルテン濃度
20 ppm 以下
または 20 ppm 未満
10 ppm 以下 1 ppm 以下
表示の対象 すべての食品、料理 すべての食品、料理 米粉と米粉加工品のみ
適用範囲 全世界(基本的にはその国内のみ有効) 全世界 日本国内
表示するためには 自主的に表示 認証を受ける(有料) 審査を受ける(有料)

グルテンの表示に関して日本には 4種類の米粉がある!?

グルテンに関する表示という観点でいうと、日本には 4種類の米粉があることになります。グルテンフリーの米粉、グルテンフリー認証を受けた米粉、ノングルテン米粉、そして普通の米粉です。そもそもお米にはグルテンは含まれていませんが、小麦粉の代替品として米粉に注目が集まり、グルテンに関する表示をする商品が増えています。

グルテンフリーの米粉

米粉のグルテン濃度が 20 ppm 以下であることを、製造業者または販売業者が自主的に表示しているものです。表示するにあたり、認証や費用の支払いは不要です。

GFCOのグルテンフリー認証を受けた米粉

米粉のグルテン濃度が 10 ppm 以下であることを、グルテンフリー認証機構(GFCO)が認証し、GFマークを表示することを認められた米粉です。認証を受けるための審査があり、認証後も定期的に分析結果などを提出する必要があります。認証は有料です。すでに全世界で数千の食品の認証を行った実績があり、認証は全世界で認められています。

日本米粉協会がノングルテンと認証した米粉

米粉のグルテン濃度が 1 ppm 以下であることを、日本米粉協会が認証し、認証ロゴマークを表示することを認められた米粉です。認証を受けるための審査と検査があり、認証の有効期間は 5年間です。認証はもちろん有料です。米粉製品と米粉加工品のみを対象とした制度ですが、2021年5月の時点で認証登録された製品はわずか 5つです。

それ以外のふつうの米粉

米粉に含まれるグルテン濃度についての記載はありません。ただかりに、グルテン(小麦たんぱく)が数 ppm以上含まれている可能性があるなら、食品表示法に基づいて、特定原材料:小麦 と表示しなければなりません 1)。わたしはこれまで、この表示があるお米、米粉、米粉製品を見たことがありません。

米粉に含まれるグルテン濃度と影響

グルテンがからだに悪いのなら、少しでも入っていないほうがよいのでは、だれもがそう考えるでしょう。でも今から説明する2つの点を、よく覚えておいてください。

グルテンがからだに悪い影響を及ぼす可能性があるのは事実ですが、数十 ppm のレベルなら、ふつうの人にはほとんど影響はありません。

グルテンフリーというのは、グルテンというたんぱく質に対してアレルギー反応を起こす人が食べても大丈夫、という意味です。アレルギー反応を起こさない人にとっては、グルテンフリーという表示は気にする必要はありません。小麦アレルギーやセリアック病の人は、医師の指示に従って、どこまで許容するかを判断してください。

グルテンについて何も表示していない「それ以外のふつうの米粉」に含まれているグルテンの量は、グルテンフリーと表示されている米粉と大差はありません。

な先ほど説明したように、小麦は特定原材料に指定されており、もし小麦成分がたんぱく質として 数 ppm 以上含まれている場合には、「特定原材料:小麦」と表示しなければならないからです。つまり、何も書いていないということは、小麦たんぱくの量は、数 ppm に満たないということです。20 ppm 以下がグルテンフリー、10 ppm 以下がGFCO認証です。これはどちらの基準もクリアしていることになります。

今まで説明してきたことをまとめると、次のようになります。

 

グルテンフリーと
表示された米粉
GFCOの認証を
受けた米粉
ノングルテンと
表示された米粉
それ以外の
ふつうの米粉
グルテン濃度 20 ppm以下 10 ppm以下 1 ppm以下 数 ppm以下

 

最後にもう一つ付け加えておきます、何も書かれていない米粉に「特定原材料:小麦」と書いていないから、グルテンは数 ppm 以下といいましたが、大麦やライ麦が含まれていたらどうする、という声が聞こえてきそうです。

確かにその通りですが、大麦粉というのはありませんので、もし米粉に大麦が入っていたら、異物として目視で確認できます。またライ麦の場合はライ麦粉がありますが、色が黒いので、こちらも異物として確認が可能です。目で見てすぐわかるような異物が入っている米粉が、ふつうに売られることはまずないので、大麦やライ麦の混入の可能性は極めて低いと考えてよいでしょう。

女性

日本独自のノングルテン表示は誰のため

ノングルテンという米粉の認証・表示ルールを作ったのは、農林水産省です。2017年に「ノングルテン(Non-Gluten)」の表示に関するガイドラインを公表した際の資料には、「グルテンフリー食品の需要が増加傾向にあり、これらの需要を取り込むことによる米粉の利用の拡大が見込まれる」とあります2)。要するに、グルテンフリーのブームに乗って、米粉の販売を伸ばしたい、ということのようです。

でも考えてみてください。グルテンフリー(Gluten-free)という表記が世界中で使われています。国によってルールは若干違いますが、FAO(国連食糧農業機関)及び WHO(世界保健機関)により設置された国際的な政府間機関であるコーデックス委員会でも、グルテン含有量レベル 20 ppm 未満の場合にグルテンフリーと表示するという基準を定めています。

日本ももちろん、コーデックス委員会のメンバーで、担当は農林水産省です。グルテンフリーという表示を無視したかのように、日本独自の、しかも米粉製品と米粉加工品のみを対象とした「ノングルテン」という認証・表示ルールをつくった理由は何なのでしょうか。

実は、ノングルテンの認証を受けるためには、日本米粉協会に 35万円を支払って、審査を受ける必要があります。表示の期限は 5年間なので、メーカーは 5年後にまたお金を払う必要があります。また日本米粉協会は、ノングルテンの制度が始まるのとほぼ同時に設立されています。

2021年5月の時点で、ノングルテンの認証を受けた米粉製品、米粉加工品は、次に示す 5つだけです。制度がスタートしてから4年が経ち、またいろいろなメーカーが米粉や米粉加工品を出す中で、たった 5つの製品しかノングルテンの認証を受けていないということは、何を意味しているのでしょうか。

もともと、グルテンフリーの表示は、グルテンに対してアレルギーがあり、グルテンを含む食品を摂れない人が、自分たちが食べられるものを容易に見分けられるように作られた表示です。ノングルテンは、いったい誰のために作られた表示なのでしょうか。消費者にとっては、表示が増えて混乱するだけです。

ノングルテンの米粉製品

・みたけ食品工業の米粉製品(認証日:2018年6月14日)

・ネティエノの「やのくに純真米粉」(同:2018年11月10日)

・中島製粉の「国産米粉小袋製品」(同:2019年9月12日)

ノングルテンの米粉加工品

・ネティエノの「ノングルテン米粉使用パン」(同:2019年12月11日)

・みたけ食品工業の「米粉天ぷら粉」(同:2020年2月18日)

まとめ

  1. グルテンは小麦などに含まれるたんぱく質で、パンが膨らんだり、めんのコシを与えたりするもとになっています。ただグルテンでアレルギー反応を起こす人がいるので、グルテン濃度が 20 ppm 以下の場合に「グルテンフリー」という表示がされています。
  2. グルテンフリーという表示は生産者や販売者が自主的に行います、一方 GFCOという組織がグルテン濃度が 10 ppm 以下の食品に対して、認証したうえでロゴマークの使用を認めており、すでに世界中で数千の食品が認証を受けています。日本のノングルテンの表示は米粉と米粉加工品のみを対象としており、グルテン濃度が 1 ppm 以下であることを認証するものです。認証を受けた製品はわずか5つです。
  3. 日本で売られている米粉は、グルテンフリーと表示されたもの、GFCO の認証を受けたもの、ノングルテンの認証を受けたもの、特に表示していないものの 4種類ありますが、グルテン濃度はすべて 20 ppm 以下と思われ、一般の人が食べるにあたっては、何の違いもありません。

参考文献

1) 食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)、別添 アレルゲン関係、消費者庁(2015)

2) 米粉製品の普及のための表示に関するガイドライン、農林水産省(2017)