植物原料から作られた肉プラントベースミート、メリットとデメリット

持続可能性や倫理的な観点から、肉を食べる量を減らそうという動きが欧米を中心に起きており、植物原料から作られる代替肉であるプラントベースミートが注目されています。ただプラントベースミートにもいろいろな種類があります。肉を食べる量を減らした結果、食品添加物やアレルギーのもとになる物質を大量にからだの中に入れてしまったのでは意味がありません。プラントベースミートを選ぶ理由はどこにあるのでしょうか。

プラントベースミートとは

プラントベースミートは植物原料から作られる肉の代替品のことです。

  • ベジミート(植物性の肉)
  • オルタナティブミート(代替肉・代用肉)
  • フェイクミート(偽物の肉)

などと呼ばれることもあります。

フェイクミートといえば、いまから50年前、発売当時のカップヌードルに「人造肉」が入っていると話題になったことがあります。何の肉か、どのように作られるのか、長い間企業秘密でしたが、2017年に発売元の日清食品が「豚肉と大豆由来の原料に野菜などをミックスしたもの」であることを公表しました。具材として入っている茶色のサイコロ状の塊り、みなさんも一度は食べたことがあるかもしれませんね。これもプラントベースミートの一種です。

プラントベースミートの種類

植物原料から作られるプラントベースミートは、原料と製法によって、だいたい4つに分けられます。それぞれの特徴を紹介しましょう。

ソイミート(大豆ミート)

大豆から油分を取り除き、加圧・加熱したのち押出成形したものです。水で戻して使う乾燥品のほか、下味が付いていてすぐに使えるレトルトパウチ食品や冷凍食品もあります。また形も、フィレの形になったもの、ブロック状のもの、ミンチ状のものなどがあり、用途に応じて選ぶことができます。複数の国内メーカーが商品を出しており、最近、食品スーパーでふつうに見かけるようになりました。

煮物、炒め物に入れたとき、さすがに肉と同じではありませんが、あまり違和感を感じることなく食べられます。

ソイミートの主な原材料は、大豆(脱脂加工大豆)と調味料です。ソイミートを作るために、特別に何かを加えているわけではありません。ただし、レトルトや冷凍品で味付けがされている場合は、食品添加物が使われている場合があるので、必ずパッケージの原材料表示を確認してください。

セイタン(グルテンミート)

小麦に含まれるたんぱく質であるグルテンを原料としたもので、日本ではあまりなじみがありませんが、海外ではベジタリアン(菜食主義)やマクロビオディック(菜穀主義)の人に親しまれています。

実はセイタン、日本の「麩」とほとんど同じものなのです。麩の原料は小麦粉から取りだしたたんぱく質であるグルテンで、これをもち粉や小麦粉と混ぜて蒸すと「生麩」に、でんぷんや膨張剤を加えて焼くと「焼き麩」になります。

セイタンは小麦粉から取りだしたグルテンを醤油やソースで味付けしたもので、塊り状のものや、そぼろにしたものが、缶詰や瓶詰で販売されています。衣を付けてカツやフライにしたり、煮物や炒め物に肉と同じように入れたりするそうです。

セイタンを広めたのは桜沢如一という日本人で、マクロビオティックという長寿健康法の創始者です。セイタン(seitan)という名前も彼が付けたと言われており、日本語では正蛋、生蛋、製蛋など、いくつか説があります(蛋は蛋白質の「蛋」)。セイタンという名前は日本では定着せず、海外から逆輸入されましたので、結局どれが正しい日本語か、わからないそうです。
セイタンの原料は、小麦たんぱくと調味料だけです。

えんどう豆ミート

えんどう豆のたんぱく質を原料にしたもので、国内でも製造されているほか、欧米の企業が製造しているものが輸入されています。製造方法は大豆ミートと同じで、えんどう豆を加圧・加熱したのち押出成形して作ります。
大豆ではなくえんどう豆を使っているのは、えんどう豆で食物アレルギーを起こす人が少ないからです。日本では食物アレルギーを起こしやすい原料は特定原材料とそれに準ずるものとして、表示をしますが、えんどう豆のみを原料とした場合、アレルギー物質を含まないという表示をすることができます。

3Dプリンターで作られる肉

さまざまな原料を使って、本物の肉と見た目と味がそっくりになるように3Dプリンターで製造される肉の開発が進んでいます。原材料に植物性原料を使っていれば、これもプラントベースミートです。ただこれは、先に説明したソイミート、セイタン、えんどう豆ミートとは、全く異なるものです。

一番の違いは原料です。植物由来のたんぱく質が主な原料のソイミートなどとは異なり、たんぱく質のほかに、脂質、炭水化物、化学物質など、肉の味と食感に近づけるために、ありとあらゆる原料が使われます。例えば肉の旨みはたんぱく質の分解物であるアミノ酸で決まりますが、おいしい肉と組成がほぼ同じになるように、アミノ酸の配合比を調整します。そのためには、植物たんぱく質だけでなく、たんぱく加水分解物も当然使われます。しかしたんぱく加水分解物は、製造方法によっては変異原性のあるクロロプロパノールという不純物が生成することがわかっています。また、肉の脂を再現するために脂質を加えますが、通常、植物性油脂は常温では液体なので、マーガリンのように化学的な処理をした固体の脂を使うことになります。そのほか、筋を再現するために食物繊維を使うこともあるでしょう。

また、見た目も味も全く違います。ソイミートは販売されている状態では肉には見えませんが、3Dプリンターで作られる肉は、肉そのものです。研究が進めば、高級ステーキ用の一枚肉とそっくりなものまで、作れると言われています。

 

プラントベースミートが注目される理由

世界の人口の5%は、肉や魚などの動物性の食材を口にしないベジタリアンと言われています。肉を食べない理由は、もともとの生活習慣であったり、宗教上の理由、動物愛護の観点、健康への懸念などさまざまです。一方、最近、環境意識の高まりとともに、肉を食べない、あるは肉を食べる量を減らす人が増えています。

人間が食べている肉のほとんどは、人工的に飼育されたものです。狭い土地で効率的に肉を生産するために、牛、豚、ニワトリは穀物をエサにしています。日本では主に輸入したトウモロコシがエサとして使われていますが、食肉1kgを生産するために必要なトウモロコシの量は、牛肉では11kg、 豚肉では6kg、鶏肉では4kgです1)。そして家畜のエサを生産するために、世界中の農地の75〜80%が使われています2)。また世界の農業用水の25~32%が、家畜のエサを生産するために使われています3)。さらに、世界の温室効果ガスの14.5%は畜産から排出されていると言われています4)

このことから、肉を食べる量を減らして、その分を穀物で置き換えることで、
土地を有効に活用して食料生産量を増やすことができる
水資源の有効活用することができる
温室効果ガス排出量を削減することができる
と考えられます。

それならば、単に肉を食べる量を減らせばよいはずですが、肉食という食習慣を変えるのは難しいので、肉に似せたプラントベースミートが必要というわけです。

プラントベースミートのメリット・デメリット

プラントベースミートのメリット・デメリットを考えるにあたっては、プラントベースミートとしてひとくくりにするのではなく、種類ごとに分けて考える必要があります。

ソイミート:肉の代わりに使えて便利

食品スーパーで簡単に手に入るソイミートは、肉を使う料理に、肉の代わりに入れることができ、便利です。肉を置き換えたり、肉の量を減らしたりするのには、うってつけの食材です。いまのところ、乾燥したものの値段は100gあたり約400円です。生の食肉は水分が75%含まれているので、生肉に換算すると、100gあたり約100円で、肉よりは安いです。

一方、ソイミートの多くは、輸入大豆から大豆油を搾ったあとの脱脂加工大豆を原料にしており、国内で作られています。ちなみに大豆の自給率はわずか7%です5)

ソイミートを使うメリットとしては、
・地球環境への負荷を減らすことができる
・食材費を減らすことができる
ことが挙げられます。一方デメリットは特にありません。強いて言えば、味が変わることくらいでしょうか。
地球にも家計にもやさしいソイミート、まだ試したことがない方は、一度使ってみてはいかがでしようか。

セイタン:麩で代用可、グルテンは体によくない

日本発祥のプラントベースミートのセイタンですが、これは使う理由が見当たりません。まずセイタンとして販売されているものは、味付けされており、肉の代わりに使う場合、塩抜きが必要です。また店頭ではほとんど見かけないので、ネット通販などで購入する必要があります。ネット通販では、配送の際に温室効果ガスが排出されることを忘れないでください。さらに、成分は麩と同じです。セイタンを食べたいのであれば、どこでも手に入る麩を使えばよいでしょう。

ところでセイタンの主成分であるグルテンには、いろいろな問題点があります。グルテンは分解されにくいたんぱく質で、体質によっては腹痛、腹部膨満、下痢の原因になるだけでなく、リーキーガットやブレインフォッグ、慢性疲労の原因になることがわかっています。またグルテンがアレルゲンとなるアレルギー疾患もあります。たんぱく質の栄養価を示すアミノ酸スコアは、肉や大豆のたんぱく質が100であるのに対し、小麦たんぱくは50しかありません。

グルテンは摂る量を減らすべき成分です。グルテンの問題点が次々と明らかになり、世界的にグルテンフリーの食生活を選択する人が増えている中で、今後、セイタンが普及することはきわめて考えにくいと思います。

えんどう豆ミート:ソイミートを使えばよい

えんどう豆ミートは、ソイミートとほぼ同じ工程で作られており、使い方もソイミートとほぼ同じです。しかし流通量が少なく、ネット通販での購入になります。また販売しているところが少ないためあくまでも参考ですが、価格は100gあたり約800円と、ソイミートの2倍です。

えんどう豆ミートは、中国から輸入されたえんどうたんぱく質を原料にしたものや、欧米で生産されたものをそのまま輸入しているようです。
ソイミートを使いたいが、大豆に対してアレルギーがあるという方には向いているかもしれませんか、それ以外の方は、ソイミートを使えばよいでしょう。

3Dプリンターで作られる肉:現在開発中

肉の見た目、味、食感が忠実に再現された3Dプリンターで作られる肉は、肉を食べずに、肉を食べたという満足感が得られるというメリットがありそうです。ただ現時点で商品として世の中に広く出回っているわけではないので、本当に満足感が得られるのかどうか、わかりません。

一方で、植物性たんぱく質以外の原料が含まれることは間違いなく、その中には、化学的に合成されたものも含まれる可能性があります。食肉を作る際にも多量の抗生物質やホルモン剤が使われていますが、人工的に作られた肉にも、もともと肉には含まれていなかった成分が使われることがあるかもしれません。

プラントベースミートが自分に必要かどうか考えてください

肉を食べ過ぎるとからだに悪いから、プラントベースミートが注目されていると書いてある記事もありますが、それはアメリカの話です。日本人は長い間、動物性たんぱく質の摂取量が少なく、植物性たんぱく質を中心に摂ってきたため、体格は小さく、寿命も長くありませんでした。ところが戦後、動物性たんぱく質の摂取量が増えた結果、体格もよくなり、いまや世界有数の長寿国になりました。

肉は決して、不健康な食材ではありません。むしろ動物性たんぱく質は消化がよいので、長生きするためには積極的に摂ったほうがよいと言われています。

動物性たんぱく質を多く摂り過ぎると、脂肪の摂取量も増えるため、肥満になるというのは事実です。日本人の2倍の肉を食べるアメリカ人は、成人の40%が肥満という深刻な状態です。もちろん、肉だけが肥満の原因ではありませんが、肉の摂り過ぎが肥満の原因の一つであることは間違いありません。

プラントベースミートが話題になっていますが、それを摂ることがあなた自身にとって必要なことなのか、よく考えてください。

  • あなたはふだんから肉をたくさん食べていますか。
  • あなたは肥満ですか。
  • あなたは肉が入っていない料理に不満を感じますか。

いずれにも該当しない人は、プラントベースミートを摂る必要はありません。これまでどおりの食生活で問題ありません。もし地球環境に少しでも貢献したいと思うのなら、

  • 肉を食べる回数を減らす
  • 牛肉を豚肉に、豚肉を鶏肉に変える

ということで、十分です。

ベジタリアンが増えているから、プラントベースミートはトレンドで、今後ますます普及するというのも、見当違いな考えです。ベジタリアンは肉が食べたいのを我慢しているわけではなく、自らの意思で、肉を食べない食生活を選択しています。ですから、ベジタリアンの人は、プラントベースミートなど食べません。

まとめ

  • プラントベースミートは植物原料から作られる肉の代替品で、ベジミート、オルタナティブミート、フェイクミートとも呼ばれる。
  • プラントベースミートには、大豆たんぱくを原料にしたソイミート、小麦たんぱく(グルテン)を原料にしたセイタン、えんどう豆のたんぱく質を原料にしたえんどう豆ミート、さまざまな原料を使って、3Dプリンターで本物の肉と見た目、味、食感がそっくりに作られた肉がある。
  • プラントベースミートが注目される理由としては、畜産が農地、農業用水を多く使っていることや、温室効果ガスの排出量が多いため、肉の消費量を減らすことで、農地や水資源を有効活用し、温室効果ガスの排出量を減らせるからである。
  • ソイミートを使うことで、地球環境への負荷と食材費を減らすメリットがあるが、えんどう豆ミートはあえて使う理由がない。セイタンは麩で代用可能であり、そもそもグルテンが原料なので、使うべきではない。3Dプリンターで作られる肉は、植物性のたんぱく質以外の原料や、もともと肉に入っていない成分が使われる可能性が高く、現時点では何ともいえない。
  • 肉の食べ過ぎで肥満になっているならともかく、そうでない場合は、プラントベースミートを積極的に摂る理由は見当たらない。

参考文献

1) 農林水産省、 知ってる?日本の食料事情、食料自給率のお話、その4:お肉の自給率
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/ohanasi01/01-04.html
2) Foley JA, Ramankutty N, Brauman KA, et al. Solutions for a cultivated planet. Nature. 2011;478(7369):337-342. Published 2011 Oct 12. doi:10.1038/nature10452
3) Herrero M, Wirsenius S, Henderson B, Rigolot C, Thornton P, Havlik P, de Boer I, Gerber PJ. Livestock and the Environment: What Have We Learned in the Past Decade? Annual Review of Environment and Resources. 2015;40: 177–202
4) Food and Agriculture Organization of the United Nations, Key facts and findings
https://www.fao.org/news/story/en/item/197623/icode/
5) 大豆まめ知識、農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/daizu/d_tisiki/