今年は植物性食品がトレンドだそうです。簡単に手に入りクセがないマッシュルームを、肉の代替品として使うレシピが人気といわれていますが、そもそもなぜマッシュルームを使うのか考えたことはありますか。マッシュルームは海外でベジミート(植物性の肉の代替品)の原料として研究されているという情報もあります。日本で値段の高いマッシュルームを使うメリットはあるのでしょうか。栄養価や効能を含めて解説します。
マッシュルームはヨーロッパから入ってきた
マッシュルームは他の材料と一緒に炒めたり、焼いたりして、主に洋食で使われます。それもそのはず。もともとヨーロッパで栽培されてきたきのこで、日本で本格的に普及し始めたのは10数年前からです。平成30年度の生産量は6,527tで1)、ぶなしめじの18分の1、生しいたけの10分の1しかありません2)。最近、どこの食品スーパーでも見かけますが、100gあたりの値段は160~210円(税込み)で、ぶなしめじの2倍です。
マッシュルームは他のきのこと大きな違いがあります。それは生で食べられることです。刻んでサラダに入れて食べると、おいしいですね。生で食べるときは、できるだけ新鮮なホワイトマッシュルームを選んでください。ブラウンマッシュルームは生食には向いていません。それから、マッシュルームは水洗いせず、ペーパータオルなどで拭くとよいそうです。
マッシュルームは、日本人の食生活に完全に浸透しているとはいえません。日本にはマッシュルーム以外に、安くておいしいきのこがたくさんあります。わざわざ値段の高いマッシュルームを買う理由がない、ということなのです。
しかし雑誌やネットには、今後、肉の代替としてマッシュルームを使うレシピが増えるという記事がよく載っています。でもなぜ、マッシュルームなんでしょうか。他のきのこでは、肉の代替にならないんでしょうか。
マッシュルームの栄養価は他のきのこと変わらない
肉の代替品として注目されているマッシュルーム。他のきのこより栄養的に優れているのでしょうか。日本食品標準成分表で調べてみました3)。
マッシュルーム | しいたけ | ぶなしめじ | エリンギ | まいたけ | えのきだけ | |
エネルギー(kcal) | 15 |
25 |
26 |
31 |
22 |
34 |
たんぱく質(g) | 2.9 | 3.1 | 2.7 | 2.8 | 2.0 | 2.7 |
脂質(g) | 0.3 | 0.3 | 0.5 | 0.4 | 0.5 | 0.2 |
炭水化物(g) | 2.1 | 6.4 | 4.8 | 6.0 | 4.4 | 7.6 |
水溶性食物繊維(g) | 0.2 | 0.4 | 0.3 | 0.2 | 0.3 | 0.4 |
不溶性食物繊維(g) | 1.8 | 4.1 | 3.2 | 3.2 | 3.2 | 3.5 |
食物繊維総量(g) | 2.0 | 4.9 | 3.5 | 3.4 | 3.5 | 3.9 |
ビタミンD(µg) |
0.3 | 0.3 | 0.5 | 1.2 | 4.9 | 0.9 |
セレン(µg) | 14 | 5 | 2 | 2 | 2 | 1 |
他のきのこと比較して、マッシュルームが栄養的に優れているということは全くありません。強いていうなら、他のきのこに比べて炭水化物の量が少ないため、カロリーが低いですが、ほとんど誤差範囲です。この程度の違いでも、「マッシュルームはダイエットに最適」などと大げさに書く人もいると思いますが、ここに挙げた6種類のきのこであれば、どれを食べても大した違いはありません。
また、マッシュルームは微量金属元素のセレンの量が他のきのこに比べて多いですが、もともと含まれている量がわずかなので、こちらも違いはありません。セレンには抗酸化作用があるため、「マッシュルームにはセレンがたっぷり! アンチエイジング効果が期待できます」などと書かれるのでしょうが、だまされないようにしてください。セレンを意識的に摂りたいのであれば、かつお節やマグロを食べたほうがよいです。
ではどうして、マッシュルームが肉の代替品として注目されるのでしょうか。肉の主成分はたんぱく質ですが、マッシュルームに含まれるたんぱく質は、100g中にたった2.9gしかありません。これは生の状態だからで、きのこの水分をすべて取り除いた状態で、たんぱく質、脂質、炭水化物の比率を比べると次の表のようになり、きのこの中ではマッシュルームが一番たんぱく質の比率が高いことがわかります。
マッシュルーム | しいたけ | ぶなしめじ | エリンギ | まいたけ | えのきだけ | |
たんぱく質(%) | 47.5 | 29.8 | 30.3 | 28.6 | 27.4 | 23.7 |
脂質(%) | 4.9 | 2.9 | 5.6 | 4.1 | 6.8 | 1.8 |
炭水化物(%) | 34.4 | 61.5 | 53.9 | 61.2 | 60.3 | 66.7 |
代替肉の原料として最もよく使われる大豆では乾燥重量の38%がたんぱく質、代替肉の一種であるセイタンの原料の小麦粉(強力粉)では乾燥重量の14%がたんぱく質なので、マッシュルームの47.5%というのは断トツに高いことがわかります。
これが、マッシュルームが肉の代替品として使えるという理由の一つです。
マッシュルームから作られる代替肉
マッシュルームが肉の代替ともてはやされるもう一つの原因。それは日本語で記事を書いているライターが、英語のマッシュルームの意味をきちんと理解できていないことにあるようです。
英語でマッシュルーム(Mushroom)というのは、きのこ類・菌類全般のことを指します。ですから海外ではしいたけも、えのきだけも、松茸も、みんなマッシュルームです。現在海外では、菌類が生産するたんぱく質を使って代替肉を製造する研究が進められています。菌類は、栄養源を加えた水をタンクに入れ、その中で工業的に生産できるので、畑で栽培した大豆や小麦からたんぱく質を取り出すより、低コストでたんぱく質を生産できます。
これらはマッシュルーム(菌類)から作られる代替肉と呼ばれますが、このことを、マッシュルーム(日本でいうマッシュルーム)から代替肉を作ると勘違いしているようです。まったく、お粗末な話です。
さきほど説明したように、マッシュルームは他のきのこよりたんぱく質を多く含むので、ハンバーグなどで使う肉の一部を置き換えるという目的には、適しています。ただ、他のきのこより値段が高いマッシュルームから、わざわざ代替肉を作ることはあり得ません。代替肉は、タンクで培養される菌類から作られます。
マッシュルームを肉の代わりに使うかどうかは好みの問題
ハンバーグなどで使う肉の一部を置き換えるとき、わざわざマッシュルームを使う必要はありません。他のきのこでも構いませんし、大豆ミートでも、豆腐でも、自分の好みで選べばよいのです。栄養成分の点からいうと、値段の高いマッシュルームをわざわざ買ってきて、細かくして肉に混ぜ込むメリットは全くないと思います。
肉を代替するのはマッシュルームがよい、というのは、英語の勘違いから来た都市伝説みたいなものです。
まとめ
- マッシュルームはヨーロッパから入ってきたきのこで、主に洋食で使われる。日本で普及し始めたのは10数年前で、生産量はぶなしめじの18分の1で、値段は2倍。
- マッシュルームは他のきのこと比べても、栄養的に優れている点はない。ただ乾燥品に含まれるたんぱく質の比率は高い。
- マッシュルームから代替肉を作る研究が海外で進んでいるが、これは菌類をタンクで培養してたんぱく質を作るのであり、日本でいうマッシュルームから代替肉を作るわけではない。英語でマッシュルーム(Mushroom)とは、きのこ類・菌類全般のことを指す。
- マッシュルームを肉の代わりに使うのは好みの問題だが、わざわざ値段の高いマッシュルームを使うメリットはない。
参考文献
1) 農林水産省、地域特産野菜生産状況調査
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tokusan_yasai/
2) 農林水産省、きのこ類、木材需給の動向
https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/25.html
3) 文部科学省、日本食品標準成分表2020年版(八訂)