エンバク、オートムギとも呼ばれるオーツ麦。
日本ではあまりなじみがありませんが、オートミール、グラノーラとして食べられるようになりました。
水溶性食物繊維であるβ-グルカンを多く含むことから注目されていますが、栄養成分は他の全粒穀物と変わらず、β-グルカンを摂るのであれば、大麦の方がおすすめです。
オーツ麦とはどんな麦
オーツ麦は、世界の高緯度地方で栽培されているイネ科カラスムギ属の植物です。
いろいろな呼び名があり、エンバク(燕麦)、オートムギ、オート(Oat)とも呼ばれます。麦という名前がついていますが、小麦や大麦に含まれているグルテンは入っていません。
そのため、小麦アレルギーやグルテンフリーの人でも食べられる穀物として、欧米では人気があります。
ところでオーツ麦は日本ではあまりなじみがありません。
それもそのはず。日本で栽培されるようになったのは明治になってからで、主に軍馬や農耕馬の飼料用に栽培されていました。
現在でも飼料用作物として栽培されており、令和2年における作付面積は4万1,100haで、これは東京都23区の2/3くらいの面積になります1)。飼料用として栽培されるオーツ麦は、脱穀されずに緑肥として使われるため、穀物として生産量はわかりません。
オーツ麦はどのようにして食べられているのでしょうか。
あとで説明するように、グラノーラやミューズリーにも使われていますが、もっとも一般的な食べ方はオートミール(Oatmeal)です。オートミールはオーツ麦を押しつぶすまたはカットすることにより調理しやすくしたもので、水や牛乳で煮て食べます。
オーツ麦は栄養価が高いって本当?
オーツ麦は栄養価が高いといわれています。
オートミールの栄養成分を、白米(うるち米)、玄米、小麦粉(強力粉)、全粒粉(強力粉)と比べてみましょう。数値は日本食品標準成分表(2020年版)(八訂)に掲載されている分析値はで、いずれも可食部100gあたりの重量です。
単位 | オーツ麦/オートミール | うるち米 | 玄米 | 強力粉 | 強力粉/全粒粉 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
エネルギー | g | 350 | 342 | 346 | 337 | 320 | |
水分 | g | 10.0 | 14.9 | 14.9 | 14.5 | 14.5 | |
たんぱく質 | g | 13.7 | 6.1 | 6.8 | 11.8 | 12.8 | |
脂質 | g | 5.7 | 0.9 | 2.7 | 1.5 | 2.9 | |
炭水化物 | g | 69.1 | 77.6 | 74.3 | 71.7 | 68.2 | |
灰分 | g | 1.5 | 0.4 | 1.2 | 0.4 | 1.6 | |
ビタミン | ビタミンB1(チアミン) | mg | 0.2 | 0.08 | 0.41 | 0.09 | 0.34 |
ビタミンB2(リボフラビン) | mg | 0.08 | 0.02 | 0.04 | 0.04 | 0.09 | |
ビタミンB3(ナイアシン) | mg | 1.1 | 1.2 | 6.3 | 0.8 | 5.7 | |
ビタミンB6 | mg | 0.11 | 0.12 | 0.45 | 0.06 | 0.33 | |
ビオチン | µg | 22.0 | 1.4 | 6.0 | 1.7 | 11.0 | |
葉酸 | µg | 30 | 12 | 27 | 16 | 48 | |
パントテン酸 | mg | 1.29 | 0.66 | 1.37 | 0.77 | 1.27 | |
ビオチン | µg | 22.0 | 1.4 | 6.0 | 1.7 | 11.0 | |
ビタミンE | mg | 0.7 | 0.1 | 1.4 | 0.5 | 1.5 | |
ミネラル | カリウム | mg | 260 | 89 | 230 | 89 | 330 |
カルシウム | mg | 47 | 5 | 9 | 17 | 26 | |
マグネシウム | mg | 100 | 23 | 110 | 23 | 140 | |
リン | mg | 370 | 95 | 290 | 64 | 310 | |
鉄 | mg | 3.9 | 0.8 | 2.1 | 0.9 | 3.1 | |
亜鉛 | mg | 2.1 | 1.4 | 1.8 | 0.8 | 3.0 | |
銅 | mg | 0.28 | 0.22 | 0.27 | 0.15 | 0.42 | |
食物繊維 | 水溶性食物繊維 | g | 3.2 | 0 | 0.7 | 1.2 | 1.5 |
不溶性食物繊維 | g | 6.2 | 0.5 | 2.3 | 1.5 | 9.7 | |
食物繊維総量 | g | 9.4 | 0.5 | 3 | 2.7 | 11.2 |
オーツ麦は玄米や強力粉/全粒粉(小麦粉の全粒粉)と同様、種皮・胚芽・胚乳がすべて含まれている全粒穀物であるため、白米や小麦粉と比べて、たんぱく質、脂質、食物繊維、ビタミン、ミネラルを多く含んでいます。
特に水溶性植物繊維の含有量が多いことが特徴で、オーツ麦の水溶性植物繊維の大部分を占めるβ-グルカンには、血液中のコレステロール濃度の上昇抑制、血糖値上昇抑制、血圧低下、排便促進、免疫機能調節なとの作用があることがわかっています。
ただこの表を見る限りでは、同じ全粒穀物である玄米や小麦粉の全粒粉と比べて、格段に栄養成分が多いとはいえません。そもそも栄養価の定義自体があいまいなので、オーツ麦の栄養価が高いとまでは言い切れないと思います。
オーツ麦を使った食品と食べ方
オーツ麦は日本ではあまりなじみがないので、オーツ麦を使った食品はあまりありません。手に入るものを中心に紹介します。
オートミール(Oatmeal)
オーツ麦の全粒を押しつぶす、またはカットすることにより調理しやすくしたもので、水や牛乳で煮て、粥にして食べます。手軽に調理できることから、19世紀後半にアメリカで急速に普及し、いまも食べ続けられています。写真の「クエーカーオーツ」という商品は、19世紀後半から現在まで、食べ続けられているオートミールです。
グラノーラ(Granola)
オーツ麦の全粒を押しつぶす、またはカットすることにより調理しやすくしたロールドオーツ(オーツ麦の押麦)と大麦、玄米、トウモロコシ、ココナッツ、ナッツ、ドライフルーツなどに、砂糖、メープルシロップ、はちみつを加えて混ぜてオーブンで焼いた加工食品で、焼く途中または焼きあがったあとに破砕し、適当な塊にしています。牛乳をかけて朝食にしたり、そのまま食べることもできます。また棒状に固めた製品(グラノーラバー)もあります。
ミューズリー(Müesli)
ロールドオーツ(オーツ麦の押麦)と大麦、玄米などの全粒穀物にナッツ、ドライフルーツなど混ぜ合わせた食品です。グラノーラは砂糖などをかけてオーブンで焼きますが、ミューズリーは加熱されていません。食べる際は牛乳やヨーグルトをかけてふやかして食べます。スイスが発祥といわれています。
オートブラン(Oat bran)
オーツ麦を製粉してオーツ麦粉を作る過程で発生するオーツ麦の外皮です。小麦粉を製粉する際に出る小麦ふすまと同じ原理で出るものなので、「エンバクふすま」「オーツブラン」とも呼ばれています。外皮の部分だけなので、全粒穀物の加工品であるオートミールよりもたんぱく質、脂質、ミネラル、食物繊維を多く含んでいます。オーツ麦よりも栄養価が高いと紹介しているサイトもありますが、一部の成分が多く含まれるだけで、栄養価が高いわけではありません。
オートブランは、パンやクッキーに混ぜるなどして使われますが、オートブランだけでも食べられるそうです。まあ食べられなくはないと思いますが、そこまでして食べる価値はあるのでしょうか。
オーツ麦粉(Oat flour)
オーツ麦を製粉したものです。日本国内では生産されていないようですが、海外で製造されたものをネット通販で買うことができます。小麦粉の薄力粉の代わりに使うことができます。オーツ麦にはグルテンが含まれていないので、グルテンフリーの食生活をされている方が、小麦粉の代わりに使われることが多いようです。
オーツ麦には水溶性食物繊維 β-グルカンが多い
オーツ麦に含まれる注目成分といえば、水溶性食物繊維のβ-グルカンです。
β-グルカンを「栄養成分」として紹介している記事もありますが、これは明らかな間違いです。カロリーはほぼゼロで、栄養成分ではありません。あえて書くならば、機能性成分が適当だと思います。
食物繊維は人間が消化・吸収できない物質で、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類があります。
β-グルカンなどの水溶性食物繊維を摂ると、腸の中では水に溶けてゲル状になっています。
このゲルには、胆汁酸やコレステロール、糖質などを吸着する働きがあり、吸着したものを便として体外へ排泄します。そのため、水溶性食物繊維を摂ることで、腸での糖質の吸収を抑え、血液中のコレステロール濃度を低下させることにつながります。
また水溶性食物繊維は腸内細菌のエサになるため、腸内細菌の数を増やし、腸内環境を改善するという効果もあります。
このように水溶性食物繊維は体にとってプラスの効果があるので、できるだけたくさん摂ったほうがよいと思われるかもしれませんが、マイナスの効果もあります。
腸内細菌は水溶性食物繊維をエサにして増殖しますが、その水溶性食物繊維はガスに変わります。
一度に大量の水溶性食物繊維を摂ると、腸の中でガスが大量に発生し、お腹がパンパンに張った状態になることがあります。これを鼓腸とか、腹部膨満といいます、鼓腸がひどくなると腸壁を刺激するため腹痛が起こり、ひどい場合には下痢を起こすこともあります。
水溶性食物繊維のプラスの効果ばかり強調されることが多いのですが、このようなマイナス効果もあることを忘れないでください。
オーツ麦には水溶性食物繊維のほかに、不溶性食物繊維も含まれています。
不溶性食物繊維は水には溶けず、消化・吸収もされないため、固形物として腸管内を少しずつ肛門の方向へ移動していきます。
水溶性食物繊維には水を吸って膨らむ性質があるので、便を柔らかくするとともに便の体積を増やします。また膨張した便が腸管壁を刺激することで、腸の蠕動運動が活発化し、排便しやすくなる効果もあります。ただ不溶性食物繊維も摂りすぎると、腹痛・下痢の原因になることがあります。
最後に、食物繊維は消化・吸収されませんが、カロリーはゼロではありません。
それは腸内細菌によって分解されて生成される物質が、腸管壁から吸収されるためです。水溶性食物繊維であるβ-グルカンは、分子量が小さく、大腸内で完全に発酵されると考えられるので、1gあたり2kcalとして計算します。
β-グルカンを摂るためにオーツ麦を食べるのは正しい選択か
オーツ麦にはβ-グルカンが多く含まれること、またβ-グルカンには、腸での糖質の吸収を抑え、血液中のコレステロール濃度を低下させ、腸内環境を改善する作用があることを説明してきました。
β-グルカンを日常的に摂ることで、体によい効果がありそうです。
でもちょっと待ってください。
β-グルカンを1日にどれくらい摂れば、体によい効果が得られるのでしようか。その量のβ-グルカンを摂るためには、例えばオートミールをどのくらい食べる必要があるのでしょうか。β-グルカンを含む食品は他にないのでしょうか。
アメリカでは、1日あたり3gのβ-グルカンを摂取できる食品について、「冠状動脈心疾患のリスク低減効果がある」という表示ができます。
またヨーロッパの欧州食品安全機関(EFSA)も、1日あたり3gのβ-グルカンが摂取できる食品に対して、「コレステロールの低下による心臓疾患のリスク低減効果がある」という表示をすることを認めています。
つまり1日3gのβ-グルカンを摂れば、血液中のコレステロール濃度を下げ、心疾患のリスクを下げる効果が得られるわけです。
オートミール100gには、水溶性食物繊維が3.2g含まれています。水溶性食物繊維がすべてβ-グルカンだと仮定すると、オートミールを1日100g食べればよい、ということになります。
オートミール1食分は33gですから、1日3食、すべてオートミールに置き換える必要があるということになります。これはあくまで仮定の話ですし、1日3g摂らなかったら効果が全くない、というわけではありませんが、食品に含まれる成分を摂ることで、何らかの効果を得ようとすると、かなりの量を食べなければならないということです。
- 穀物:大麦、オーツ麦、小麦、ライ麦
- 海藻:コンブ
- きのこ:シイタケ、マイタケ、スエヒロタケ
などに、β-グルカンが含まれています。ただ、海藻、きのこに含まれるβ-グルカンは、穀物に含まれるものと、化学構造が異なります。
特にきのこに含まれるβ-グルカンは、水溶性ではなく不溶性です。β-グルカンがもつ糖質の吸収抑制、血液中のコレステロール濃度の低下、腸内環境の改善といった作用は、穀物のβ-グルテンについての研究の結果わかったことなので、これらの作用を得るためには、穀物のβ-グルテンを摂る必要がありそうです。
さきほど説明したアメリカとヨーロッパの機能性表示も、大麦由来のβ-グルカンを対象にしたものです。そうなると、オーツ麦以外でβ-グルテンを多く含む食べものとしては、大麦ということになります。
大麦は日本でもよく使われてきた食材の一つで、麦ごはんのほか、めん類、味噌、麦茶、ビール、麦焼酎の原料としても使われています。
麦ごはんとして食べるために加工された大麦である押麦、米粒麦に、β-グルテンがどれくらい含まれているか、調べてみました。日本食品標準成分表(2020年版)(八訂)に掲載されている分析値を示します。可食部100gあたりの重量です。
単位 | オーツ麦/オートミール | 大麦/押麦 | 大麦/米粒麦 | |
---|---|---|---|---|
水溶性食物繊維 | g | 3.2 | 4.3 | 6.0 |
不溶性食物繊維 | g | 6.2 | 3.6 | 2.7 |
食物繊維総量 | g | 9.4 | 12.2 | 8.7 |
水溶性食物繊維の量で比較すると、米粒麦や押麦(いずれも大麦)の方が、オートミールより水溶性食物繊維を多く含んでいます。
米粒麦をお米に3割混ぜた麦ごはん1膳には、1.2gの水溶性食物繊維が含まれます。米粒麦に含まれる水溶性食物繊維がすべてβ-グルカンかどうか確認していませんが、麦ごはんを毎日2膳半食べれば、3gの水溶性食物繊維が摂れる計算です。毎日3食オートミールを食べるより、ハードルは低いかもしれません。
また日本では手に入りにくいのですが、オーツ麦粉を小麦粉の代わりに使うことで、β-グルカンは摂りやすくなると思います。オーツ麦粉はグルテンフリーなので、グルテンを摂りたくない方にもおすすめです。
ダイエット効果はあると考えられます
ますオーツ麦を対象にするのか、オートミールを対象にするのか、という話ですが、日本で容易に手に入り、かつダイエット効果がありそうなのは「オートミール」です。
オートミール1食は33gで、これにお湯で戻して食べるとします。ふつうは牛乳を加えて加熱したり、スープで味付けしますが、ここではあくまで主食の置き換えなので、お湯を使います。そしてそのときのカロリーと主要栄養成分量を、ごはん1膳(150g)、食パン2枚(36g)と比較してみました。
単位 | オートミール1食 | ごはん1膳 | 食パン2枚 | |
---|---|---|---|---|
カロリー | kcal | 116 | 234 | 89 |
たんぱく質 | g | 4.5 | 3.8 | 3.2 |
脂質 | g | 1.9 | 0.5 | 1.5 |
炭水化物 | g | 22.7 | 55.7 | 16.7 |
水溶性食物繊維 | g | 1.1 | 0 | 0.1 |
不溶性食物繊維 | g | 2.0 | 0.5 | 0.7 |
オートミール1食分(33g)は、ごはん1膳、食パン2枚と比べるとたんぱく質、脂質、食物繊維を多く含んでおり、炭水化物を摂りすぎている人にとっては、理想的な食べ物かもしれません。
だオートミール1食とごはん1膳が同じ程度の満腹感が得られるのかどうか、試したことがないのでわかりません。この3つの食品の中では食物繊維の多いオートミールが消化に時間がかかるため、いわゆる「腹持ち」はよいと思われます。
またオートミールのグリセミック指数(GI値)は低から中程度と低いため、食後血糖値の急激な上昇を抑えることができます。
例えばごはん1膳をオートミール1食分に置き換えると、ダイエット効果はあります。また食パン2枚をオートミール1食分に置き換えた場合も、多少のダイエット効果は得られます。
ただしこれは、この条件に限った話で、オートミールをたくさん食べてしまうと、意味はなくなりますし、副食として何をどれだけ食べるのかによっても違ってきます。ダイエットにおける食事の基本は、
- 摂取するカロリーの量を減らすこと
- 摂取する炭水化物、たんぱく質、脂質のバランスを改善すること
- 食後血糖値の上昇が少ない食品、食べ方をすること
です。これらの項目を達成する手段としてオートミールを使うことは間違っていません。ただ、オートミールをわざわざ買って食べなくても、ふだんの食事を工夫すれば、この基本方針は達成することができます。
まとめ
- エンバク、オートムギ、オートなどとも呼ばれるオーツ麦は、オートミール、グラノーラとして食べられるようになりました。含まれる栄養成分の量は、他の全粒穀物とほとんど同じです。多く含むというわけではありません
- 腸での糖質の吸収を抑え、血液中のコレステロール濃度を低下させ、腸内環境を改善する作用がある水溶性食物繊維β-グルカンが多く含まれています。ただβ-グルカンは大麦にも含まれており、食品から摂るのであれば、大麦(米粒麦・押麦)の方がおすすめです。
- オートミールとして食べる場合、1食分のカロリーが低く、低GI食品であることから、ごはんや食パンを置き換えることでダイエット効果は得られます。