最近、小麦粉の置き換え用に、さまざまな種類の米粉が発売されています。
①菓子・料理用、②パン用、③麺用と表示されているものもあり、購入しやすくなりました。
でも同じパン用の米粉でも、実際にパンを作ってみると、作り方に制約があったり、パンがうまく膨らまなかったりすることがあります。何が違うのでしようか。
パン作りに適した米粉の特徴
まず米粉パンには、
- 小麦粉の一部を米粉で置き換えたパン
- 小麦粉使わず、米粉約80%とグルテン約20%で作られたパン
- グルテン添加せず、米粉だけで作られたパン
の3種類があります。
①と②は、どのような米粉を使っても、ふっくらしたパンができますが、③では使用する米粉にかなり制約があります。ここでは③のパンを作る前提で、話を進めたいと思います。
まずパン作りに適した米粉は
・でんぷんの損傷が少ないこと
の2つです。
パンは酵母による発酵で発生するガスで生地が膨らむことで、ふっくらしたパンができます。
小麦粉は小麦粉に含まれるグルテンが生地に粘り気と弾力を与えるため、酵母によって発生するガスが生地の内側に閉じ込められ、生地全体が膨らみます。米粉にはグルテンが含まれていないため、酵母によって発生するガスを生地の内側に閉じ込めるためには、粉の粒径が小さい必要があります。
また米粉にはでんぷん顆粒が含まれていますが、製粉するときにこれが損傷すると、でんぷんが水を吸いやすくなり、また酵素によって分解されやすくなるため、うまく膨らまなくなります。
これらの条件を満たすためには、
・でんぷんが損傷せずに粒径が細かい粉が得られる製粉技術を使うこと
が重要です。
米粉パン作りに適したお米の品種
パン用米粉の製造に適した品種として、次の5品種が開発されましたが、栽培されているのは「ミズホチカラ」だけです。
ミズホチカラ
白米のアミロース含有率は22%で、米粉パンの膨らみがよく、パンの製造に向いています。農研機構九州沖縄農業研究センターが育成した品種で、熊本県と山口県で栽培されています。
西日本で広く栽培される「ヒノヒカリ」と同じ地域で栽培が可能で、「ヒノヒカリ」より出穂が1週間程度、成熟が20日程度遅いが、収量は「ヒノヒカリ」より41%多いといわれます。
熊本製粉が、ミズホチカラ100%を使用した製パン用米粉を製造・販売しており、この米粉を使えばグルテンや増粘剤を使わなくても、ふんわり、しっとりしたパンを作ることができます。またこの米粉はグルテンフリー認証を取得し、7大アレルゲンの混入を防止した専用工場で生産するなど、製品としての価値を高めています。
ほしのこ (栽培されていない)
米粉の粒子が細かく、損傷デンプンが少ない良質の米粉ができます。パン・洋菓子・麺用として小麦粉の代わりに使える米粉が、一般品種より容易に製造できます。「ほしのゆめ」と同じ熟期の品種です。農研機構北海道農業研究センターが育成し、北海道が栽培適地の品種ですが、令和3年現在、日本国内では栽培されていません。
ゆめふわり (栽培されていない)
米粉の粒径が小さく、損傷デンプンの割合が低いため、米粉パンに適しています。「あきたこまち」と同じ熟期の品種です。農研機構東北農業研究センターが育成し、「あきたこまち」の栽培地で栽培可能ですが、令和3年現在、日本国内では栽培されていません。
こなだもん (栽培されていない)
米粉の粒径が小さく、損傷デンプンの割合が低いため、米粉パンに適しています。「ヒノヒカリ」と同じ熟期の品種で、「ヒノヒカリ」を栽培している西日本の広い地域で栽培できます。農研機構九州沖縄農業研究センターが育成しましたが、令和3年現在、日本国内では栽培されていません。
笑みたわわ (栽培されていない)
白米のアミロース含有率は21%で、「ヒノヒカリ」より米粉の粒径が小さく、損傷デンプンの割合が低いため、製粉適性に優れます。「ヒノヒカリ」より10日程度遅い熟期の品種で、農研機構九州沖縄農業研究センターが育成しました。「ヒノヒカリ」より51%多収です。令和3年現在、日本国内では栽培されていません。
米粉パン作りに適した米粉の製粉技術
パン作りには、粒径が細かく、でんぷんが損傷していない米粉が適しています。このような米粉を作るためには、特殊な製粉技術が必要です。よく使われるのが気流粉砕機で、高速な気流の中に原料を入れ、原料どうしをぶつかり合わせることで粉砕する方式です。乾式気流粉砕機では、でんぷんの損傷度は10%程度ですが、原料を一度水に浸して柔らかくしてから粉砕する湿式気流粉砕機ではでんぷんの損傷度を5%以下にすることもが可能です。メーカーによって違いはありますが、湿式気流粉砕機で粉砕した米粉の平均粒径は20µm程度です。
これに対し、上新粉は2つの回転するロールの間に原料を通すことで粉砕するロールミルを使って作られます。ロールミルで粉砕すると、粒径が大きく、でんぷんが損傷した米粉の粉(上新粉)ができあがります。
湿式気流粉砕機での粉砕と、ロールミルでの粉砕を比較すると、湿式気流粉砕機の方がコストが高くなります。上新粉より米粉の方が高いのは、仕方がないと思います。
国内で販売されているパン用の米粉
各メーカーからさまざまなパン用米粉が発売されていますが、見ただけでは違いが分かりません。実際使ってみると、全く性質が違う粉です。
製パンの性能に影響する指標としては、
- でんぷん損傷度
- 粒径
- アミロース含量
があります。2017年に農林水産省が公表した「米粉の用途別基準」には、パン用米粉と表記する基準として、つぎのような数値があげられています。
- でんぷん損傷度 10%未満
- 粒度(粒径):粒径75µm以下の比率が50%以上
- アミロース含量:15%以上25%未満
でんぷん損傷度も粒径も小さいほうが製パンに適しているので、各商品のこれらの数値を比較すれば、ある程度、善し悪しの判断がつくと思いますが、このような数値を公表しているメーカーは少ないです。
各メーカーのウェブサイトに掲載されている主なパン用米粉(業務用、ミックス粉を除く)を紹介します。
九州ミズホチカラ米粉 (熊本製粉)
家庭用に販売されているパン用米粉で、米粉パン作りに適した品種として開発された、熊本県産ミズホチカラを100%使用しています。粉砕方法は明らかにされていませんが、グルテンフリーパン用に特化して設計されたとのことで、グルテンを加えなくても、ふっくらしたパンができ上ります。またGFCOという認証機関のグルテンフリー認証を取得しており、グルテン濃度が10ppm以下であることが保証されています。
こめの香(福盛シトギ2号) (グリコ栄養食品)
新潟県産米粉だけが原料。米粉パンだけでなく、洋菓子や料理にも使えます。米粉パンを作る際は、もち粉、水あめを加える必要があるようで、この米粉だけでは生地がうまく発酵しないようです。製粉方法は不明ですが、開発の経緯から推測すると、新潟製粉が製造しているものと思われます。
マイベイクフラワー (サラ秋田白神)
秋田県産あきたこまちを超微粉砕した米粉「マイドルチェ」に、アルファ化した米粉「マイプラス」をブレンドした米粉なので、厳密にはミックス粉になります。増粘剤などの添加物をいっさい使わずに米粉パンが作れるほか、うどんや餃子の皮、ニョッキなども作ることができるそうです。
この商品は、製造方法、粒径などが明記してあります。
- 製造方法:湿式気流粉砕製法(二段階製粉法含む)
- 粒径:平均50~60µm(従来の米粉は約140µm)
- でんぷん損傷度:約3%(従来の米粉は10%以上)
- アミロース含有量:約17%
やのくに純真米粉 (ネティエノ)
山口県田布施町で自社栽培したミズホチカラを100%使用し、湿式製粉で米粉を製造した米粉です。日本米粉協会によるノングルテン認証を取得しており、グルテン濃度が1ppm以下であることが保証されています。
お米の粉 手作りパンの薄力粉 (波里)
国産米が原料の米粉で、農林水産省が公表した「米粉の用途別基準」のうち、パン用に分類されているため、でんぷん損傷度10%未満、粒径75µm以下の比率が50%以上、アミロース含量は15%以上25%未満という規準には適合しているようです。ただ型に流して焼くタイプの米粉パン用で、手ごねの生地には向いていないと明記されています。パッケージにグルテンフリーと記載してありますが、認証は取得していません。
パン用米粉は商品によって性質が全く異なり、パンを作る際の手順や制約があるものもあり、小麦粉のように品質が一定ではないことがわかります。
これとは別に、米粉パンを作りやすくするため、米粉にでん粉や増粘剤を加えたミックス粉も多数発売されています。ミックス粉では、お米の品種にかかわらず、製パン性能が高い粉に仕上げることができるようです。ミックス粉の場合、原料は国産米と書いてありますが、それが新米なのか、収穫されてから1年以上経った古米なのか、2年以上経った古古米なのか、わかりません。
米粉めん作りに適した米粉の条件と適したお米の品種
米粉めんに適した米粉は、アミロースが多く含まれ、粘りが少ない品種がよいといわれています。アミロースの含有率が高いと、米粉めんに加工したとき、めん離れがよくなります。
めん用の米粉に適した品種として、次の5品種が開発されました。
北瑞穂
白米のデンプンに含まれるアミロース含有率が約30%で、一般の品種と比べると約10ポイント高く、米の粘りが少ない特徴を示します。そのため米粉めんに加工した場合、麺離れがよく適度なコシの強さが得られます。米粉クッキーでは、従来の品種に優るサクサク感を得ることが出来ます。
「きらら397」に近い熟期の品種で、北海道で栽培されています。「きらら397」より14%程度多収です。農研機構北海道農業研究センターが育成し、2012年に品種登録されました。
旭川市の市川農場が、北瑞穂の米粉と、北瑞穂を使ったライスパスタを製造・販売しています。
越のかおり
白米のデンブン成分のうち、粘りの少ないアミロースが33%程度と多いので、茄でても溶けにくく、麺離れがよ米のめんが作れます。「コシヒカリ」に近い熟期で、新潟と島根で栽培されています。収量は「コシヒカリ」よりやや低いです。農研機構中央農業研究センターが育成した品種です。
新潟県上越市の自然芋そばが、越のかおりを100%使用した米粉めん「もちっとつるりお米の麺」を製造。販売しています。また新潟県佐渡市のキンちゃん本舗が、越のかおりの米粉を販売しています。
ふくのこ
「ヒノヒカリ」と近い熟期の品種で、福岡で令和3年から栽培されるようになりました。白米のアミロース含有率は27%程度で、米粉めんへの加工が可能です。「ヒノヒカリ」より20%ほど多収です。農研機構西日本農業研究センターが育成した品種です。
あみちゃんまい (栽培されていない)
「ひとめぼれ」に近い熟期の品種で、東北中南部、北陸、関東以西での栽培に適します。白米のアミロース含有率は30%程度あり、米粉めんに適しています。収量は「ひとめぼれ」と同程度です。農研機構中央農業研究センターが育成した品種です。
亜細亜のかおり (栽培されていない)
「日本晴」とほぼ同じ熟期の品種で、北陸から東海、関東以西で栽培が可能です。白米のアミロース含有率は32%程度で、米粉めんに適しています。米粉めんの食味は「越のかおり」と同等です。「越のかおり」に比べて20%多収です。農研機構中央農業研究センターが育成した品種です。
まとめ
- 粒径が小さく、でんぷんの損傷が少ない米粉がパン作りに適しています。このような米粉を作るためには、パン用米粉の製造に適した品種を使い、でんぷんが損傷せずに粒径が細かい粉が得られる製粉技術を使うことが必要です。
- パン用米粉の製造に適した品種として、国の研究機関で5品種が開発されましたが、栽培されているのはミズホチカラだけで、それも熊本県と山口県のみです。
- 湿式気流粉砕機という装置を使うことで、でんぷんが損傷せずに粒径が細かい米粉を製造することができます。
- パン用米粉は数社から発売されていますが、商品によって性質が全く異なり、パンを作る際の手順や制約があるものもあり、小麦粉のように品質が一定ではありません。これ以外に、でんぶんや増粘剤を加えて、製パン性能を改善したミックス粉も多数発売されています。
- 米粉めんに適した米粉は、アミロースが多く含まれ、粘りが少ないものがよく、米粉めん用の品種として5品種が開発されました。ただ栽培されているのは3品種にとどまっています。