今年は米粉が食のトレンドになるらしい、米粉にはいいことがたくさん

クックパッドによる食トレンド予測2023によると、物価高と代替食品というキーワードを背景に、米粉が食のトレンドとして取り上げられています1)米粉にはメリットがある一方で、デメリットは特にありません。戦後、海外から値段の安い小麦が輸入されるようにより、日本人の食生活は大きく変化しましたが、小麦の価格高騰により、再び変化が起きるかもしれません。これから使う機会が増えるであろう米粉について、知っておきましょう。

米粉にはいろんな種類がある

食品スーパーに行くと、いろんな米粉が並んでいます。パン用、お料理用など、用途が書いてあるものもあれば、1番、2番と番号が書いてあるものもあり、どれを買ったらいいのか迷ってしまいますね。

国内で売られている米粉を分類すると、だいたい次のようになります。「だいたい」といっているのは、小麦粉の薄力粉、強力粉のように、定着した呼び方がなく、メーカーが独自に商品分類をしているからです。農林水産省は2017年に米粉の用途別基準を公表しましたが2)、これには拘束力はないので、これに沿った表示をしているメーカーもあればもしていないメーカーがあります。

製品表示例  主な用途 農林水産省による用途別基準  備考
お料理用 天ぷら、お好み焼き、たこ焼き、シチュー 菓子・料理用(1番) グルテンは
添加されていない
お菓子用  シフォンケーキ、クッキー
パン用 米粉パン パン用(2番) グルテンが添加されている場合がある
製めん用 米粉麺 麺用(3番)

主な用途として、お料理の名前を具体的に示していますが、これはあくまで例であり、例えばパン用の米粉を天ぷらに使ってはいけない、ということではありません。あくまで向き・不向きを示しているだけです。

備考のところに、グルテンの添加について但し書きをしていますが、これについては後ほど詳しく説明します。

米粉は最近出回るようになった!?

わたしがこどもの頃は、米粉って見たことがありませんでした。スーパーでよく見かけるようになったのは、この10年ほどではないでしょうか。実は、いま「米粉」という名前で売られている米粉以外にも、お米から作られた粉はたくさんあり、昔から和菓子の材料として、使われてきました。現在、これらの粉をまとめて「米穀粉」と呼んでいます。よく見かけるのは、上新粉、白玉粉くらいですが、原料、製造方法、粉の粒径によって、細かく分かれているんですね。

原  料   
うるち米 もち米
製 法 そのまま粉にした 米粉、上新粉、上用粉、並新粉 白玉粉、もち粉
炊飯または蒸して、
乾燥後に粉にした
みじん粉 微塵粉(=味甚粉)、上南粉(=極微塵粉)、落雁粉、寒梅粉(=焼微塵粉)

この記事で取り上げている「米粉」に一番近いのは、上新粉です。上新粉はお団子、ういろう、かしわ餅、草餅の原料として使われますが、天ぷらやシフォンケーキには向いていません、なぜでしょうか。

上新粉は米粉よりも粒径が大きく、でんぷんの損傷度が高いのです。そのためざらざら、ごつごつした舌触りになり、水分を吸い過ぎてドロドロになってしまいます
なお、お米から作られる粉の種類と違いについては、下の記事で詳しく解説しています。

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ところで、米粉が最近出回るようになったのは、上新粉よりも粒径が小さく、でんぷんの損傷度が低いお米の粉が作れるようになったからです。一言でいうと「技術革新」です。

上新粉はお米の粒を昔ながらの石臼で挽いて作っていました。この方法だと、細かくするのに限界があり、お米の粒の中にあるでんぷんも壊れてしまいます。そこで登場したのが、気流粉砕や湿式粉砕という方法です。気流粉砕は高速で流れる空気の中にお米の粒を乗せて、衝突させることで粉砕する方法、湿式粉砕はお米の粒に水を加えてすりつぶす方法です。これらの方法によって、より細かい粉を作るとともに、でんぷんが壊れないようにすることができるようになったのです。

米粉を使うメリット

ウクライナで起きた戦争に伴い、小麦の価格が高騰し、確保が難しくなりつつあります。小麦の自給率は15%(2020年度)であるのに対し、お米はほぼ100%自給されています。クックパットによると、米粉が注目されるきっかけとなったキーワードは、物価高代替食品とのことです。小麦粉の値段が上がり、その代替食品として米粉が注目されているというストーリーです。

では、米粉を使うメリットを改めて整理してみましょう。

小麦粉よりからだに優しい

これ、実は農林水産省が言っているんです。私もちょっとびっくりしました。農林水産省の広報誌 aff(あふ)の2020年11月号に、つぎのような記述があります。

アミノ酸バランスに優れた米の高い栄養価を、ごはんとは違う食べ方で摂取できるのが、米粉の魅力の一つ。また、小麦粉に比べて油の吸収率が低いので、揚げ物に使うと冷めてもサクサク感が長く続き、さっぱりヘルシーな仕上がりに。他にも、小麦粉より消化が良く胃もたれしにくいなどの特徴があります

このうち、消化がよく、胃もたれしにくいという部分について補足説明しておきましょう。小麦にはグルテンというたんぱく質が含まれていますが、このたんぱく質は消化酵素で分解されにくいため、体質によっては胃もたれ、腹痛、腹部膨満(腸内細菌がガスに変える)、下痢を引き起こすことがわかっています。またアレルギー反応やリーキーガットの原因になることもあります。

お米にもたんぱく質は含まれていますが、分解されにくいということはなく、アレルギー反応を起こすことは極めてまれです。小麦が原因でからだに何らかの影響が出ているという人は意外と多いことがわかっているので、小麦をお米で置き換えるのは、健康のためにもよいといえるでしょう。

ただ、注意が必要です。パン用、麺用として売られている米粉の中には、グルテンが18~20%添加されているものがあります。グルテンがあると、ふっくらしたパンを作ったり、コシのある麺を簡単に作ったりできるので、もとからグルテンを混ぜている場合があります。グルテンが入った米粉で小麦粉を置き換えても、意味がないばかりか、小麦粉を使うよりも多くのグルテンを摂ることになりかねないので、注意してください。

食料自給率のアップ

2021年度の食料自給率はカロリーベースで38%。前年よりはわずかにアップしましたが、主要先進国の中では最低水準です。一方、小麦粉は85%が輸入小麦が原料です【注】を参照。ですから、これを国産の米粉で置き換えれば、食料自給率は確実にアップします。

また、国産の国産のお米の消費が増えることで、お米の生産や流通に関わる人の収入も増え、国内総生産(GDP)を押し上げること期待できます。。
さらに、①小麦粉で作られたパンやめん類を、ごはんに置き換える、②外国産小麦を国産小麦で置き換える、といった取り組みによって、食料自給率は上がります。

【注】実は小麦粉はほとんどが国内製造
買ったパンの原材料欄を見ると、最初に小麦粉(国内製造)と書かれています。これは国産の小麦ではありません。輸入した外国産小麦を国内で製粉したという意味です。外国産小麦を国内で製粉したら、小麦粉は国産になるのです。消費者に誤解を与える表現ですね。
では、小麦粉の状態で輸入されているものはないのか、というと、小麦粉には高額の関税がかけられているので(小麦は政府が一括して輸入するので関税はゼロ)、わざわざ小麦粉を輸入する業者はいません。
つまり、小麦粉はほとんどが国内製造ですが、国産の小麦から作られた小麦粉は全体の15%しかありません。

米粉を選ぶ際のポイント

いろんな種類の米粉が出回っており、表示方法も統一されていません。では、どの米粉を使えばよいのでしようか。

ノングルテン米粉を選ぶ必要はない

米粉の中には、ノングルテン米粉を名乗っているものがあります。ノングルテンとは、米粉製品 1 kg に含まれるグルテンの量が 1 mg 以下(= 1 ppm 以下)であることを、日本米粉協会が指定した認証機関が確認したものについて、ノングルテン(Non-Gluten)という表示をすることを、日本米粉協会が認めたものです。

農林水産省や日本米粉協会は、米粉製品のノングルテン表示は、欧米などのグルテンフリー表示よりも厳しいので、制度的に優れていて、ノングルテン米粉の方が安全だと印象付けようとしているようです。しかし

  • 日本の食品表示法では、製品中に数ppm以上の小麦たんぱくが含まれていれば、特定原材料:小麦の表示が必要となる。小麦アレルギーの人は、この表示の有無によって、食べられるかどうか判断ができる。
  • グルテンフリー表示は、製品中のグルテンが20 ppm以下(米国では未満)のときに表示が認められるが、小麦が原因となる遅延型アレルギーで、欧米に多いセリアック病の患者さんは、この基準に従うことで、健康上の問題はほぼ起きない。

つまり、小麦アレルギーの人も、セリアック病の人も、「特定原材料:小麦」の表示がない限り、その米粉製品は安全に食べられるということになります。ちなみに、特定原材料:小麦と表示された米粉を、わたしはいままで見たことがありません。米粉に小麦成分が混入する可能性はゼロとは言いませんが、わざわざ分析して、高いお金を払って日本米粉協会の認証を受けることに何の意味があるのか、わたしにはわかりません。

銘柄米の米粉が優れているわけではない

日本にはいろんな銘柄のお米があります。コシヒカリやあきたこまちが有名ですが、実は日本で作付けされているお米の1/3がコシヒカリなんです3)。ごはんにしたときの食味がよいので、人気があるのです。米粉にも銘柄米が使われたものがあります。コシヒカリ、あきたこまち、ミズホチカラなどがよく聞く名前です。

ミズホチカラはもともと飼料米(家畜のエサ用)に開発されてものでしたが、米粉にしたときに、粒径が小さく、でんぷんの損傷が少ないので、米粉の原料用によく栽培されるようになりました。詳しくは下の記事を見てください。

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コシヒカリは炊飯用には適していますが、米粉用には必ずしも適しているわけではありません。

パッケージの表示はかなり参考になる

米粉のパッケージにはほとんどの場合、料理用、お菓子用、パン用など、用途が書いてあります。また農林水産省の用途別基準では、1番が菓子・料理用、2番がパン用、3番が麺用となっています。この用途別基準は、米粉に含まれるでんぷんの種類によって分類されています。

でんぷんにはアミロースとアミロペクチンの2種類があり、うるち米の場合、アミロースが20%、アミロペクチンが80%です。アミロースの割合が少なくなると粘り気が増え、多くなると粘り気が減ります。ちなみにもち米のでんぷんは、100%アミロペクチンです。なお、アミロースとアミロペクチンの比率は、お米の品種によってだいたい決まります。そのため、メーカーによっては複数の品種のお米をブレンドして、調節しているようです。

1番 2番 3番
用途 菓子・料理用 パン用 麺用
アミロース含有量 20%未満  15%以上25%未満 20%以上

結局はいくつか試すしかない

米粉の品質は、お米の品種もさることながら、製粉方法の影響を強く受けるます。日本には米粉を製造している会社が100社近くありますが、会社によって使っている機械や、操作条件が異なります。ほとんどの製粉会社は、自社の製粉方法を公表していません。製粉方法によって、米粉の性状が大きく異なるので、結局は複数のメーカーの米粉を使ってみて、自分の用途にはどれが適しているか、確認するしかありません。わたしの経験では、米粉を使ってパンを作ったとき、全く同じレシピでにもかかわらず、米粉が違うだけで、出来上がったパンが全く別物になったことがあります。

まとめ

  • 米粉にはいろいろな種類があるが、お料理用、お菓子用、パン用、製めん用といった用途別に分かれている。
  • 米粉は、製粉技術が進歩によって、お米から細かい粉をつくることができるようになり、登場した。これに対して、以前からお米を原料にして作られてきた粉をまとめて米穀粉と呼んでいる。
  • 米粉を使うメリットとしては、揚げ物に使ったとき小麦粉に比べて吸油率が低いこと、グルテンを含まないため、からだへの負担が少ないことが挙げられる。また、自給率が15%しかない小麦に対して、お米は自給率がほぼ100%なので、米粉を使うことで、食料自給率のアップにつながる。
  • 米粉を選ぶ際、ノングルテン米粉を選ぶ必要はない。また米粉に適した品種と、ごはんとして食べるのに適した品種は違うので、銘柄米にこだわる必要はない。米粉の性状は、製粉方法の影響を強く受けるが、メーカーによって製粉方法が異なるため、複数の米粉を実際に使って、適したものを選ぶほかない。

参考資料

1) クックパッド ウェブサイト
https://static.cookpad.com/campaign/foodtrend2022/forecast2023/
2) 農林水産省政策統括官、「米粉の用途別基準」及び「米粉製品の普及のための表示に関するガイドライン」の公表について、平成29年3月29日
3) 米穀安定供給確保支援機構、水稲うるち米の品種別作付比率の推移(令和3年産)