漢方薬としても使われるハトムギ 食べ方、味とその効果を薬剤師が解説

あなたは、ハトムギって知ってますか。

名前ぐらいは聞いたことがあると思います。爽健美茶のCMで言っているアレです。でも実際に食べたことがある方は少ないのではないでしょうか。

ハトムギには滋養強壮、利尿、消炎作用があり、デトックスやアンチエイジングに効果があるといわれていますが、かなり怪しいです。

滋養強壮、利尿、消炎作用がある植物など、ほかにいくらでもあります。ウイルス性のイボの治療以外、証明された効果はありません

基本、イボの治療薬で副作用もあります 何にでも効くわけではありません

食品としてのハトムギについて説明する前に、医薬品としてのハトムギについて説明します。

なぜなら、ネット上の記事を見ると、ハトムギが何にでも効く「夢のくすり」であるかのような説明をしているものがあるからです。また薬には必ず「副作用」があります。これをよく理解したうえで正しく使わないと、大変なことになります。

ハトムギは漢方で「ヨクイニン(薏苡仁)」と呼ばれます。これはハトムギの皮を取り除いた種子で、食用に売られているものと全く同じです。このヨクイニンの成分を含んだ飲み薬(内服薬)があります(塗り薬はありません)。

購入する際、医師の処方薬が必要な処方薬と、誰でもドラックストアで買える市販薬がありますが、成分、用法・用量はほとんど同じです。

処方薬の方が値段は安く、また健康保険が適用されますので、市販薬の1/5くらいの値段で入手することができます(診療代は別)。

ヨクイニンの飲み薬とは、次のようなものです。

  • 形状:錠剤または散剤(粉くすり)
  • 効能:青年性扁平疣贅、尋常性疣贅(いずれも、「いぼ」の一種です。詳しい説明はのちほどします)
    皮膚のあれ(処方薬にはこの効能はないため、保険適用になりません)
  • 用法・用量:ヨクイニンエキスとして1日1~2gを3回に分けて服用(ハトムギ13~26gに相当します)
  • 副作用:少ないが、人によっては、
    胃の不快感、下痢
    発疹、発赤、かゆみ、じん麻疹
    が起きることがある、
  • 薬価:1日成人1人あたり、処方薬で53~106円(3割負担だと16~32円)、市販薬で150円くらいになります。
  • 注意:ヨクイニンには子宮収縮作用があります。妊娠中の人は注意が必要です。

ヨクイニンは「青年性扁平疣贅」、「尋常性疣贅」に効果があります

青年性扁平疣贅(せいねんせいへんぺいゆうぜい)は、若い女性の顔や手足にできることが多い平らなイボです。尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)はこどもの手足にできる豆粒くらいの大きさのイボです。

いずれもヒトパピローマウイルスの感染が原因で起きるもので、他の人に移る可能性もあります

イボには、ウイルスが原因でできる「水イボ」と呼ばれるものや、加齢や紫外線でできるイボもありますが、これらのイボにはヨクイニンは効果がありません。

ヨクイニンには、免疫細胞の1つであるナチュラルキラー細胞を活性化する作用があり、免疫機能を高めることで、ウイルスを死滅させるといわれています。

このように、ヨクイニンは、基本はイボの原因になるウイルスを死滅させることで、ウイルス性のイボを治療するお薬です。

また、まれですが、胃の不快感、下痢、発疹、発赤、かゆみ、じん麻疹といった副作用もあります。また子宮を収縮させる作用があるので、妊娠中の人や生理痛が激しい人は、注意が必要です。

ついでに、ヨクイニンには塗り薬(外用薬)はありません。ヨクイニンやハトムギが入った塗り薬のような商品がありますが、これらは薬ではなく、化粧品です。化粧品は効果・効能を表示できません。つまり効果がない場合もあるということです。

ハトムギ、ヨクイニンの効果として記載されているものの大半は疑問?

ネット上の記事を見ると、ハトムギが持つ素晴らしい効果・効能がたくさん記載されています。漢方薬にはさまざまな効果・効能がありますし、それはふだん私たちが口にしている食品にも、いろんな作用があります。

例えば、コーヒーや日本茶に含まれているカフェインには「利尿作用」があります。コーヒーや日本茶を飲むと、水を飲んだときより、トイレに行きたくなります。このような効果をいちいち拾い上げて、ハトムギ、ヨクイニンがいかに素晴らしい食べ物であるか、説明しているのです。

ハトムギに利尿作用があるのは事実かもしれませんが、利尿作用があることを理由にハトムギを摂るのはどうかと思います。ハトムギには次のような効果があると、ネットの記事には書かれていますが、果たしてそうなのでしょうか。

ちなみに、食品が病気の治療や予防に役立つと説明したり、ほのめかしたりする表示や広告を行うことは、法律違反になります。

・デトックスパワー
・利尿作用により体の余分や水分を排泄してむくみを解消
・吹き出物などの肌荒れやニキビに効果
・シミやソバカスを改善
・肌の保湿力を高める

ハトムギの生産地、価格、栄養成分

ハトムギに関するネット情報に惑わされないようにしてもらいたくて、医薬品として使われるハトムギ(ヨクイニン)について説明しましたが、そもそもハトムギとはどのようなものなのでしょうか。

麦という名前がついていますが、どんな穀物で、どこで栽培されているのでしょうか

まずハトムギは、イネ科ジユズダマ属の穀物で、ハト「麦」という名前ですが、小麦や大麦よりも、トウモロコシやススキに近い植物です。そのため、小麦、大麦、ライ麦に含まれるグルテンは、ハトムギには含まれていません

ハトムギは中国、インドなどで主食用やハトムギエキスの製造用に栽培されていますが、日本国内でも水田転作作物として栽培されており、国産のハトムギを入手することもできます。

種子の大きさは玄米よりも大きく、殻と皮を取り除いたものが食用として売られています。国内生産はそれなりにされているようですが、中国から輸入されているようです。

食用のハトムギの精白粒の価格をネットで調べてみました。

精白粒とは、ハトムギの殻と皮を取り除いたものです。100gあたり140円から590円と、メーカーやパッケージの量によって差はありますが、だいたい100gあたり300円前後ではないかと思います。これは小麦粉の10倍、お米(精白米)の7倍とかなり高価です。

では、そんなに値段の高いハトムギには、どんな栄養成分か含まれているのでしょうか

日本食品標準成分表2020年版(八訂)で調べた結果をまとめました。数値は可食部100gあたりの重量です。また比較のために、お米(精白米)と玄米、小麦粉(薄力粉)の数値もあわせて掲載します。

 

ハトムギ 精白米 玄米 小麦粉
たんぱく質(g) 13.3 6.1 6.8 8.3
脂質(g) 1.3 0.9 2.7 1.5
炭水化物(g) 72.2 77.6 74.3 75.8
食物繊維 水溶性食物繊維 (g) 0 0 0.7 1.2
不溶性食物繊維 (g) 0.6 0.5 2.3 1.3
ミネラル カリウム (mg) 85 89 230 110
カルシウム (mg) 6 5 9 20
マグネシウム (mg) 12 23 110 12
鉄 (mg) 0.4 0.8 2.1 0.5
亜鉛 (mg) 0.4 1.4 1.8 0.3
ビタミン ビタミンB1 (mg) 0.02 0.08 0.41 0.11
ビタミンB2 (mg) 0.05 0.02 0.04 0.03
ナイアシン (mg) 0.5 1.2 6.3 0.6
ビタミンB6 (mg) 0.07 0.12 0.45 0.03

この表を見る限り、ハトムギは、精白米、玄米と比べるとたんぱく質を多く含んでいますが、それ以外の成分で精白米、玄米よりも20%以上多く含まれる成分はありませんでした。

ハトムギを販売している、あるJAのウェブサイトには、「ビタミンB1・B2、カルシウム、鉄、食物繊維も多く含むので、美と健康を気にする方にもお勧めします。」と書かれていますが、

  • ビタミンB1と鉄精白米の半分
  • ビタミンB2玄米とほぼ同じ
  • カルシウム玄米の7割
  • 食物繊維精白米とほぼ同じ

だけしか含まれていません。

ネットの記載をいちいち検証する人はいないので、そのままにしているのだと思いますが、ウソを書いているといわれても仕方がない表現です。「お米より多く含む」とは書いていないから、ウソではないと言い張るのでしょうか。

ついでにこのページには、ハトムギの食べ方が紹介されています。

それによるとお米1合(180ml)にハトムギを大さじ2杯(30ml)加えるのだそうです。お米と栄養成分がほとんど変わらないものに、わずか15%ほどハトムギを加えたところで、栄養成分的には何も変わらないと思うのですが。

ハトムギの食べ方

ハトムギの食べ方としては、先ほど紹介したように、お米と一緒に炊いて食べる、というのが主流のようです。

ただハトムギは種子が大きく、火が通るのに時間がかかるため、お米とは別に、一晩吸水させてから、鍋に入れて30分ほど煮込んで、これをごはんに混ぜて食べるという方法もあるそうです。煮込んだハトムギを小分けしておけば、いろいろな料理に使えるとのことなのですが、果たしてどうでしょうか。

ネットにはハトムギを使ったレシピがたくさん載っています。押し麦や豆に似ているので、使おうと思えば、何にでも使えます。しかし独特な苦みと臭いがあるそうなので、好き嫌いが分かれるようです。

ハトムギを食べると何かよい効果はあるのか

ハトムギを食べることで何かよい効果があるかどうかについては、正確にはわかりません

ハトムギを食べることで効果が証明されているのは、ウイルス性のイボの除去だけです。薬の量はハトムギを1日13~26g食べるのに相当しますが、これはハトムギを20%混ぜたごはんを1~2杯食べるのとほぼ同じです。

ところでハトムギには、滋養強壮作用、利尿作用、消炎作用などがあるといわれていますが、どれだけ食べたらどのような作用があるのか、わかっていません

先ほど紹介したように、お米1合にハトムギを大さじ2杯加えただけで、このような効果が得られるとも思えません。もしそんな少しの量でこのような効果が出るなら、ヨクイニンの錠剤をのんだ人はとんでもないことになってしまいます。

そもそも、多くの植物には、滋養強壮や利尿の作用があり、ハトムギ特有の作用でもなんでもないのです。

ハトムギも雑穀の一つですが、他の雑穀のように、栄養成分のどれかをたくさん含んでいるわけではありません。栄養的には、取り立てて食べる価値があるものではないと思います。

確かにハトムギにはお米の2倍のたんぱく質が含まれていますが、植物性のたんぱく質は消化・吸収がよくないので、たんぱく質を多く摂るためにハトムギを食べるのは、間違っています。

一方、ハトムギを多く食べると何か問題があるか、という点についても、ハッキリしたことはわかりません。ただ子宮収縮作用があるのは事実なので、妊婦の人や生理痛がひどい人は、あえて食べる必要はないでしょう。ただイボの治療薬として使うくらいの量なら、影響はないとの結果も出ています。

結局、ハトムギを食べることで得られるメリットはないというのが、結論です。

ネット上に書かれている作用は、民間療法で行っているような使い方をした場合、得られるかもしれませんが、日常生活で食べる程度の量で、その作用を得るのは難しいと思います。

ハトムギの味が好きで食べるのはよいのですが、病気にかからないようにする、健康になるという目的で、小麦粉の10倍の値段のハトムギを食べるのは無意味です。そのお金を別のことに使う方が、健康になれるのではないでしょうか。

まとめ

  1. ハトムギはウイルス性のイボの治療のために、飲み薬として使われます。加齢や紫外線でできるイボや、ニキビ、肌荒れに対する効果は証明されていません
  2. ハトムギには副作用は少ないですが、まれに胃の不快感、下痢、発疹、発赤、かゆみ、じん麻疹が起きることがあります。また子宮収縮作用があります。
  3. ハトムギには滋養強壮作用、利尿作用、消炎作用があるといわれていますが、これらは多くの植物にもある作用です。これらの作用を得る目的でハトムギを食べるのは無意味です。
  4. ハトムギには取り立てて素晴らしい栄養成分が含まれているわけではなく、栄養的には大した穀物ではありません。
  5. ハトムギは、小麦粉の10倍、お米の7倍と、かなり高価です。