加工でんぷんとでんぷんの違い、食品添加物としての添加効果と安全性

加工でんぷんは、でんぷんを化学薬品で処理して作られたもので、食品の劣化を防ぎ、賞味期限を長くしたり、食感をよくしたりするために使われる、食品添加物です。12 種類あり、でんぷんとは明らかに異なる化学構造と性質を持つにもかかわらず、化学物質名ではなく、「加工でんぷん」とまとめて表示することが、例外的に認められています。

でんぷんは植物がつくる貯蔵物質

でんぷんは、お米や小麦粉、トウモロコシなどに主成分として含まれる物質で、グルコース(ブドウ糖)が 100  個から数万個、つながってできています。分子量は数万から数百万です。

でんぷんは植物の中で自然に作られ、人間は長い間、それを食料としてきました。でんぷんは、人間が持っている消化酵素でグルコースにまで分解され、小腸壁から吸収されて血液中に入り、主にエネルギー源として使われます。でんぷんは、われわれにとって、なくてはならない成分なのです。

でんぷんは長い間、栄養源として使われてきたものなので、安全性には問題はありません。しかし、でんぷんには水に溶けない、時間とともに劣化するという性質があります。加工食品が登場し、保存性や食感をよくするというニーズが生まれたことで、でんぷんの性質を変えて、より使いやすくする、あるいは新たな機能性を持たせるための研究が始まりました。

 

でんぷんは水に溶けません。トウモロコシから作ったでんぷんであるコーンスターチを水に溶かすと溶けたように見えますが、時間が経つと底に沈澱します。澱粉という名前は、水の中に沈澱させて集めた粉という由来があります。でも、水に溶けたほうが、加工食品を作る際に便利な場合があります。

またでんぶんは時間とともに性質が変わります。お米を炊くと軟らかくなりますが、これはでんぷんの性質が変わったためで、この変化を糊化(=アルファ化)といいます。

一方で、炊いたご飯をそのままにしておくと固くなってしまいます。また焼きたてのパンは軟らかいですが、時間が経つとパンはボソボソになっていきますよね。このように時間の経過とともに糊化したでんぷんから水分が抜けて、生のでんぷんに近い硬い状態になることを、老化(=ベータ化)と呼びます。

でんぷんの老化を抑えることができれば、食パンや、でんぷんをつかったさまざまな加工食品の賞味期限を延ばすことができます。また食品の食感を変えることも可能になります。

加工でんぷんは実態がわかりにくい

でんぷんの欠点を補いつつ、より優れた性質を持った食材にしようと努力を重ねた結果誕生したのが、加工でんぷんです。

加工でんぷんを開発した科学者には心から敬意を表します。加工でんぷんの種類、添加効果については、のちほど詳しく説明しますが、これをいろいろな加工食品に入れることで賞味期限を長くしたり、食感を改善したり、安価にしたりと、消費者にとってメリットのある加工食品が次々と登場してきました。

美味しく、簡単に調理出来て、長期間保存出来て、どこでも安い値段で手に入る食品を求めてきたのは消費者です。食品メーカーはこのニーズにこたえるべく、加工でんぷんを使用しています。

でも、加工でんぷんが本当に安全なのか、疑問に思う人もいると思います。そもそも、加工でんぷんがどのようなものなのかも、あまり知られていません。得体のしれないものであるからこそ、加工でんぷんを使わない食べものをできるだけ選びたいという人もいるでしょう。そのような人にとって、加工でんぷんの話は、きわめて複雑で、難解なのです。

天然のでんぷんに処理をしたもの

加工でんぷんは、天然のでんぷんに、物理的、酵素的、化学的な加工(処理)をしたものです。

物理的な処理とは、石臼や粉砕機を使って細かくすることです。例えば、小麦から小麦粉を作るのも、物理的な処理です

酵素的な処理とは、たんぱく質の一種である酵素を反応させて、でんぷんを小さくすることです。人間の唾液や膵液には、アミラーゼという酵素が含まれており、でんぷんを分解しています。アミラーゼを使うと、大きなでんぷんを、小さな塊りにすることが可能です。

最後の化学的処理ですが、でんぷんと化学薬品を反応させて、でんぷんに別の化学物質を結合させたり、でんぷんの構造を変化させることです。

物理的処理と酵素的処理では、もともとあったでんぷんが細かくなるだけで、別の物質が結合しませんが、化学的処理の場合は、別の化学物質が新たに結合したり、でんぷんの分子構造そのものが変化するという点で、同じ加工でも、全く違うということがわかっていただけると思います。

 

これが理由かどうかわかりませんが、日本の食品衛生法などでは、酵素的または物理的な加工を施したでんぶんは、「食品」として扱われ、「加工」の文字をつけない「でんぷん」、「でん粉」、「澱粉」、「デンプン」等と表示され、一方、化学的な加工を施したでんぷんは「食品添加物」として扱われています。

食品添加物なら、物質名を書かなければならないのですが、化学的な処理をした加工でんぷん(デンプングルコール酸ナトリウムを除く)は、もともと 2008 年 9 月までは食品として扱われていたので、まとめて「加工でんぷん」、「加工でん粉」、「加工澱粉」、「加工デンプン」という表示で構わないことになっています。

もう一度整理しますと、加工でんぷんとは、物理的、酵素的、化学的に加工を施したでんぷんのことです。物理的または酵素的な加工をしたでんぷんは「食品」として扱われ、「でんぷん」などと表示されますが、化学的な加工をしたでんぷんは「食品添加物」として扱われ、「加工でんぷん」などと表示されます。

 

 

化学物質なのに化学物質名の表示は不要

食品添加物として扱われる「加工でんぷん」は、次の 12 種類です(50 音順)。いずれも食品衛生法第 12 条に基づき、厚生労働大臣が使用してよいと定めた食品添加物である指定添加物に分類されています。ちなみに番号は、指定添加物リストの番号です。

 

17 アセチル化アジピン酸架橋デンプン

18 アセチル化酸化デンプン

19 アセチル化リン酸化架橋デンプン

94 オクテニルコハク酸デンプンナトリウム

159 酢酸デンプン

172 酸化デンプン

266 デンプングルコール酸ナトリウム

317 ヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプン

319 ヒドロキシプロピルデンプン

448 リン酸架橋デンプン

449 リン酸化デンプン

463 リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン

 

容器・包装された食品で食品添加物を使用している場合、食品添加物欄にその化学物質名を書かなければなりません

でも 2008 年 10 月に食品添加物に指定されたとき、例外という名の抜け道が用意されました。デンプングルコール酸ナトリウム以外の 11 種類は、2008 年 9 月までは食品として扱われ、原材料欄に「加工でんぷん」等と表記されていました。これを理由に、デンプングリコール酸ナトリウムを含めた 12 種類については、化学物質名に代わり、

加工でんぷん、加工でん粉、加工デンプン、加工澱粉

という簡略名で表示してもよいということになりました。

これって、おかしくないですか。もし食品添加物欄に、「オクテニルコハク酸デンプンナトリウム」と書かれていたら、

これなんだろう?  → 食べても安全? → こどもに食べさせるのはやめよう!

となるかもしれませんが、「加工でんぷん」と書いてあると、

でんぷんを加工したものか・・・

と、買ってしまうのではないでしょうか。

 

表示に関しては、さらに複雑なルールがあります。

上記の 12 種類の食品添加物を乳化剤として使う場合は、単に「乳化剤」と書くだけでよく、「物質名」も「加工でんぷん」も書く必要がありません。

一方、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊料として使う場合は、用途名(物質名)、具体例としては、「増粘剤(加工でんぷん)」と書くことになります。

それ以外の用途の場合は、「物質名 または 加工でんぷん」と表示するというルールです。

食品原材料表示は複雑でわかりにくく、特に加工食品の場合は、小さな字で読めないほど、いろいろな物質名が書かれています。これを見て、その場で買うかどうか判断することは、専門家でも不可能です。

加工でんぷんの製造で使われる化学反応と性質の変化

でんぷんはグルコースがつながってできたものです。そのグルコース残基の 2, 3, 6 位にある水酸基( OH )に化学物質を結合させたり、2 つの水酸基どうしをつなぐことで、構造を変化させたのが加工でんぷんです。どのような化学物質と反応させると、でんぷんの性質がどのように変わるのか、見ていきましょう。

酸化

でんぷんに次亜塩素酸ナトリウムを加えて酸化処理すると、水酸基(OH)の一部がカルボキシ基(COOH)に置き換わります。このように化学構造の一部が別の化学構造で置き換わることを置換といいます。

その結果、次のような性質の変化が起こります。

○ 糊化開始温度が低くなる

○ 糊液の粘性が低くなる

○ 糊液の粘度安定性が高くなる

○ 老化しにくくなる

○ 透明性が高くなる

○ 色が白くなる

 

酸化によって作られる加工でんぷんは、次の 2 種類です。

・酸化デンプン

・アセチル化酸化デンプン

 

アセチル化

でんぷんに無水酢酸や酢酸ビニルを加えるとエステル化が起こり、水酸基( OH )の一部がアセチル基( CH3CO )に置換されます。

その結果、次のような性質の変化が起こります。

○ 糊化開始温度が低くなる

○ 老化しにくくなる

○ 透明性が高くなる

アセチル化した加工でんぷんは、次の 4 種類です。

・酢酸デンプン

・アセチル化アジピン酸架橋デンプン

・アセチル化リン酸架橋デンプン

・アセチル化酸化デンプン

 

リン酸化

でんぷんにオルトリン酸、オルトリン酸カリウム、オルトリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウムのいずれかと反応させることで、水酸基( OH )の一部がリン酸基( H2 PO4 に置換されます。

その結果、次のような性質の変化が起こります。

○ 置換度が高いほど、糊化しやすくなる

○ 置換度 0.05 程度から冷水でも膨潤する

○ 糊液は高粘性で透明になる

○ 保水性が強く老化しにくくなる

 

リン酸化した加工でんぷんは、次の 2 種類です。

リン酸化デンプン

・リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン

 

架橋

でんぷんに無水アジピン酸、オキシ塩化リンまたはトリメタリン酸を加え、水酸基( OH )どうしが化学物質を介して結合することで、構造を変化させたものです。

架橋するとでんぷんの水酸基の数が減るとともに、でんぷんの構造が強固になるため、次のような性質の変化が起こります。

○ でんぷん粒の膨潤が起こりにくくなる

○ 糊化が起こりにくくなる

○ 撹拌や酸による粘度の低下が起こりにくくなる

○ 耐せん断性が向上する

○ 低架橋度の場合、でんぷん粒の膨潤が適度に抑制されて、粘度が上昇する

○ 高架橋度ものはでんぷん粒の膨潤が強く抑制され、粘が低下する

 

架橋した加工でんぷんは、次の 5 種類です。このうち、アセチル化アジピン酸架橋でんぷんは、アジピン酸基( COOH – (CH2)4 – COOH )で、そのほかの 4 つはリン酸( HPO2 で架橋しています。

・リン酸架橋デンプン

・アセチル化リン酸化架橋デンプン

・ヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプン

・リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン

・アセチル化アジピン酸架橋デンプン

 

これらの反応で作られた加工でんぷんの用途、製造方法、化学式、特徴については、下の記事にまとめていますので、あわせてご覧ください。

 

 

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まとめ

でんぷんは植物が作る炭水化物で、グルコースが鎖状につながったものです。人間の消化酵素でグルコースに分解され、エネルギー源として使われます。長い間食料として使われてきたのものなので安全です。

加工でんぷんは、でんぷんを物理的、酵素的、化学的に加工(処理)したものですが、日本では物理的または酵素的に処理したものは食品として扱われ、「でんぷん」と表示され、化学的に処理したものは食品添加物として扱われ、「加工でんぷん」と表示されます。

食品添加物の「加工でんぷん」は、化学物質と結合したり、化学物質で処理されているが、他の食品添加物のように「物質名」で表示されることはなく、単に「加工でんぷん」と表示することが認められています。

加工でんぷんを作る際の化学反応には、酸化、アセチル化、リン酸化、架橋などがあります。でんぷんの水酸基を別の官能基で置き換える、水酸基の数を減らす、水酸基どうしを結合させてでんぷんの構造を変えるなど、いろいろな加工方法があり、日本には 12 種類の加工でんぷんがあります。

加工でんぷんの特性、用途は種類によって大きく異なります。例えば同じ加工でんぷんでも、粘度を高くするものと、低くするものがあります。