パパイン、納豆キナーゼなどのたんぱく質分解酵素の違いと効果

三大栄養素の一つであるたんぱく質はアミノ酸が数百から数十万個つながった大きな塊です。そのままでは大きすぎて小腸で吸収できないので、消化酵素が小さく分解してくれます。

このたんぱく質を分解する酵素を含んだ食品があるのをご存じでしょうか。よく知られたものに、パパイヤ、パイナップル、ショウガ、納豆などがあります。

それぞれどのようなものか、また料理に使えるのか、説明していきます。

パパイヤのパパイン酵素は洗顔料以外にもひろく使われる

食品に含まれるたんぱく質分解酵素で最強なのが、パパイヤに含まれるパパインです。食品産業における処理剤や化粧品原料、医薬部外品の原料として、広く使われています。

パパインは未成熟のパパイヤ(青パパイヤ)の乳液に含まれるたんぱく質分解酵素で、乳液を乾燥、粉末化した状態で販売されます。パパイヤは熟すとオレンジ色になりますが、この状態になったものにはパパインはほとんど含まれていません。

パパイヤは国内でも栽培されており、大きなスーパーへ行くと売っています。フルーツとして生で食べるのは、熟したオレンジ色のパパイヤです。強い甘みと独特な匂いがあり、生で食べます。一方未成熟の青パパイヤは、果肉は真っ白で、流水であく抜きした後、サラダなどにして食べます。タイ料理でも食材としてよく使われます。

食品用の消化剤、食肉軟化剤、清澄剤

パパインは医薬品成分であり、以前は駆虫薬(お腹の中の回虫などを殺すお薬)として使われていましたが、現在は販売されていません。もっともよく使われるのは、食品産業における加工用薬剤です。

加工食品や調味料を購入すると、ビーフエキスとかポークエキスという表示を見かけることがあります。これは肉を分解して取り出したうまみ成分です。このような調味エキスをつくる際に使うのがパパインで、この用途で使われる薬剤を「消化剤」といいます。人間が食べたものを分解することを消化といいますが、消化剤はうまみ成分であるアミノ酸を取り出すために、肉を「消化」しているのです。

またパパインは食肉の筋の部分を分解して軟らかくする「食肉軟化剤」としても使われています。大塚薬品工業が販売している「肉用ミオラ」は粉状で、肉の表面にふりかける、または漬け込み用の調味液に入れることで、肉の繊維を分解し軟らかくします。

パパインは同社が販売している「炊飯ミオラ」にも含まれており、これはお米を炊くときに加えることで、お米のたんぱく質が分解してアミノ酸に変わり、おいしいご飯ができるということです。「肉用ミオラ」「炊飯ミオラ」とも業務用で、一般向けには販売されていません。

さらにパパインが多く使われるのが、ビールの醸造です。ビールは大麦麦芽と大麦、米、コーンスターチなどの副原料に酵母を加えて発酵させ、それをろ過したものですが、ろ過した液にたんぱく質が残っていると、最終製品に濁りが生じます。この濁りを分解して取り除くためにパパインが使われることがあります。この目的で使われるものを「清澄剤」といいます。

化粧品・入浴剤

たんぱく質分解酵素であるパパインは、皮膚の角質細胞のたんぱく質を分解し、角質を軟らかくする効果があります。そのため古い角質を取り除き肌をすべすべにする目的で、ピーリング製品、洗顔料、洗顔石鹸、ボディケア・フットケア製品、シート・マスク製品に配合されています。なおパパインは生きた細胞のたんぱく質は分解せず、死んだ細胞のたんぱく質を分解するという記述も見受けられます、科学的根拠はありません。

パパインが配合された入浴剤(医薬部外品)もあります。五洲薬品が販売しているパパヤ桃源という製品で、肌に付着した老廃物が分解されるほか、浴槽に付着する湯垢も分解するとのことです。実験データ等は示されていないので、効果のほどはわかりません。

たんぱく質分解酵素としての特徴

最初にいったように、パパインは食品に含まれるたんぱく質分解酵素としては最強です。酵素としては次のような特徴があります。

  • 最も活性が高いのはpH6.5~8.0(40℃、1%カゼイン基質のとき)
  • 広いpH領域で安定。
  • 広い温度域で安定で、耐熱性が強く、80℃以上で活性を失う。
  • 最も活性が高い温度は60~75℃(pH6.0、1%カゼイン基質のとき)
  • 基質特異性が広い、つまりいろいろなものを分解する能力がある。

ダイエット効果やグルテンフリー対策で大量に食べるのは危険

多くのサイトに、青パパイヤにはダイエット効果があると書かれていますが、科学的根拠はありません。青パパイヤにはパパインという強い酵素が含まれていますので、ダイエット効果を期待して生の青パパイヤを大量に食べると、体調を壊す可能性もあります。

またパパインが小麦に含まれるグルテンを分解するから、「小麦アレルギーの原因となるグルテンの分解を助けてくれる、小麦アレルギーの人に朗報」などと書いているサイトがありますが、これは全くのデタラメです。

パパインがたんぱく質であるグルテンを分解するのは事実です。ただ小麦の量に対してどれだけのパパインを加えればグルテンが分解し、アレルゲンが消失するのか、何もわかっていません。そもそも小麦アレルギーはグルテン以外のたんぱく質も原因で起きています。パパインはグルテンフリーに有効というのは、完全に間違っています。

そのほか、パパイヤの葉が消化不良の症状を改善するとか、糖尿病やがんを予防する効果があるとか、アンチエイジング効果があるとか、いろいろ書かれていますが、すべて科学的根拠はなく、一部は明らかに薬機法違反です。

パイナップルの酵素ブロメラインは加熱に弱い

生のパイナップルの含まれるたんぱく質分解酵素です。

加熱調理前に、生の食肉をパイナップルと一緒に漬け込むことで、食肉の繊維を分解し、肉を柔らかくすることができます。パイナップルの缶詰は加熱処理されているため、酵素活性が失われており、この効果はありません

同様に生のパイナップルの果肉や果汁をゼリーに入れると、ゼリーが固まらなくなります。ゼリーの原料となるゼラチンは、動物の皮膚や腱の主成分であるコラーゲンで作られています。コラーゲンもたんぱく質です。パイナップルに含まれるブロメラインがコラーゲンを分解するため、ゼラチンが固まらなくなるのです。

また血液が固まってできるフィブリンを溶かす作用があることから、壊死した組織の除去や痂皮(かさぶた)の除去に使われる「ブロメライン軟膏」という外用薬にも使われています。

キウイフルーツの酵素アクチニジンはゴールドにはほぼない

緑のキウイフルーツに含まれるたんぱく質分解酵素です。黄色(ゴールデン種)のキウイフルーツにはほとんど含まれていません

アクチニジンもパパインやブロメラインと同じ種類の酵素で、生の食肉とキウイフルーツを一緒に漬け込むことで、肉を軟らかくすることができます

ところで江崎グリコから発売されている「BREO®」という商品には、アクチニジンが使われています。BREO®は舌についた汚れである舌苔(ぜったい)を除去し、口臭を防ぐためのタブレットです。舌苔は細菌、食べかす、剥がれた細胞などのたんぱく質からできていますが、口をすすいだだけでは取れません。

舌の上にこのタブレットを乗せておくと、アクチニジンがたんぱく質を分解し、舌苔を取り除いてくれます。BREO®の原材料名を見ると「キウイフルーツパウダー」と書いてありますが、このなかにアクチニジンが含まれています。

アクチニジンは緑色のキウイフルーツに含まれるたんぱく質のおよそ半分を占めています。キウイと一緒にたんぱく質を含む食品を食べると、たんぱく質の分解を手助けすることがわかっています。一方でこのたんぱく質は、キウイフルーツが原因で起きる食物アレルギーのアレルゲンでもあります。キウイフルーツによる食物アレルギーは多くはありませんが、特定原材料に準ずるもの21品目として、その成分が含まれている場合は表示が推奨されています。

イチジクの酵素フィカイン(フィシン)

イチジクに含まれるたんぱく質分解酵素がフィカイン(フィシンともいいます)です。パパインやブロメラインと同じ種類の酵素で、生肉を軟らかくするほか、海外ではパン生地を作る際に、テクスチャーを向上するための生地改良剤として利用されることがあります。

ショウガの酵素ジンギパインはチューブには含まれない

ショウガの地下茎に含まれるたんぱく質分解酵素で、パパインやブロメラインと同じ種類の酵素です。

ジンギバインにも生肉を軟らかくする作用があり、食肉軟化剤として用いられています。豚肉を焼く際にショウガ焼きにすると、ジンギパインの効果で肉が軟らかくなります。

ジンギパインは、主に筋肉たんぱく質であるアクトミオシンとコラーゲンを分解するのに対し、パパインはこれ以外のたんぱく質まで分解してしまうため、食肉軟化剤としてはジンギパインの方が優れているといわれています。ただジンギパインは不安定で時間とともに活性が低下するため、工業利用には向いていません。

ショウガから取り出した後5℃で保存しても、2日後には活性が半分になってしまいます。そのためチューブ入りのおろしショウガには、ジンギパインはほとんど含まれていないと考えられます。

このほか、ジンギパインは広東料理の生姜牛乳プリンを作る際に、凝固剤としても使われます。

マイタケの酵素マイタケプロテアーゼのせいで茶碗蒸しが固まらない

マイタケにもマイタケプロテアーゼというたんぱく質分解酵素が含まれています。

これは特に工業利用されていませんが、例えばマイタケをミキサーで細かくしたものを生肉に乗せておくと、マイタケプロテアーゼが肉の繊維を切断するため、軟らかくなります。また茶碗蒸しをつくるときにマイタケを具材として加えると、茶碗蒸しが固まらなくなることが知られています。これはマイタケプロテアーゼが卵白のたんぱく質を分解するためです。

納豆に含まれるナットウキナーゼの血液サラサラ効果は本当か

納豆は蒸した大豆に生きた納豆菌を吹きかけて、発酵させて作ります。発酵とは納豆菌が大豆のたんぱく質を分解することで、うまみ成分であるポリグルタミン酸などが作られます。

ポリグルタミン酸とは、コンプのうまみ成分であるグルタミン酸がつながったもので、納豆特有のネバネバの主成分でもあり、納豆のうまみのもとになっています。ネバネバが多いほうが、おいしいといわれる理由はここにあります。

ところで大豆のたんぱく質を分解しているのが、納豆菌が体外に出すナットウキナーゼという酵素です。ナットウキナーゼも、納豆のネバネバの中に存在しています

ナットウキナーゼには、血栓(血の塊)の主成分であるフィブリン(たんぱく質の一種)を溶解させる作用があるため、注目されています。

血管の中に血栓ができると、死に至る可能性があります。心臓の冠状動脈に血栓ができて心筋が壊死するのが心筋梗塞、脳の血管に血栓ができて脳の神経細胞が壊死するのが脳梗塞です。ナットウキナーゼはこの血栓を溶かすことが実験的に確かめられているため、納豆を食べると血液がサラサラになるなどといわれるようになりました。

ただ、納豆を食べることと血栓の形成を予防する効果の関係については、いまも議論が続いています。現時点でわかっていることを整理しました。

・納豆に含まれるたんぱく質分解酵素であるナットウキナーゼは、血栓の主成分であるフィブリンを溶解する作用がある(事実)。
・納豆を食べることで、血栓の形成を予防する効果がある(らしい)。
・納豆に含まれるナットウキナーゼは大きすぎて、そのままの状態では小腸から血液中に吸収されない(事実)。
・ナットウキナーゼが分解され、吸収されたペプチド(アミノ酸が数個つながったもの)が血栓の形成を予防する効果を発揮している可能性が高い(推測)。
・血栓の形成を予防するためには、1日2000FUのナットウキナーゼの摂取が目安となる。これは市販の納豆1~2パックに相当する。

ところでナットウキナーゼは、血栓の主成分であるフィブリン以外のたんぱく質を分解するのでしょうか。

少なくとも大豆に含まれるたんぱく質(ソイプロテイン)は分解することがわかっていますが、それ以外のたんぱく質を分解するかどうかについては、情報がありません。血栓の形成予防効果についての臨床実験が現在も行われており、まずは血栓形成予防効果、血栓溶解効果について、明確な結果が得られること待ちたいと思います。

まとめ

  1. パパイヤに含まれるパパインは、肉から調味エキスを作る際の消化剤、肉を軟らかくする食肉軟化剤、ビールの濁りを摂る清澄剤として食品産業で使われるほか、角質除去効果があるため化粧品や入浴剤にも使われる。
  2. 青パパイヤにダイエット効果はない。また青パパイヤやパパイヤの葉がグルテンフリーに有効というのはウソ
  3. パイナップルに含まれるブロメライン、キウイフルーツのアクチニジン、イチジクのフィカイン、ショウガのジンギパインも、肉を軟らかくする作用がある。
  4. マイタケに含まれるマイタケプロテアーゼにも肉を軟らかくする作用がある。茶碗蒸しにマイタケを入れると、卵白のたんぱく質を分解するため、固まらなくなる。
  5. 納豆に含まれるナットウキナーゼは納豆菌が作るたんぱく質分解酵素。血栓溶解作用があることがわかっており、納豆を毎日2パック程度食べることで、血栓形成を予防するといわれているが、結論は出ていない