パンを食べたら太るってよく聞きますが、本当なのでしょうか。パン食はカロリーが高く、パンはGI値が高いので、ごはんや米粉パンへの置き換えがよいという人もいます。そもそも肥満は、炭水化物やカロリーの摂りすぎ、食後血糖値の急激な上昇が原因です。パンをごはんに置き換えただけではダメで、食べる量と食べ方を見直す必要があります。
食べる量と食べ方に問題がある
パンを食べたら太る・・・という話、よく聞きますね。誰か何の目的でこんな情報を流しているのかわかりませんが、パンでもごはんでも、たくさん食べたら太ります。
太る原因はただひとつ、摂取するカロリーが消費するカロリーを上回っている、それだけです。もっと簡単にいうと食べ過ぎ。ですから、パンを食べても太っていない人もいますし、パンを食べなくても太っている人もいます。この点をまず最初に理解してください。
パン食のほうが、ごはん食よりも太りやすいと書いてあるネット記事もありますが、これもいい加減なものです。
パン食、ごはん食といっても、食パンだけ、白米だけ、食べるわけではありません。食パンなら、バターを塗る人、ジャムを塗る人、マヨネーズを塗る人、さまざまです。野菜サラダと一緒に食べる人もいれば、コーヒーだけという人もいます。そもそも、パンといっても、食パン 1枚と菓子パン(ピーナツクリームパン)1個では、カロリーは3倍以上違います。
ごはん食も同様で、一緒に何を食べるかで、全く違います。パンは GI値が高いから太るという意見もありますが、パンにもいろいろな種類がありますし、みなさんもご存じのように、食べる順序によって血糖値の上昇速度は異なります。
「パンはごはんより太りやすい」「パン食はごはん食より太りやすい」という文章は、全く非科学的で、その根拠として挙げられているのは、後付けで考えたようなものばかりです。繰り返しますが、食べる量と食べ方に問題があるだけです。ちなみに科学的に正しい表現をするなら、例えばこのようになのます。
食パン 6枚切り2枚(134 g)とごはん 1膳(150 g)を比較すると、ごはん 1膳の方がカロリーは少ない。
それぞれの項目について、詳しく見ていきましょう。
パン食は高カロリー、ごはん食は低カロリーというのはウソ
パンは、朝食や昼食で食べる人が多いのではないでしょうか。調理も持ち運びも楽ですから。パン食は高カロリー、ごはん食は低カロリーというのが果たして正しいのか、朝食で比較してみることにしました。まず、朝食のとき、パン食、ごはん食(和食)で食べそうなものをリストアップしてみました。
パン食の朝食で食べるものとカロリー
・トースト(食パン6枚切り)1 枚(67 g) 158 kcal
・クロワッサン 1 個(40 g) 180 kcal
・ゆでたまご 1 個 76 kcal
・目玉焼き 1 個 130 kcal
・野菜サラダ 1 皿(ドレッシング等なし) 10 kcal
・りんご 1/2 個 70 kcal
・ヨーグルト(無糖) 120 g 74 kcal
・カップスープ(インスタント) 75 kcal
・ベーコンエッグ 1 皿 276 kcal
・ハッシュドポテト(冷凍) 1 個 150 kcal
・バター 1 切れ(10 g) 73 kcal
・いちごジャム(20 g) 50 kcal
・マーガリン(10 g) 60 kcal
・ウインナ 2本 145 kcal
・コーヒー(+シュガー 4 g) 20 kcal
・紅茶(+シュガー 4 g) 20 kcal
・オレンジジュース(濃縮還元果汁 100 %) 90 kcal
ごはん食の朝食で食べるものとカロリー
・ごはん 1 膳(150g) 252 kcal
・みそ汁 1 杯 50 kcal
・生卵 1 個 76 kcal
・玉子焼き 1 皿 90 kcal
・納豆 1 パック 100 kcal
・焼塩じゃけ 1 切 110 kcal
・さば塩焼き 1 切 175 kcal
・冷ややっこ 1 皿 200 kcal
・漬物盛り合わせ 1 皿 30 kcal
・卯の花 1 皿 50 kcal
・ひじきの煮物 1 皿 135 kcal
例えば朝食に、
トースト 1 枚、ジャム、ベーコンエッグ、野菜サラダ、ヨーグルト、コーヒー
食べると、588 kcalとなりますが、
トースト 1 枚とゆでたまご、野菜サラダ、コーヒー
の場合は、264 kcalと、半分以下になります。
ごはん食の場合はどうでしょう。例えば、
ごはん 1 膳、みそ汁、玉子焼き、納豆、焼塩じゃけ、漬物
の組合せでは、632kcalです。
この献立は、故意に食べるものを多くしたわけではありませんが、でも先ほどのパン食のカロリーを上回っています。
パン食が高カロリー、ごはん食が低カロリーいうのは何の根拠もないということを、おわかりいただけましたでしようか。要は、何をどれだけ食べるかで、摂取カロリーは変わってきます。太らないためには、自分が必要とするカロリー以上のものを食べないことです。
パンはGI値が高いが、ごはんも高い
パン食よりごはん食の方が体によいという人は、パンのグリセミックインデックス(GI値)がごはんのGI値より高いことを根拠にしている場合が多いです。
グリセミックインデックス(GI値)とは、食品に含まれる糖質量が同じであっても、血糖値を上昇させる速度や程度に違いがあるので、50 g のグルコースを摂取したときの 2 時間までの血糖曲線下面積を 100とし、そのほかの食品について、糖質 50 gを含む分量を摂取したときの面積の相対値をあらわしたものです。
GI値が高いほど糖質が吸収されやすく、血液中のグルコースの濃度が早く上昇するため、肥満が起きやすくなります。
GI値のことを紹介しているネットの記事を見たところ、食パン(白パン)とごはん(精白米)のGI値がいくつか記載されていました。ところが記事によって数値がまちまちで、しかもほとんどの数値に、根拠となる出典が記載されていませんでした。ちなみに出典が明記されていたサイトDとFは、大手食品メーカーのサイトです。
グリセミックインデックス(GI値) | 出典 | ||
食パン(白パン) | ごはん(精白米) | ||
サイトA | 90 | 84 | 記載なし |
サイトB | 95 | 88 | 記載なし |
サイトC | 91 | 84 | 記載なし |
サイトD | 71 | 記載なし | シドニー大学 食品GI値検索 2017年改訂 |
サイトE | 95 | 75 | 記載なし |
サイトF | 95 | 88 | 永田孝行、食品群グライセミック・インデックス(GI)値一覧表 |
一方、オーストラリアの研究者が、さまざまな食品のGI値を調べた結果(論文)1)では、白米のGI値が 88、白パンのGI値は 70 となっています。
ここでいいたいことが 3つあります。
① パンもごはんも、高GI食品
上の表の数値だけを見ると、パンの GI値の方が、ごはんの GI値を上回っています。しかし上で紹介したオーストラリアの研究では、白米のGI値が、パンのGI値より大きくなっています。
GI値は、数字そのものの評価もさることながら、食品をGI値によって、高GI食品、中GI食品、低GI食品にグループ分けし、高GI食品を中GI食品や低GI食品で置き換えることを目指すために使う指標です。白パンもごはんも、ともに高GI食品ですから、高GI食品のパンを高GI食品のごはんや米粉パンで置き換えることは、ナンセンスなのです。
② 調理方法、そしゃく回数でGI値は変わる
あなたは食パンを食べるとき、しっかりと焦げ目がつくまで、トーストしますか。それても軟らかいまま食べますか。ごはんを炊くとき、粒感が感じられるよう硬めに炊きますか、それとも軟らかめにしますか。パンもごはんも調理方法によって、消化されやすさが異なります。
また、食べものを食べるときには、口の中にいれて何度も噛みます。これを咀嚼(そしゃく)といいます。咀嚼は食べものを物理的に細かくするとともに、唾液に含まれるアミラーゼという酵素と混ぜ合わせることで、消化しやすくしているのです。パンやごはんに含まれるでんぷんは、このアミラーゼで分解されてグルコースになります。
ですから調理方法と咀嚼回数によって、GI値は大きく影響を受けます。「食べものはよく噛んで食べましょう」といわれますが、噛めば噛むほどGI値は高くなります。
③ GI値は単一の食べものを対象にした指標に過ぎない
パンとごはんのGI値について説明してきましたが、このGI値は、パンだけ、あるいはごはんだけを食べたときに、食後の血糖値がどのように変化するのかを示したものてす。
実際は、パンだけ、ごはんだけを食べることはなく、おかず、飲み物、果物などと一緒に食べます。また、パンと野菜サラダを食べるとき、パンを先に食べるのと、野菜サラダを先に食べるのとでは、血糖値の上昇速度が異なることがわかっており、野菜サラダを先に食べたほうが、血糖値の上昇が緩やかになります。
要するに、パンのGI値、ごはんのGI値だけを比較することに、大した意味はなく、ごはん食の方がパン食よりも太りにくいということには、何の根拠もありません。
それでもパンを食べないほうがよい理由
ここまでの説明で、
● パン食はごはん食より高カロリー → ウソ
● パンはごはんよりGI値が高いから、パン食はごはん食より太る → ウソ
ということが、わかっていただけたと思います。
何度も言いますが、太る原因は食べる量と食べ方にあります。パンでもご飯でも、たくさん食べれば太りますし、血糖値が急激に上昇しないように調理方法や食べ方を工夫すれば、同じ量を食べても、太りにくくなります。
実は話はこれで終わりではなく、それでもなお、わたしはパンを食べないほうがよいと考えています。その理由は、小麦粉に含まれているグルテンです。グルテンは太りやすさにも関係しています。
グルテンは小麦、大豆、ライ麦に含まれるたんぱく質ですが、消化・吸収されにくく、腸内で他の栄養成分の吸収を妨げる、腸内で異常発酵を起こし、腹部膨満、腹痛も下痢の原因になる、腸の免疫機能を低下させる、などの影響があることがわかっています。
この影響の度合いは人によって異なり、強く影響を受ける人がいる一方で、何の影響も受けない人もいます。ふだんからお腹の調子がすぐれないという方は、パンは食べないほうがよいと思います。
グルテンは小麦などに含まれるたんぱく質ですが、消化酵素で分解されにくく、アレルギー反応や炎症反応の原因になるほか、腸のバ…
もうひとつは、農薬と食品添加物です。
小麦の8割以上は輸入で、輸入小麦にはさまざまな農薬が使われています。もちろん検査したうえで安全性を確認していますが、農薬が使われたものをあえて食べる必要はありません。
小麦や大豆の収穫前に使われるグリホサートという農薬。輸入小麦や食パンからも検出されており、その問題点を指摘する声は根強くあります。発がん性や遺伝毒性はないといわれていますが、腸内細菌への影響を指摘する研究結果が出ています。そこで、安全だとい[…]
ところでパンは、小麦粉、イースト、牛乳、バター、塩、砂糖があれば作れますが、安くて、美味しく、保存性よいパンを作るために、さまざまな食品添加物が使われています。
パンの原材料欄を見てください。聞いたこともない化学薬品がたくさん書かれています。最近ヤマザキが臭素酸カリウムという食品添加物を使い始めて、話題になりました。臭素酸カリウムは発がん性がある化学物質で、食品添加物として使用する際には、残留していないことという条件が付いています。臭素酸カリウムを使うと、ふっくらとしたきめの細やかなパンが作れるそうです。美味しいパンを消費者が求めている、というのが同社の言い分ですが、もちろん昔から食べられていたパンに、臭素酸カリウムは入っていませんでした。
化学薬品を使って、人間が美味しいと感じるものを作るのはメーカーの勝手ですが、消費者にはそれを買わないという権利もあります。パンだけでなく、加工食品には、さまざまな食品添加物が使われており、食品添加物が入っていないパンを探す方が大変です。
一方ごはんはお米を炊くだけなので、食品添加物が入る余地はありません。からだの中に入る農薬や食品添加物を減らすためには、パンを食べないほうがよいと思います。
食べるのは一瞬、カロリーを消費するのは大変!
太る原因は、摂取するカロリーが消費するカロリーを上回っていることが原因という説明をしてきました、それならば、食べた分、消費してしまえばいい、と思われるかもしれません。しかし実はこれは結構大変なことなのです。
たとえばこの菓子パン、カロリーは 475 kcal あります。食べるのに、5分もかかりません。
一方、これと同じカロリーを消費するためには、早足でのウォーキングでは 3時間10分、ジョギングでは 1時間50分 かかるのです。食べた分のカロリーを消費するために、これだけ長い時間、運動しなければならないのです。
食べたほうがよいのか、控えたほうがよいのか、よく考えてみてください。
参考までに、いろいろな運動で消費されるカロリー量をまとめておきます 2)(体重 50 kg の場合の数値です)。カロリーを消費するのは、大変なんです。
運動の種類 | 運動する時間 | ||
100 kcal 消費 | 200 kcal 消費 | 400 kcal 消費 | |
ウォーキング(早足) | 40分 | 1時間20分 | 2時間40分 |
自転車(平地) | 36分 | 1時間12分 | 2時間24分 |
ジョギング | 23分 | 46分 | 1時間32分 |
テニス(シングル) | 19分 | 38分 | 1時間16分 |
ランニング | 16分 | 32分 | 1時間4分 |
水泳 | 16分 | 32分 | 1時間4分 |
まとめ
- パン食は高カロリー、ごはん食は低カロリーというのは、何の根拠もありません。食べるものの種類と量によります。
- 食パン(白パン)の方が、ごはん(精白米)よりグリセミックインデックス(GI)が高いといわれていますが、数値を比較することに意味はありません。いずれも高GI食品なので、高GI食品を高GI食品で置き換えることはナンセンスです。またGI値は、食品単体をそれだけ食べたときデータで、調理方法や咀嚼回数によっても異なります。他の食べものとの組み合わせや、食べる順序によっても、血糖値の上昇速度は大きく違います。
- カロリーやダイエット効果に関係なく、パンは食べないほうがよいと考えます。パンに含まれるグルテンは、消化器、脳神経系に悪い影響を及ぼすことがわかっています。また市販のパンには、残留農薬や食品添加物が含まれている可能性があります。
- 太る原因は食べ過ぎです。カロリーを減らすとともに、同じカロリーなら炭水化物の比率を減らし、食後血糖値の急激な上昇を招く食べものは控えるようにしましょう。
- いったん摂取したカロリーを消費するのは大変なことです。菓子パン1個のカロリーを消費するために、2時間ジョギングしなければなりません。食べる前によく考えてください。
参考文献
1) Foster-Powell K., Miller JB, International Tables of Glycemic Index, Am. J. Clin Nutr. 62 871S-893S (1995)
2) 健康づくりのための運動指針2006~生活習慣病予防のために~、運動所要量・運動指針の策定検討会(2006)