農産物の国消国産ってなに? 地産地消と何が違うか解説

国民が必要とし消費する食料は、できるだけその国で生産するというのが、国消国産の意味です。読み方はこくしょうこくさんです。

JAクループが2020年から提唱していますが、いまいち浸透しているとは思えません。地産地消が安全・安心・高品質に対するニーズへの対応や地域振興、長距離輸送にの回避などが目的であるのに対し、国消国産の目的は国内農業の衰退や国内農地の荒廃を防ぐことにあるようです。

これは生産者と政治が対応すべきことのように思います。

国消国産とはどういう意味、その目的は

国民が必要とし消費する食料は、できるだけその国で生産する。これがJAグループが提唱する「国消国産」の意味です。

日本の食料自給率はどのくらいかご存じでしょうか。

令和2年度はカロリーベース⾷料⾃給率が37%でした。われわれが食べている食料の2/3を、海外からの輸入に頼っている状態です。

カロリーベースの食料自給率というのは、国民に供給される熱量(総供給熱量)に対する国内生産の割合なので、必ずしも個々の農産物の国内生産の割合を示しているものではありませんが、それにしても危機的な状況だと思います。

JAグループのウェブサイトによると、

短期間での食料の増産は難しく、一度荒れてしまった農地からまた農作物を収穫するには、あらためて、土づくりや水の管理、病害虫対策などを行う必要があります。こうした実態や課題を、ぜひみなさまにもご理解いただき、食料を生産する農業・農村などを支えたいと思っていただける方が一人でも多く増えることを切に願っています。

とあります。要するに、国消国産の目的は「国内農業の衰退や国内農地の荒廃を防ぐこと」にあるようです。

国内産の食材を選ぶ理由

輸入食材と国内産の食材が並んで売られている場合、ほとんどの場合、国内産の食材の方が値段が高いと思います。そのような状況でわれわれ消費者が国内産の食材を選ぶとすると、次のような理由があると思います。

  • 安全、安心、信頼
  • 新鮮
  • 地域振興・国内農業振興
  • 温室効果ガスの排出量削減
  • 食料安全保障・経済安全保障

この中で、現時点で消費者の関心が高いのは、「安全、安心、信頼」と「新鮮」ではないでしょうか。

決められたルールにしたがって丁寧に生産されることによる「安全性」、厳しい基準をクリアしたという「安心感」、生産者の顔が見える、生産地がわかるという「信頼感」に加え、生産してから店頭に並ぶまでの期間が短いことによる「新鮮さ」というのも、国内産食材を選ぶ大きなポイントになります。

これらのポイントを抑えた食品を求める際に、消費者が意識することばがあります。「地産地消」です。

地産地消は、地域で生産された農産物や水産物をその地域で消費することです。

1980年代に当時の農林水産省が実施した「地域内食生活向上対策事業」から生まれたといわれており、40年経ったいま、国民の間で広く定着しており、もちろん広辞苑にも載っています。

この地産地消ということばとは別に、「国消国産」ということばを持ち出した理由は、どこにあるのでしょうか。

国消国産と地産地消の違い

国消国産は2020年にJAグループが提唱を始めた新しい概念です。国民が必要とし消費する食料は、できるだけその国で生産することで、日本国内の農業生産基盤の弱体化を防ぐことが目的で、国民に対して食料を生産する農業・農村などを支えることなどを訴えています

一方の地産地消は、1980年代に当時の農林水産省が行った事業の中で提唱されたもので、当初は農村地域の医療費削減、農家の収入安定などが目的であったようですが、その後時代とともに変化し、現在は安全・安心・高品質へのニーズが高まる中で、たとえ価格が高かったとしても、地域で生産された農産物や水産物をその地域で消費することがよいという考えが、自然に定着したものです。

地産地消には明確な定義はありませんが、同じ都道府県内で生産された農産物・水産物は、地産地消の扱いとしているようです。

国消国産も地産地消も、国内産の農産物を積極的に消費するという点では同じですが、つぎのような違いがあります。

農産物が対象(JAグループが提唱しているから)
・国内で生産したものを国内で消費する(国単位)
・日本国内の農業生産基盤の弱体化を防ぐことが目的
・JAグループが国民に向けて2020年から提唱
農産物だけでなく水産物や、食材以外も対象
・地域で生産したものを地域で消費する(主に都道府県単位)
・安全・安心・高品質に対するニーズへの対応や地域振興、長距離輸送にの回避などが目的
・過去40年間で国民の間に浸透・定着した概念

国消国産はわかりにくい

「国消国消」の趣旨には100%賛成です。

人間は食べものがなければ、生きていくことができませんが、この食べものの2/3を海外からの輸入に頼っているというのは、異常な状態といわざるを得ません。もし日本の周辺で何か起こった場合、海外からの食料輸入がストップする可能性があります

また何らかの政治問題がきっかけで、特定の国が突然輸出を停止するという可能性もあります。例えば令和2年度の農産物の輸入相手国の2位、水産物の輸入相手国の1位は中国で、それぞれ全輸入量の10.6%と18.0%を占めています。

尖閣諸島の国有化をきっかけとして、レアアースの輸出規制が行われたことを、みなさんは覚えておられるでしょうか。

日本国内だけで必要な食料を賄えない現状は、自由貿易の観点からは大きな問題ではありません。農産物を生産するためには広大な土地が必要なので、土地に余裕のある国で生産された農産物を輸入し、代わりに工業製品を買ってもらうというのは、きわめて自然なことです。

ただ同盟国ではない国に食料を依存するというのは、食料安全保障・経済安全保障の観点からきわめて危険です。

また国内の農業生産基盤の弱体化についても、憂慮すべきことだと思います。

JAグループのいう通り、短期間での食料の増産は難しく、一度荒れてしまった農地からまた農作物を収穫するには、あらためて、土づくりや水の管理、病害虫対策などを行う必要があるというのも理解できます。

ただ、これは消費者に理解を求めることではなく、生産者や政治が対応することではないかと考えます。

高くても消費者が買いたいと思う農産物を作るのは生産者の役割で、国内の農業振興は政治の役割です。国内農業が荒廃したら困るでしょ、だから国産の農産物を買ってね、と消費者に向けてアピールすることに対して、違和感を感じてしまいます。

林修先生や料理研究家のコウケンテツさん、乃木坂46が登場して、国消国産のPRを行っていますが、残念ながらいまいち浸透していません。

国内産の農産物のすばらしさを紹介した動画や、それを使った料理レシピが公開されていますが、そんなことは多くの消費者はもともと認識しており、目新しさはありません。

立場上、輸入食材に対して批判的な意見を出せないことは理解できますが、輸入食材を消費し続けることに対するデメリットの理解なしに、国内産の農産物の消費はアップしないのではないかと思います。

そもそも「国消国産」という四字熟語がわかりにくいです。「地産地消」ということばが定着しているので、せめて「国産国消」にした方がよかったのではないでしょうか。このことばが拡がらないまま消えていかないことを切に願うばかりです。

まとめ

  1. 国消国産は、2020年からJAグループが提唱しているもので、国民が必要とし消費する食料は、できるだけその国で生産すること。その最終目的は、国内農業の衰退や国内農地の荒廃を防ぐことにある。
  2. 日本の食料自給率(令和2年度、カロリーベース)は37%で、われわれが食べている食料の2/3を、海外からの輸入に頼っているという危機的な状態
  3. 国内産の食材を選ぶ理由としては、安全・安心・信頼。新鮮、地域振興・国内農業振興、温室効果ガスの排出量削減、食料安全保障・経済安全保障なとがある。このうち消費者の関心が高いのは、安全・安心・信頼。新鮮。これに当てはまる食材を表すことばが地産地消
  4. 国消国産は農産物のみが対象で、国単位での生産と消費を考えており、究極の目的は日本国内の農業生産基盤の弱体化を防ぐことにある。これに対して地産地消は農産物だけでなく水産物や、食材以外も対象で、主に都道府県単位で考え、安全・安心・高品質に対するニーズへの対応や地域振興、長距離輸送にの回避などが目的と、違いがある。
  5. 国内の農業生産基盤の弱体化は問題だが、まずは生産者や政治が対応すべきこと。