植物性食品は動物性食品よりも健康によい!? 思い込みに注意

植物性食品は動物性食品よりも健康によいというのは、単なる思い込みです。植物性食品を選ぶ理由はいろいろありますが、健康によさそうだからという理由で選ぶのはやめましょう。植物性たんぱくは動物性たんぱくに比べて質が悪く、消化・吸収もされにくいことをご存じでしょうか。また植物性油脂を原料とした製品の中には、からだに有害なトランス脂肪酸が含まれる場合があります。植物性食品を上手に使いましょう。

植物性食品が選ばれるのはなぜ

2022年の食品業界は、植物性がキーワードになるかもしれません。例えば、ベジミート。飼育された牛肉や豚肉ではなく、大豆や小麦のたんぱく質を使って人工的に作られた肉が注目されています。また動物性の脂より、植物性の脂の方が、健康によいというイメージがあります。低カロリーのマーガリンであるファストスプレッドは以前からありますが、乳成分を含まない、大豆を原料にしたソイチーズも、食品スーパーでふつうに手に入るようになりました。

もともと動物性原料から作られる食品を、植物性原料で作ったもので置き換えようとする動きは、古くからありました。例えば1971年に発売されたカップヌードルには、謎肉といわれるサイコロ状の肉が入っています。みなさんも一度は食べたことがあると思いますが、これは大豆が主原料です。発売当時は高度経済成長期で、値段の高い肉を安い大豆で置き換えるという目的もあったかもしれません。

ところが現在の植物性食品ブームは、必ずしも値段を安くすることが目的ではありません。植物性食品が選ばれる理由は次の4つです。

・食用肉の生産が、地球環境の負荷となっていること【地球環境問題】
・食用肉の生産が、動物に対して不必要な苦痛を与えていること【倫理的な問題】
・食物アレルギーの人が増えたこと【アレルギー】
・植物性食品の方が健康によいというイメージがあること【イメージ】

食用肉の生産には、トウモロコシ、大豆などが飼料として使われています。またこれらの穀物を栽培するために、広大な土地と大量の水が必要です。さらに食用肉の生産に伴い、大量の温室効果ガスが排出されています。このほか水質汚染や森林破壊、種の絶滅など、食用肉の生産は地球環境に大きな負荷を与えています。

また食用肉や牛乳、卵の生産のために飼われている動物は、一生を狭い空間で生きなければなりません。例えば肉牛は生まれてからと殺されるまでの短い生涯を、畳一枚分のスペースで生活します。また角や尻尾のように飼育の邪魔になるものは、切断されます。豚や鶏も同様で、効率的に肉や卵を生産するために、本来、動物が生きている環境とは程遠い、身動きすら自由にできない環境で飼育されるのがふつうです。このような状態に対して、嫌悪感を感じる人もおり、それが動物性食品を避ける理由になっています。

さらに、近年、食物アレルギーの人が増加しています。特に乳製品と卵は、食物アレルギーの中でも数が多く、容器に入ったり包装された食品の場合、それが含まれていることを明記しなければならない特定原材料になっています。乳製品や卵に対してアレルギーのある方は、乳製品や卵を植物性原料で代替した植物性食品を必要としています。

最後に、植物性食品は動物性食品と比べて、健康によい、カロリーが低いと感じておられる方が多いことも理由と考えられます。カロリーの違いは数字で表すことができるので、誤魔化すことができませんが、植物性食品の方が、動物性食品と比べて健康によいというのは、本当なんでしょうか。

植物性たんぱくは消化・吸収が悪く栄養価が低い

代表的な植物性たんぱくといえば、大豆たんぱく小麦たんぱくです。動物性たんぱくの代わりに大豆たんぱくを使ったソイミート(大豆ミート)やソイチーズ(大豆チーズ)も、ふつうの食品スーパーで購入できます。

主なたんぱく質の消化・吸収と体内利用について比較した表を見てください1)

動物性たんぱく 植物性たんぱく
ホエイ    カゼイン 卵白 大豆たんぱく  小麦たんぱく
摂取した量 100 100 100 100 100
吸収された量 88 98 94 82 76
からだに保持された量 92 76 94 61 41

動物性たんぱく質は、食べた量に対して88~98%が吸収されているのに対し、植物性たんぱく質は76~82%しか吸収されていません。またからだに保持された量については、大豆たんぱくは食べた量の61%、小麦たんぱくは41%しか保持されていません
消化・吸収の比率には個人差があり、一緒に食べたものの影響も受けるので、必ずこの通りの比率にはなりませんが、一般的に見て、動物性たんぱくの方が消化・吸収がよく、からだに保持されやすいことがわかります。

さらにたんぱく質や食品の栄養価を表す指標にアミノ酸スコアがあります。100が最高値で、食品から摂らなければならない必須アミノ酸の量が少なくなると、数値が下がります。ほとんどの肉・魚介類のアミノ酸スコアは100ですが、植物性たんぱくでは、100より低い場合があります。大豆は100ですが、ジャガイモはおよそ70、お米は60、小麦では50と低くなっています(部位、調理方法によって差があります)。植物性食品だけからたんぱく質を摂る場合は、食品の種類によっては、必要なアミノ酸が摂れていない場合があるということになります。

植物性と表示された脂肪の中には有害なものもある

脂肪にも動物性のものと植物性のものがあります。パッケージに植物性原料使用と書いてあると、低カロリーでからだによいイメージがありますが、決してそんなことはありません。一番わかりやすい例が、動物性原料から作られるバターと、植物性原料から作られるマーガリンです。メーカーや商品によって、スペックに差が大きいため、ここでは日本食品標準成分表2020年版(八訂)に掲載されている代表的な数値をもとに、比較します。

バターは牛乳(生乳)に含まれる脂肪を取り出したものです。バター100g中に脂肪81~83gを含み、カロリーも700~720kcal/100gと高くなっています。
これに対し、植物性油脂を原料にしたファストスプレッド(マーガリン類)には、低カロリーを売りにしているものが多く、カロリーは579kcal/100gです。

マーガリンの原料になる植物油は不飽和脂肪酸を多く含んでいるため、常温では液体です。これをマーガリンにするためには、固体にしなければなりません。そのために植物油と水素ガスを反応させて脂肪酸の二重結合の一部を一重結合にしています。値段の高い牛乳から作るバターに比べて、植物油から工業的に作れるマーガリンは価格が安く、パンに塗るだけでなく、パンやお菓子の原材料として使われたり、ファストフードを中心に大量に使われてきました。

ところが植物油と水素ガスを反応させるとき、ごく一部が自然界には存在しないトランス脂肪酸に変化します。もともとトランス脂肪酸は摂る必要がなく、摂り過ぎた場合に心筋梗塞などの冠動脈疾患になるリスクが高くなることがわかっています2)。そのため肥満、糖尿病の人が多いアメリカなどの国では、食品のパッケージに含まれているトランス脂肪酸の量の表示を義務付けたり、摂取量の上限を設けたりしています。

日本ではトランス脂肪酸の摂取量が少ないため規制はありませんが、もともと自然界に存在しない物質で、しかもからだに悪いことがわかっているので、できれば摂らないほうがよいと思います。植物油が原料でもからだに悪い典型的な事例です。

最後にもう一つ。もし、マーガリンにトランス脂肪酸が全く含まれていないとしたら、バターよりマーガリンの方が低カロリーで健康的なんでしょうか。そんなことはありません。ふつうのマーガリンは100gに含まれる脂質は83.1gで、バターと同じです。カロリーも715kcal / 100gと、こちらもバターと変わりません。実はマーガリンはバターと比べて低カロリーではありません。

低カロリーを売りにしているマーガリンは、水や乳化剤などを加えて、油脂の量を減らしているだけです。製品に含まれる食用油脂の量が重量比で80%以上のものをマーガリン、80%未満のものをファストスプレッドといいます3)。油と水は混ざらないので、水を加えるためには、乳化剤という食品添加物を加える必要があります。ファストスプレッドにもいろいろな商品があるので、購入する前に、原材料表示を確認することをお勧めします。

まとめ

  • 動物性原料から作られる食品を植物性原料で作ったもので置き換えようという動きは以前からあり、値段を安くすることが目的の一つであった。現在、植物性食品が選ばれる理由は、地球環境問題、動物に対する倫理的な問題、食物アレルギーの増加、植物性食品が健康によいというイメージが関係している。
  • 動物性たんぱく質と植物性たんぱく質では、動物性たんぱく質の方が消化・吸収がよく、からだに保持される量も多い。また植物たんぱく質の一部は、人間が食品から摂らなければならない必須アミノ酸を十分に含んでおらず、栄養価が低い。
  • 植物性油脂は常温では液体なので、マーガリンを作るときは植物油に水素ガスを反応させて固体にするが、その際、自然界に存在しないトランスアミノ酸が生成することがある。トランスアミノ酸は摂取する必要がない上に、摂り過ぎた場合は心筋梗塞などの冠動脈疾患になる恐れもある。バターとマーガリンは、カロリーも脂質の量もほとんど同じで、低カロリーのマーガリンは水と乳化剤(食品添加物)を加えて油脂の量を減らしているだけ。

参考文献

1) 森永製菓ホームページに掲載されているデータから計算
https://www.morinaga.co.jp/protein/columns/detail/?id=15&category=health
2) 厚生労働省、トランス脂肪酸に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091319.html
3) マーガリン類の日本農林規格、平成28年2月24日農林水産省告示第 489号
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_11_maaga_160224.pdf