プチ断食のやり方 16時間がいい?危険はないの?

常に働いている胃腸を休めるために、プチ断食は有効です。

期間とルールを決め、無理せず行ってください。ふだん通りの生活をしながらの断食はお勧めできません。食べたものが消化・吸収・排泄される時間を考慮すれば、24時間から36時間のプチ断食がよいと思います。

水分は必ず摂ってください。一方で胃腸を休めるのが目的なので、水以外のものは摂らないほうがよいでしよう。胃腸が軽くなったように感じると思います。

胃腸が常に働いているのは異常な状態?!

日本が飽食の時代といわれるようになってから、だいぶ経ちます。お金さえあれば、好きなときに、好きなものを、好きなだけ、食べることができます。特に都市部では24時間営業のコンビニが至るところにあり、また外食産業も発展しているため、「お腹がすいている状態を、長時間我慢する」という機会は、ほとんどありません。現代の日本人の多くは、つねに胃腸の中に何かしらの食べものがある、という状態を何十年も続けているわけです。

人類が誕生して700万年になりますが、このような状態になったのは、わずか50年くらいのことではないでしょうか。また世界的に見た場合、まだ食料は十分にいきわたっておらず、9人に1人は飢餓状態、4人に1人は栄養不足の状態にあるといわれています。いまの日本人は人類の歴史の上からも、きわめて特殊な環境にいるといえます。

断食、プチ断食、ファスティングの違い

断食は一定の期間、一切の食べものを摂らないことです。断食を英語でいうとファスティング(Fasting)となるので、断食もファスティングも同じことです。

断食のやり方にはいろいろあります。水やお茶も含めて、一切の飲食物を摂らない場合もあれば、水とお茶はOK、あるいは特殊なドリンクを許容している場合もあります。また断食を行う期間も、1日、3日、1週間とさまざまで、最近は16時間というのもあり、プチ断食などと呼ばれています。

断食には決まったやり方はありません。期間もさまざまです。目的にあわせて、選択すればよいでしょう。ただ本来人間が生きていくために必要な水分や栄養分を一定期間摂らないわけですから、断食は危険と背中合わせであることを理解して下さい。医学的な知識がある人や、断食の経験が豊富な人の指導の下で行うべきです。

プチ断食の注意点

期間を決めずに行うのはNG

断食はがまん大会ではありません。期間も決めずに、頑張れるだけ続ける、というのは断食ではありません。目的に合わせて、期間と摂らないもの、期間中の行動について、きちんとした計画を立て、万が一体調が悪くなったときにどうするのかも考え、準備したうえで始めるべきです。具体的にどんな内容でどれくらいの期間行えばよいかについては、のちほど説明します。

平日に行うのはNG

仕事や学校へ行く、家事をする、フィットネスジムやジョギングへ行くなど、普段どおりの生活をしながら断食をするのは、止めた方がよいです。

特に車の運転は絶対にしてはいけません。断食をすると、血糖値が下がる場合があります。血糖値が下がると集中力が低下し、眠たくなり、意識がもうろうとなることがあります。パフォーマンスが低下することがあるので、休みの日に、周囲の人の理解と協力の下で行ってください。繰り返しますが、断食中の車の運転は危険行為です。

水分を摂らないのはNG

イスラム教徒が行う断食「ラマダン」では、ほぼ1か月間、日の出から日没まで、水を含めて一切の飲食物を摂りません。これは戒律で決まっており、敬虔なイスラム教徒はこれをきちんと守っています。

イスラム教徒が水分を摂らないのは宗教上の理由であって、健康上の理由ではありません。しかもラマダンの規定にも例外があり、屋外で作業する労働者や旅行者、スポーツ選手などは、水分補給をしてもよいことになっています。あなたが断食をするのは、健康になるためです。水分を摂らないということは、百害あって一利なしなので、絶対にやるべきではありません。

水分を摂っていいからといって、水で空腹を満たそうなどということは考えないでください。また得体のしれないドリンクを飲むことを勧めている場合もありますので、注意してください。飲んでよいのは、基本的に水と緊急時の経口補水液だけで、スポーツドリンクも避けるべきです。

持病がある人、服薬している人はNG

持病がある人、服薬している人は断食しないでください。これらの人は、断食をする前に、体調をもとの健康な状態に戻してください。服薬している場合、薬を飲み続けながら断食をすると、取り返しのつかないことになります。これらの人は、断食するのではなく、主治医などと相談しながら、食事の量と質をコントロールするのが、正しいやり方です。

断食でがんや消化器疾患が治るという説を出している人がいます。本も出ていますし、それなりの説得力もありますが、本に書かれていることを実行する前に、医学的知識のある人に相談した方がよいでしょう。断食にデトックス効果があるのは事実ですが、からだの中の病気が出て行ってくれるわけではありません

妊娠中、生理中の人はNG

いうまでもないことですが、妊娠している人が断食してはいけません。また断食でストレスがかかるとホルモンバランスが崩れる恐れがあるので、生理中の人も断食は避けてください。

胃腸の役割をおさらいしましょう

つねに胃腸の中に食べものが溜まった状態というのは、よくありません。また小腸で糖質やアルコールを吸収しつづけていると、肝臓も休みなく働くことになります。たまには胃腸や肝臓を休ませてあげることも必要です。そこで提案したいのが、プチ断食です。まず最初に、胃腸の役割についておさらいしましょう。

胃の機能

食べたものに胃酸と消化酵素を混ぜて粥状になるまで分解し、十二指腸へ送ります。胃は食べものが入ってきたのを検知すると動きだして、混ぜる・送るという作業を行います。これを蠕動運動(ぜんどううんどう)といいます。食べたものが胃を通り過ぎて空っぽになるまで、3~4時間かかります

十二指腸の機能

小腸の一部で、胃から続く約30cmの部分です。胃から出た粥状の食べものと、膵液の消化酵素、胆汁を混ぜ合わせ、空腸の方へ送り出します。十二指腸という名前は、人間の指を12本並べたくらいの長さであるところから来ています。

小腸(空腸・回腸)の機能

長さ6mくらいの管で、内側の壁はひだ状になっており、広げるとテニスコート1面分くらいの面積になります。小腸の壁から消化酵素が分泌され、たんぱく質はアミノ酸、脂質は脂肪酸とグリセリド、炭水化物はグルコースなど、吸収可能な大きさにまで分解します。そして分解された物質やビタミン、ミネラルを小腸の壁を通じて血液中へ吸収します。小腸はからだが必要とする栄養分のほぼ全部を吸収する大事な臓器です。食べたものが小腸を通り過ぎるのには、7~9時間かかります

大腸の機能

長さ1.5mくらいの管で、小腸と同様、内部はひだ状になっています。こちらは広げるとテニスコート半面分くらいの面積になります。小腸で吸収されなかった残りかすは、15~20時間かけて大腸を通り抜けますが、この間に水分が吸収されて、便が作られます。大腸に固形物の便が溜まると、それが刺激になって蠕動運動が起こり、肛門から体外に排泄されます。

整理すると、次のようになります

主な働き 滞留時間 食べてから空になるまでの時間
消化 2~3時間 2~3時間
十二指腸 消化
小腸(空腸・回腸) 消化、栄養分の吸収 7~9時間 9~12時間
大腸 水分の吸収、便を作る 15~20時間 24~32時間

内臓のリセットのために行うプチ断食

期間は24時間から36時間

内臓を休ませて、リセットするために行うプチ断食。まずは24時間、もし可能なら36時間を目標にしましょう。なぜなら、食べたものがからだから完全に出ていくには、1日~1日半かかるからです。小腸から大腸にかけて棲みついている腸内細菌は、食べもののカスをエサにします。腸内細菌のエサとなるものをいったんなくすためにも、時間は空けたほうがよいと考えます。

また、プチ断食は、お仕事や学校が休みの日、家族に家事を変わってもらえる日で、特に予定がない日に行ってください。

また断食するからといって、断食の1分前まで食べものを詰め込んで、断食が終わったらまたドカ食いする、というのでは意味がありません。さきほど説明したイスラム教徒のラマダンは、日の出から日没まで、食べもの、飲み物を一切口にしません。その代わり、毎日、日の出前に食事をとり、また日没後にわりと豪華な食事を食べます。その結果、1か月のラマダンが終わったら体重が増えるという人が多いのだそうです。

話が脱線しましたが、ふだんの食生活のサイクルのなかで、どこか24時間、あるいは36時間、何も食べないというルールにしてください。断食の目的は、自分の胃腸を休めてあげることです。

水分は必ず摂ってください

水も摂らないのが断食だと信じている人もいますが、あなたは宗教上の理由や修行のために断食するのではありません。

自分の健康のために断食するのです。ですから、水分は必ず摂ってください1日2リットルを目安にし、できれば常温の水にしておきましょう

冷たい水や炭酸水もカロリーはゼロですが、胃を刺激します。お茶は意見が分かれるところですが、カフェインが入っているので、止めた方が無難です。スポーツドリンクは水分、糖分、ミネラル、ビタミンなどが入っており、脱水状態などでの水分補給には適していますが、水をこまめに摂っておれば、脱水状態にはなりません。小腸での吸収作用を止めるためにも、飲まないほうがよいです。

断食明けは消化・吸収のよいものを

24時間なり36時間なりの断食を終えた後、好きなものをお腹いっぱい食べたい、と思うでしょうが、そこは1食だけ我慢してください。ふだんから食べているもので構わないので、できるだけ消化のよいものにしてください。香辛料がたくさん入った刺激の強いもの、油濃いもの、冷たいもの、アルコールはやめましょう。せっかく苦労して断食したのに、胃腸の調子を悪化させてしまいます。

プチ断食の効果

胃腸が軽くなる

プチ断食をすると、間違いなく胃腸が軽くなったように感じます。いままで常に食べたものが入っていたのが、空っぽになるのですから、当たり前といえば当たり前です。人間にはからだの悪いところ、弱ったところを、自然に治す力がもともと備わっています。胃や腸も同じですが、悪くなっていても治る間もなく、次々食べたものが押し寄せていたでは、悪くなる一方です。いったん空っぽにすることで、もとの正常な状態に戻すことができます。

肝臓の負担が減る

小腸で吸収されたものは肝臓に送られ、そこでいろいろな成分に加工され、一部は貯蔵されます。小腸から栄養吸収が続く限り、肝臓は働き続けなければなりません。無言の臓器といわれる肝臓は、黙って常に働き続けています。断食によって、肝臓への負担を一時的にせよ減らすことが可能になります。

頭がスッキリする

人間は交換神経と副交感神経バランスで成り立っています。消化しているときは副交感神経が優位になりますが、お腹が空っぽになると、交感神経が優位になり、頭がスッキリとした感じがすると思います。ただ逆にお腹が減ってイライラするかもしれません。そのようなときは、時計をみて残り時間を数えたり、食べもののことを考えるのではなく、外へ散歩に出かけるとか、趣味に没頭するとか、うまく時間を使ってください。

プチ断食では残念ながら効果なし

断食でダイエット効果はなく痩せられない

断食について書かれた記事の多くには、ダイエット効果があるかのような書き方をしているものが多いです(ダイエット効果があるとは書いていないところが、ずるいです)。

先に断っておきますが、ダイエット目的の断食はあり得ません

例えば3日間断食すると、確実に体重は減ります。3~5kg落とすことも可能です。でもそれは、からだの水分量が一時的に減っただけで、体脂肪が減ったわけではありません。ふつうの成人の場合、食べものから1日1.0kg、飲み物から1.2kgの水分を摂っています。またこれとは別に、体内でエネルギーが作られるときに0.3kgの水が作られます(代謝水といいます)。仮に3日間飲み食いしなかったとすると、水分だけで6.6kg減ることになります。もしダイエットが目的なら、毎日の食生活を見直すとともに、適度な運動をしながら、1か月単位で体重を減らしていくことを考えましょう。

断食で肌荒れ改善は難しい

断食によって美肌効果が得られるといっている理由は主につぎの4つです。

  1. 傷んだ小腸が修復され、毒素が取り込まれなくなることから、美肌効果がある。
  2. 便秘が解消するため、老廃物が吸収されず、美肌効果がある。
  3. 内臓の働きを活性化させることで活性酸素の発生を減り、美肌効果がある。
  4. 人間は飢餓状態になると、体内の毒素を排泄するデトックス効果があるので、美肌効果がある。

それぞれいっていることは、一部は正しいのですが、プチ断食くらいでは美肌効果は得られません。詳しく説明していきます。

①小腸の細胞が傷ついて、本来吸収されない毒素などの物質が体内に入ってしまうことがあり、この状態をリーキーガットといいます。まずプチ断食をすると、一時的に傷んだ小腸細胞が修復される可能性はあります。でもリーキーガットになっている人は、日頃食べているものに原因があるはずです。これを改善しない限り、美肌効果はありません。
②プチ断食したくらいで、ひどい便秘は解消されません。それに便秘は大腸に便が長く留まっている状態ですが、老廃物が吸収されるのは主に小腸です。便秘と肌荒れは関係していますが、それは老廃物の吸収だけが原因ではなく、ストレスなども関係していると思われます。
③内臓の働きの活性化はしないとはいえませんが、本当にするのかどうかもわかりません。活性酸素はいま流行りですが、内臓の働きとの関係もよくわかりません。そもそも内臓とは何を指しているのでしょうか。
④これは少しまともな説です。人間は飢餓状態になると、デトックス効果があることは事実です。ただ24~36時間の断食で、本当に飢餓状態になっているのかどうか、わかりません。そもそもデトックスを目的に飢餓状態にするなどというのは、ありえない話です。

断食とオートファジーとの関係

最近、断食の効果としてオートファジーをあげる人がいます。まずオートファジーとはなんのことでしょうか。

オートファジーは植物を含め、ほとんどすべての生物に備わっている細胞の浄化・リサイクル機能のことです。

例えば細胞内に病原性微生物や変性たんぱく質が侵入したときに、これを分解することで、細胞を守ります。また細胞が飢餓状態になったとき、細胞内にある余剰たんぱく質を分解して、必要なたんぱく質に作り替えます。

断食とオートファジーを関係づけている人は、細胞内の余剰たんぱくを分解することで、からだに有害なたんぱく質が分解されること、また古くなったミトコンドリアが新しく作り直されるといっているようですが、果たして本当なんでしょうか。

まずこの機能は、細胞が生きるか死ぬかの状態のときに作動します。1日や2日断食したところで、生きるか死ぬかの状態になるとは、到底考えられません。また、細胞内の有害なたんぱく質だけをうまく分解して、リサイクルしてくれるのでしょうか。

新型コロナウイルスに感染すると、ウイルスの遺伝子が宿主(この場合、人間)の細胞内に入り込み、細胞内でウイルスのたんぱく質を生産して、増殖していきます。このたんぱく質を死滅させる機能が、オートファジーです。ウイルスの感染は、細胞にとって、生きるか死ぬかの戦いです。断食して少し飢餓状態になったくらいで、オートファジーが機能するのか、私は極めて疑問です。

まとめ

  1. 現代人は常に胃腸が働いている異常な状態。胃腸を休め肝臓への負担を減らすために、断食は有効。
  2. 断食は期間とルールを決めて行う。断食中はふだん通りの生活はしてはいけない。特に車の運転は絶対にしないこと。また必ず水分は摂る
  3. 食べたものがからだから完全に出ていくには、1日~1日半かかるので、断食の期間は24~36時間が適当
  4. プチ断食では、ダイエット効果も美肌効果も期待できない。