世界一甘い天然甘味料タウマチン 原料、製造方法、安全性、何に使われる

タウマチンソーマチンともいいます)は西アフリカ原産の植物の種子から抽出される甘味料で、砂糖の2,000倍の甘さがあります。日本では食品添加物としてミント、バニラなどのフレーバーの増強や、苦み、渋みなどのマスキングを目的として、チューインガム、乳製品、アイスクリーム、スイーツなどに使われています。砂糖とは甘味の種類が異なりますが、安全性が非常に高く、許容一日摂取量(ADI)は設定されていません。

タウマチンの原料と製造方法

タウマチン(ソーマチン、Thaumatin)は、クズウコン科の植物、タウマトコッカス・ダニエリ(Thaumatococcus daniellii)の種子から抽出されたたんぱく質です。この植物は西アフリカのシエラレオネからコンゴ民主共和国に至る熱帯雨林でよく見られるもので、高さ4 mまで成長し、大きな花を咲かせます。種子は「カテンフェ」「ミラクルベリー」などと呼ばれています1)

食品添加物として使われるタウマチンは、植物の種子を酸性水で抽出することで得られる、タウマチンIおよびタウマチンIIという2種類のたんぱく質と少量の植物成分が含まれています2)

現在は栽培した植物の種子から抽出したものが使われていますが、資源に限りがありコストもかかるため、タウマチンを作る遺伝子をトマト、酵母、カビ、大腸菌などに組み込んで生産するための研究が行われています3)

タウマチンの特徴と用途

タウマチンは植物由来の甘味料としては、モネリン(つる植物の果実)と並んで最も甘いといわれており、1gあたりの比較では砂糖の3,000倍1molあたりの比較では砂糖の10万倍の甘さがあります4)。同じ植物由来の甘味料のステビアが1gあたりの比較で砂糖の250倍なので、タウマチンが甘味がいかに強いかがわかります。そのため、タウマチンはわずか1ppm(1L中に1mg)の濃度でも甘味を感じます

ちなみのこの甘味は、ヒト、チンパンジー、ゴリラ、テナガザル、オナガザルなどだけが感じることかできるんだそうです5)

タウマチンの甘みは砂糖とは違っていて、甘さは非常にゆっくりと現れ、長く続くといわれています。また大量に摂ったときは苦みを残して後味が長く続くようです。そのため甘味を付与する目的ではなく、甘味を感じない低濃度(1ppm未満)で、ミント、バニラ、ミルクなどのフレーバーの増強や、苦み、渋み、酸味、金属臭など食品にとって好ましくない風味のマスキングを目的として使われることが多いようです。
具体的には、チューインガム、乳製品、アイスクリーム、スイーツ、ソフトドリンクなどに使われているそうです。

またタウマチンは医薬品添加物規格にも収載されており、薬の苦味を抑え、飲みやすくする目的に使用されています。
粉末製剤として企業間で取引されていますが、一般向けには販売されていないようです。

タウマチンのそのほかの特徴は次の通りです。

・無臭。
・水に溶けやすい。
・エタノールにはほとんど溶けない。
・熱に安定で、100℃未満の加熱であれば甘味はほとんど変わらない。
・pH2(酸性)からpH10(アルカリ性)の広い範囲で安定している。

タウマチンの安全性と日本での扱い

タウマチンは分子量が小さく、消化されやすいたんぱく質です。そのため消化管で速やかにアミノ酸に分解されて小腸から吸収され、他のたんぱく質と同じように栄養源になります。消化・吸収されにくいソルビトールやマルチトール、吸収されてもそのまま排泄されるアセスルファムKやサッカリンと比べると、人体への負担は少ないと考えられます。

タウマチンの安全性については、EUの欧州食品安全機関(EFSA)の食品添加物および香料に関するパネル(Panel on Food Additives and Flavourings)が再評価を行った結果が、2021年11月に公表されました2)。概要は次の通りです。

・遺伝子毒性はない。
・入手可能なヒトのデータから経口アレルギー誘発性に関する結論を引き出すことができない。
・ラットとイヌを使った亜慢性毒性試験と出生前発生毒性試験で有害作用は観察されなかった。
・タウマチンへの曝露と健康への悪影響との間に関連性がないことを確認した。
・タウマチンの一日摂取許容量(ADI)の数値は必要ないと結論付けた。

ここでは経口アレルギー誘発性はないと書かれていますが、実はタウマチンの粉末を吸引することによるアレルギーの報告例があります6)(これは経口ではなく、経気道に分類されます)。これはチューインガム工場で起きたもので、タウマチンの粉末を日常的に扱うという特異な環境で、作業者の方に鼻炎が起きたものです。タウマチンはたんぱく質なのでアレルギーを起こす可能性があることは、留意しておくべきでしょう。

日本では1996年に食品添加物(甘味料)として認可され、現在は既存添加物リストに収載されています7)。食品添加物には指定添加物、既存添加物などの種類がありますが、既存添加物は日本において既に使用され、長い食経験があるものについて、例外的に指定を受けることなく使用・販売などが認められているものです。つまり、比較的安全性が高いということです。

まとめ

  • タウマチンは西アフリカ原産の植物の種子から抽出される甘味料で、砂糖の2,000倍の甘さがある。食品添加物の既存添加物に甘味料として収載されている。
  • 砂糖の甘みとは異なり、甘さは非常にゆっくりと現れ、長く続く。そのため甘味を感じない低濃度で、ミント、バニラなどのフレーバーの増強や、苦み、渋みのマスキングを目的として使われることが多い。また医薬品添加物として、薬の苦味を抑える目的でも使用される。
  • 分子量が小さく、消化されやすいため、消化管で速やかにアミノ酸に分解されて小腸から吸収され、他のたんぱく質と同じように栄養源になる。
  • 遺伝子毒性はない。亜慢性毒性試験と出生前発生毒性試験で有害作用は観察されておらず、健康への悪影響はないとされる。

参考文献

1) Joseph JA, Akkermans S, Nimmegeers P, Van Impe JFM. Bioproduction of the Recombinant Sweet Protein Thaumatin: Current State of the Art and Perspectives. Front Microbiol. 2019;10:695. Published 2019 Apr 8. doi:10.3389/fmicb.2019.00695
2) EFSA Panel on Food Additives and Flavourings (FAF), Younes M, Aquilina G, et al. Re-evaluation of thaumatin (E 957) as food additive. EFSA J. 2021;19(11):e06884. Published 2021 Nov 30. doi:10.2903/j.efsa.2021.6884
3) Firsov A, Shaloiko L, Kozlov O, Vinokurov L, Vainstein A, Dolgov S. Purification and characterization of recombinant supersweet protein thaumatin II from tomato fruit. Protein Expr Purif. 2016;123:1-5. doi:10.1016/j.pep.2016.03.002
4) de Vos AM, Hatada M, van der Wel H, Krabbendam H, Peerdeman AF, Kim SH. Three-dimensional structure of thaumatin I, an intensely sweet protein. Proc Natl Acad Sci U S A. 1985;82(5):1406-1409. doi:10.1073/pnas.82.5.1406
5) Menco BP, Hellekant G. Ultrastructural evidence for a binding substance to the sweet-tasting protein thaumatin inside taste bud pores of rhesus monkey foliate papillae. Microsc Res Tech. 1993;26(2):133-141. doi:10.1002/jemt.1070260206
6) Tschannen MP, Glück U, Bircher AJ, Heijnen I, Pletscher C. Thaumatin and gum arabic allergy in chewing gum factory workers. Am J Ind Med. 2017;60(7):664-669. doi:10.1002/ajim.22729
7) 日本食品化学研究振興財団、既存添加物名簿収載品目リスト、最終改正平成26年1月30日 http://www.ffcr.or.jp/shokuhin/upload/202fd3d76dd4b6257b8fd71987b73040407057e6.pdf