最近、小麦粉の代わりに使える米粉が登場しました。
パッケージに菓子・料理用、パン用、麺用という表示もあります。
小麦粉を米粉で代用すると、消化・吸収のよくないグルテンの摂取量を減らせる、食料自給率の向上に貢献できるなどのメリットがありますが、食味・食感が変わってしまう、価格が高くなるというデメリットもあります。
またダイエットだけを目的とした置き換えは、意味がありません。詳しく見ていきましょう。
米粉で小麦粉を代替する最大のメリットはグルテンフリー
小麦粉を米粉で代用した場合の最大のメリットは、グルテンの摂取量が減らせるということです。
グルテンは小麦に含まれるたんぱく質で、パンやピザの生地を膨らませて、ふんわりとした食感に仕上げたり、うどん、中華めん、パスタにコシと歯ごたえを与えるために、なくてはならないものです。
ここ100年くらい、小麦は繰り返し品種改良されてきましたが、それはパン生地がうまく膨らむように、グルテンの量と質が改良されてきたのです。それほど小麦にとってグルテンは重要な成分なのです。
一方、グルテンはたんぱく質の中でも特に消化・吸収が悪いことが知られています。グルテンを消化する能力には個人差があり、うまく消化できない人は、小麦を含む食品をたくさん食べると、腹部膨満、腹痛、下痢を引き起こすことがあります。
みなさんも心当たりはありませんか。またグルテンの成分はアレルギー反応を起こすことがわかっており、16人に1人くらいはグルテンに弱い体質であるといわれています。
これ以外にもグルテンには習慣性や依存性があり、過食につながるとか、神経系への影響が指摘されるなど、いろいろと問題を引き起こすことがわかっています。
実際に、グルテンが原因で小脳の機能が損傷し、運動機能がコントロールできなくなる病気もあります。欧米でグルテンフリーの食生活を送っている人が多いのは、グルテンに弱い体質のため、グルテンフリーの食生活を余儀なくされている人だけでなく、さまざまな悪影響を回避し、健康な生活を送ろうとしている人が多いからなのです。
なおグルテンについてはこちらのウェブサイトに詳しい説明があるので、興味がある方はご覧になってください。
小麦アレルギーは小麦に含まれるたんぱく質が原因で起こる即時型アレルギーで、小麦がからだに入って数分から数時間で、人によっ…
農林水産省は米の消費拡大と食料自給率の向上を狙う
国民1人あたりのお米の消費量は年間53kgで、この60年でほぼ半分にまで減りました。
人口減少が続く中、お米の消費量はさらに減ると予想されているため、農林水産省はお米の消費拡大に向けてさまざまな施策を講じています。2017年に、米粉の用途別基準と表示方法をガイドラインとして公表したのもその一つで、米粉の新しい用途を開拓することで、米の消費拡大を狙っています。
また、小麦の88%は輸入であるのに対し、米はほぼ100%国産なので、小麦粉を米粉で代替すれば、食料自給率が上がります。もし、日本国民として日本の食料自給率の向上をメリットと考えるならば、小麦粉を米粉で代替することで得られるメリットの一つになると思います。
味や食感、保存性が変わるが、必ずしもデメリットではない
パンは小麦粉から作られます。フワフワとした食感と小麦の香りが食欲をそそりますね。原料の小麦粉をすべて米粉に置き換えると、どうなるでしょうか。
まずパンは膨らまないので、フワフワというより、ねっとりとした感じになります。パンは焼いてから数日なら、まだしっとりとしていますが、米粉だけで作ったパンは、1日でカチカチになります。お餅が固くなるのと同じです。さらに食べたとき、ごはんの味がします。米粉でできているのだから、当たり前といえば当たり前なんですが・・・。
ということで、小麦粉を米粉で代用すると、
- 食味が変わる
- 食感が変わる
- 保存性が変わる
ことになります。
でも、パン屋さんで売られている米粉パンはふつうにおいしいですよね。何が違うんでしょうか。
実は、米粉パンといわれているものには、大きく分けて次の3種類があるんです。
- 小麦粉に米粉を加えて作ったパン
- 小麦粉を使わず、米粉とグルテンで作ったパン
- 小麦粉もグルテンも使わず、米粉だけで作ったパン
①は一部を置き換えただけなので、小麦粉のパンと変わりません。
②は確かに小麦粉を使っていませんが、グルテンは小麦から作られますので、小麦由来の原料が使われていることに変わりありません。グルテンが入っているため、ふつうに膨らみ、美味しく食べられます。
③は小麦由来のものは使っておらず、「グルテンフリー」と表示されていることが多いです。
でも、うまく膨らんでいるパンもあります。それはヒドロキシプピルメチルセルロース(HPMC)という食品添加物を使っているからです。街のパン屋さんで売られているパンは、原材料表示の義務がないのでわかりませんが、スーパーで売られている米粉パン(グルテンフリーパン)には、食品添加物の欄にHPMCと書かれています。
つまり、米粉だけでパンを作ると、うまく膨らまず、すぐに乾燥してパサパサになります。消費者に買ってもらえるパンにするためには、余分な添加物を使わざるを得なくなるのです。
また、最近米粉でできたてんぷら粉もあります。小麦粉のてんぷら粉と比べると、衣が明らかに固いです。一方で揚げているときに衣が吸う油の量が少なく、食べたときに油っぽく感じません。これも食感が変わった例の一つです。
ここではパンとてんぷら粉を例にとって説明しましたが、お菓子でも麺でも、基本的には同じことです。
小麦粉と米粉は違う材料なのですから、違うものができて当然です。
最近、ライスクッキーや米粉のシフォンケーキなども見かけるようになりました。小麦粉で作ったものとちょっと違いますが、これはこれで美味しいと思います。
麺についても、ビーフンやフォーは米粉で作られています。うどん、中華麺、パスタとは違った味と食感ですが、これはこれで美味しく食べることができます。ここでは、味や食感の変化をデメリットとしましたが、別の食べものと考えれば、デメリットにならないかもしれません。
米粉の値段は小麦粉の5倍~10倍高いのがデメリット
小麦粉の値段と米粉の値段を比べてみましょう。なおここでいう米粉は、上新粉(うるち米を粉にしたもの)のことではなく、「米粉」という名前で売られているものです。
米粉は上新粉より、粉の粒径が小さくなっています。
小麦粉 | 薄力粉 | 117~396円/kg |
強力粉 | 238~318円/kg | |
米粉 | 600~1,500円/kg |
小麦粉は特売の対象になることもあるので、もっと安い値段で売っていることもありますし、国産のブランド小麦粉では600円/kgくらいのものもあります。
一方、米粉は置いていない食品スーパーもあり、またいろいろな製品があるため値段に幅がありますが、だいたい小麦粉の5~10倍の値段と考えてよいでしょう。精白米の値段が300~400円/kgなので、妥当なところかもしれません。
小麦粉を米粉で置き換える際のいちばんのデメリットは、価格の高さです。例えばホームベーカリーでパンを1斤つくる際も小麦粉を米粉に置き換えると、材料費だけで約200円割高になります。
また小麦粉を使った食材や加工食品は広く普及しており、比較的安く手に入りますが、小麦粉を使わないもので置き換えるとなると、どうしても割高になってしまいます。
アメリカでは健康上の理由で小麦を使った食材を摂らないグルテンフリーの生活をしている人が多く、グルテンフリー食材もふつうにスーパーで売られています。
JETROの調査によると、アメリカにおけるグルテンフリー食材や加工食品の販売価格は、それ以外の食材の価格の1.6倍であったとのことです。これは米粉での置き換えに限ったものではありませんが、小麦粉を別のもので代替すると、食材のコストが高くなることは間違いなさそうです。
小麦粉を米粉で代替するとダイエット効果がある?
現実には、小麦粉をそっくり米粉で代替することなど不可能です。でも仮にそれができたとすれば、ダイエット効果はあります。理由は次の3つです。
- 小麦の習慣性・依存性を断つことにより、過食を防ぐことができます。
- 米粉の方が、グリセミック指数(GI)が低く、血糖値の急激な上昇による中性脂肪の蓄積を防ぐことができます。
- 米粉の方が、カロリーがわずかに低いです。ただこれはほとんどこじつけです。
改めていいますが、小麦粉を米粉で100%代替することなど、不可能です。だから「小麦粉を米粉で代替すると、ダイエット効果があるか?」という質問自体、ナンセンスです。
では、小麦を摂取しない「グルテンフリー」にはダイエット効果はあるのでしょうか。実際、グルテンフリーはダイエット法のひとつとして紹介されています。
この質問については、ダイエット効果は確実にあるといえます。理由は次の通りです。
①小麦への習慣性・依存性を断つ
1つ目は小麦への習慣性・依存性を断つことです。
小麦を食べるとグルテンの成分が脳のオピオイド受容体を刺激して、脳がドパミンで満たされ、非常に幸せに気分になります。しかしこれが切れると、また無性に食べたくなり、小麦が入っている食品をむさぼることになります。これはアヘンやヘロインの中毒症状と全く同じメカニズムで、程度の違いがあるだけです。ヘロイン中毒の患者に使うナロキソンという薬を投与すると、小麦に対する食欲が減退したという実験結果もあります。
小麦の主成分は炭水化物です。炭水化物は人間にとってエネルギー源として必要ですが、必要以上に摂取すると内臓脂肪として蓄積されるほか、糖尿病(Ⅱ型糖尿病)につながり、心臓疾患や慢性腎臓病の原因となります。
炭水化物を過度に摂取しないために、グルテンフリーは理にかなったダイエット法であるといえます。
②グルテンによる体への悪影響を排除する
2つ目はグルテンによる体への悪影響の排除です。
これは「米粉で小麦粉を代替する最大のメリットはグルテンフリー」のところで説明したとおりです。ダイエットは単に体重を減らすだけでなく、健康な状態を保ちながら、美しく痩せることです。
③食べ物に対する意識が高くなる
そして3番目は食べものに対する意識が高くなることです。
グルテンフリーの食生活を始めると、ふだんの食事に注意を払うようになります。摂取するカロリーだけでなく、栄養のバランスや、添加物・農薬の有無なども意識が向くようになります。グルテンフリー食品を販売している店によると、グルテンフリー食材を買い求める客は、オーガニック食材にも関心が高いといいます。
ダイエットの基本は、食事の管理と適度な運動です。小麦を摂るのを止めても、その分、ごはんをたくさん食べたのでは、ダイエットにならないことは、いうまでもありません。
米粉は太るって本当ですか?
本当です。米粉の成分はでんぷんで、でんぷんはグルコースとなって腸から吸収されてエネルギー源として使われます。使われなかったグルコースは中性脂肪になり、内臓脂肪として蓄えられます。
ですから米粉を食べたら太ります。これは糖分で太るのと、まったく同じメカニズムです。
小麦粉も米粉も、たくさん食べたら太るのはあたりまえです。ただ同じ量摂取するとしたら、米粉の方が太る可能性は若干少ないと考えられます。
小麦粉を米粉に置き換えたら、カロリーがゼロになるわけではありません。それがなぜか、「米粉にはダイエット効果がある → 食べても大丈夫 → たくさん食べる → 太る」となっているようです。
もう一度いいますが、小麦粉を米粉で置き換えると、多少のダイエット効果はありますが、食べ過ぎたらダイエット効果はありません。
まとめ
- 小麦粉を米粉で代替する一番のメリットは、グルテンフリーになることです。グルテンに弱い体質の人は16人に1人くらいいるといわれていますが、多くの人がそれに気づいていません。
- 小麦粉を米粉で代替すると、食料自給率の向上に貢献できるかもしれません。ただし、米粉は小麦粉の5~10倍の値段です。
- 小麦粉を米粉で代替すると、食味、食感、保存性が変わることがあります。さらにそれをカバーするため、あるいは小麦粉を使った食品に近づけるために、食品添加物を使用している場合があります。
- 小麦粉をすべて米粉で代替できたならば、多少のダイエット効果はあります。しかし米粉も小麦粉とほとんど同じカロリーがあるため、米粉を食べたら太ります。