ピスタチオはおいしいだけじゃない、栄養成分と健康効果を薬剤師が解説

ピスタチオは中央アジア原産のナッツで、鮮やかな緑色と独特の香りで人気があります。

αリノレン酸、リノール酸、ビタミンB6を多く含み血液をサラサラにして狭心症、心筋梗塞や動脈硬化を予防する効果があります。一方でアンチエイジング効果や美肌効果は、ピスタチオ特有のものではありません。またダイエット効果はありません。

ピスタチオの栄養成分と健康効果を、国の報告書に基づいて薬剤師が科学的に解説します。

ピスタチオは中央アジア原産で人気のナッツ

中央アジア原産のウルシ科の植物のナッツ(木の実)で、熟した種子を皮ごと炒って、塩味を付けたものや、ペースト状にしたものも売られています。他のナッツとは違って、鮮やかな緑色をしており、また独特の香りがあることから、最近人気が急上昇しており、ピスタチオを使ったスイーツや料理が続々と登場しています。

ピスタチオの殻を割ると、中にグリーンの種子が入っています。他のナッツとは異なる香り、味、食感があり、洋酒のおつまみとして人気があります。日本で売られているのは、イランかアメリカから輸入したものです。

このピスタチオ、ほかのナッツと比べて栄養成分の点でも優れており、みなさんが一度は聞いたことがある健康にうれしい成分が入っています。

ピスタチオの栄養成分と健康効果

αリノレン酸

  • 体内でEPAやDHAに変化
  • 血液をサラサラにして動脈硬化、狭心症、心筋梗塞などの循環器疾患を予防
  • 認知機能低下や認知症を予防

ナッツはどれも脂肪酸を多く含んでいますが、ピスタチオに特徴的なのがαリノレン酸です。主なナッツ100gあたりのαリノレン酸の量は次の通りで1)ピスタチオが断トツに多いですね。

ピスタチオ/いり/味付け 0.2g
マカダミアナッツ/いり/味付け 0.09g
カシューナッツ/フライ/味付け 0.08g
ヘーゼルナッツ/フライ/味付け 0.07g
アーモンド/フライ/味付け 0.03g

まずαリノレン酸は人間の体内で合成できないため、必ず食物として摂る必要があり、「必須脂肪酸」と呼ばれています。

欠乏すれば皮膚炎などが発症します。またαリノレン酸は青魚に多く含まれていて、サプリメントにもなっているEPA(イコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)と同じオメガ3脂肪酸(ω3脂肪酸)の仲間です。αリノレン酸は体内でEPAやDHAに変換されるので、EPAやDHAを摂ったのと同じ効果が得られます。

ところでオメガ3脂肪酸には、国によって食事から摂ることを推奨する分量が決められています2)

オメガ3脂肪酸の食事摂取基準

18~49歳 女性1.6g/日、男性2.0g/日

オメガ3脂肪酸を多く含む食品を、ふだんの生活の中で意識的に取れ入れていきたいものです。

ところでオメガ3脂肪酸には、血液をさらさらにするとか、血圧を下げるとか、いろいろな効果があるといわれています。中にはかなり怪しいものもありますが、これらの効果に対する国の見解は次の通りです2)

・血液をサラサラにすることで、循環器疾患の予防に有効であるという研究結果が多数存在する。一方で効果がないとする研究結果もある。
・αリノレン酸の摂取と循環器疾患の発症率及び死亡率低下との関連については、有意な関連がある。
・認知機能低下や認知症の予防効果は期待されているが、治療効果はない。

リノール酸

  • 血液をサラサラにして狭心症や心筋梗塞を予防

リノール酸も人間の体内で作ることができない「必須脂肪酸」で、足らないと皮膚障害が起きることがあります。コーン油、綿実油、大豆油に含まれていますが、ダイエットなどで揚げ物などを意識的に避けている場合は、ナッツから摂るのが効果的です。ナッツ100gあたりのリノール酸の量は次の通りです1)

ピスタチオ/いり/味付け 16g
アーモンド/フライ/味付け 12g
カシューナッツ/フライ/味付け 8g
ヘーゼルナッツ/フライ/味付け 5.2g
マカダミアナッツ/いり/味付け 1.5g

リノール酸はオメガ6脂肪酸(ω6脂肪酸)の一つですが、食品中のオメガ6脂肪酸のほとんどはリノール酸です。

オメガ6脂肪酸も、国によって食事から摂ることを推奨する分量が決められています2)

オメガ6脂肪酸の食事摂取基準

18~29歳 女性8g/日、男性11g/日
30~64歳 女性8g/日、男性10g/日

国の報告書によると、オメガ6脂肪酸は、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患を予防する効果があり、飽和脂肪酸(一般的な植物油に多く含まれる)をオメガ6脂肪酸で置き換えると、冠動脈疾患の発症率が下がることが研究で確かめられています2)。毎日の生活の中で、オメガ6脂肪酸もきちんと摂るようにしたいものです。

ビタミンB6

  • 大腸がんを予防
  • 不足するとうつ、皮膚炎の発生や免疫機能の低下も

ビタミンB6はからだの中で起きるさまざまな反応に関わっているほか、免疫系に維持にも重要な役割を果たしているため、意識的に摂取すべきビタミンの一つです。ビタミンB6が不足すると、うつ、皮膚炎、リンパ球の減少が起こることがわかっています。ナッツの可食部100g含まれるビタミンB6の量を比較してみました1)

ピスタチオ/いり/味付け 1.22mg
ヘーゼルナッツ/フライ/味付け 0.39mg
カシューナッツ/フライ/味付け 0.36mg
マカダミアナッツ/いり/味付け 0.21mg
アーモンド/フライ/味付け 0.10mg

また、ビタミンB6の1日あたりの摂取推奨量は次のとおりです2)

ビタミンB6の食事摂取推奨量

成人(18歳以上) 女性1.1mg/日、男性1.4mg/日

国の報告書によると、ビタミン B6 は大腸がんの予防因子で、男性においてビタミン B6 摂取量が少ないグループに比べ、それよりも多いグループは大腸がんのリスクが30〜40% 低いとのことです。

このデータに基づくと1日2mg程度摂取したほうがよいのですが、データが確定的ではないとの理由から、摂取推奨量を2mg/日にするのを見送ったとのことです2)。ビタミンB6の過剰摂取で健康障害が発現したという報告はないので、意識的に摂取したほうがよい栄養成分といえます。

生活習慣病の発症予防効果が認められない成分

ピスタチオには、上で紹介した以外にも、さまざまな成分か含まれています。ナッツの中で、ピスタチオに多く含まれている成分には、つぎのようなものがあります。

これらの中にも、生活習慣病の予防効果があるという研究論文が出ているものもありますが、論文の数が少ない、データが不十分、予防効果がないという研究結果も出ている、などの理由で、国として「生活習慣病の発症予防効果があるといえない」と結論付けています
もし、これらの成分を取り上げて、健康効果をうたっている場合は、このことを理解した上で、信用するかどうか、判断してください。もちろん、栄養成分としては必要なものです。

  • カリウム
  • βカロテン(ビタミンA、レチノール)
  • トコフェロール(ビタミンE)
  • ナイアシン

また、ピスタチオの健康効果について書いているサイトの多くは、ここで説明した健康効果の部分だけを抜き出して、がんに効果、うつに効果などと書いています。

上の部分を読んでいただいたらわかるように、すべてのがんに対する効果は確認されていませんし、うつに関しては欠乏したときうつ症状が現れることがあるといっているだけで、ビタミンB6の不足がうつの原因ではありません。

食品の栄養成分と健康効果について説明するときは、データからいえることといえないこと整理して説明すべきと考えます。

ピスタチオの美容効果

ピスタチオはからだによい食品ですが、ピスタチオをたくさん摂ったからといって、何らかの美容効果があるとは考えられません。ピスタチオの美容効果としてあげられているものは、次のようなものですが、ほとんどがピスタチオに限らず、多くの食品で認められる効果と考えられます。

  • 腸内環境の改善・便秘予防効果 … 食物繊維を含む食品全般にある効果です。
  • アンチエイジング効果 … βカロテンに抗酸化作用があることに基づくもの。βカロテンを含む食品は他にもたくさんあり、ピスタチオに特徴的な成分とはいえません。
  • 美肌効果 … 脂質を含む食品全般にある効果です。
  • ダイエット効果 … ありません。

ピスタチオのカロリーと食べ過ぎ

ここで改めてピスタチオの栄養成分を整理しましょう。

ピスタチオの45%は殻

ピスタチオは殻付きで売られています。食べる前に殻をむいて中の種子を食べますが、殻の部分は重さの45%もあります。つまり100g入りのピスタチオを買っても、食べるのは半分程度ということになります。

カロリーは他のナッツと変わらない

ピスタチオが他のナッツと比べて、特にカロリーが高いということはありません。またたんぱく質、脂質、炭水化物のバランスや、食物繊維の量もほかのナッツとほとんど同じです。ピスタチオを食べ過ぎると太るという情報もありますが、これはナッツに限らず、どんなものでもたくさん食べると太るのはあたりまえです。

日本食品標準成分表2020年版(八訂)に掲載されているデータに基づいて、主要なナッツの栄養成分を比較しました。いずれも可食部100gあたりの数値です。なおピーナッツ(落花生)は豆類でナッツではありませんが、日本ではナッツと一緒に売られていることが多いので、比較のために載せました。

エネルギー kcal たんぱく質 g 脂質 g 炭水化物 g 食物繊維総量 g
ピスタチオ/いり/味付け 617 17.4 56.1 20.9 9.2
アーモンド/フライ/味付け 626 21.3 55.7 17.9 10.1
カシューナッツ/フライ/味付け 591 19.8 47.6 26.7 6.7
ヘーゼルナッツ/フライ/味付け 701 13.6 69.3 13.9 7.4
マカダミアナッツ/いり/味付け 751 8.3 76.7 12.2 6.2
ブラジルナッツ/フライ/味付け 703 14.9 69.1 9.6 7.2
落花生/大粒種/いり 613 25 49.6 21.3 11.4

まとめ

  1. ピスタチオは中央アジア原産のウルシ科の植物のナッツで、鮮やかな緑色と独特の香りで人気がある。
  2. ピスタチオに多く含まれるαリノレン酸は体内でEPAやDHAに変化する。血液をサラサラにして動脈硬化、狭心症、心筋梗塞などの循環器疾患を予防するほか、認知機能低下や認知症の予防効果も認められている
  3. ピスタチオに多く含まれるリノール酸は、血液をサラサラにして狭心症や心筋梗塞を予防する
  4. ピスタチオに多く含まれるビタミンB6は、大腸がんを予防する効果がある。また不足するとうつ、皮膚炎が起きたり、免疫機能が低下することもある。
  5. ピスタチオには、他のナッツに比べてカリウム、βカロテン、トコフェロール、ナイアシンが多く含まれる
  6. 腸内環境の改善・便秘予防効果、アンチエイジング効果、美肌効果は、ピスタチオに特有の効果ではなく、それぞれの成分を含む食品全般にいえる。またピスタチオにダイエット効果はない
  7. ピスタチオは他のナッツと比べて、カロリーが高いということはない。たんぱく質、脂質、炭水化物のバランスや、食物繊維の量もほかのナッツとあまり変わらない。

参考文献
1) 日本食品標準成分表2020年版(八訂)、文部科学省(2020)
2) 日本人の食事摂取基準(2020 年版)、厚生労働省(2019)