天然由来の甘味料であるこの4つの液体、健康的なイメージがあると思います。
でももともとは砂糖と同じで、植物が作った糖なのです。メープルシロップとアガベシロップは植物の樹液を濃縮したもの、はちみつとマヌカハニーはミツバチが集めたものです。
天然由来というと体によいイメージがありますが、必ずしもそうではありません。
メープルシロップの栄養成分は?カナダが有名
メープルシロップはサトウカエデなどの樹液を濃縮した液体で、世界で8割がカナダで生産され、またその9割がカナダのケベック州で生産されています。つまりケベック州で、全世界の7割のメープルシロップを生産していることになります。
メープルシロップは67%が糖分、32%が水です。
また糖分のほとんどがスクロースで、少量のグルコースとフルクトースが含まれていますが。グルコースとフルクトースはシロップを濃縮する際の加熱で、スクロースが分解して生じたものです。
USDA(米国農務省)のデータベースによると、メープルシロップ100g(260kcal)中の成分は、
- 水分 32.4g
- スクロース 60.4g
- たんぱく質 0.04g
- 脂質 0.06g
- カリウム 212mg
- カルシウム 102mg
- マグネシウム 21mg
- マンガン 2.098mg
となっています。
メープルシロップは主に、樹齢30~100年のサトウカエデから採取されます。冬に備えて根に蓄えられたでんぷんは、春になると多くの糖分を含む樹液として、幹を通って上昇しますが、これをメープルシロップとして採取しています。
そのため採取は春に行われ、樹木1本あたり1~3か所の採取口を設置し、4~8週間の間に1本の木から35~50Lの樹液を採ります。最も樹液の生産量が多いときは1日12Lにもなりますが、これは樹液の7%に相当する量です。
樹液には2~2.5% のスクロースが含まれていますが、これを加熱や逆浸透膜を使って、糖分が66%以上になるよう濃縮したのがメープルシロップです。
メープルシロップは、色、風味、糖の濃度で等級がつけられており、琥珀色が薄いものほど高級品として扱われています。
樹液を加熱して濃縮すると、樹液に茶色い色が付きます。これはキャラメル化反応といいますが、糖の濃度が低い樹液ほど長時間加熱する必要があるので濃い色になります。そのためメープルシロップは、色が薄いほうが高級品になるのです。
さらにこのメープルシロップをさらに濃縮して固体にしたものがメープルシュガー、メープルシロップを加熱濃縮したのち急冷しながら撹拌してクリーム状にしたものがメープルバターです。
アガベシロップは効能があって砂糖よりいいの?
アガベシロップは、リュウゼツランという植物の樹液から採った甘味料です。メキシコなどでよく飲まれるテキーラというお酒をご存じでしょうか。テキーラはアガベシロップを発酵して作られるお酒です。
アガベシロップは68%が糖分、23%が水です。
糖の組成はリュウゼツランの種類によって異なりますが、ブルーアガベという品種から作られたものは、糖分のフルクトースが56~60%、グルコースが20%であるのに対し、スクロースを主に含んでいるものもあります。
USDA(米国農務省)のデータベースによると、アガベシロップ100g(310kcal)中の成分は、
- 水分 22.9g
- 炭水化物 76.4g
- 糖質 68.0g
- たんぱく質 0.1g
- 脂質 0.45g
となっています。
製造時にろ過をしているため、ミネラルはほとんど含まれていません。
アガベシロップは、血糖上昇が穏やかなため、ヘルシーな甘味料などといわれています。これはどういうことかというと、先ほど説明したように、ブルーアガベから作られたアガベシロップに含まれる糖分は、フルクトースが56~60%、グルコースが20%です。
食後の血糖上昇値はグリセミック指数(GI)で表されますが、主な糖類のGIを比較すると、
・スクロース 65
・フルクトース 19
で、フルクトースはスクロース(砂糖の主成分)よりGIの値が低いので、このようなことを言っているのだと思われます。フルクトース単独でのGIが低いのは事実ですが、吸収されていないことにはそれなりの理由があります。
詳しい説明はまた別の機会にしますが、アガベシロップはふつうの甘味料であり、特にヘルシーな甘味料ではありません。
はちみつの成分や糖分はなに?
昆虫のミツバチが集めた花の蜜が分解したもので、ミツバチの巣から採られます。はちみつの成分や色は、蜜のもとになる植物によって異なりますが、おおよそ80%が糖分、20%が水です。
また糖分のほとんどはフルクトースとグルコースで、マルトース、スクロース、オリゴ糖、デキストリンも含まれています。
日本食品標準成分表2020年版(八訂)によると、はちみつ100g(329kcal)中の成分は
- 水分 17.6g
- フルクトース 39.7g
- グルコース 33.2g
- マルトース 1.5g
- スクロース 0.3g
- たんぱく質 0.3g
- ミネラル(灰分) 0.1g
となっています。
花の蜜の主成分はスクロースですが、巣の中で分解されてフルクトースとグルコースになります。蜜が分解されたもの、というのは、このためです。
もしスクロースの量が5%を超えているならば、はちみつ以外のものが混入されている可能性があります。
はちみつに含まれるボツリヌス菌は赤ちゃんに害、大人はどうか
ボツリヌス菌は土壌中や湖沼や河川の底の泥の中にいる微生物で、酸素がない場所で生育します。酸素がある場所では芽胞という「種」の状態になって休眠していますが、低酸素状態(例えば人間の消化管の中)に置かれると発芽・増殖して、ボツリヌス毒素という毒素を作ります。
ボツリヌス毒素は天然の毒素の中で最強といわれており、吐き気、嘔吐から始まり視力障害、言語障害やものを呑み込めなくなるなどの神経症状が起き、ひどい場合は呼吸ができなくなり死に至ることもあります。
はちみつにはボツリヌス菌の芽胞が含まれる場合があります。
少し古いですが、1986年に大阪府立大学の阪口教授が、ボツリヌス菌に汚染よる汚染状況を調査した結果によると、中国産154検体のうち7.1%、ハンガリー産16検体のうち5.6%、日本産131検体のうち4.9%が汚染されており、全512検体中の汚染率は5.7%という結果が公表されています。
この結果を受けて1987年には、当時の厚生省が、「はちみつは1歳未満の乳児には与えてはならない」という通達を出しています。
通常はボツリヌス菌の芽胞が体の中に入っても、芽胞の発芽を妨げる腸内細菌叢があるため、芽胞はそのまま体外に排出されます。ところが腸内細菌叢の発達が不十分な乳児が摂取すると、芽胞が腸内で発芽し毒素を出し、乳児ボツリヌス症を引き起こすことがあります。
芽胞の不活性のためには、120℃で4分以上の加熱が必要ですが、はちみつはこのような高温高圧殺菌処理をすることができません。なおふつうに煮沸しても、温度は100℃までしか上がらないため、芽胞を死滅させることはできません。
またはちみつの中には、ごくまれに有毒植物からの蜜や花粉が混入していることがあり、それを食べると食中毒を起こすことがあります。このような植物を有毒蜜源植物といいます。
マヌカハニーは咳に効果ない?ほかの効能はあるのか
マヌカハニーは、ニュージーランドに自生しているフトモモ科のマヌカ(mānuka tree)という木の花の蜜から採ったはちみつです。
マヌカというのはニュージーランドの原住民であるマオリが使う名前です。
マヌカハニーには甘味料として使われるというよりも、さまざまな健康効果を期待して使われているようです。確かにいろいろな効果があるといわれていますが、科学的にきちんと証明されているわけではありません。
あくまでも民間療法のようなものであり、何らかの効果を期待してマヌカハニーを摂ることはやめたほうがよいと思います。
マヌカハニーを食品として摂ったときに期待される効果は次の通りです。いずれもマヌカハニーに含まれるメチルグリオキサールという抗菌成分の効果と思われます。
- 喉の痛みを和らげる
マヌカハニーには抗ウイルス作用、抗菌作用があるため、のどの痛みの原因となる菌を減らす可能性があります。また喉の粘膜を覆うことで、鎮静効果をもたらすともいわれています。マヌカハニーが入ったのど飴も売られています。ただ、のど飴に含まれている程度の量で、本当にこの効果が得られるのかは、定かではありません。のど飴はあくまでも食品です。本当にウイルスや細菌を減らしたいのであれば、トローチ(医薬品)を使うべきです。 - 口腔の健康を促進する
マヌカハニーは歯垢の形成、歯茎の炎症、虫歯に関与する有害な口腔細菌を攻撃するそうです。先ほどの抗菌効果と同じことです。 - 胃潰瘍の予防に役立つ
マヌカハニーにはピロリ菌に対する殺菌効果があるといわれていますが、マヌカハニーを日常的に食べた人と食べなかった人で、胃潰瘍の発生率に差があったというデータは存在しません。毎日大さじ1杯のマヌカハニーを2週間続けて食べても、ピロリ菌は減少しなかったとの報告もあります。マヌカハニーには胃潰瘍の予防に役立つというのは、明らかに言い過ぎです。 - 過敏性腸症候群(IBS)の症状を軽減する
マヌカハニーの定期的に摂取でIBSの症状を軽減するのに役立つといわれています。これはマヌカハニーの成分がラットの炎症を軽減すること、細菌感染症の原因となる菌に対し抗菌作用を示すことが理由のようですが、これも明らかに言い過ぎです。マヌカハニーを食べてもIBSの症状は軽減しないと思います。もし軽減するなら、メチルグリオキサールが治療薬として使われているはずです。
ただマヌカハニーにもきちんとした効果が認められている効果もあります。
それは切り傷、火傷などの治療効果です。マヌカハニーは創傷治療のための方法の一つとして、アメリカの食品医薬品局(FDA)によって承認されています。ただこれは創傷治療目的に限ったもので、上に書いたような目的ではありません。
「マヌカハニーはFDAが認めた」などと書いてある場合がありますが、だまされないようにしてください。
マヌカハニーには抗菌性と抗酸化性があり、またふつうのはちみつよりも強い粘り気があるため、傷口の乾燥を防ぎ、バリア効果もあります。確認はしていませんが、マヌカハニーが入った創傷治療薬というのがあるのかもしれません。
けがや火傷をしたときに、マヌカハニーをガーゼにつけて貼り付けたらよいという、とんちんかんなことを書いている人がいますが、決してそのようなしないでください。薬がなかなか手に入らない時代ならともかく、いまはさまざまな薬や医療材料が簡単に手に入ります。
プロポリスはミツバチが集めた樹脂
甘味料ではないのですが、マヌカハニーと似た使われ方をするプロポリス(Propolis)についても紹介しておきます。
プロポリスはミツバチが集める成分のうち、糖分ではなく樹脂にあたるもので、強い抗菌作用や抗炎症作用があります。
植物に含まれる樹脂(ヤニ)や樹液に、ミツバチの分泌物が合わさってできているものです。プロポリスという名前の由来は、Protect(守る)、Polis(都市)から来ており、ミツバチの巣を頑丈にして巣を守るための成分です。
プロポリスはあくまで食品なので、規格のようなものはありません。採れた場所によって、ミツバチが集めてくる樹脂に違いがあるため、成分も分量も異なります。
抗菌・抗ウイルス作用、抗真菌作用、抗酸化作用、抗炎症作用があるといわれていますが、どのような条件でテストしたかによって結果は全く違ってくるので、これらの効果を期待して食べることはやめるべきです。また肝臓保護作用や抗がん作用もあるといわれていますが、こちらはもっと信憑性が低いと思います。
4つの天然甘味料の違いと砂糖との比較
ここで取り上げた天然由来の甘味料の、原料、製造方法、成分、価格を整理し、砂糖と比較してみましょう。
メープルシロップ | アガベシロップ | はちみつ | マヌカハニー | 砂糖(上白糖) | |
---|---|---|---|---|---|
原料 | サトウカエデの樹液 | リュウゼツランの樹液 | 花の蜜 | マヌカの花の蜜 | サトウキビ、サトウダイコンの樹液 |
製造方法 | 濃縮 | 濃縮 | 巣から採取 | 巣から採取 | 濃縮・精製 |
形態 | 液体 | 液体 | 液体 | 液体 | 固体(粉末) |
カロリー | 260kcal/100g | 310kcal/100g | 329kcal/100g | 391kcal/100g | |
水分量 | 32g/100g | 23g/100g | 18g/100g | 0.7g | |
乾燥重量あたりのカロリー | 382kcal/100g-dry | 397kcal/100g-dry | 374kcal/100g-dry | 394kcal/100g-dry | |
主成分 | ほぼスクロース | フルクトース56~60%、グルコース20% | フルクトース53%、グルコース44% | スクロース | |
他の成分 | ミネラルを少量含む | 含まない | たんぱく質、ミネラルを含む | たんぱく質、ミララルを含む | 含まない |
価格
|
220~320円/100g | 130~200円/100g | 50~500円/100g | 1,500~3,500円/100g | 20~30円/100g |
メープルシロップ、アガベシロップ、はちみつ、マヌカハニーは天然甘味料ですが、砂糖も天然の甘味料です。
メープルシロップやはちみつには健康によい成分が含まれているといいますが、それれは精製されていないから、そのまま残っているだけです。砂糖も精製されていない黒砂糖には、たくさんのミネラルが含まれています。上記の価格差が、その糖分以外の成分を摂るために妥当な金額か、よく考える必要があります。
メープルシロップやはちみつは砂糖よりカロリーが低いといわれますが、これも水分が含まれているからにすぎません。メープルシロップも砂糖も、乾燥した状態で比較すると、カロリーはほとんど変わりません。
最後に、糖の成分について触れておきます。
メープルシロップと砂糖は主成分がスクロース、アガベシロップとはつみつは主成分がフルクトースとグルコースです。ですから、糖質の中身についていえば、メープルシロップと砂糖は同じものです。
スクロースは消化酵素でフルクトースとグルコースに分解されてから吸収されますので、結局はフルクトース50%、グルコース50%が含まれているのと同じことになります。
アガベシロップとはちみつは、フルクトースが50~60%、グルコースが20~45%と、糖の成分が似ています。グルコースに比べてフルクトースは吸収されにくいため、フルクトースの多いこれらの甘味料は、血糖値の上昇が緩やかになります。
しかし、血糖値が上昇することには違いないので、血糖値が気になる方は、砂糖をはちみつに置き換えるのではなく、砂糖もはちみつも摂らないとか、半分にするというのが、正しいやり方です。
まとめ
- メープルシロップはカエデの樹液を濃縮したもの液体で、糖分は66%、主成分はスクロースです。
- アガベシロップはリュウゼツランの樹液を濃縮したもので、糖分は68%、主成分はフルクトースとグルコースです。
- はちみつはミツバチが集めた花の蜜が分解した液体で、糖分は80%、主成分はフルクトースとグルコースです。
- マヌカハニーはニュージーランドのマヌカという木に咲く花の蜜を集めたはちみつで、抗菌作用、抗炎症作用があることから、甘味料というより健康食材として注目されています。
- 乾燥状態で比較すると、メープルシロップ、アガベシロップ、砂糖のカロリーはほぼ同じです、メープルシロップやはちみつに健康によい成分が含まれるというのは、精製されていないからです。