精製された白砂糖が危険と、いろいろなところで言われています。
でもその理由を正しく説明している記事は少ないと思います。精製しているものが危険なのでしょうか。
糖類について2015年にWHOがガイドラインを出し、摂取量を控えたほうが健康上のメリットがあるといっています。でもこれを、白砂糖を摂るなと言っていると、すり替えている記事もあります。
白砂糖が体に悪いと白砂糖断ちする人たちの主張
白砂糖が危険だという理由はなんでしょうか。いろいろなことが言われていますが、そのほとんどを網羅している主張を、あるクリニックのホームページで見つけました。せっかくなので、原文のまま引用させていただきます。
白砂糖の害は以下の様な項目が挙げられます。
・体の糖化がすすむ
・腸のカビを増やす → 腸内細菌が乱れる
・酵素の働きを邪魔する
・活性酸素をたくさん発生させる
・ビタミンミネラルを失う
・血糖が乱高下する。
・カルシウムを奪う:血液をアシドーシスに傾き、血液平衡を保つためにカルシウムが動員される。
・ビタミンを奪う:砂糖を分解するクエン酸サイクルではビタミンB群が必要。多量の砂糖をとるとクエン酸サイクルをまわすためのビタミンB不足となる。
・肝臓を悪くする:脂肪肝
・胃を悪くする:砂糖は胃の消化能力を落とす。胃のぜん動を弱める。3~10分間
・皮膚感染を起こしやすくなる
・動脈硬化:糖は血中で中性脂肪に変わる
・砂糖の過食は子どもの成長発育にとくに必要なアミノ酸であるリジンをこわしてしまい、タンパク質栄養価がずっと低下する。
これを読んだら誰だって「白砂糖なんて摂るべきではない」と思いますよね。
この文章を書かれた方が何を根拠にされたのかわかりませんが、ほとんど間違っています。
白砂糖で起こるけれども、他の糖類やでんぷんでも起こる現象について、あたかも白砂糖特有の現象であるかのように述べておられます。それだけでなく、医学的に意味不明の文章もありました。
一つずつ、説明していきたいと思います。
白砂糖の害?医学的にまったく意味不明です
白砂糖を摂ることで、腸のカビを増やす ➡ ✖
腸のカビとはカンジダ菌のことを指していると思われます。
「抗生物質」(←白砂糖ではありません)を服用すると、腸内細菌が死んでしまうことがあり、そのとき腸内にわずかに生息しているカンジダ菌が優勢になり、腸内細菌のバランスを崩してしまうことがあります。
しかし白砂糖を摂ることで腸内細菌が死んだり、カンジダ菌が増えたりする理由は、まったくわかりません。ちなみにカンジダ菌は、小腸や膣粘膜の常在菌で、体調の変化によって膣内で異常増殖することがあり、かゆみと多量のおりものを伴う膣カンジダ症を起こします。
別の記事には、砂糖の摂り過ぎが、膣カンジダ症を引き起こすと書かれていました。どこかに間違った情報源があり、またそれを間違って引用しているもかもしれませんが、まったく馬鹿げています。
白砂糖が酵素の働きを邪魔する、活性酸素をたくさん発生させる ➡ ✖
まったく意味不明です。糖尿病患者さんが糖類(でんぷんを含む)をたくさん食べると、血管内で活性酸素を発生させることはありますが、健康な人が砂糖を少しくらい食べたところで、そんなことは起こりません。
アシドーシスになりカルシウムが動員される ➡ ✖
「白砂糖を摂ると血液をアシドーシスに傾き、血液平衡を保つためにカルシウムが動員される。」
これは医学の知識がある人が書いた文章とは思えないほど、ひどいものです。
アシドーシスとは血液中のpHが酸性側に傾いた状態です。アシドーシスになる原因は、白砂糖ではなく、糖尿病でインスリンの分泌が低下し、血液中のグルコースをエネルギーに変えることができず、脂肪をエネルギー源として使った結果、その老廃物であるケトン体(酸性物質)が増えることが原因です。
重度のアシドーシスになると、意識を失います。血液が酸性になると、バランスをアルカリ性に戻すために血液中のカルシウム濃度が高くなるのは事実ですが、白砂糖⇔アシドーシス⇔カルシウムの間には指摘されているような関係はありません。
胃の消化能力が落ちる ➡ ✖
砂糖が胃の消化能力を落とすとありますが、これも意味不明です。
すべての栄養を砂糖だけで摂った場合、胃は働く必要がなくなるので、蠕動運動は弱まります。しかし他の食べものと一緒に砂糖を摂ったからといって、蠕動運動が弱まることはありえません。
皮膚感染を起こしやすくなる、リジンを破壊する ➡ ✖
砂糖を摂ったら皮膚感染を起こしやすくなるとも書かれていますが、こんな話、聞いたことがありません。
また砂糖の過食が、アミノ酸であるリジンを破壊するとのことですが、これも意味がわかりません。
リジンは必須アミノ酸の一つで、体内で合成できないため、食物として摂る必要があります。アミノ酸を分解するのは、グルテミン酸デヒドロゲナーゼという細胞内にある酵素ですが、リジンだけを分解するわけではありません。何を根拠にこんないい加減なことを言っているのか、理解できません。
白砂糖だけでなく、すべての糖質で起きる現象
体の糖化とは、食事から摂った余分な糖質が体内のたんぱく質などと結びついて、細胞などを劣化させる現象です。活性酸素とともに老化の原因になることから、「体の糖化」もいろいろなところで取り上げられています。特に肌のシワやシミ、クスミの原因になるので、女性には気になるところです。
体の糖化は、白砂糖だけで起こるものではありません。
ごはん、パンなどのでんぷんや、白砂糖が入っていない甘い飲み物(清涼飲料水)でも同じように起きます。体の糖化は炭水化物、糖質の摂りすぎが原因で起こることであり、白砂糖だけに起きることではありません。
「ビタミンミネラルを失う」と、「ビタミンを奪う」は、おそらく同じことを言っていると思われます。
これも白砂糖だけで起こることではなく、すべてのでんぷんや糖質で起きることです。
でんぷんや糖質はグルコースに分解されて小腸から吸収されますが、体内でグルコースをエネルギーに変えるときに、ビタミンB群が必要となります。そのため、白砂糖が代謝されるときに、ビタミンB群を消費するということを言っているのだと推測します。
でも実は、たんぱく質や脂質の代謝の際も、ビタミンB群が必要なんです。炭水化物であれ、たんぱく質、脂質であれ、食べたものをエネルギーに変えるために、ビタミンB群が必要なのであって、白砂糖だけに限った話ではありません。
さらに、脂肪肝と動脈硬化は、血液中で余剰のグルコースが中性脂肪として貯蔵される結果、起きることです。何度も言うようにこれは白砂糖に限った話ではなく、すべてのでんぷんや糖類の食べ過ぎで起きることです。
白砂糖の作り方?恐怖の都市伝説
白砂糖は白くするときに、「漂白」されている。漂白剤は危険なので、白砂糖は食べないほうがよい。
あるいは、白砂糖は、もともと茶色かった砂糖を「精製」したもの。精製されているのはよくないので、白砂糖は危険。
こんな都市伝説がいまだに流れています。
まず白砂糖を作る際に漂白は行われていません。
白砂糖が白いのは、砂糖の成分である「スクロース」の結晶が白いからです。砂糖は、さとうきび、てん菜などの植物に含まれる汁から採りますが、植物を搾って得られた汁には、スクロース以外の成分が含まれています。それを取り除いて、サッカロースの純度を高くしたものが、白砂糖なのです。
食塩は塩化ナトリウムの純度を高めたもの、小麦粉は小麦のでんぷんの部分の純度を高めたもので、白色をしています。ちなみに過去に小麦粉は漂白していたことがありましたが、現在は行われていません。
要するに、白砂糖の色は、その物質の色で、漂白したものでも着色したものでもありません。
WHO(世界保健機関)は何と言っているか
こちらもネットの記事ですが、そのまま引用させていただきます。
2014年3月白砂糖が及ぼす影響を重く見たWHOは成人が1日に摂取していい白砂糖の上限をこれまでの約50gから約25gに引き下げるべきというガイドライン案を公開し、白砂糖が体に悪いと言う事が世界的な認識となりました。
これも全くのウソ情報です。
確かに2015年にWHOはガイドラインを公表しました。しかしそれは白砂糖についてではなく、free sugarsについてです。WHOのホームページによると、free sugarsとは、
- 単糖類…グルコース、フルクトース
- 二糖類…スクロース、テーブルシュガー
- 蜂蜜、シロップ、フルーツジュース、および濃縮果汁中に自然に存在するこれらの糖類
と説明しています。free sugarsという用語は、日本ではあまり使いませんが、比較的容易に吸収される糖類のことを指しています。
白砂糖の成分はスクロースなので、白砂糖はもちろんこのガイドラインの対象物質ですが、加工食品や清涼飲料水で多用されている「果糖ぶどう糖液糖」も対象物質です。
果糖ぶどう糖液糖は、フルクトース(果糖)とグルコース(ぶどう糖)の混合物で、消化酵素で分解されることなく、そのまま吸収されます。
白砂糖よりこちらの方を控えるべきと個人的には考えます。また白砂糖を糾弾している人たちが愛してやまない「黒砂糖」にも、スクロースが100g中87.3g含まれているので、もちろんこのガイドラインで摂取を控える対象です。
・さらに1 日あたり 5% 未満または約 25 gまで減らすと、追加の健康上の利点が得られます。
・新鮮な果物や野菜に含まれる糖分、および牛乳に自然に含まれる糖分については言及しません。これらの糖分の摂取による悪影響の報告がないためです。
要するに、1日当たり摂取する遊離糖類の摂取量は、総エネルギー摂取量の10%未満、できれば5%未満にしたほうがよいということです。
1日の摂取カロリーというのは個人差が大きいのですが、仮に活動量が少ない成人男性で2,200kcal、成人女性で1,700kcalとすると、10%とか5%というのは、砂糖の量に換算すると次のようになります。
成人男性 | 10% | 220kcal | 砂糖として56g | 角砂糖14個 |
5% | 110kcal | 砂糖として28g | 角砂糖7個 | |
成人女性 | 10% | 170kcal | 砂糖として43g | 角砂糖11個 |
5% | 85kcal | 砂糖として22g | 角砂糖5個 |
WHOのガイドラインの内容を一言でいうと、
ということです。
白砂糖に限った話ではないことは、ご理解いただけたと思います。
このガイドラインはネット上で公開されており、誰でもダウンロードして読むことができます。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
https://www.who.int/publications/i/item/WHO-NMH-NHD-15.3
白砂糖、黒砂糖、三温糖の違いと成分
サトウキビやてん菜(サトウダイコン)を搾って出てきた汁を集め、石灰と一緒に煮ることで、砂糖の成分(スクロース)を濃縮していきますが、最初にできた砂糖が黒砂糖です。
黒砂糖には、もともと植物に含まれていた成分が残っているため、色が茶色く、独特の味があります。
ここからさらにスクロースを濃縮するため、洗浄、ろ過、活性炭による吸着、遠心分離などを行ってスクロース以外の成分を取り除いたのが、白砂糖です。実は白砂糖という分類はなく、上白糖といいます。
このほかに、三温糖やグラニュー糖というのもあります。
三温糖はグラニュー糖や上白糖を作ったあとの、残りの糖蜜から作られる砂糖です。原料となる糖蜜には不純物が含まれているため、着色しています。グラニュー糖は最も純度の高い砂糖で、スクロースの結晶からできています。
日本食品標準成分表2020年版(八訂)から、黒砂糖、上白糖、三温糖、グラニュー糖の主な成分量を抜粋しました。いずれも100g中の重量で表わしています。
黒砂糖はたんぱく質やミネラル(灰分)、水分を多く含んでいるため、スクロースの量は87.3gと少なく、カロリーも若干低いですが、上白糖、三温糖、グラニュー糖のスクロースの量もカロリーも、ほとんど変わりません。
黒砂糖は他の3つに比べると、ミネラルを多く含むといえそうですが、三温糖に含まれるミネラル量は微量なので、ミネラル摂取を目的に三温糖を使うメリットはありません。
白砂糖が体に悪く、黒砂糖は体によい、といわれることもありますが、ミネラル分が多く、スクロースが少ないことが、体によいと言えないので、これも正しいとはいえません。
まとめ
- 白砂糖が危険といっている人の説明には科学的根拠がありません。でんぷんや糖類の摂り過ぎによって起こる影響を白砂糖の害といっている場合もあれば、全く間違ったことを言っている場合もあります。精製したものが体に悪いというのも、意味がありません。
- WHOは2015年に糖類の摂り過ぎによる肥満、虫歯を防ぎ、より健康になるためのガイドラインを出しています。そこでは新鮮な果物や野菜、牛乳以外の、加工食品、清涼飲料水、砂糖、シロップ、はちみつに含まれる、グルコース、フルクトース、スクロースの摂取量を、1日25g以下にすることを推奨しています。これは砂糖(スクロース)に限ったことではありません。
- 黒砂糖のほうが白砂糖より健康によいという根拠はありません。上白糖、三温糖、グラニュー糖よりもカロリーが低く、ミネラルが多いのは事実ですが、これが健康によいという理由にはなりません。同じく薄茶色の三温糖も、上白糖と比べて栄養的に優れているわけではありません。