アワ、キビ、ヒエ、モロコシなど、雑穀がブームになっています。
雑穀はもともとお米が採れない地域で食べられていた穀物なので、味は落ちますが、食物繊維、ビタミン、ミネラルを多く含んでいます。ごはんに混ぜたり、お菓子に加工したりして食べます。一方のスーパーフードは、栄養値が高く、栄養バランスに優れた食品のことで、海外で食べられている食材が多いようです。
雑穀やスーパーフードについて、詳しく見ていきましょう。
雑穀とは、どんな種類があるの
穀物は人間が主食にする植物のことで、お米、麦類、豆類、トウモロコシなどがあります。
世界中でいろいろな種類の穀物が栽培されていますが、生産量が多いのはトウモロコシ(年間10.3億トン)、小麦(年間7.4億トン)、米(年間4.8億トン)で、これが世界三大穀物といわれるものです。ちなみにこの量は人間が食べる分と、家畜のえさになる分の合計です。ただ家畜の肉や卵も最終的に人間が食用にするので、これらの穀物はすべて人間が食べるために生産されていることになります。
ところでここで取り上げる「雑穀」という言葉は、日本語特有の表現で、お米、小麦、大麦といった主穀以外の穀物を指す言葉です。英語には雑穀に相当する言葉はなく、あえて訳すとすればMillet(キビ、ヒエ)になります。雑穀の定義もきちんと決まっていないようで、
狭い意味では、
イネ科キビ亜科に含まれる植物のうち、米、小麦、大麦以外のもの
とされていますが、多くの場合、
上記のものに加えて、キビ亜科以外のイネ科の植物、豆類、ソバ、キヌア、アマランサス、油糧穀類(油を採るための植物の種子)を含めて雑穀と呼んでいます。確かに豆やゴマは穀物ではありませんが、穀物の代わりに使うことはあります。そのような意味から、この記事では広い意味での雑穀について取り上げていきたいと思います。
次に主な雑穀について、由来と用途をご紹介します。
アワ(粟)
イネ科キビ亜科エノコログサ属
五穀のひとつ。
日本へはイネ(お米)より早く伝わり、縄文時代には栽培されていました。江戸時代まで庶民の食料として、ヒエとともに広く栽培されていたが、現在は生産量が激減しています。食用としては、お米に混ぜて炊飯するか、粟おこしの原料として使われる程度で、ほとんどが家畜やニワトリのエサにとして使われています。ふだんの生活でアワを見かけることはほとんどありませんが、「濡れ手で粟」ということわざは、よく知られています。濡れた手でアワの粒をつかむと、小さな粟の粒が手引っ付いてきます。これから転じて、苦労しないでたくさんの利益を得ることを、濡れ手に粟というようになりました。
キビ(黍)
イネ科キビ亜科キビ属
五穀のひとつ。
アワ、イネなどよりも後に日本に伝わったようです。現在では実をそのまま炊いて粥にしたり、お米と一緒に炊飯したり、粉にして餅や団子にすることもあります。民話「桃太郎」に出てくるきびだんご(正確には「黍団子」)は、キビの粉を蒸してからついて作った団子です。ちなみに現在岡山県で売られているきびだんごは、もち米、水飴、砂糖から作られる求肥が主原料で、キビは香りづけに使われている程度で、桃太郎のおばあさんが作った団子とはだいぶ違うようです。
ヒエ(稗)
イネ科キビ亜科ヒエ属
五穀の一つ。
ヒエは中国から伝わったのではなく、日本で独自に栽培化された可能性が高いといわれています2)。縄文時代前期には、北海道や東北で栽培されており、イネの栽培に適さない地域を中心に、お米のように粒のまま炊飯する、お粥にする、餅にするなどさまざまな方法で、主食として食べられてきました。昭和に入ってお米が増産されるようになり、ヒエの栽培は廃れていき、現在は主に小鳥のエサなどの飼料用に生産されています。
なお、シコクビエとトウジンビエという名前の雑穀は、ヒエという名前がついていますが、ヒエの仲間ではありません。
モロコシ(別名:タカキビ(高黍)、コーリャン(高粱)、ソルガム)
イネ科キビ亜科モロコシ属
熱帯アフリカの植物で、室町時代に中国を経由して伝来したといわれています。日本では山間地でお米に混ぜるための主食用に栽培されていましたが、お米の増産ができるようになると、廃れてしまい、飼料用として一部で栽培されるのみとなっています。このように日本ではほとんど見かけない穀物ですが、乾燥に強いため、小麦やイネが育たない地域で栽培されており、トウモロコシ、小麦、イネ、大麦に次いで世界で5番目に多く栽培されています。
なお、タカキビという名前がついていますが、キビとは異なる品種です。またトウモロコシとも離れた関係にあります。
シコクビエ(四石稗)
イネ科オヒシバ属(キビ亜科ではない)
ヒエという名前がついていますが、ヒエの仲間ではありません。アフリカ原産の植物で、米食が広がる前に日本でも栽培されていたとされますが、五穀には含まれていません。現在は中部地方や四国の中山間地でわずかに栽培されているのみです。粗割りしてから炊いて粥にして食べる、あるいは粉にしたものを団子にして食べるなどの食べ方があり、インドや東アフリカではいまも貴重な食料となっています。四石稗という名前は1反(1,000m2)あたり4石(720L)採れるところから付いたといわれています。
トウジンビエ(唐人稗)
イネ科キビ亜科チカラシバ属
こちらもヒエという名前がついていますが、ヒエの仲間ではありません。アフリカ原産で、いまもサハラ砂漠の南側やインドなど、高温で雨が少なく土地がやせた地域で主要穀物として栽培されています。日本ではほとんど栽培されていません。粥にして食べたり、粉にしてパンやクスクスに加工したりするほか、家畜や鳥のエサとしても使われています。
ハトムギ(別名:シコクムギ、トウムギ)
イネ科キビ亜科ジュズダマ属
麦という名前ですが、小麦や大麦の仲間ではありません。東南アジア原産で、日本には奈良時代までに伝わったようです。お米と一緒に炊いて食べるほか、粉に挽いてから餅や団子にして食べることもできます。ハトムギにはいぼ取りや炎症を抑える作用があるため、漢方ではヨクイニン(薏苡仁)という名前で使われています。爽健美茶や十六茶にも使われていますね。ハトムギは水分の多い土壌でも生育できるため、水田転作作物に指定され、各地の休耕田で栽培されるとともに、品種改良も行われています。
エンバク(別名:カラスムギ、オーツ麦、オート麦)
イネ科カラスムギ属(キビ亜科ではない)
中央アジア原産で、ヨーロッパ、北アメリカの小麦の栽培に適さない地域を中心に世界中で栽培されています。生産量は年間2,000万トンで、トウモロコシ、小麦、イネ、大麦、ソルガムについで6番目に生産量の多い穀物です。日本へ入ってきたのは明治時代で、北海道で馬の飼料として栽培が始まりました。エンバクには血中コレステロール値や血糖値の上昇抑制作用、降圧作用などがあるといわれており、エンバクを脱穀した後、加熱してローラーで延ばしたオートミールやこれを使ったグラノーラが、販売されています。
テフ
イネ科スズメガヤ属(キビ亜科ではない)
東アフリカのエチオピア原産で、種子を穀物として利用します。現在もエチオピアで栽培されており、石臼で挽いて作った粉に水を加えて生地を作り、焼いたパンケーキ状のものが、エチオピアの主食となっています。鉄分が多く、スーパーフードの一つとして注目されており、エチオピア以外の場所でも栽培が始まっています。
ソバ
タデ科ソバ属(イネ科ではない)、擬穀類
中国原産で、日本では弥生時代から栽培されています。種を採取して製粉したものがそば粉で、日本では麺にしたり、熱湯でこねて餅(蕎麦がきといいます)にして食べます。フランスではそば粉に塩、水を加えて薄く焼いた生地に、卵、ハム、野菜などをのせたガレットという料理も作られています。そばは穀物ですが、イネ科ではないため、このあと説明するアマランサスやキヌアなどとともに、擬穀類に分類されます。
アマランサス
ヒユ科ヒユ属(イネ科ではない)、擬穀類
南米で紀元前から栽培され、中南米で種子が穀物として主食にされてきました。赤い花が咲くことから、江戸時代に観賞用として日本にも伝わりましたが、種子を採るために大規模に栽培されることはありませんでした。ビタミンやミネラルを豊富に含むことから健康食品として注目され、煮た種子を料理のトッピングにするなどして、使われます。
キヌア(別名:キノア)
ヒユ科アカザ属(イネ科ではない)、擬穀類
南米アンデス山脈の高地が原産で、長年この地域で栽培され、スープにするなどして長い間食用とされてきましたが、栄養価が高く、近年、スーパーフードとして注目されたことから、日本でも栽培がおこなわれるようになりました。日本ではお米に混ぜて炊いたり、クッキーやケーキを作る際に小麦粉に混ぜたりして食べられます。
まとめ
- 雑穀は、お米、小麦、大麦といった主穀以外の穀物を指す日本特有の言葉で、定義もきちんと決まっていません。日本では、お米が採れない地域でお米の代わりに食べられていた穀物を指していることが多いようです。
- 雑穀は栄養価が高いといわれていますが、きれいに精米され、でんぷんの部分だけになっているお米が、でんぷん以外の成分を含まないのに対して、雑穀は種皮や胚芽など、でんぷん質以外を多く含むことが理由です。ただそのため、特有の味やにおいがあり、主食として食べるには適していません。
- さまざまな雑穀がありますが、中には費用対効果の点で疑問に感じるものも含まれています。