きしめん、伊勢うどんの違い 味噌煮込みうどんはどうして煮込んでも平気?

名古屋のきしめん、味噌煮込みうどんと、三重県の伊勢うどん、どれもよく知られた存在ですが、原料も作り方も全く違います

きしめんと味噌煮込みうどんは中力粉から作りますが、きしめんは打つときに食塩を多く入れるのに対し、味噌煮込みうどんのめんは食塩を入れません。一方極太めんの伊勢うどんはグルテンの少ない薄力粉が原料で、コシがなく軟らかいのが特徴です。

東海地方にはちょっと変わったうどんがありますね。

きしめんは名古屋の歴史あるうどん

名古屋には他地域とは異なる食文化があり、名古屋で食べられる名物料理を「名古屋めし」と呼んでいます。

味噌かつ、手羽先唐揚げ、ひつまぶし、台湾まぜそば、あんかけスパゲティと、数えるときりがありません。そんな中で、きしめんも古くからある名古屋めしの一つです。

きしめんは、幅が広く、薄く平たい形状のうどんです。家庭用に売られているのは、ほとんどが乾めんと冷凍めんですが、昔ながらの製法で作った生めんを提供しているお店もあります。

乾めんは、日本農林規格(JAS)の品質表示基準で、

幅を4.5mm以上とし、かつ、厚さを2.0mm未満の帯状に成形したもの

と決まっており、きしめんという名前のほか、ひらめん、干しひらめん、ひもかわと記載することもできるそうです。

冷凍めんや生めんの場合は基準はないので、製造業者が「これは『きしめん』だ」といえば、それでOKのようです。

ところできしめんという名前の由来には主に3つの説があるようです。

  1. 雉(きじ)の肉を具材として使用し、藩主への献上品として差し出していた雉麺(きじめん)がきしめんになった。
  2. 紀州(和歌山県)の人から伝わった、紀州麺という名前がきしめんになった。
  3. 小麦粉を練って平たく伸ばし、竹筒などで碁石の形に抜いてゆで、きなこをかけた中国のお菓子である碁石麺(きしめん)がきしめんになった。

どれが正しいのでしょうか。

きしめんの特長は食塩を多く加えること、調理方法も違う

幅が広く、薄く平たい形状のうどんがきしめんだと書きましたが、本格的なきしめんは、ふつうのうどんとは違う作り方をしているようです。

きしめんは、

  • 幅が広い
  • 薄い
  • 長さが長い

という特徴があるので、ふつうのうどんと同じように作ると、切れやすくなります。そこで、伝統的なきしめんは、次のような方法で作られているそうです。

生地をつくるとき食塩を多く入れる

きしめんの原料は、うどんと同じ小麦粉(中力粉)です。うどんもきしめんも、中力粉に水を加えてこねることで、生地の中にグルテンができて、それがめんの弾力、コシのもとになります。うどんに比べて、幅が広く、薄く、長いきしめんは、切れやすいため、よりしっかりとしたグルテンを作る必要があります。

そのため生地を作るときに、うどんよりも多くの食塩を加えて、生地を作っています。

讃岐うどんでは、強いコシを出すために、食塩量が小麦粉重量に対して 3%以上と黄規定されており1)、たいていの場合は4~5%の食塩が使われているようです。これに対し、きしめんではさらに強いコシを出すため、15%前後、夏場は20%以上の食塩を使っている場合があるようです。なお、これと同じことは、そうめんでも行われています。細いそうめんが切れにくくするためには、しっかりとしたグルテンを形成させなければなりません。そのため生地をつくるときに、うどんや冷や麦に比べて、たくさん食塩を入れています。

生地の熟成時間が長い

手打ちの讃岐うどんの場合は、当日の早朝から生地を作り、6時間ほど熟成させてから、めんに加工するそうです。これに対して伝統的なきしめんの場合、一昼夜生地を寝かせています。熟成の目的は、水分がでんぷんの粒子全体に均一にいきわたるようにする、生地の中の空気を取り除く、小麦粉にもともと含まれる分解酵素によって生地の旨みを出す、などです。きしめんはこの熟成を長い時間行います。

茹でる時間は短い

きしめんはうどんに比べて短い時間(3~5分)で茹で上がります。これは薄くて平らという形状もありますが、めんに含まれる塩分が多いということも理由の一つです。

みなさん、浸透圧というのをご存じでしょうか。塩分を多く含むめんは、塩分の少ないめんよりも、水分が中に入りやすいのです。茹でるときに、うどんより水が浸透しやすいため、早く火が通ります。このとき、めんに入っていた塩分は茹で汁に溶けだすので、きしめんを食べても塩分の摂り過ぎになりません

山梨県には「ほうとう」という名前の料理があります。これは小麦粉で作った太くて短い麺と、かぼちゃ、こぼう、きのこと一緒に味噌を入れた汁で煮込んだもので、ここで使われる小麦のめん自体を「ほうとう」という場合もあります。「ほうとう」と「きしめん」は形が似ており、同じものだといっている人もいますが、全く別物です。ほうとうは7~10分くらい煮込む必要がありますが、きしめんをこんなに煮込むと、伸びてしまいます。

原料の小麦

日本で流通している中力粉の多くは、オーストラリアの「オーストラリアン・スタンダード・ホワイト」(AWS)から作られています。

この品種はうどんを作るのに適しており、讃岐うどんや手延べそうめんの製造にも使われています。もともと、うどんやそうめんの産地は小麦の栽培が盛んで、地元でされた小麦粉を使って、めんを作っていました。愛知県の小麦生産量は都道府県別で4位と、小麦の生産が盛んな地域です。愛知県農業総合試験場が育成した「きぬあかり」という品種は、在来品種よりうどんやきしめんに適した性質があり、単位面積当たりの収穫量が多いことから、平成30年産では県内の作付面積の9割で栽培されるまでになりました。この結果、愛知県は単位面積当たりの小麦の収穫量が全国1位となっています。きぬあかりから作られたきしめん、ぜひ食べてみたいものです。

味噌煮込みうどんは名古屋で使われる八丁味噌が決め手

愛知県では大豆を原料とする豆味噌がよく使われます。特に米麹も麦麹も使わず、豆麹で作られる八丁味噌が有名で、味噌カツのソースにも使われています。味噌煮込みうどんは八丁味噌を使った名古屋めしの一つで、太くて硬い手打ちめんを土鍋に入れて、具材と一緒煮込んで食べます。

味噌煮込みうどんは山梨県の「ほうとう」がルーツで、甲斐の国の武田軍が陣中食として食べていた「ほうとう」が尾張の徳川家に伝わったそうです。八丁味噌ももともと、徳川家康の居城であった岡崎城から西へ八丁離れた八丁村(いまの岡崎市八帖町)で作られていたもので、いまはこの地に八丁味噌メーカーのカクキュー(合資会社八丁味噌)があります。

味噌煮込みうどんのうどんは、ふつうのうどんとかなり違います。まず太くて硬いこと。手打ちめんの場合は、4mm角というのが標準なんだそうです。きしめんの厚さが2mm未満なので、2倍以上太いことになります。また硬いのには理由があって、食塩を加えずに小麦粉と水だけで生地を作っているのです。食塩を入れないとしっかりとしたグルテンが形成されないのでは、と思うかもしれませんか、食塩がなくてもグルテンは形成されるのです。一方でめんを茹でるとき、めんに食塩が入っていないことで、水分がめんに浸透しにくくなり、煮崩れしにくい硬いめんに仕上がっているのだそうです。

味噌煮込みうどんは一人用の土鍋で調理し、土鍋に入れたまま食べます。ふつう、土鍋のふたには空気孔がありますが、味噌煮込みうどん用の土鍋のふたには空気孔がありません。それは、調理しているときは、ふたを閉めないこと、たべるときにふたを皿代わりにして、めんや具材を冷ましながら食べるためです。ふたは調理が終わった後にかぶせて、保温のために使われます。

伊勢うどんはまずい?やわらかいのとたまり醤油が個性です

伊勢神宮の周辺や鳥羽市で食べられるうどんで、

  • コシがないやわらかい太麺を使っている
  • たまり醤油の和風ダシを使った色の黒い濃厚なタレに絡めて食べる
  • 具材はあまりのっていない

という点が特徴です。うどんという名前がついていますが、うどんとはかなり異なる印象を受けます。

伊勢うどんは江戸時代より前からこの地方の農民が自ら食べるために作っていたうどんがルーツで、延ばす手間が少なくて済む太いめんと、安いネギだけの具だったものを、伊勢神宮への参拝客に出すようになったものといわれています。もともと地元で、並うどん、素うどんといわれていましたが、1972年に伊勢うどんという名前に統一され、それ以来、この地方のローカルグルメとなっています。

伊勢うどんのめんの特徴は、

  • 太い
  • 柔らかい
  • コシがまったくない
  • 生めんは1時間近く茹でる必要がある

というもので、いま全国的に人気がある讃岐うどんと対極にあるともいわれます。

また食べ方も変わっており、たまり醤油に鰹節やいりこ、昆布等の出汁を加えた真っ黒なたれを、軟らかく煮た極太のめんに絡めて食べます。

伊勢うどんとふつうのうどんの違いは、いまいちよくわかりませんでした。めんが太いと茹で時間は長くなり、茹で時間が長くなるとコシがなくなります。ただコシがなく、もちもちとした食感があることから、グルテンが少なく、でんぷんの中でアミロースが少ない小麦がつかわれているのでしょう。

三重県では研究の結果、アミロース含量が少ない「あやひかり」という品種が伊勢うどんに向いているとして、奨励品種に指定しています。一般的なうどんの原料として使われるのは、中力粉ですが、あやひかりはグルテンの少ない薄力粉で、しかもアミロースが少ない品種です。

まとめ

  1. きしめんは幅が広く、薄く平たい形状のうどんです。ふつうのうどんと同じように中力粉から作られますが、めんを打つときに食塩を多く入れ、長く熟成させるため、めんの中にしっかりとしたグルテンが形成されます。そのため薄くても切れにくいという性質があります。
  2. 味噌煮込みうどんのめんは、角型の太いうどんです。こちらも中力粉から作られますが、めんを打つときに食塩を加えません。もともと太いので切れにくく、鍋で煮込んでも、めんに塩分を含まないため、煮崩れしません。
  3. 伊勢うどんは、角型の極太めんです。生めんは1時間近く茹でる必要があります。茹で上がっためんはコシがなく、軟らかく、もちもちしているのが特徴です。こちらはグルテンが少なく、アミロース含量の少ない薄力粉から作られます。

出典
1) 生めん類の表示に関する公正競争規約および公正競争規約施行規則