玄米や全粒粉でアトピー性皮膚炎、湿疹が悪化するのはなぜ?

玄米や全粒粉を食べて、アトピー性皮膚炎が悪化した、湿疹が出たという話がよくあります。

その原因といわれているのが、アブシシン酸フィチン酸ですが、調べた結果、この2つは原因ではありませんでした。

可能性として考えられるのは食物繊維と残留農薬ですが、詳細はわかりません。

もし玄米や全粒粉で皮膚症状が悪化するのなら、無理して食べる必要はありません。食物繊維を摂る方法は他にいくらでもあります。

アブシシン酸

種子の発芽を抑える植物ホルモン

アブシシン酸は植物の休眠、生長抑制、気孔の閉鎖などをコントロールする植物ホルモンです。

アブシシン酸には成熟する前の種子が発芽しないようにする作用があるため、玄米や小麦には比較的多く蓄えられています。外皮や胚芽を除去して胚乳(ほとんどがでん粉)の部分だけを取り出した精白米や小麦粉にはアブシシン酸は含まれませんが、種子を丸ごと使う玄米や全粒粉には、アブシシン酸が含まれます

アトピー性皮膚炎、湿疹とは無関係

玄米や全粒粉に含まれるアブシシン酸がアトピー性皮膚炎の悪化や湿疹の原因であるとの記事が、ネット上に見られますが、本当なのでしょうか。

アブシシン酸の研究の歴史は古く、アメリカ国立医学図書館が運用する医学・生物学分野のデータベースで、 “abscisic acid” というキーワードを入れて検索すると、13,382件の論文が見つかりました。

一方、“abscisic acid” と “atopic” (アトピー)、あるいは “abscisic acid” と “eczema” (湿疹)というキーワードで検索したところ、1件も見つかりませんでした。

“abscisic acid” と “dermatitis” (皮膚炎)というキーワードで検索すると2件ヒットしましたが、直接関係ない内容でした。このことから、食物として摂取されたアブシシン酸が原因で、アトピー性皮膚炎が悪化したり、湿疹ができるということについては、事実無根であるといえます。

がん、糖尿病、マラリアに効果がある

つぎにWikipediaにはアブシシン酸は植物ホルモンと書かれていますが、実は人間の体内でも合成されているのです。

アブシシン酸は進化の過程で植物と動物が分かれる前のシアノバクテリアという生物の体内でも、合成されていることがわかっています。そして動物の体内での役割も、少しずつわかってきました。

最近の論文では、次のような研究成果が出ています。

  • 前立腺がんは骨髄細胞に転移しやすい。アブシシン酸はヒト骨髄細胞で産生され、前立腺がんの細胞が増殖するのを抑え、細胞休眠の誘導をもたらす(2021年、アメリカ)1)
  • アブシシン酸が骨格筋と脂肪組織へのグルコースの取り込みを刺激する。これはインスリンとは関係なく起きる。アブシシン酸を慢性的に摂取することは、糖尿病やメタボリックシンドロームの予防に効果があるかもしれない(2020年、イタリア)2)
  • マラリアは蚊が媒介する寄生虫によって起きる病気だが、経口摂取したアブシシン酸が哺乳類の体内で寄生虫の増殖を抑え、病状を改善させる可能性がある(2016年、アメリカ)3)
  • アブシシン酸はがん細胞の成長を阻害し、分化を誘導する。細胞キラーとして機能するいくつかの薬とは異なり、重大な毒性はない(2011年、中国)4)

フィチン酸

リンや金属と結合しやすい物質

フィチン酸は多くの植物に存在する物質で、リンや金属イオンと強く結合する性質があります。フィチン酸が多く含まれる食品とその含有量は次の通りです5)

またフィチン酸にはpH緩衝作用や変色防止作用、酸味があるため、食品添加物として使用されており、その際は物質名のほかに、pH調整剤、酸味料と表示されることもあります。ちなみに食品添加物のフィチン酸は米ぬかから作られています。

乾燥重量あたり%
ゴマ(皮なし) 5.36
全粒粉シリアル 3.29
大豆 1.00~2.22
オーツ麦 1.37
大麦 1.19
ピーナッツ 1.05~1.76
とうもろこし 1.05
小麦粉 0.96
玄米 0.84~0.94
精米(白米) 0.20

このフィチン酸は反栄養素(Antinutrients)と呼ばれる場合があります。これは金属イオンと強く結合する性質があるため、栄養素であるミネラルの吸収を妨げることがあるからです。

非常に偏った食事をしている場合、フィチン酸が亜鉛の吸収を妨げ、亜鉛欠乏症になるというケースが報告されていますが、通常の食事をしている場合は、フィチン酸が悪影響を及ぼすことはありません

アトピー性皮膚炎、湿疹とは無関係

フィチン酸がミネラルの吸収を妨げることを理由に、玄米や全粒粉がアトピー性皮膚炎や湿疹を引き起こすという記事がネット上にありますが、事実無根です。

すでに述べたように、通常の食事をしていれば、フィチン酸を含んだ食べものを摂っても、ミネラル不足になることはありません。次に玄米に含まれるフィチン酸の量は、小麦粉とほぼ同じです。

玄米で悪影響が出るのであれば、小麦粉、大豆、ピーナッツ、ごまでも悪影響が出ることになります。さらにフィチン酸はpH調整剤という名前で、さまざまな加工食品で使われています。

念のため先ほどと同じデータベースでで “phytic acid” というキーワードで検索すると、4,514件の論文が見つかりました。さらに“phytic acid” と “atopic” (アトピー)で1件、 “phytic acid” と “eczema” (湿疹)では0件、“phytic acid” と “dermatitis” (皮膚炎)で2件の論文が見つかりました。

内容を確認しましたが、フィチン酸がアトピー性皮膚炎や湿疹の発症に関係しているという報告は見つかっていません

フィチン酸には健康効果があり、サプリも発売

一方でフィチン酸には、

  • 血栓症を予防する効果
  • 高カルシウム尿症を予防する効果
  • 貧血を予防する効果
  • 生活習慣病による血液不調を改善する効果

があるとのことで、サプリメント(健康食品)が発売されています。

ここで挙げた健康効果については確認していないので、当サイトとしてサプリメントの摂取をお勧めしません。ただ「反栄養素」でからだに害があるものなら、サプリメントにも食品添加物にもなりません。少なくとも有害なものでないことだけは間違いないと思います。

アトピー性皮膚炎の悪化や湿疹の原因はなに?

玄米や全粒粉でアトピー性皮膚炎の症状が悪化した、あるいは湿疹が出たが、食べるのを止めたら治ったという話はよくあります。何が原因か気になるところですが、すでに説明したように、アブシシン酸とフィチン酸は関係ありません。

可能性として考えられるものは、食物繊維残留農薬です。

食物繊維の摂り過ぎが免疫系を乱す

食物繊維は腸内環境を改善するために、積極的に摂ったほうがよいと思われている方が多いと思います。基本的にはそうなのですが、話は単純ではありません。

人間の免疫細胞の70%は小腸にあります。そして免疫細胞の働きは、腸内細菌と密接に関係しています。

人間の腸の中には1,000種類の菌がお互いにバランスを取りながら、あわせて100兆個棲んでいます。この中には人間のからだに悪い影響を与える「悪玉菌」と呼ばれる種類や、ふだんはおとなしくしているが、からだが弱ってくると腸内で悪い働きをする「日和見菌」という種類もいます。

腸内細菌のバランスが崩れて悪玉菌や日和見菌が増えると、免疫反応の異常や代謝機能の乱れによって、アトピー性皮膚炎の症状が悪化したり、湿疹が出たりする場合があります

玄米や全粒粉には、食物繊維が多く含まれます。

食物繊維は腸内細菌のエサになるので、国は成人男性で1日21g以上、成人女性18g以上摂るように勧めています。食物繊維が腸内細菌のエサになるのは、人間が消化・吸収できないから、ということを忘れないでください。

消化・吸収できないものを、急にたくさん摂ると、胃腸に負担がかかります。特に水に溶けない不溶性食物繊維は、大便として排泄されるまで長い時間、腸内に留まり続けます。もし玄米や全粒粉を食べて、お腹が重い・痛い、ガスが溜まるという症状があるなら、食べる量を減らすか、食べるのを止めてください。

お腹が痛いということは、からだの負担になっている可能性があります。

腸内環境を改善するつもりで、腸内環境を悪化させているかもしれません。穀物を摂るのが目的ではないので、玄米を発芽玄米にするとか、全粒粉をオートミールに変えるなど、意味がないと思います。腸内環境を改善する方法は、他にもあります。

詳しくはこちらのサイトを参考にしてください。

グルテンフリーガイド

グルテンフリーに関心がある方は、毎日の食生活に気を配っておられると思います。そんなみなさんなら、デブ菌・ヤセ菌、FODM…

玄米や全粒粉には残留農薬の可能性も

米や小麦を栽培する際に、さまざまな農薬が使用されます。これらはいずれも安全性が確認されているので、通常は問題ありません。
ただし、次の場合は別です。

  • 穀物を外皮や胚芽の部分も含めて食べる場合
  • 食べた人が化学物質に敏感な場合

米は外皮と胚芽の部分は取り除いた精白米を食べるのがふつうです。小麦も外皮と胚芽の部分は取り除いてから製粉したのが小麦粉です。つまりふつうの米や小麦は、外皮や胚芽の部分を食べることを想定して栽培されていません。玄米や全粒粉に農薬などの化学物質が残っている可能性は大いにあると考えられます。

また値段の安い玄米粉や全粒粉には、米粉や小麦粉にぬか(小麦の場合はこむぎふすま)を加えて調製した製品もあるので、注意してください。パッケージの原材料欄をよく見るとわかります。

では有機栽培したものはどうでしょうか。国が指定した認証機関で認証を受けた農産物だけが、「有機」「オーガニック」と名乗ることができるのですが、実は有機農産物は無農薬でも減農薬でもありません

詳しくは関連記事をご覧ください。

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「無農薬栽培米」「減農薬栽培米」という製品がもしあったとしたら、それは法律違反です。日本国内では農産物に「無農薬」や「減農薬」と表示することは、法律で禁止されています

「農薬検査済み」というのはどうでしょうか。これはたぶんロットごとに残留農薬の検査をしているので、安全だと思います。でもそのために値段が高くなっていませんか。

食物繊維のところでいったように、玄米や全粒粉を食べるのがそもそもの目的ではなかったはずです。玄米や全粒粉でアトピー性皮膚炎が悪化したり、湿疹が出たりした方は、無理して食べないでください。

まとめ

  1. アブシシン酸は種子の発芽を抑える植物ホルモンです。ただアトピー性皮膚炎や湿疹とは無関係です。最近の研究ではアブシシン酸は人間の体内でも合成され、がん、糖尿病、マラリアに効果があることがわかっています。
  2. フィチン酸は多くの植物に存在する物質で、リンや金属イオンと強く結合する性質があります。玄米や全粒粉以外にも、ごま、大が、ピーナッツにも含まれており、またpH調整剤や酸味料という名称で食品添加物として使われています。フィチン酸もアトピー性皮膚炎や湿疹とは無関係です。