経口補水液とスポーツドリンクの違い、味で比較するのはそもそも大間違い!

熱中症に注意の必要な季節になりました。いざというときのために経口補水液を用意しておくと安心です。

経口補水液とスポーツドリンクは成分が根本的に違います

経口補水液は食品として販売されていますが、お薬と考えたほうがよいです。日常生活で飲むようなイメージのCMが流れていますが、飲み過ぎると害があります。一方のスポーツドリンクは多少飲み過ぎでも大丈夫です。

経口補水液のことを正しく理解して、上手に利用しましょう。

経口補水液とは脱水症状を治療するためのもの

人間のからだの60%は水です。体重が50kgの人の場合、2Lのペットボトル15本分の水分を、体の中に蓄えています。

体温が上昇して大量の汗が出たり、下痢、嘔吐が起きると、脱水症状になることがあります。脱水症状とは体液(血液、リンパ液、組織液など)が不足した状態のことで、脱水症状が起きると、めまいや吐き気を感じ、からだがだるくなって呼吸ができなくなり、ひどい場合は死に至ることもあります

もともと経口補水液はこのような症状をすみやかに改善し、命を救う目的で開発されたものです。

日本で脱水症で救急搬送されると、点滴が行われます。脱水といっても、原因も症状もさまざまなので、それに合わせた輸液(点滴で静脈に入れる水分のこと)が使われます。ただ点滴をすぐに行うことが難しい発展途上国などでは、経口補水液がよく使われ、これを経口補水療法といいます。

経口補水液と水を比べると、経口補水液の方が水分が速く吸収されます。また脱水で失われる成分も含まれています。経口補水液は口から飲むことができるので、特別な設備はいりません。

このように経口補水液は、脱水症状を治療するために開発されたお薬なのです

経口補水液とアクエリアス、ポカリスエットなどのスポーツドリンクとの違い

目的が違う

経口補水液の目的は、経口補水療法による脱水症状の治療です。

脱水症状については後で詳しく説明しますが、明らかに病的な状態です。大塚製薬工場のオーエスワン®は、「病者用食品」として国の審査を受け、消費者庁が許可した食品です。これは特定の疾病のための食事療法上の期待できる効果の根拠が医学的、栄養学的に明らかにされている食品で、一般向けの食品ではなく、特定の疾病を持つ病者向けの食品なのです。

もちろん使用にあたって、いろいろな制約や注意事項があります

一方、スポーツドリンクは一般の人がのどの渇きを潤すために飲むもので、水分やミネラルの補給、脱水症状の回復、熱中症の防止などに役立つことが期待されています。位置づけは清涼飲料水です。飲み過ぎるとからだによくないですが、基本的に、だれが、いつ、どれだけ飲むかは自由です。

経口補水液 大塚製薬工場オーエスワン® スポーツドリンク
目的 脱水症状の治療(経口補水療法) 水分やミネラルの補給
脱水症状の回復
熱中症の防止
区分 特別用途食品の病者用食品 清涼飲料水
摂取にあたっての制約 あり なし

成分が違う

経口補水液とスポーツドリンクは、成分が異なります。

大塚製薬工場のオーエスワンとコカ・コーラのアクエリアス(2Lペット)、大塚製薬のポカリスエット(2Lペット)で比較してみましょう。1回摂取量500mlに含まれる量を、それぞれの栄養成分表示から転記しました。

なお注意していただきたい点があります。例えばオーエスワンにはブドウ糖が9g入っていますが、アクエリアスとポカリスエットには表示がありません。これは含まれていないという意味ではなく、単に表示していないだけです。

表示が義務付けられているのはエネルギーから食塩相当量までで、それ以外は任意表示です。したがってメーカーが特に強調したい成分を載せているだけで、含まれていないというわけではありません。

オーエスワン アクエリアス ポカリスエット
エネルギー 50kcal 95kcal 125kcal
たんぱく質 0g 0g 0g
脂質 0g 0g 0g
炭水化物 12.5g 23.5g 31.0g
食塩相当量 1.46g 0.5g 0.6g
カリウム 390mg 40mg 100mg
カルシウム 10mg
マグネシウム 12mg 6mg 3mg
リン 31mg
ブドウ糖 9g
塩素 885mg
アルギニン 125mg
イソロイシン 5mg
バリン 5mg
ロイシン 2.5mg

それぞれの原材料名を比較してみましょう。/以下は食品添加物です。

オーエスワン

ブドウ糖(国内製造)、果糖、食塩/クエン酸(Na)、塩化K、リン酸Na、塩化Mg、甘味料(スクラロース)、香料

アクエリアス

果糖ぶどう糖液糖(国内製造)、塩化Na/クエン酸、香料、クエン酸Na、アルギニン、塩化K、硫酸Mg、乳酸Ca、酸化防止剤(ビタミンC)、甘味料(スクラロース)、イソロイシン、バリン、ロイシン

ポカリスエット

砂糖(国内製造)、果糖ぶどう糖液糖、果汁、食塩/酸味料、香料、塩化K、乳酸Ca、調味料(アミノ酸)、塩化Mg、酸化防止剤(ビタミンC)

 

成分から見た経口補水液とスポーツドリンクの違いは、

・経口補水液はナトリウム(食塩)とカリウムを多く含む
・スポーツドリンクは糖分が多い

ということになります。

そうすると、経口補水液はミネラルが多く、糖分が少ない健康的なスポーツドリンク、と思われるかもしれません。しかし水分吸収の仕組みが異なります。

水分吸収のしくみが違う

水分は小腸と大腸の両方で吸収されますが、経口補水液は大腸より手前の小腸で効率的に水分が吸収されるように設計されています

ブドウ糖(グルコース)は小腸で吸収されますが、このとき水も一緒に吸収されます。またブドウ糖のほかにナトリウム(食塩)があると、吸収速度が上がることがわかっており、ブドウ糖1分子とナトリウム1分子が存在するとき、吸収速度が最大になるといわれています。

ブドウ糖1分子とナトリウム1分子というのは、ブドウ糖180gに対し、食塩58gで、重量比でいうとおよそ3:1になります。経口補水液オーエスワンでは6:1となっていますが、これは栄養補給の目的でブドウ糖を多くしていること、ナトリウムのほかにカリウムなどが存在することなどが関係しているものと思われます。

スポーツドリンクは、水分が小腸と大腸の両方で吸収される前提で作られているのに対し、経口補水液は小腸での水分の吸収速度が高くなるように設計されたものなのです。

経口補水液はどんなとき飲むのがよい?効果的な飲み方は

軽度から中等度の脱水症

脱水症は体内の水分量が減っている状態です。点滴で水分補給するのが一番確実なのですが、応急措置あるいは症状が悪化するのを防ぐために、経口補水液を飲むというのは有効です。経口補水液は、水やスポーツドリンクに比べて吸収速度が速く、また脱水症状で失われたミネラルを補給することができます。軽度から中等度の脱水症に対する初期対応としてはきわめて有効なので、熱中症の発生が予測される現場では、いざというときのために常備しておくべきです。

下痢による脱水

下痢になると大腸で水分が吸収されないため、脱水状態になります。下痢が続いている場合、経口補水液で水分を補給することで、体調の悪化を防ぐことができます。経口補水液は大腸ではなく小腸で水分が吸収されるので、下痢の際の水分補給には有効です。

かぜ、インフルエンザなどの発熱

ウイルスに感染するとウイルスの増殖を防ぐために、発熱します。そして人間は汗を出すことで体温を下げます。汗が出たということは、からだの中の水分量が減ったわけですから、補給する必要があります。下痢をしていなければ大腸から水分が吸収されるので、お茶や水でもかまいませんが、下痢の症状がある場合は、経口補水液が有効です。

ただ、風邪薬や解熱鎮痛剤と一緒に、経口補水液を飲まないようにしてください。もし可能なら、経口補水液を飲んでから20~30分経ってから、水か白湯でお薬を飲むようにしてください。

経口補水液でやってはいけないこと

経口補水液には健康によいイメージがありますが、決してそんなことはありません。あくまで脱水症状の人が飲むものなのです。経口補水液でやってはいけないことをまとめました。

お茶代わりに飲む

経口補水液は脱水症状を緩和するためのものなので、そのために必要な成分が含まれています。脱水症状でない人が飲むのには、適していません。

経口補水液500ml中には、塩分が1.5g(食塩相当量として)含まれています。これはみそ汁1杯に含まれる塩分量とほぼ同じです。日本人は塩分を摂り過ぎており、成人女性の場合1日6.5g未満、成人男性の場合1日7.5g未満が目標量とされています。

ちなみに高血圧の予防、治療のためには、1日6.0g未満とすることが望ましいといわれています。塩分を多く含む経口補水液は、脱水症状を緩和する目的以外で飲んではいけません。

食べものやお薬と一緒に飲む

経口補水液は、空腹時に飲んだときに水分やミネラルが最も効率よく吸収される組成になっています。ほかの食べもの(飲料を含む)と一緒に飲むと、その効果が発揮されないので、食べものと一緒に飲むことは絶対に避けるべきです。

また経口補水液をお薬を飲むときの水替わりに使うことは絶対にしてはいけませんお薬の吸収速度に影響を与える場合があります。お薬は必ず水か白湯で飲んでください。

飲み過ぎる

からだによいからといって、たくさん飲めばよいというわけではありません。1日に飲んでよい量が決まっています。大塚製薬工場のオーエスワン®の場合、成人の1日摂取目安量は500ml~1Lとされています。もし1L飲んでも脱水症状が解消されない場合は、救急車を呼ぶべきです。

脱水症状がないのに飲む

大塚製薬工場のオーエスワン®のパッケージには、以下の注意書きがあります2)

医師から脱水症の食事療法として指示された場合にお飲みください。医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、登録販売者の指導に従ってお飲みください。食事療法の素材として適するものであって、多く飲用することによって原疾患が治癒するものではありません。

つまり医師から指示がないのに飲んで、何か起きても知りませんよ、医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、登録販売者の指導に従わないで勝手に飲んで、何か起きても知りませんよ、ともとれます。

要するに、脱水症ではない人は、飲まないでください、ということなのです。

脱水症とはどんな状態

経口補水液は、脱水症のときに飲んでください、ということですが、具体的にどんな状態を脱水症というのでしょうか。

最初に説明したように、人間のからだの60%は水です。ただその割合は年齢によって異なり、成人は60%ですが、こどもは70%、高齢者は50%程度となっています。脱水症は軽度、中等度、重度に分けられますが、その程度は体重減少によって分けられます。また体重の減少が12%を超えると体液の20%が失われた状態となり、死に至ります。

軽度   脱水症の症状(あとで説明)があり、1~2%の体重減少
中等度  脱水症の症状があり、3~9%の体重減少
重度   脱水症の症状があり、10%の体重減少

高齢者は脱水症になりやすいといわれています。それはもともと体内の水分が少ないためで、発汗などで水分が失われると、水分不足に陥ってしまいます。

脱水症の症状とはどんなものなのでしょうか。

軽度

  • 多量の発汗、喉の渇き、尿量の減少
  • めまい、吐き気、息苦しさ

中程度

  • 汗は出ない、体温上昇
  • 全身の脱力感、動作緩慢、ふらつき、手足の震え
  • 皮膚の紅潮(顔や手足が火照る)
  • めまい、吐き気、頻脈、呼吸困難

重度

  • けいれん、しびれ
  • 視界が暗くなる、耳が聞こえにくくなる
  • 意識がなくなる

経口補水液は、軽度の脱水症の応急措置や、脱水症の回避に有効です。脱水症状が起こりかけているというのは、次のような状態をいいます。

体温が上がっている
・ふだんよりたくさん汗が出る
・体温が上がっているのに、汗が出ない
・のどが渇く

このようなとき、早めに経口補水液を飲んで、涼しいところで休むというのがよいと思います。

経口補水液の作り方

ネット上には経口補水液のレシピがいろいろ載っていますが、脱水症状がある場合は、水でもお茶でも直ちに飲ませるべきで、悠長に経口補水液を作っている場合ではありません。

また何度もいっているように経口補水液は脱水症状のある人が飲むべきものであり、普段から健康飲料として飲むものではないので、作り置きするというのもナンセンスです。何かあったときのためにペットボトルに入った経口補水液を常備しておく、というのが正しいやり方です。賞味期限は製造後1年程度なので、非常食と同様、定期的に入れ替えをするというのがよいと思います。

でもどうしても経口補水液を作りたいという方のために、その方法を紹介します。

砂糖大さじ4杯(36g)、食塩小さじ半分(3g)を1Lの水に溶かす

これで経口補水液に近いものができます。

まとめ

  1. 経口補水液は脱水症状を治療するためのもので、スポーツドリンクより食塩を多く含んでいます。これはグルコースとナトリウム(食塩)の比率を調整することで、小腸での水分吸収速度を高くするのが目的です。
  2. 経口補水液は、軽度から中等度の脱水症、下痢に伴う脱水、かぜ、インフルエンザなどによる発熱に有効です。
  3. 経口補水液は、お茶代わりに飲むものではありません。また食べものやお薬と一緒に飲んだり、決められた量より多く飲むことはやめるべきです。
  4. 経口補水液は突然起きる熱中症や脱水症のために、常備しておくことをお勧めします。砂糖と食塩があれば経口補水液に近いものを作れますが、熱中症や脱水症のときは、早く水やお茶を飲ませるべきです。

参考文献
1) 日本人の食事摂取基準(2020 年版)、厚生労働省(2019)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf