花粉症の人が発症する食物アレルギーがあるのをご存じですか。
花粉に含まれるたんぱく質と構造が似たたんぱく質がアレルゲンとなって起こる食物アレルギーで、花粉・食物アレルギー症候群と呼ばれます。
生の果物や野菜で起きることが多く、花粉症の原因植物によって、アレルギーが起きる果物や野菜もだいたいわかっています。
花粉症の人が発症する食物アレルギー
突然ですがあなたは花粉症ですか。
いまから17年前の2008年に国が実施した鼻アレルギーの全国疫学調査によると、花粉症の有病率は29.8%で、過去10年間で10%増加していました1)。また東京都が2016年に行った調査では、スギ花粉症の推定有病率は、15~29歳で61.6%、30~44歳で57.0%という驚くべき数値が示されています2)。いまや日本人の2人に1人が花粉症なのです。
そしてこの花粉症の人に起きる可能性がある食物アレルギーが、花粉・⾷物アレルギー症候群(PFAS)です。
食物アレルギーには乳幼児期に発症するものと、おとなになってから発症するものとがあります。乳児や幼児早期に発症することが多い卵、乳、小麦に対する食物アレルギーは、加齢とともに耐性を獲得してアレルギー反応を示さなくなるのに対し、おとなになってから発症する食物アレルギーは耐性を獲得できず、生涯にわたって原因食物を除去する必要があります3)。
この大人になってから発症する食物アレルギーとして最近増えているのが、花粉・⾷物アレルギー症候群(PFAS)です。
花粉症の原因となる主な植物
花粉症を引き起こす植物は、国内だけでも50種類以上あるといわれています3)。この中から主なものを紹介します。
スギ(ヒノキ科スギ亜科)
- 花粉症患者が最も多い(花粉症全体の89%)。
- 北海道と沖縄県では飛散量は少ない。
ヒノキ(ヒノキ科)
- スギ花粉は原因物質の構造が似ているためヒノキ花粉症患者の7割がスギ花粉症を患っている。
- 北海道と沖縄県では飛散量は少ない。
ハンノキ(カバノキ科)
- スギ花粉症の人の約20%がハンノキ花粉にも反応する。
- スギ花粉と飛散時期がほぼ同じ。
- 花粉・⾷物アレルギー症候群(PFAS)を発症しやすい。
シラカンバ(カバノキ科)
- 北海道における花粉症の主な原因。
- 花粉・⾷物アレルギー症候群(PFAS)を起こしやすい。
カモガヤ(イネ科)
- イネ科でもっとも花粉症患者が多い。
- 花粉の飛散距離は数十m程度。近づかなければ防ぐことが可能。
- 直接触れると肌荒れ(花粉皮膚炎)になることもある。
オオアワガエリ(イネ科)
- 夏(6~8月)に花粉が飛ぶが、飛散距離は数十m程度。近づかないようにする。
- 直接触れると肌荒れ(花粉皮膚炎)になることもある。
ブタクサ(キク科)
- 花粉症患者が比較的多い。
- 花粉の飛散時期は8~10月が中心。距離は数十m程度。
- 花粉・⾷物アレルギー症候群(PFAS)を起こしやすい。
ヨモギ(キク科)
- 花粉の飛散時期は8~10月が中心で、距離は数十m程度。
- 花粉・⾷物アレルギー症候群(PFAS)を起こしやすい。
- 草餅(よもぎ餅)に使われる葉は、食べても問題ない。
カナムグラ(クワ科)
- つる性の植物で繁殖力が強く、電柱やガードレールによく巻き付いている。
- 花粉の飛散時期は9~11月が中心で、量は少なく、距離は数十m程度。
花粉症の人は花粉・⾷物アレルギー症候群(PFAS)に注意
花粉・食物アレルギー症候群(PFAS)と口腔アレルギー症候群(OAS)
花粉症は上で紹介した植物の花粉に含まれるたんぱく質が原因で起こるアレルギー反応ですが、このたんぱく質と構造が似た別のたんぱく質が原因で、アレルギー反応が起きることがあり、これを交差反応といいます。花粉症の人が、果物や野菜に含まれるたんぱく質によって交差反応を起こす病気を、花粉・食物アレルギー症候群(PFAS:Pollen-Food Allergy Syndrome)といいます。これは食物アレルギーの一種です。
いったん発症すると、耐性を獲得するのは難しい、つまり治ることはないといわれています。
花粉症の原因となる植物と、アレルギー反応を起こす果物や野菜の間には一定の関係があります。果物や野菜を生で食べたときに起きることが多く、ジャムのような加熱された食品の場合、アレルギー反応が起きることは少ないといわれています。
花粉症の人が起こす食物アレルギーのことを、口腔アレルギー症候群(OAS:Oral Allergy Syndorome)と説明していることがあります。口腔アレルギー症候群(OAS)は食物アレルギーのタイプの一つで、原因となる食物を食べた直後から30分以内に、口の中、唇、喉にかゆみやイガイガした感じが生じ、唇が腫れたり、喉が圧迫されたような感じがする場合があります。このタイプの食物アレルギーは、花粉・食物アレルギー症候群(PFAS)の症状として起こることが多いといわれています。
それでは花粉症の種類ごとに、どのような食物アレルギーが起こるのか、見ていきましょう。
スギ花粉症の人がアレルギーを起こしやすい食物
トマトにはスギ花粉に含まれるたんぱく質と似た構造を持つたんぱく質が含まれており、スギ花粉症の患者さんは、トマトを食べたときに口の中に違和感を感じるケースがまれにあります。ただ発症率は少なく、ほとんどの人がトマトを食べても何も起こっていないので、あまり心配する必要はありません。そのようなことがあるということを、頭の隅においておけばよいと思います。
ハンノキ、シラカンバ花粉症の人がアレルギーを起こしやすい食物
花粉・食物アレルギー症候群(PFAS)が最も多くみられるのが、ハンノキ、シラカンバなどのカバノキ科植物の花粉症です。次のような食物に対し、アレルギー反応を示すといわれています。
- リンゴ、モモ、びわ、ラ・フランス、サクランボ、あんず、アーモンド(バラ科)
- 大豆、ピーナッツ、豆乳など(マメ科)
- キウイ(マタタビ科)
- パパイヤ(ウルシ科)
- じゃがいも、トマト(ナス科)
- アボガド(クスノキ科)
- ヘーゼルナッツ(カバノキ科)
- メロン、スイカ(ウリ科)
ハンノキ、シラカバの花粉に含まれるたんぱく質は、りんご、もも、大豆などに含まれるたんぱく質と構造が似ています。これらは「PR-10(Pathogenesis-related protein -10)」と呼ばれるもので、カバノキ科の花粉症と、それに関連する花粉・食物アレルギー症候群(PFAS)は、PR-10アレルギーともいえます。PR-10は熱や酸に弱いため、加熱すればアレルゲンは消失します。
2019年6月6日、東京都大田区松仙小学校で、給食に出されたびわを食べた児童30人が体のかゆみや腹痛などを訴えて、そのうち11人が病院に救急搬送されました。びわによる花粉・食物アレルギー症候群(PFAS)ではないかといわれています5)。同校の児童数は約800人なので、発症率は4%弱ということになります。
カモガヤ、オオアワガエリ花粉症の人がアレルギーを起こしやすい食べもの
身近な雑草であるカモガヤ、オオアワガエリの花粉症の人は、つぎのような果物や野菜で、口、唇、喉にかゆみや腫れを起こすことがあります。
- メロン、スイカ、きゅうり、ズッキーニ(ウリ科)
- セロリ(セリ科)
- トマト、じゃがいも(ナス科)
- キウイ(マタタビ科)
- オレンジ(ミカン科)
- ピーナッツ(マメ科)
- バナナ(バショウ科)
カモガヤやオオアワガエリには「プロフィリン」というたんぱく質が含まれており、これが花粉症の原因になっている場合があります。その場合、同じプロフィリンを含むメロン、スイカ、セロリなどによって、口腔アレルギー症候群を示します。プロフィリンも熱や酸に弱いため、加熱すればアレルギー症状は出なくなります。
ブタクサ、ヨモギ花粉症の人がアレルギーを起こしやすい食べもの
ブタクサも花粉症患者が比較的多い植物です。ブタクサもヨモギも、カモガヤと同じ「プロフィリン」というたんぱく質を持っており、これが花粉症の原因といわれています。そのため、プロフィリンを含む野菜や果物を食べると、口、唇、喉にかゆみや腫れを起こすことがあります。
- メロン、スイカ、きゅうり、ズッキーニ(ウリ科)
- セロリ、にんじん(セリ科)
- トマト、じゃがいも(ナス科)
- キウイ(マタタビ科)
- オレンジ(ミカン科)
- ピーナッツ(マメ科)
- バナナ(バショウ科)
花粉・⾷物アレルギー症候群(PFAS)にかからない対策
花粉症にかからないようにする
花粉症は、花粉と接触しない限り、発症することはありません。スギ、ヒノキ、ブタクサ、カモガヤなどの花粉症が多いですが、花粉が飛散する時期にはマスクやメガネで花粉がからだに入らないようにするとともに、屋外から帰ってきたときは、玄関で服をはたき、うがい、手洗いを忘れずにしてください。これは新型コロナウイルス感染症の対策とほとんど同じです。自分の体の中に、有害なものをできるだけ入れないようにすること、これが基本中の基本です。
またイネ科、キク科の花粉は飛散距離が短いので、草むらに入らない限り、花粉に触れることはありません。花粉が飛ぶ時期に犬の散歩などで草むらに近づくときは、必ずマスクをしましょう。また自宅のまわりに雑草として生える場合もあるので、成長する前にこまめに草引きをしておくことも重要です。
いまや国民の2人に1人は花粉症で、特に若い年代の人の有病率が上がっています。花粉症のための医療費は年々増加する一方で、2019年には健康保険組合連合会が花粉症治療薬について、医師の処方が必要ない市販品で代替することによって、年間最大約600億円の保険費用削減効果が見込めるとの試算を公表しました。
今後、市販薬で代替できる花粉症薬については、保険適用からの除外や自己負担率の引き上げが進む可能性があります。何よりも、花粉症になると、毎日が大変です。1日でも花粉症が発症する日が遅くなるように、しっかりと防御してください。
花粉症が発症した後も花粉に接触しないようにする
花粉症が発症しても、お薬を飲むことで症状を終わらげることができ、日常生活への支障もほぼなくなりました。
でも、花粉に接触しないよう、努力は続けてください。花粉症が発症したということは、もともとアレルギー体質であった可能性があります。
そのため別の花粉に対するアレルギー反応が出ても、不思議ではありません。スギとヒノキの花粉だけなら2~6月に対策するだけで済みますが、イネ科やキク科の花粉症まで発症すると、ほぼ1年を通して、お薬を飲み続けなけれはなりません。外出するときはマスクとメガネで防御し、帰宅後は服をはたいて手洗いとうがいをすることを忘れないでください。
カバノキ科、イネ科、キク科植物の花粉症は検査を
スギ花粉やヒノキ花粉か飛散していない時期に、花粉症の症状が出た場合は、市販薬を買って症状を抑える前に、病院でIgE抗体検査を受けてください。何が原因で花粉症の症状が出ているのか、わかります。そして食事についても、専門医の指示に従ってください。
すでに説明したように、ハンノキ、シラカンバなどのカバノキ科植物の花粉症の場合はPR-10というたんぱく質が、カモガヤ、オオアワガエリなどのイネ科植物の花粉症、ブタクサ、ヨモギなどのキク科植物の花粉症の場合はプロフィリンというたんぱく質がアレルゲンになっている可能性があります。
このPR-10やプロフィリンが含まれる果物や野菜は、生で食べないほうが無難です。特にPR-10を含む大豆の場合、豆乳を飲むことで、重篤な全身症状であるアナフィラキシーショックを起こす場合があることが知られています。これらの植物が原因となる場合は、食物アレルギーが起きる可能性が高いことを理解し、くれぐれも注意してください。
まとめ
- 日本人の2人に1人が花粉症と推定されている。そして花粉症の人に起きる可能性がある食物アレルギーが、花粉・⾷物アレルギー症候群(PFAS)。いったん発症すると生涯にわたって原因食物を除去する必要がある。
- 花粉症の原因となる植物のうち、主なものはスギ、ヒノキ(ヒノキ科)、ハンノキ、シラカンバ(カバノキ科)、カモガヤ、オオアワガエリ(イネ科)、ブタクサ、ヨモギ(キク科)など。
- 花粉症の原因となるたんぱく質と構造が似た果物や野菜に含まれるたんぱく質によってアレルギー反応が起きるのが、花粉・食物アレルギー症候群。
- 原因となる食物を食べた直後から30分以内に、口の中、唇、喉にかゆみやイガイガした感じが生じ、唇が腫れたり、喉が圧迫されたような感じがする食物アレルギーを口腔アレルギー症候群(OAS)という。花粉・食物アレルギー症候群の症状として起こることが多い。
- 花粉症の原因となる植物と、アレルギー反応を起こす果物や野菜の間には一定の関係がある。
- 花粉を極力からだに入れないようにすることが、花粉・食物アレルギー症候群の対策。
参考文献
1) 鼻アレルギー診療ガイドライン2013年版(改訂第7版)、鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会(2013)
2) 花粉症患者実態調査報告書(平成 28 年度)、東京都(2017)
3) ⾷物アレルギーの診療の⼿引き2020、国⽴研究開発法⼈⽇本医療研究開発機構(AMED)(2020)
4) 花粉症環境保健マニュアル2019、環境省(2019)
5) ニュースポストセブン記事 2019年6月17日