でんぷんの科学、生では消化できず、糊化して唾液で分解している

でんぷんに水を加えて加熱するとやわらかくなりますが、これを糊化あるいはアルファ化といいます。

人間は生のでんぷんを消化することができません。糊化して初めて消化・吸収ができるようになります。糊化したでんぷんは時間が経つと水分が蒸発して、固くなります。これを老化あるいはベータ化といいます。

老化したでんぷんは食用に適さなくなるので、老化を防ぐ方法がいろいろと開発され、加工食品で使われています。

でんぷんは水に溶けない細かい粒

でんぷんは植物の光合成によって作られ、植物細胞の中で「でんぷん粒」として貯蔵されています。植物細胞を水の中でつぶして洗うと、水の底に白い沈澱が溜まりますが、これがでんぷん粒です。

でんぷん(澱粉)とは、沈殿した粉という意味です。意外かもしれませんが、でんぷんは水に溶けません。

例えば片栗粉は水には混ざりますが、溶けていないので、透明にはなりません。加熱すると透明になりますが、それはこのあと説明する糊化が起きて、でんぷん粒が壊れたからです。

でんぷん粒はグルコースが数百から数十万個、鎖状に結合したものが、鎖がすき間なく集まって結晶になっています。お米や小麦粉には、このでんぷん粒がたくさん含まれています。

でんぷんにはアミロースとアミロペクチンがある

でんぷんはグルコースが鎖状に結合したものですが、グルコースの結合の仕方によって、アミロースアミロペクチンの2種類に分けられます。

アミロースは300~1,200個のグルコースが直鎖状につながってできています。これに対し、アミロペクチンは1万~25万個のグルコースが途中で枝分かれしながらつながっており、枝分かれはだいたいグルコース20個に1個の割合で存在します。

このアミロースとアミロペクチン、でんぷんの大きさ(分子量)が全く違います。アミロペクチンはアミロースより数百倍も大きいのです。アミロースは冷水にも熱水にも溶けませんが、アミロペクチンは冷水には溶けませんが熱水には溶けます。

アミロース アミロペクチン
グルコースの個数 300~1,200個 1万~25万個
大きさ(分子量) 5万~20万 200万~5,000万
枝分かれ なし あり(グルコース20個に1つ)
溶解性 冷水に溶けない
熱水に溶けない
冷水に溶けない
熱水に溶ける
保水性 低い 高い

この2種類のでんぷんの違いがよくわかるのが、お米です。

ふだんご飯として食べているうるち米(ジャポニカ種)、お餅やお赤飯につかうもち米(ジャポニカ種)、パエリアや炒飯に使われるタイ米(インディカ種のうるち米)を比較すると、タイ米が一番パサパサしていて、もち米が一番粘り気があります。

この3つのお米に含まれるアミロースとアミロペクチンの比率を見れば、その理由がはっきりします。

・もち米(ジャポニカ種) アミロペクチン100%
・うるち米(ジャポニカ種) アミロペクチン80~85%、アミロース17~27%
・タイ米(インディカ種のうるち米) アミロペクチン69~73%、アミロース27~31%

アミロースは保水性が低いため、アミロースの多いお米は炊いたときパサパサしており、アミロペクチンの多いお米はねっとりモチモチしています。

アミロースを含む品種をうるち(粳)、アミロースを含まない品種をもち(糯)といいます。

この区別はお米だけでなく、大麦にもあります。もち麦という名前の大麦は、ふつうの大麦よりアミロペクチンを多く含んた品種です。

でんぷんは水を加えて加熱すると糊化する

でんぷんは人間にとって貴重な栄養源です。でも、でんぷんをそのまま食べても、消化できません。

でんぷんはグルコースが数百から数十万個つながってできていますが、栄養源として吸収するためには、グルコースに分解する必要があります

どうやって分解するのかというと、唾液や膵液に含まれるアミラーゼという消化酵素で、グルコースとグルコースをつないでいる結合を一つずつ切断していくのです。

でんぷんは生の状態では食べることはできません

生米、生の小麦粉、生のコーンスターチ(トウモロコシでんぷん)、どれも食べるためには水を加え加熱する必要があります。もし生のまま食べたらどうなるでしょうか。消化できないのでそのまま排泄されますが、たくさん食べた場合は下痢することもあります

生のでんぷんは、アミロースやアミロペクチンが隙間なく規則正しく並んだ結晶の粒でできており、水や消化酵素が入り込むことができません。消化酵素で分解できるようにするためには、アミロースやアミロペクチンの間隔を広げて、消化酵素が近づけるようにする必要があります。

でんぷんは水には溶けませんが、水に入れると吸水して膨らみます。吸水のしやすさはでんぷんの種類によって異なりますし、何らかの理由ででんぷん粒が壊れていると、吸水しやすくなります。

でんぷん粒が壊れたでんぷんを「損傷でんぷん」といいます。お米や大麦の粒ではでんぷん粒は壊れていませんが、粉にするとでんぷんの粒が壊れる場合があります。

特に米粉の場合は、製粉の方法によって損傷でんぷんが増える場合があります。損傷でんぷんはふつうのでんぷんより吸水力が数倍高いので、損傷でんぷんが多い米粉を料理に使うと、全く違ったものができあがることもあります。

でんぷんが水を吸うと、鎖と鎖の間隔が少しだけ広がります。でもこの状態では消化できる状態にはなっていません。さらに水を加えて加熱すると、50℃を過ぎたあたりから軟らかくなりはじめ、70℃を超えるとでんぷんの鎖の間に水の分子が入り込んで、全体が軟らかくなります。

この現象を糊化(こか)あるいはアルファ化といいます。またこのような状態になったものを、アルファでんぷんといいます。糊化が始まった段階では、でんぷん粒は一部壊れている状態です。さらに加熱を続けると、でんぷん粒は完全に崩壊して、ゲル状になります。

粘り気のことを粘度といますが、でんぷんが糊化するにつれて粘度が高くなり、最大限吸水したとき、粘度が最も高くなります。その後、でんぷん粒子が崩壊すると、再び粘度は下がります。

糊化するとでんぷんの鎖一本一本が離れた状態になるので、ようやく消化酵素で分解できるようになります。糊化する温度はでんぷんの種類によって異なり、お米のでんぷんは低く、小麦のでんぷんは高いといわれています。

ジャガイモ サツマイモ トウモロコシ 小麦
糊化温度(℃) 63.6 64.5 72.5 86.2 87.3

糊化したでんぷんを放置すると老化する

糊化したでんぷんは、でんぷんの鎖一本一本の間に水が入っている状態ですが、放置すると水が蒸発します。するとでんぷんの鎖と鎖が引っ付いて、固くなります。これをでんぷんの老化あるいはベータ化といいます。

老化はでんぷんがエネルギー的により安定な状態に戻るために、でんぷんの鎖どうしが水素結合をつくり、結晶構造を作ることです。老化した状態というのは、生でんぷんの近い状態ですが、完全に同じ状態ではありません。

なぜなら、でんぷん粒が一度崩壊すると、元には戻らないからです。一方、老化したでんぷんに水を加えて加熱すると、もとの糊化した状態に戻すことができます。

でんぷんの種類によって、老化の進みやすさに違いがあります。アミロースはアミロペクチンと比べ粘性や保水性が低いため、アミロースの方が老化が進みやすいといわれています。

でんぷんの老化を防ぐための方法

糊化して食べられるようになったでんぷんも、老化が進むと食べるのに適さなくなります。食味が落ちるだけでなく、消化・吸収されにくくなります。

では、老化を防いで、糊化した状態を保つことはできないのでしょうか。実はできます。大きく分けて3つの方法があります。
  1. 糊化したでんぷんを冷却せず真空乾燥する
  2. 糊化したでんぷんを急速に冷凍する
  3. 老化を防止する物質を加える

順に説明していきましょう。

① 糊化したでんぷんを冷却せず真空乾燥する

糊化した状態のでんぷんを冷却することなく真空乾燥し水分だけを除去すると、でんぷんの鎖どおしが結合しない状態で乾燥することができ、老化を防ぐことができます。

この技術は保存食やインスタント食品の製造に活かされており、炊き立てのご飯を真空乾燥したものが、アルファ米(アルファ化米)として売られています。アルファ米は乾燥しているため5年程度の長期保存が可能で、水またはお湯を加えることで、もとの糊化した状態、すなわち炊き立ての状態へ戻すことができます。

② 糊化したでんぷんを急速に冷凍する

糊化したでんぷんを急速に冷凍すると、でんぷんの鎖の間に入り込んだ水分が抜けることなくそのまま冷凍されます。そのためでんぷんの鎖どうしが結びつくことがなく、老化を防ぐことができます。ゆっくり冷凍すると、でんぷんの中の水分が抜けてしまうため、老化が起きやすくなります。

また加熱する場合も、一気に加熱するほうが、もとの糊化した状態に戻りやすいといわれています。冷凍ごはんは電子レンジで加熱するのはこのためです。

③ 老化を防止する物質を加える

でんぷんの老化とは糊化したでんぷんから水分が抜けることです。そこで水分を保持しやすい物質を加えることで、でんぷんから水が抜けるのを防ぐことができます。

一方、最後に紹介する加工でんぷんは、でんぷんの構造を変えることで、水分が抜けてもでんぷんの鎖と鎖がくっつかないようにして、老化を防止しています。

砂糖

砂糖には食品中の水と結びつく性質があります。

そのためアルファ化したでんぷんに含まれる水分子と砂糖が結びつき、蒸発によって水分が抜けるのを防ぎます。例えばすし飯に混ぜるすし酢には砂糖が入っていますが、この砂糖のおかげですし飯は冷めてもしっとりとしています。

また小麦粉、砂糖を混ぜ合わせた生地を焼いたカステラは、時間が経ってもパサつかず、しっとりとした食感を保っています。カステラには小麦粉の1.5倍の砂糖が入っており、この砂糖が保水剤の役割を果たしています。和菓子に使われるあんは小豆のでんぷんが糊化したものですが、時間があってもパサパサになりません。これもあんをつくるとき、小豆とほぼ同量の砂糖を加えているからです。

このように、砂糖には水分を保持する力、すなわち保水力があるため、でんぷんに混ぜると、でんぷんの老化を防ぐことができます。

トレハロース

グルコースが2個つながってできた糖類です。マルトースもグルコースが2個つながってできていますが、結合の仕方が異なります。

天然にも存在しますが、でんぷんを原料にして微生物発酵で作られたものが使われます。トレハロースは水分を保持する力が強いため、老化防止のために、おにぎり、もち、団子など、でんぷんを使った食品に添加されています。このほか上品な甘みや品質保持効果もあるため、さまざまな加工食品に使われています。

カルボキシメチルセルロース(CMC)

木材パルプの成分であるセルロースをクロロ酢酸と反応させて作られた化学物質です。

CMCも水分を保持する力が強いため、でんぷんの老化防止や、食品の乾燥を防ぐことによる賞味期限の延長を目的として、和菓子などに使われています。CMCは粘性があるため人工涙液の成分として使われるほか、消化・吸収しないため、下剤としても使われています。

加工でんぷん

でんぷんの分子構造を化学的に変えることで、でんぷんの鎖と鎖がひっつくのを防ぎます

加工でんぷんには12種類ありますが、でんぷんの老化防止にはでんぷんにアセチル基を入れた酢酸デンプン、ヒドロキシプロピル基を入れたヒドロキシプロピル化デンプンが使われます。チルドうどんや、わらび餅などの冷蔵で流通するめん類、菓子、団子などに使われています。

でんぷんの老化防止のために加える物質を4つ紹介しました。基本的にはどれも安全ですが、自然に存在しないものは、体に入れたくないという方も多いと思います。この4つの物質の違いをまとめましたので、参考にしてください。

砂糖 トレハロース CMC 加工でんぷん
自然に存在するか × ×
原料 サトウキビ
てん菜
でんぷん 木材パルプ でんぷん
製造方法 抽出・精製 微生物発酵 化学反応 化学反応
安全性
法律上の扱い 食品 食品添加物 食品添加物 食品

まとめ

  1. でんぷんは植物の光合成によって作られ、植物細胞のなかででんぷん粒として貯蔵されています。これを取り出したものがでんぷんで、水には溶けません
  2. でんぷんにはアミロースとアミロペクチンの2種類があり、アミロースの方がパサパサしています。ふだん食べるお米にはアミロースとアミロペクチンの両方が入っていますが、もち米にはアミロースは入っていません。
  3. でんぷんに水を加えて加熱すると、でんぷん粒が水を吸って膨らみ、やわらかくなります。この現象を糊化またはアルファ化といいます。人間はでんぷんを糊化することで、消化・吸収できるようになります。
  4. 糊化したでんぷんを放置すると、水分が抜けて固くなります。この現象を老化またはベータ化といいます。老化したでんぷんは食用に適さないので、老化を防ぐ方法が検討されています。