ダイエットに効果的な食用油としてMCTオイルが注目されています。
先に結論をいいますが、MCTオイルにはダイエット効果はありません。MCTオイルを勧める人は、MCTオイルを摂れば痩せるかのようにいっていますが、糖質制限をしないでMCTオイルを摂れば、確実に太ります。
糖尿病予防効果も、運動能力向上効果もかなり疑わしいです。
MCTオイルとは
MCTオイルとは中鎖トリグリセリド(MTC:Medium Chain Triglyceride)を含む食用油です。
MCTオイルが他の食用油と何が違うかをわかっていただくために、少し細かくなりますが、脂肪、脂肪酸、グリセリンについて説明します。
まずほとんどの脂肪は、グリセリン1個に脂肪酸が3つ結合した構造をしています。脂肪は消化酵素によって、脂肪酸2個と、グリセリン1個に脂肪酸が1つ結合した「モノグリセリド」にまで分解されたのち、小腸の上皮細胞から吸収されます。
脂肪酸は炭素がつながった鎖のような構造をしていますが、炭素が14個以上つながったものを長鎖脂肪酸、炭素が6~12個のものを中鎖脂肪酸、それよりも短いものを短鎖脂肪酸といいます。
長鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸には、次のようなものがあります。
この中鎖脂肪酸3つとグリセリンからできた脂肪(トリグリセリド)がMCTです。
ココナッツやパームフルーツなどヤシ科植物の種子に多く含まれ、ココナッツオイル(ヤシ油)、パーム核油(Palm kernel oil)とも、成分の60%がMCTオイルです。
これに対して、純粋なMCTオイルも販売されています。これはココナッツオイルやパーム核油をさらに精製したものです。
MCTオイルの特徴や効能は
分子量が小さいため分解・吸収されやすい
われわれがふだん食べている脂肪は、炭素数が14以上の長鎖脂肪酸からできているLCTです。これに対してMCTは炭素数が6~12と分子が小さいため、脂肪酸とモノグリセリドにすばやく分解され、小腸で吸収されやすいといわれています。
吸収されたのちエネルギーとして使われ、体に蓄積しにくい
小腸で吸収された脂肪酸とモノグリセリドは、吸収されたのちに再びトリグリセリドになり、たんぱく質やリン脂質と結合して血液中に入りますが、中鎖脂肪酸はトリグリセリドに再合成されることなく、エネルギー源として使われます。
トリグリセリドは体内に蓄積されやすいのに対して、MCTは構成成分の中鎖脂肪酸が消費されるため、体内に蓄積しにくいといわれています。
加熱には注意 揚げ物、炒め物には使えない
MCTオイルは160℃になると白煙が出るため、揚げ物、炒め物には使えません。これはMCTオイルは他の食用油と比べて沸点が低いためです。材料に混ぜてから焼いたり煮たりすることは可能です。またそのまま食べることも可能です。
MCTオイルのカロリーはほかの油と同じ
MCTオイルにダイエット効果があるという人は、中鎖脂肪酸が体に蓄積されにくいことを挙げていますが、これはダイエット効果とは何の関係もありません。
ふだん食べている食用油も、MCTオイルも、カロリーは同じです。
MCTオイルで摂取したカロリーが消費されて体内に蓄積されなかったとしても、その代わりに消費されなかった糖質が中性脂肪として蓄積されるので、結局同じことです。
ダイエットは、
- 摂取するカロリーを減らす
- 消費するカロリーを増やす
のいずれかを行う必要があります。ですから、ふだん食べている食用油をMCTオイルに置き換えても、ダイエット効果はありません。
ところでMCTオイルが、アメリカで流行の「ケトジェニックダイエットで人気」といって、あたかもMCTオイルにダイエット効果があるような書き方をしている記事があります。
ケトジェニックダイエットというのは、人間の主要なエネルギー源を「グルコース」から「ケトン体」に変える食事法で、痩身法というよりも、体質改善法に近いものです。
現代人の主なエネルギー源は、炭水化物や糖質で、これを分解して作られるグルコースをエネルギー源として使っています。ケトジェニックダイエットは、これを脂肪を分解して得られる「ケトン体」に変えるもので、そのために炭水化物や糖質の摂取を厳しく制限し、たんぱく質と脂肪を中心とした食事に置き換えます。
このとき補助的な脂肪源として使われるのが、MCTオイルです。
ケトジェニックダイエットを行うためには、かなり綿密なカロリー計算が必要で、素人が簡単にできるものではありません。MCTオイルがケトジェニックダイエットで使われることを引き合いに出して、ダイエット効果があるかのように印象付けるのは、きわめて悪質です。
糖尿病を予防する効果がないという臨床データも
MCTオイルには糖尿病を予防する効果があると書いているサイトが複数ありますが、これは明らかに言い過ぎです。
MCTオイルを摂ると「アディポネクチン」が増加するといわれており、このアディポネクチンが糖尿病リスクを抑える働きがあるというのが、その理由です。
根拠となる論文の一つに、2006年に行われた「ラット」を使った動物実験があります1)。
内容を簡単に紹介するとMCTオイルとふつうのオイル(LCTオイル)を摂取させたラットを比較した結果、MCTオイルを摂取したラットの方が、アディポネクチンの血中濃度が高く、血糖値の上昇が抑えられ、体脂肪の蓄積量が少なかったというものです。
しかしこの実験はかなり極端な条件で行われています。まずラットに与えられた食事には20%のMCTオイルまたはLCTオイルが含まれていました。またこのエサを8週間、毎日与えられています。人間でいうと毎日40~50g(必要とするカロリーの20%相当)の油を、2か月間連続して摂った場合の結果です。
大量のMCTオイルを摂れば、糖尿病予防効果があるかもしれませんが、これほど大量のMCTオイルを毎日続けて摂り、しかもLCTオイルを一切摂らないというのは、果たして現実的なのでしょうか。
一方、2017年に人間を使った臨床実験では、「MCTオイルに糖尿病を予防する効果あるとはいえない」という結果も出ています2)。
これは糖尿病でない被験者22人に、摂取する脂肪のうち30g(必要とするカロリーの13.5%相当)をMCTオイルに置き換えた食事を6週間食べさせて、検査を行いました。その結果、アディポネクチンの血中濃度は大幅に減少し、体重の減少はなく、空腹時血糖値、インスリン抵抗性などには有意な変化がなかったとのことです。
人間を使った実験で、MCTオイルに糖尿病を予防する効果がないという結果が出ていることも、きちんと公表すべきでしょう。
運動能力が向上するかどうかも怪しい
これは運動が無酸素運動なのか有酸素運動なのかによっても異なります。
MCTオイルは、短距離走、重量挙げ、相撲などの競技や、バーベルなどを使った筋力トレーニングなど、短時間に強い力を発揮する無酸素運動には何の関係もありません。
これに対して、ウォーキングやジョギング、エアロビクス、サイクリング、水泳など、長時間継続して行う有酸素運動では、さきほど紹介したケトン体によるエネルギー供給ができるように体質改善することで、運動能力(持久力)が向上する場合があります。
ただこれもケトジェニックダイエットと同様、きちんとした計画のもとでの食事摂取が必要で、単にMCTオイルを摂っただけでは、何の効果もありません。
アスリートの運動能力を高めるための食事については、別の記事で詳しく説明しているので、ご覧ください。
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効果的な使い方もある
糖質制限ダイエットを行う場合でも、たんぱく質と脂質は摂る必要があります。脂質は1gあたり9kcalとたんぱく質や炭水化物に比べてカロリーが高いため、ダイエットのときは制限しがちですが、ホルモン、生理活性物質や細胞膜の原料になる物質なので、1日30g以上は摂るべきです。
そのとき、ふつうの食用油よりもMCTオイルの方が分解・吸収がよく、エネルギーに変わりやすく、しかも体に蓄積しにくいので、可能であればMCTオイルやMCTオイルを多く含むココナッツ油などを摂ればよいと思います。
まとめ
- MCTオイルとは、中鎖脂肪酸とグリセリンが結合した中鎖トリグリセリドを含む食用油のこと。中鎖脂肪酸とは炭素数が6~12個のものをいう。
- ヤシ科植物の種子に多く含まれ、ココナッツオイルやパーム核油の60%がMCTオイル。これらのオイルをさらに精製した100%のMCTオイルも販売されている。
- MCTオイルはふだん食べている脂肪よりも分子量が小さいため、分解・吸収されやすい。また吸収されたのちはすぐにエネルギー源として使われるため、体内に蓄積されにくい。
- MCTオイルは沸点が低いため、揚げ物、炒め物には使えない。
- MCTオイルのエネルギー量は1kgあたり9kcalで、ほかの脂肪と同じ。ふだん食べている食用油をMCTオイルに置き換えても、ダイエット効果はない。
- MCTオイルには糖尿病を予防する効果があるという記述があるが、最新の臨床データでは、その効果は認められないという結果が出ている。
- MCTオイルを摂ることで運動能力が向上するという説明もあるが、根拠に乏しい。
- 糖質制限ダイエットの際も、脂肪は摂取する必要があり、その際にMCTオイルを取り入れるとメリットがあるかもしれない。
参考文献
1) Takeuchi H, et. al., Lower weight gain and higher expression and blood levels of adiponectin in rats fed medium-chain TAG compared with long-chain TAG. Lipids, 41 (2) 207-212 (2006)
2) Achari AE, et. al., Adiponectin, a Therapeutic Target for Obesity, Diabetes, and Endothelial Dysfunction. Int J Mol Sci, 18 (6) 1321 (2017)