ショートニングやマーガリンにはトランス脂肪酸が含まれており、摂り過ぎると心臓疾患のリスクが上がるとか、海外では規制が始まっているという話をよく聞きます。
一方でバターも動脈硬化の原因になるといわれます。
2021年の10月にはマーガリンの値上げが予定されており、安くて健康に良いものを選びたい方も多いでしょう。マーガリンもバターもふつうに使っている限りは健康には問題ありません。
ショートニング、マーガリン、バターの原料・製造方法・成分の違い
最初にこの3つの原料・製造方法・成分を簡単にまとめました。
ショートニング | マーガリン | バター | |
---|---|---|---|
原料 | 食用油脂 ・植物油のみ または ・動植物油混合 |
食用油脂 ・植物油のみ または ・動植物油混合 |
牛乳 |
製造方法 | 水素添加 | 水素添加 | 乳脂肪の分離・固化 |
主な成分 | 油脂(水分が0.5%以下) | 油脂(水分が多い) | 油脂 |
ショートニングとマーガリンは植物油脂でほぼ同じもの
ショートニングとマーガリンは、原料も製造方法もほぼ同じで、違いはその成分だけです。
もともとショートニングは「ラードの代用品」、マーガリンは「バターの代用品」として作られました。そのため、ショートニングは油脂分が多く、水分が少ないため固く、マーガリンは水分が多いため柔らかいという違いがあります。マーガリンから水分と添加物を除くと、ショートニングになります。
原料は食用油脂で、植物油だけで作られる場合と、植物油と動物油の両方を原料にする場合があります。それぞれ、次のようなものが使われています。
植物油 大豆油、コーン油、綿実油、なたね油、パーム油、ヤシ油、ひまわり油
動物油 魚油や豚脂、牛脂
ショートニングもマーガリンも「水素添加」で作られます。自然界にある油脂、特に植物油はほとんど液体です。
例えば揚げ物に使う大豆油、コーン油、綿実油、どれもさらさらの液体です。これらの油の分子構造を見ると、二重結合が多く存在します。二重結合が多いと融点が下がるため、常温では液体になります。この二重結合を一重結合にすると融点が上がり、固体の油に変わります。
植物油とショートニングで脂肪酸の組成を比較してみましょう。二重結合がある脂肪酸を不飽和脂肪酸、二重結合がない脂肪酸を飽和脂肪酸といいます。
植物油 | ショートニング | |||
大豆油 | コーン油 | 綿実油 | ||
飽和脂肪酸(%) | 16.0 | 14.1 | 22.8 | 49.5 |
不飽和脂肪酸(%) | 84.0 | 85.9 | 77.2 | 50.5 |
日本食品標準成分表2020年版(八訂)より計算
ショートニングは植物油に比べ、不飽和脂肪酸が減り、飽和脂肪酸が増えていることがわかります。
不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸に変えるには、触媒を使った化学反応で水素を添加します。
ショートニングとマーガリンの違い
ショートニングとマーガリンは原料、製造方法、主要成分は同じですが、細かな違いがあるので、この点について説明します。
ショートニングはもともと「ラードの代用品」として作られたので、固形の油脂であればよいのですが、マーガリンは「バターの代用品」なので、バターと同じように使うため、以下に示すような工夫がされています。
- パンに塗りやすくするため、柔らかくする(水分を多くする)
- 食塩を添加する(有塩バターと同じものにする)
- バターに似せるため、黄色の着色料や香料が使われている
日本農林規格(JAS)では油脂の含有率によって、マーガリン類を
・ファットスプレッド 油脂含有率が80%未満
に分けています。日本でマーガリンとして売られているものは、ほとんどがファストスプレッドです。製品パッケージの名称欄にはマーガリンではなく、ファストスプレッドと書かれているはずです。
これに対してショートニングは、パンや焼き菓子を作る際に使われるので、無味無臭の脂肪分だけで作られています。
バターの価格が高いのは牛乳の脂肪分だから
牛乳に含まれる脂肪分を取り出したのがバターです。バターの主成分は脂肪ですが、牛乳に含まれていたビタミンAが多く含まれています。
またマーガリン類とバターは脂肪酸の組成がだいぶ異なります。
- バターはもともと飽和脂肪酸が多い
- バターは不飽和脂肪酸が少なく、しかも多価不飽和脂肪酸が少ない
- バターはコレステロールを含む
不飽和脂肪酸には、分子内に二重結合が1個だけの「1価不飽和脂肪酸」と、二重結合が複数ある「多価不飽和脂肪酸」がありますが、バターには多価不飽和脂肪酸がほとんど含まれていません。
多価不飽和脂肪酸を多く含む植物油を水素添加したマーガリン類と、もともと多価不飽和脂肪酸を含まないバターの大きな違いです。
100gあたりのエネルギー量、成分量をまとめました。ちなみにバター100g作るために、牛乳(原乳)が4.8Lが必要です。バターの値段が高いのも納得です。
有塩バター | マーガリン/有塩 | ファストスプレッド | |
---|---|---|---|
エネルギー(kcal) | 700 | 715 | 579 |
水分(g) | 16.2 | 14.7 | 30.2 |
たんぱく質(g) | 0.6 | 0.4 | 0.2 |
脂質(g) | 81.0 | 83.1 | 69.1 |
炭水化物(g) | 0.2 | 0.5 | 0 |
ビタミンA(µg) | 500 | 0 | 0 |
β-カロテン(µg) | 190 | 290 | 380 |
飽和脂肪酸(g) | 50.5 | 23.0 | 20.4 |
1価不飽和脂肪酸(g) | 18.9 | 39.3 | 20.7 |
多価不飽和脂肪酸(g) | 2.1 | 13.0 | 20.0 |
コレステロール(g) | 0.21 | 0.005 | 0.004 |
バターにはコレステロールが含まれていますが、このためバターは体に悪いというイメージが定着してしまいました。後で詳しく説明しますが、体内のコレステロールの7割以上は糖や別の脂肪酸から合成されており、食事として吸収されるのは3割以下です。
したがって、バターを食べなかったところで、炭水化物を摂り過ぎると、体内のコレステロールは増加します。
ショートニングとマーガリンに含まれるトランス脂肪酸
トランス脂肪酸の生成メカニズム
トランス脂肪酸が体に悪いという話はご存じだと思います。トランス脂肪酸とはどんなもので、なぜ体に悪いのか、説明していきます。
トランス脂肪酸とは、「トランス型の二重結合」を持つ不飽和脂肪酸のことです。分子内に二重結合を持つ脂肪酸を不飽和脂肪酸と呼ぶことは説明しましたが、二重結合には「シス型」と「トランス型」があります。トランス脂肪酸はもともと自然界には存在しません。
次のようなメカニズムで生成します1)。
- マーガリンなどを作る際の水素添加の過程で、シス型の不飽和脂肪酸がトランス型に変わる(下図)。
- 魚油などを脱臭する際、200℃以上の高温の水蒸気を油に吹き込むが、その際シス型の不飽和脂肪酸がトランス型に変わる。
- 油を高温で加熱する調理過程で、シス型の不飽和脂肪酸がトランス型に変わる。ただし通常の調理条件下における油の加熱(160~200℃)では、ごく微量しか生成しない。
- 牛などの反すう動物の胃の中で、細菌の働きでシス型がトランス型に変わる(ただし少量)。
トランス脂肪酸はなぜ悪いのか
トランス脂肪酸の危険性については、世界中でさまざまな研究が行われおり、国によってはトランス脂肪酸の規制を行っているところもあります。しかし海外と日本では体格も食習慣も異なるため、海外の研究結果や規制をそのまま日本に当てはめることはナンセンスです。
日本政府の食品安全委員会では、多量のトランス脂肪酸を摂取すると、
・LDL コレステロールを増やし、HDLコレステロールを減らす
・LDL/HDLの比が増加すると、血管壁にコレステロールが蓄積し、血栓ができて動脈硬化を起こしやすくなる。
・その結果、心筋梗塞、狭心症などの冠動脈疾患のリスクを高める。
としています2)。
なお、牛などの反すう動物の胃で生成されるトランス脂肪酸(バクセン酸)については、冠動脈疾患との関係は低いとしています。
世界保健機構(WHO)と世界農業機関(FAO)は2003年に公表した報告書で、心血管系疾患リスクを低減し、心血管系の健康を増進するためのトランス脂肪酸の摂取目標を定めており、総エネルギー摂取量の 1%未満としています3)。
これは1日のエネルギー摂取量が2,500kcalの場合、トランス脂肪酸の摂取量を3.1g未満ということになります。
食品中のトランス脂肪酸の量
食用油の水素添加で作られるマーガリン、ショートニングは、トランス脂肪酸を多く含む食品として注意すべきといわれています。
国が公表したトランス脂肪酸の分析結果(食品100g中の重量)を見てみましょう2)。
マーガリン
2006~2007年の分析結果 平均8.7g、最小0.36g、最大13g
2014~2015年の分析結果 平均0.99g、最小0.44g、最大16g
ショートニング
2006~2007年の分析結果 平均12g、最小1.2g、最大31g
2014~2015年の分析結果 平均1.0g、最小0.46g、最大24g
トランス脂肪酸の危険性が指摘されるようになってから、メーカーが製造方法を変更するなどした結果、マーガリン、ショートニングとも、トランス脂肪酸の量が減ったようです。
しかし最大値だけを比較すると、ほとんど変わっていません。これは製造方法を変更していないメーカーもあるということです。この平均値を取り上げてマーガリン、ショートニングに含まれるトランス脂肪酸は減ったから心配ないといっている人もいますが、必ずしもそうとはいえないと思います。
マーガリン、ショートニング以外にも、トランス脂肪酸が含まれる食品はたくさんあります。2014~2015年の分析結果は次の通りです。
- ショートケーキ(1個、120g) 平均0.50g 最小0.25g、最大1.4g
- クロワッサン(1個、45g) 平均0.24g 最小0.10g、最大1.2g
- デニッシュ(1個、80g) 平均0.22g 最小0.06g、最大2.5g
- 菓子パン(1個、120g) 平均0.22g 最小0.05g、最大0.50g
- 食パン(4枚切り1枚、100g) 平均0.03g 最小0.02g、最大0.15g
マーガリンを一度に100g食べることはありませんが、ショートケーキやパンは1個以上食べます。マーガリンを食べないようにすることよりも、ショートニングを使った菓子やパンに注意する必要があります。
ただ、かなりの量を食べない限り、WHO/FAOが定めた摂取基準値を上回る心配はないと思います。
トランス脂肪酸は摂らないほうがよい
人間は生きていくためにトランス脂肪酸は取る必要はありません。そもそも自然界に存在しないものなので、できるだけ摂取しないようにするのが望ましいと考えられます1)。
ただ、これまで説明してきた通り、ふだんの食生活の中で、トランス脂肪酸を摂り過ぎる可能性は低いので、危険性があるとはいえません。ただ「ラードの代用品」や「バターの代用品」を作るために、自然界に存在しない物質が作られ、それを摂ることで健康に影響が出ることは間違いありません。できれば、トランス脂肪酸が多く含まれる食品は食べないほうがよいと、個人的には思います。
バターが体に悪い理由は特にない
血液中のコレステロール濃度が高くなると、血管壁にコレステロールが蓄積し、血栓ができて動脈硬化を起こしやすくなります。動脈硬化は、心臓に血液を供給する動脈(冠動脈)、脳に血液を供給する動脈、そして体の各部に血液を供給する動脈で起きるため、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞の発生につながります。
コレステロールを多く含む食べものは控えようと考えると思いますが、実は食事から吸収されるコレステロールは3割以下で、体内のコレステロールの7割は、糖類、たんぱく質、脂質を原料にして体内で合成されています。
コレステロールを多く含むバターは体に悪いといわれてきましたが、現在では有害ではないという考えが大勢を占めています。摂り過ぎると体に悪影響があるのは、バターだけではありません。適度な量を摂る分には健康には問題ないと思われます。
まとめ
- ショートニングはラードの代用品、マーガリンはバターの代用品として開発されたもので、いずれも食用油脂に水素添加することで作られる。ショートニングはほとんどが油脂だが、マーガリンには油脂のほかに水分、着色料、香料、乳化剤が入っている。
- 日本農林規格では、マーガリン類を油脂の含有率によってマーガリン(油脂含有率が80%以上)とファストスプレッド(同80%未満)に分けている。国内で売られているマーガリンの大半はファストスプレッドである。
- バターは牛乳に含まれる脂肪分を取り出したもので、コレステロールが含まれる。
- トランス脂肪酸は、マーガリンなどを作る際の水素添加、魚油などを脱臭するときの水蒸気処理によって、シス型の不飽和脂肪酸がトランス型に変化してできる。
- トランス脂肪酸はLDL コレステロールを増やし、HDLコレステロールを減らす。その結果血管壁にコレステロールが蓄積し、血栓ができて動脈硬化を起こしやすくなり、心筋梗塞、狭心症などの冠動脈疾患のリスクを高める。
- トランス脂肪酸はマーガリン、ショートニングだけでなく、さまざまな加工食品に含まれているが、通常の食生活で、WHO/FAOが定めた摂取基準値を上回る心配はない。
- トランス脂肪酸は自然界に存在しないもので摂る必要はない。できれば摂取しないようにしたほうがよい。
- バターに含まれるコレステロールは動脈硬化を起こしやすくなるが、バターは有害でも無害でもないと考えられている。
参考文献
1) 新開発食品評価書、食品に含まれるトランス脂肪酸、食品安全委員会 (2012)
http://www.fsc.go.jp/sonota/trans_fat/iinkai422_trans-sibosan_hyoka.pdf
2) 脂質の摂取~トランス脂肪酸を理解するために~、食品安全委員会(2018)
file:///C:/Users/stshr/Downloads/kai20180524ik1_210.pdf
3) WHO, Diet, Nutrition and the prevention of chronic diseases. Report of a joint WHO/FAO expert consultation., WHO. Geneva, WHO Technical Report Series (No.916) (2003)