小麦粉の国産と国内製造の違い、そばの原料は小麦粉? わかりにくい食品表示

パンやめん類など小麦粉を使った加工食品の原材料表示を見ると、小麦粉(国内製造)と書いてあるのをよく見かけます。「日本で作った小麦だから安心・・・」なんて思ってはいけません。これは外国産の小麦を、国内で製粉したという意味です。販売者はルールに則って表示しているのでしょうが、消費者が勘違いするような表示はやめるべきです。

粉にまつわる紛らわしい表示について、解説します。

小麦粉(国内製造)の意味とは、外国産小麦100%使用がふつう

日本の小麦の自給率は15%です(令和2年度、カロリーベース)1)。なのに、ほとんどのパンやめん類に小麦粉(国内製造)と書いてあるのはなぜなんでしょうか。実は、外国産小麦を国内で製粉し小麦粉にしているからなんです。

小麦の需給と価格の安定を図るために、本国政府が外国産小麦の輸入と売り渡しを行っており、製粉会社は国が決めた売り渡し価格で小麦を購入して、小麦製品作っています。小麦や小麦加工品(小麦粉など)を輸入すると最大で1kgあたり158円の関税がかかりますが、国が輸入する小麦には関税はかかりません2)。小麦粉は食品スーパーで1kg 100円ほどで特売されていることもあります。スペルト小麦やライ小麦のように、国家貿易の対象になっていない小麦を除き、わざわざ高い関税を払って小麦や小麦粉を輸入する人はいません。そのため、外国産小麦から製造された小麦粉は国内製造なのです。

食品表示法では、重量で最も多く使用している原材料について、それが生鮮原材料の場合は産地を、加工された原材料の場合は製造地を、国名で表示するというルールになっています。パンやめん類は小麦粉が最も多く使用している原材料なので、小麦粉を製造した国名を表示している、というわけです。これはルールに則った表示方法なので、メーカーには何ら落ち度はありません。でも「小麦粉(国内製造)」とあると、国産の小麦粉を使っていると、勘違いしませんか。

小麦粉(国内製造) → 国内で製粉しただけ。ほとんどが外国産小麦

国産小麦使用は国産小麦を100%使用している!はず

国産小麦使用とパッケージに表示した加工食品はたくさんあります。外国産小麦よりも国産小麦の方が安全・安心だと思っている人が多く、国産小麦使用という表示が購入動機になるからです。でも本当に国産小麦を使用しているのでしょうか

もし使用していたとしても国産小麦は51%で、残りは外国産小麦なんてことはないのでしょうか。

実はこの問題についてはネット上に間違った情報が氾濫しています。整理して説明しましょう。

まず国産小麦使用と表示する場合は、国産小麦を100%使用していなくてはなりません。国産小麦使用というのは、特色のある原材料を使用していることを消費者にアピールするものです。その場合、国産小麦を何%使用しているのか、表示しなければならないことになっており、100%使用している場合に限り、その使用割合を省略することができます

したがって、

国産小麦使用 → 国産小麦100%使用

ということなります。

例えば国産小麦を10%、外国産小麦を90%使ったパンを、「国産小麦使用」と表示すると、景品表示法違反(優良誤認)となり、消費者庁と都道府県が措置命令を出すことになります。ですから、国産小麦使用は、国産小麦を100%使用しているはずです。

一方で、実際にこのルールが守られているかどうかは、別問題です。違反した場合、課徴金が課されることもありますが、金額が少ないので、実効性があるのかどうかもよくわかりません。

ところで、国産小麦使用という表示は、いろいろなところで見かけます。パンやめん類だけでなく、加工食品でもたまに見られます。

でも、国産小麦って、そんなに生産されているのでしょうか。令和2年度の小麦の自給率は15%です。国内では主に製パン用、製めん用の品種が栽培されているので、パンやめん類で国産小麦だけを使った製品を作るのは、不可能ではありませんが…。

北海道産小麦使用は100%北海道産のはず

「北海道産小麦使用」も、「国産小麦使用」と同じケースです。

北海道産小麦使用と表示いるためには、北海道産小麦を100%使用する必要があります。もし北海道以外の場所で収穫された小麦が含まれていた場合は、たとえそれが国内産であったとしても、景品表示法違反(優良誤認)となります。

では、「北海道産小麦入り」という表示はどうでしょうか。この場合も、北海道産小麦を100%使用していなければなりません

北海道産小麦使用、北海道産小麦入り → 北海道産小麦100%使用

そばの原材料は小麦粉?

ご家庭で蕎麦を食べる方は、乾めん(干しそば)を買う人が多いのではないでしょうか。蕎麦はそば粉から作られるものと思っておられるかもしれませんが、実は干しそばの中には、ほとんど小麦粉で作られたものがあるのです。干しそばは、そば粉の比率が30%以上あれば、そば粉の比率を表示しなくてよいことになっています。

つまり、そば粉が30%以上使用されていれば、あとは全部小麦粉でも、「そば」と表示することができます

蕎麦といえば、十割そば、二八そばという名前が思い浮かびます。十割そばはそば粉100%で打ったもの、二八そばはそば粉が80%、小麦粉が20%です。ところがそば粉が30%、小麦粉が70%でも、そばという名前で堂々と売られています。

そば粉の値段は小麦粉の約3倍なので、小麦粉の比率を増やしたほうが、コストダウンできます。干しそばの中には「標準」や「上級」といったJAS(日本農林規格)マークが付いているものがあります。そば粉の割合が40%以上の場合は「標準」、50%以上の場合は「上級」となるとのことですが、農林水産省はいったい何を考えているのでしょうか。そば粉が全体の半分も入っていないものが、日本農林規格で「標準」なんだそうです。

これは干しそばの話です。飲食店の場合は表示に何の制約もありません。極端なことを言うと、そば粉10%、小麦粉90%のめんを「そば」といって販売しても、何のお咎めもありません。

そば → 干しそばは、そば粉30%以上使用、飲食店は、そば粉0%でもそばと表示可

片栗粉の原料は馬鈴薯でんぷんじゃなくて食品添加物!?

片栗粉はどこの家庭でも使う粉だと思います。ところで片栗粉の原料は何でしょうか。

江戸時代まではカタクリというユリ科の植物の根から採ったでんぷんを片栗粉と呼んでいましたが、いまは馬鈴薯(じゃがいも)のでんぷんを片栗粉と表示して販売しています。

片栗粉の原材料表示をご覧になったことありますか。多くの場合、馬鈴薯でんぷん粉と書いてあります。でも、それ以外のものを原料にしている片栗粉があるってご存じでしょうか。あるメーカーの片栗粉の原料は、なんと加工でんぷんです。

加工でんぷんはでんぷんを化学薬品で処理して作られたもので、でんぷんとは異なる化学構造と性質を持ちます。食品の劣化を防ぎ、賞味期限を長くしたり、食感をよくしたりするために添加されるもので、食品衛生法第12条に基づき、厚生労働大臣が使用してよいと定めた食品添加物である指定添加物に指定されています。

国内で加工でんぷんと呼ばれるものは12種類あります。食品添加物は物質名で表示されますが、加工でんぷんはもともと食品の扱いであったのが、2008年に外国と整合性を取るために食品添加物になった経緯があるため、物質名ではなく、加工でんぷんと一括表示することが認められています。具体的には次の12種類です(50音順)。ちなみに番号は、指定添加物リストの番号です。名前を見ただけでも、摂りたくないものばかりです。

17_アセチル化アジピン酸架橋デンプン
18_アセチル化酸化デンプン
19_アセチル化リン酸化架橋デンプン
94_オクテニルコハク酸デンプンナトリウム
159_酢酸デンプン
172_酸化デンプン
266_デンプングルコール酸ナトリウム
317_ヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプン
319_ヒドロキシプロピルデンプン
448_リン酸架橋デンプン
449_リン酸化デンプン
463_リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン

この加工でんぷんが原料になっている片栗粉が、馬鈴薯でんぷん粉が原料の片栗粉より安い値段で売られています。加工でんぷんには、健康上の問題が指摘されているものもあります。

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片栗粉の原料が食品添加物なんて、ちょっと信じられません。しかもその食品添加物はお隣の国から輸入されているようです。片栗粉とはいったい何なのか、一度整理したほうがよいのではないでしょうか。

まとめ

  1. 小麦粉(国内製造)国内で製粉したといっているだけで、国産小麦ではなく外国産小麦を使っている場合がほとんどです。
  2. 国産小麦使用、北海道産小麦入り、と表示されている場合は、それぞれ国産小麦を100%、北海道産小麦を100%使用していなくてはなりません。そうでなければ、景品表示法違反(優良誤認)となります。
  3. 干しそばそば粉が30%以上含まれていれば、そばと表示することができます。
  4. 片栗粉の中には食品添加物である加工でんぷんだけを原材料にしているものがあります

参考文献

1)  農林水産省、令和2年度食料自給率について
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012-1.pdf
2)  財務省、令和2年度関税率・関税制度改正要望事項調査票
https://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/tariff_reform/fy2020/nousui/2020nousui_05.pdf