注目される進化系オートミール、なにが進化系で、どこがヘルシーなの

オートミールオーツ麦を脱穀して、加熱しながらローラーでつぶすなどして調理しやすくしたもので、水や牛乳と一緒に煮て粥状にしたものを、欧米では朝食によく食べます。日本では数年前からダイエット食、健康食として人気が出て、さらにアレンジした進化系オートミールが登場しています。進化系オートミールとは何で、どのようなメリットがあるのか、含まれている栄養成分に基づいて薬剤師が解説します。

オートミールはオーツ麦を調理しやすくしたインスタント食品

オートミール、みなさんは食べたことがありますか。オートミールは、オーツ麦という麦を脱穀して、加熱しながらローラーでつぶすことで、調理しやすくしたものです。オートミールはそのままでは食べられません。牛乳や水と一緒に数分間煮ると、柔らかいお粥のようになり、食べられるようになります。日本には大麦を加工した押麦という食品があります。押麦は大麦を蒸して、ローラーでつぶすことで、お米と同じ時間で炊けるようにしたもので、オートミールは押麦と似た目的で作られたものです。

ところでオーツ麦は燕麦ともいい、小麦の栽培に適さない寒い地域でもよく育つため、北欧、東欧やアメリカの北部地域では、オーツ麦をお粥にしたものが、昔からよく食べられていました。そして、このお粥はどちらかというと、庶民の食事だったようです。ただ、オーツ麦をお粥にするためには、水に漬けて吸水させたのち、長時間煮込む必要がありました。この手間を省くために考案されたのが、オートミールです。

欧米では、食品スーパーにいろいろな種類のオートミールが並んでいます。これを牛乳や水と一緒に数分間煮て、味付けすると、朝ごはんになります。もちろん電子レンジで加熱することもできるので、簡単に調理できます。

 

オートミールは日本では普及しなかった

日本でオートミールが注目されるようになったのは、つい最近のことです。オートミールは約100年前に日本に入ってきたといわれ、昭和天皇が朝食によく召し上がっていたという話は、有名な話です。ただお米が主食の日本では、庶民の間に全く普及しませんでした。

日本では長い間、お米 > 小麦 > 雑穀の順に値段が高く、今では人気のある、お好み焼きやたこ焼きといった粉ものは、もともとは原料の小麦粉の値段がお米より安かったことから、庶民の軽食として広まったものです。そして、オートミールの原料であるオーツ麦は、小麦や雑穀よりもさらにマイナーな存在で、日本では主に北海道で馬のエサとして栽培されていました。刈り取ったオーツ麦を、葉っぱの部分も一緒に、軍馬のエサとして利用していたそうです。

農林水産省の最新データによりますと、現在も日本でオーツ麦は栽培されており、作付面積は4万5,100 ha、これは横浜市の面積とほぼ同じです1)。しかしこれは家畜の飼料用として栽培されているもので、食用に栽培されているものは、ごくわずかにすぎません。

食物繊維、ビタミン、ミネラルが豊富なことで注目を集める

オートミールが日本で注目されるようになったのは、セレブといわれる人たちが食生活に取り入れていることが雑誌などで報道され、ダイエット効果や健康増進効果があるといわれるようになったからです。オートミールは、脱穀したオーツ麦をそのまま加工しています。そのため、お米でいう「ぬか」の部分が残っており、食物繊維、ビタミン、ミネラルが多く含まれています。精白米より玄米、普通の小麦粉より全粒粉がヘルシーといわれることがありますが、オートミールがヘルシーといわれるのも、同じ理由からです。

では、オートミールの栄養成分は、玄米や全粒粉(小麦)と比べて多いのでしょうか。文部科学省が公表している日本食品標準成分表2020年版(八訂)に基づいて、比べてみましょう。

下の表は100gあたりに含まれる成分の量を示しています。

オートミール お米 小麦
精白米 玄米 小麦粉 全粒粉
エネルギー (kcal) 350 342 346 337 320
たんぱく質 (g) 13.7 6.1 6.8 11.8 12.8
脂質 (g) 5.7 0.9 2.7 1.5 2.9
炭水化物 (g) 69.1 77.6 74.3 71.7 68.2
食物繊維 (g) 9.4 0.5 3.0 2.7 11.2
灰分 (g) 1.5 0.4 1.2 0.4 1.6
鉄 (mg) 3.9 0.8 2.1 0.9 3.1
亜鉛 (mg) 2.1 1.4 1.8 0.8 3.0
ビタミンB1 (mg) 0.2 0.08 0.41 0.09 0.34
ビタミンE (mg) 0.7 0.1 1.4 0.5 11.2

精白米は水稲穀粒・うるち米、玄米は水稲穀粒・玄米、小麦粉は強力粉1等、全粒粉は強力粉全粒粉の数値を示す。ビタミンEはα-, β-, γ-,δ-トコフェロールの合計値を示す。

オートミールには食物繊維、灰分(ミネラル)、ビタミンB1が多く含まれています。特に鉄分が多いことから、鉄分が不足しがちな女性にひったりの食材、などといわれることがあります。ただこれらの成分は玄米や全粒粉にも多く含まれており、オートミールが玄米や全粒粉よりも、栄養的に優れているとはいえません

また、オートミールに含まれる成分でよく取り上げられるのが、β-グルカンです。β-グルカンとは食物繊維の一種で、穀物に含まれるβ-グルカンは冠状動脈心疾患のリスクを下げるといわれています2)オーツ麦にβ-グルカンが含まれているのは事実ですが、大麦にも含まれています。なお冠状動脈心疾患はさまざまな原因が重なりあって起きるもので、β-グルカンを摂れば防げるというものではありません

ところで食品をメリットを強調するために、○○は△△の何倍、という表現をよく見かけますが、これには注意が必要です。例えば、「オートミールには、お米の19倍の食物繊維が含まれています」という文章は、間違いではありません。しかし全粒粉には、オートミールに含まれるよりも多くの食物繊維が含まれているという事実には、全く触れていないことがほとんどです。

進化系オートミールとは

進化系オートミールと呼ばれているものには、大きく分けると次の3種類があります。

  • オートミールにドライフルーツ、ナッツを加えて、味や栄養成分を改善したもの
  • オートミールを簡単に食べられるようにしたもの
  • オートミールを他の用途に使えるようにしたもの

まず、ドライフルーツ、ナッツを加えることですが、コーンフレーク、グラノーラ、ミューズリーで行われていることと全く同じです。オートミールそのものには、あまり味はありません。そこで、ドライフルーツやナッツを加えて、食味を改善したオートミールが発売されています。結果的に、ビタミン、ミネラル、オメガ3脂肪酸といった、からだによいといわれる成分を多く含むことになり、製品の付加価値を高くしています。

オートミールを昔から食べている国では、牛乳で炊いてジャムを入れる、水で炊いて塩味を付けてナッツを入れるなど、家によって独自のレシピがあり、それが家庭の味になっています。一方オートミールを食べた経験がない日本人にとって、オートミールを購入しても、どう調理し、どのように味付けしたらよいのか、わかりません。また容器に入れて、電子レンジで加熱するのも面倒という人もいるでしょう。そこで登場したのが、オートミールに味を付けて、すぐに食べられるようにしたものです。
あらかじめ加熱をして、コーンフレークと同じように冷たい牛乳をかけたら、そのまま食べられるようにしたグラノーラやミューズリー、カップ麺と同じように、オートミールと調味粉末をカップに空け、お湯を注いだら食べられるカップタイプものなど、いろいろなものが出ています。なおグラノーラとミューズリーの違いは、別の記事をご覧ください。

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三つ目は、オートミールを料理やお菓子作りの原料として使えるようにした製品です。欧米では、オーツ麦が入ったパンやビスケットがよく食べられていますが、日本でもオートミールを加えたパンケーキ粉が発売されています。オートミールは日本ではあまりなじみがないので、そのまま材料として使えるようにした商品は重宝します。

進化系オートミールは必ずしもヘルシーではない

進化系オートミールはヘルシー! 注目のアイテム! これを取り入れないとトレンドに乗り遅れる! という情報をよく目にします。その中には、栄養学の専門家である管理栄養士の方が執筆したものもありますが、本当にそう考えておられるのか疑問です。筆者には、進化系オートミールのどこがヘルシーなのか、さっぱりわかりません

そもそも論ですが、進化系オートミールがヘルシーとおっしゃっている人は、何と比べてヘルシーとおっしゃっているのでしょうか?

まず、昔からあるオートミールと、進化系オートミールと比べたとき、進化系オートミールの方がヘルシーとは言い切れません。進化系オートミールは、食べやすくするために、甘味成分、うまみ成分、食品添加物を加えていることがほとんどです。また商品によっては、高カロリーになっているものもあります。

ドライフルーツやナッツを加えることで、栄養バランスが改善されたというのは事実ですが、それは白米だけを食べるのではなく、おかずと一緒に食べることて、栄養バランスが改善されたというのと、同じ理屈で、食べ方の問題です。

また進化系オートミールを、「ダイエットに最適」とか「ダイエットにうれしい」などと書いてあるのを見かけますが、これも科学的な根拠に乏しい表現です。例えば、ごはんとおかずの朝食を、進化系オートミールの朝食に替えたとしましょう。ダイエット効果があるかどうかは、摂取したカロリーの量と、その内訳によります。進化系オートミールに変えたとしても、カロリーの摂取量が変わらなければ、ダイエットにはなりません。こはんとおかずの朝食でも、白米の量を減らして、野菜や卵、肉類を増やすことで、十分な効果が得られるはずです。

オートミールや進化系オートミールが好きで食べるのは構いませんが、健康になることを目的としてオートミールを選ぶのは、意味があるとは思えません。輸入されたオーツ麦から作られた値段の高いオートミールを買わなくても、国産の安全な食物から食物繊維、ミネラル、ビタミンを摂る方法はほかにもあります。

まとめ

  • オートミールは、オーツ麦を調理しやすくしたインスタント食品。オートミールの原料となるオーツ麦(燕麦)は、小麦が育たない寒冷な地域で栽培され、庶民がお粥にして食べていた。
  • オートミールは100年前から日本にあるが、注目されるようになったのは最近のこと。オーツ麦は日本でも栽培されているが、ほとんどが家畜の飼料用で、食用はごくわずかに過ぎない。
  • オートミールが注目された理由は、食物繊維、ビタミン、ミネラルが豊富で、ダイエット効果や健康増進効果があると宣伝されたため。ただオートミールに含まれる栄養成分は、玄米、全粒粉(小麦)にも含まれており、オートミールに特有のものではない。
  • 進化系オートミールとは、オートミールにドライフルーツ、ナッツを加えて、味や栄養成分を改善したもの、加工して簡単に食べられるようにしたもの、他の用途に使えるようにしたものなどがある。
    進化系オートミールはがヘルシーという表現は必ずしも正しいとはいえない。

参考文献

1) 農林水産省、令和3年産飼料作物の作付(栽培)面積及び収穫量、えん麦(緑肥用)の作付面積、2022年3月10日
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sakumotu/sakkyou_kome/siryo/r3_siryo/index.html
2) US Food & Drug Administration, Code of Federal Regulations Title 21
https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfcfr/cfrsearch.cfm?fr=101.81