将棋は頭を使うスポーツです。棋士は対局中に脳で大量のエネルギーを消費しているといわれています。
藤井聡太三冠が対局中に何を召し上がったのか調べてみると、消費されるエネルギーをうまく補給しつつ、脳の血流量が減らないように工夫するとともに、胃腸に負担がかからないようになっていることがわかりました。
藤井三冠の対局中の昼食、おやつはなに?
藤井聡太さんまた勝ちましたね。8割を超える通算勝率。向かうところ敵なしって感じです。わたしは将棋のことはよくわからないんですが、すごい頭脳の持ち主だってことはわかります。
いろいろなパターンの中から、最適な一手を瞬時に選ぶ、しかも、何手先も読んでいるんですから、とにかく「すごい」という言葉しか出てきません。
この藤井三冠の対局の様子は、いろいろなところで報道されています。食事休憩をはさんで8時間以上、頭をフル回転させ続けているようです。
これだけの長時間、集中力を保ち続けるなんで、ふつうの人間?であるわたしには到底無理です。気を抜いたり、別のことを考えたりすると思いますが、それが負けにつながるんだと思うし、そもそもプロの棋士はそんなことはないんでしょうけれど……。
脳を働かせるためには、エネルギーが要ります。藤井三冠が対局中に召し上がったものが公開されているので、栄養学的に分析してみました。
将棋の対局は、朝の9時から始まりお昼休憩をはさんで、夕方まで続くそうです。ときには夕食休憩もあるとのことです。そして10時と15時にはおやつが出されるとか。
今回の叡王戦では主催者の不二家が提供した「コロコロしばちゃん」というカットケーキを召し上がったとのことで、話題になりました。最近の対局で、藤井三冠が昼食やおやつに召し上がったものを書き出してみました。
昼食メニュー
カレー
- カレー(9回)
- ハッシュドビーフ(2回)
- オムハヤシ
うどん・中華めん
- うどん・きしめん(9回)
- 冷やし担々麺
丼物・お寿司・チャーハン・お弁当
- 海老天重
- 天とじ丼(冷そば付)
- 鉄火丼
- お寿司(2回)
- 五目チャーハン
- 銀だら西京漬け焼き弁当(3回)
その他
- 豚しゃぶ(4回)
- ハンバーグ(3回)
- パスタセット(2回)
- 蒸し鶏
- 肉豆腐
おやつ
ケーキ
- ショートケーキ・モンブラン(5回)
- カップケーキ(2回)
- チーズケーキ
焼き菓子
- バウムクーヘン(2回)
- フィナンシェ
- バターサンド(2回)
- どら焼き
- カステラ
- リーフパイ
- クッキー
- ガトーショコラ
その他
- フルーツ(5回)
- プレミアム生ミルキー
- 白玉冷やしぜんざい
- プリン
- ぴよりんアイス
糖質をこまめに摂りグルコース濃度を高めに維持
将棋の対局は基本座った状態で行われますが、脳がフル稼働しているため、グルコースが大量に消費されているはずです。血液中のグルコース濃度を一定の濃度で維持し続けることが、集中力の維持につながることは間違いありません。
藤井三冠が意識的にされているのかどうかわかりませんが、おやつではケーキや焼き菓子など甘いもの、昼食では炭水化物を多いめん類やごはんものを摂ることによって、結果的に血液中のグルコース濃度が少し高い状態に維持できているのではないかと考えます。
例えば、10時と15時のおやつでは、「砂糖を多く含む洋菓子」をよく食べられているようです。砂糖(スクロース)はすぐに分解されてグルコースとフルクトースとして小腸から吸収され、血液中に入ります。また小麦粉に含まれるでんぷんもグルコースに分解され、小腸から吸収されます。
また昼食メニューも、全体的に炭水化物が多いメニューが中心です。その結果、炭水化物(でんぷん)がすみやかに分解され、グルコースとして小腸から吸収されているようです。
一度に大量の炭水化物や糖質を摂ると、血液中のグルコース濃度(血糖値)が上がり、それを下げるためにインスリンが働きますが、ちょうどよい量の炭水化物や糖質をこまめに摂ることで、血糖値を少し高い状態に維持し続けることができているのだと思われます。
消化がよいものを摂ることで脳の血流量減少を阻止
昼食には、消化がよいものを比較的多く召し上がっておられるようです。消化に時間がかかると、内臓の血流量が増え、結果的に脳の血流量が減ってしまいます。お腹がいっぱいになると眠くなるのはこのためです。
ふだんの生活では血糖値の急激な上昇を防ぐために、消化に時間がかかるものや、食物繊維が多いもの摂る方がよいのですが、1時間足らずの休憩時間内に食事を済ませて、再び対局に臨まなくてはならないので、消化に時間がかかるものは禁物です。
具体的は次のようなメニューが消化がよいと考えられます。
- カレー、ハッシュドビーフ
- うどん、きしめん
- 鉄火丼、お寿司
天ぷらうどん、カツカレー、えび天重といった揚げ物も好んで食べておられるようです。一般的に揚げ物は、消化が悪く、胃腸に負担がかかるイメージがあります。確かに年齢を重ねると、胃酸や胆汁の分泌量が減り、脂肪の分解に時間がかかるようになります。若いときは食べられていた揚げ物が苦手になるということは、よくあります。
しかし、藤井三冠はまだ19歳です。脂肪分もどんどん分解する力があります。天ぷらうどんやカツカレーについている程度の揚げ物は、全く影響ないのでしょう。
たんぱく質と食物繊維が少ない食事で胃腸への負担を少なく
藤井三冠の昼食メニューを見て感じたことは、たんぱく質と食物繊維が少なめ、ということです。
これは実は、すごく理にかなっていると思います。スポーツ選手は筋肉を使うため、筋肉のもとになるたんぱく質を多く摂ります。ただしこれはトレーニング中の話で、試合直前や試合中には、消化・吸収に時間のかかるたんぱく質は摂りません。
昨今の腸活ブームで注目される食物繊維ですが、これもスポーツの試合直前や試合中には避けるべき成分です。
「食物繊維は腸内細菌のエサになるので体によい」、「毎日の食生活の中で意識的に摂るべき」といわれています。これは正しいことなのですが、食物繊維を摂ると胃腸に負担がかかることをご存じでしょうか。
食物繊維は人間が消化・吸収できない成分です。食物繊維を多く摂ると、いつまでもお腹の中に未消化物が残り、お腹が重い感じがします。また腸内細菌がこれを一気に分解することで、腸内に大量のガスが発生し、お腹がグルグルと鳴ったり、お腹が膨れて苦しくなったりします。
将棋の対局中に、お腹がグルグル鳴る人がいるのかどうかわかりませんが、こんな状態では対局に集中できません。食物繊維を少ない食事は、よい結果をもたらしているように思います。
集中力が必要な勝負の食事として学ぶべき点がある
藤井三冠の快進撃の陰には、食べておられるものが関係している、という勝手な推理でした。しかし、ここで説明したように、対局中に食べているものが、彼のパフォーマンスによい影響を与えていることは間違いないと思います。
これは、われわれの日常生活において、集中力を必要とする場面、例えば入学試験などの食事として、学ぶべき点があると思います。
一方、ネット上には「脳をよく使う人は太らない」、「脳をよく使うとダイエットになる」といった都市伝説も載っています。ダイエット目的で将棋を始めようとするなど、とんでもない話もありますが、何の根拠もありません。
旧ソ連のプロ棋士が、数日間に及ぶチェスの試合中に体重が10kg減って、ドクターストップがかかったという話があちこちで出てきますが、体重減少の原因が、脳を使ったことだけではないことがはっきりしています。
まとめ
- 将棋の対局では脳がフル稼働しているため、グルコースが大量に消費されている。血液中のグルコース濃度を一定の濃度で維持し続けることが、集中力の維持につながる。藤井三冠は10時と15時のおやつではケーキや焼き菓子など甘いものを、昼食では炭水化物を多いめん類やごはんものを摂ることによって、結果的に血液中のグルコース濃度を少し高い状態に維持し続けていると考えられる。
- 昼食には消化がよいものを召し上がっておられる。消化に時間がかかると、内臓の血流量が増え、結果的に脳の血流量が減り、脳の働きが鈍くなる可能性がある。人間が消化・吸収できない食物繊維はお腹が鳴ったり膨れたりする原因にもなる。
- 藤井三冠が対局中の食事は、集中力を必要とする場面、例えば入学試験などの食事として、学ぶべき点がある。