外国産小麦は危険で国産小麦は無農薬で安全? 何が違うのか

国産小麦粉は値段が高いけれど無農薬で安全、外国産小麦粉はグリホサートやポストハーベスト農薬が使われている上に、遺伝子組み換え小麦が混じっているかもしれない

これは全くの誤解です

国産小麦でも、一部の有機栽培のものを除いて農薬は使われていますし、グリホサートは国内でも小麦を含め、さまざまな農作物に使われています。

国産小麦も外国産小麦も、農薬の残留基準値は全く同じです

国産小麦はどこで売ってる?生産が少なく自給率は17%

最近、国産小麦使用、国内産小麦粉使用と書かれたパンやめん類が増えてきました。ちょっと高くても、安全でおいしいものを求める消費者のニーズにあわせた動きです。

ところで、国産小麦粉って、そんなにたくさんあるのでしょうか。令和元年度の小麦のカロリーベースでの食料自給率と17%です1)。いまから56年前の1965年度には28%だったので、もともと外国産の割合が高かったということです。

国産小麦粉は外国産と比べて、どのくらい割高なのでしょうか。

スーパーで製パン用に売られれている小麦粉(強力粉)を見ると、国産の小麦粉は1.5~2倍くらいします。ただ国産のパン用小麦粉は、小麦の品種や産地が指定されていたり、有機栽培されたものが多いので、これだけでは比較できません。

そこで、先ほど紹介した農林水産省の統計を使って比較してみました。国産小麦の自給率はカロリーベースでは17%ですが、生産額ベースでは19%です。

つまり国産小麦は外国産小麦より値段が高いため、金額ベースで計算すると自給率が高くなります。これを見ると、国産小麦は外国産小麦に比べて12%ほど割高ということになります。この差を大きいとみるのか、小さいとみるのかは判断が分かれるところですが、少なくとも食品スーパーの店頭での価格差ほどはないということになります。

外国産小麦はグリホサートを使っていて危険?!

外国産小麦粉の安全性について議論されるとき、必ず取り上げられるのが、農薬と遺伝子組み換えです。

これについて詳しく見ていきましょう。

収穫前に小麦を枯らすグリホサート

お米は稲穂が黄色に色づいてきたら、稲刈りをして収穫します。昔は刈り取った稲を束にして、稲架(きさ)と呼ばれる物干しのようなところにかけて、2週間程度乾燥させてから脱穀していました。いまはコンバインで稲刈りから脱穀までを行い、穀粒だけが回収され、穀粒は乾燥機で乾燥されています。

小麦も同じで、収穫した後、乾燥する必要があります。この乾燥の手間を省くために、収穫の1週間前に小麦畑に農薬を散布して小麦を枯らして、枯れた小麦を刈り取るということが一般的に行われています。このときに使われる農薬が「グリホサート」です。

グリホサートは日本でもホームセンターで簡単に手に入れることができます。「ラウンドアップ」という名前の除草剤を見かけたことはありませんが。非常に強力な除草剤で、水で薄めてまくと、まいた場所の雑草は全部枯れて、そこだけ色が茶色になります。この除草剤が、われわれが食べている小麦の収穫前にまかれて、枯れた小麦を収穫しているのです。

農薬を使っている人たちを擁護するつもりはありませんが、グリホサートを農産物に対して使用することは、日本を含めて多くの国で認められています。日本ではさすがに農作物を枯らして乾燥の手間を省くことを「主目的」に使用されていませんが、例えば大豆などでは収穫の3週間前に畑に散布することで、雑草も大豆も枯らしてから、大豆を効率よく収穫するということが行われています。

グリホサートには農産物ごとに残留基準が定められています。小麦については2017年に5ppmから30ppmに緩和されました。その際、多くの農産物の残留基準値も緩和されています。これは海外での使用実態に合わせたものと考えられます。

  • 大麦:30ppm(改訂前20ppm)
  • ライ麦:30ppm(改訂前0.2ppm)
  • そば:30ppm(改訂前0.2ppm)
  • 米(玄米):0.1ppm(変更なし)

輸送・保管に虫の捕食を防ぐポストハーベスト農薬

ポストハーベスト農薬とは、農産物の収穫後に、

  • 農産物の品質の低下を防ぐ。
  • 農産物の虫による捕食や腐敗による廃棄を減らし、農産物を安価に供給する。
  • 輸送・保管中に発生したカビなどによる食中毒を防止する。

を目的として使われる薬剤です。法律上は農薬ではなく、食品添加物の扱いになります
小麦に使用されるのは「防虫剤」です。ネット上には防カビ剤が使われているという間違った情報がありますが、防カビ剤は小麦には使われていません。

外国産小麦は収穫されてから製粉されるまで、長い時間貯蔵されることになります。この間に虫によって食べられるのを防ぐ目的で、下記のような化学物質が使われます。主要なものだけを紹介します。なお残留基準値は残留農薬基準値検索システム3)によるものです。

マラチオン(商品名:マラソン)

有機リン・有機硫黄系殺虫剤。

  • 小麦:8ppm
  • 大麦:2ppm
  • 米(玄米):0.1ppm

ピペロニルブトキシド

殺虫剤

  • 小麦:24ppm
  • 大麦:24ppm
  • 米(玄米):24ppm

ピレトリン

蚊取り線香の殺虫成分と同じ化学物質。

  • 小麦:3ppm
  • 大麦:3ppm
  • 米:3ppm

リン化アルミニウム、リン化マグネシウム

殺虫剤。いずれも粉末ですが、大気中の水分と反応して毒性の強い気体のホスフィン(PH3)を生じるため、殺虫剤(燻蒸剤)として使われます。

  • 小麦:0.1ppm
  • 米(玄米):0.1ppm

ジクロルボス(DDVP)

有機リン系殺虫剤で、かつては日本でも農薬として使われていましたが、2012年に農薬としての登録は失効しています。防疫のための燻蒸に使われるほか、家庭用の殺虫剤の成分としても使われています。

  • 小麦:0.2ppm
  • 米(玄米):0.2ppm

遺伝子組み換え小麦が入ってくる心配はない

現在、商業栽培されている遺伝子組み換え小麦は存在しません。ただ地球上には研究用に作られた遺伝は組み換え小麦が存在します。

2019年に未承認の遺伝子組み換え小麦がアメリカ・ワシントン州で発見されたことを、アメリカ農務省が発表しました。これは先ほど紹介した農薬グリホサートに耐性を持つ遺伝子を組み込んだものです。つまり除草剤であるグリホサートで枯れない小麦ということになります。これに対して、アメリカの食品医薬品局(FDA)は、

・遺伝子組み換え小麦は、アメリカ国内で商業栽培、商業流通、販売されていない。
・ごく少量が食品に混入したとしても安全上の懸念はない。

と公式発表しています。

また農林水産省では輸入小麦をロットごとに遺伝子検査(PCR検査)しているため、現時点においては国内で流通する可能性は極めて低いと考えられます。

外国産はポストハーベスト農薬も危険だから、国内産が安全?

いま説明したように、外国産小麦については、

  • 収穫直前に除草剤であるグリホサートを使用している
  • ポストハーベスト農薬として殺虫剤を使用している

という懸念があることは事実です。

では、国産小麦は、グリホサートを使用していないか、というと、そんなことはありません。

グリホサートは国内でも農薬として使われており、小麦に対して使用することが認められています。メーカーが公表している麦類に対する使用方法によると、

・対象:一年生雑草および多年生イネ科雑草
・使用できる期間:小麦の種をまいてから芽が出る前まで
・散布量(原液換算):10aあたり200~500ml
・使用回数:3回以内

となっており、収穫直前に散布するとは書いてありません。この点では、国産の小麦はグリホサートが残留する可能性は少ないと思われます。

殺虫剤については、小麦を収穫してから製粉するまでの期間が長い場合に使用されるため、収穫後、比較的短い時間で製粉される国産小麦は、使用している可能性は低いものとみられます。

このことから、グリホサートと殺虫剤に限っては、外国産小麦に比べて国産小麦の方が含まれている量が少ないと考えてよいでしょう。

ただ、国産小麦が農薬を使用していないかというと、そんなことはありません。化学的に合成された肥料および農薬を使用しない有機栽培でない限り、農薬は使用されていると考えるべきです。

ですから「外国産小麦=危険、国産小麦=安全」と決めつけるのは、間違いだと思います。

生産コストが安い外国産、国産小麦の価格が高いのはなぜ

国産小麦の値段が高い理由はいろいろ考えられます。まずは生産コストの違いです。外国では広い圃場を使い、人手をかけずに栽培しているため、生産コストは圧倒的に安いです。
つぎに海外から輸入されている小麦の品種は、以下に示すたった5品種しかありません(( )内は略称)。製粉業者はこれをブレンドすることで、用途にあった小麦粉を製造しています。

  • カナダ産ウェスタン・レッド・スプリング(1CW)
  • アメリカ産ダーク・ノーザン・スプリング(DNS)
  • アメリカ産ハード・レッド・ウィンター(HRW)
  • オーストラリア産スタンダ-ド・ホワイト(ASW)
  • アメリカ産ウェスタン・ホワイト(WW)

これに対し、日本で栽培・流通している小麦の品種はなんと67もあります

67種類の小麦をそれぞれ栽培し、製粉して流通させるためには、手間もコストもかかります

日本の小麦は、道府県の農業試験場が独自に品種改良した小麦を、道府県内だけで栽培し、ブランド化することで高く販売しようとしています。日本では高くても売れるものを目指しているので、これでは国産小麦の値段が下がるはずがありません。安くて、ある程度の品質を求めるという、消費者のニーズとかけ離れているといわざるを得ません。

無農薬の小麦は有機栽培を選ぶなど 消費者として何を選択するか

人間のからだは食べたものでできているので、農薬や殺虫剤が使われたものはからだの中に入れたくありません。一方で、農薬や殺虫剤を使わなければ、安い値段で農産物を供給できないというのも、紛れもない事実です。農薬や殺虫剤の使用に反対したり、外国産小麦の不買運動をしたところで、何の解決にもなりません。

消費者であるわたしたちは何をすべきでしょうか。

小麦の消費量を減らす

小麦はパン、めん類、菓子類などさまざまな食品に使われていますが、外国産、国産を問わず、まずは小麦の消費量を減らすことが重要です。

減らした分は、お米で置き換えるとか、あるいは炭水化物のそのものの摂取量を減らせばよいと思います。小麦の輸入先は、アメリカ、カナダ、オーストラリアの3か国で、これらはいずれも日本の同盟国です。外国産小麦だけをターゲットにした不買運動などは、絶対にやるべきではありません。輸入小麦にグリホサートや殺虫剤が使われている可能性は高いのですが、そもそも残留基準値をクリアしたものしか、日本国内に入ってきていません。また国産小麦に、農薬が使われていないわけでもありません。

小麦製品を購入するときは有機栽培されたものを選ぶ

小麦を全く食べないわけにはいかないので、必要に応じて購入したらよいと思います。そのとき、もし事情が許せば、有機栽培された小麦を使ったものを選ぶようにしましょう。

有機栽培では、化学的に合成された肥料や農薬を使用していません。有機栽培されたものであれば、国産でも外国産でも、どちらでもかまいません。ただ、手に入りにくかったり、値段が高かったりします。その場合は、今までどおりの小麦製品を購入して、問題ありません。無理をしないで、可能な範囲で行うことが重要です。

まとめ

  1. 小麦の自給率はカロリーベースで17%です。店頭で売られている小麦粉は国産のものと外国産のもので1.5~2倍の価格差がありますが、貿易統計からの推計では、国産小麦は外国産小麦に比べて12%割高に過ぎません。
  2. 外国産小麦が危険という人が理由にあげるのは、収穫前に散布されるグリホサート、ポストハーベスト農薬としての殺虫剤、遺伝子組み換え小麦の混入です。グリホサートと殺虫剤が使われている可能性はありますが、遺伝子組み換え小麦の影響はありません
  3. グリホサートは国内でも小麦を含むさまざまな農作物への使用が認められています。グリホサートも殺虫剤も、残留基準値は国産、外国産とも同じです。
  4. 外国産小麦は危険、国産小麦が安全と決めつけることは、間違いです。
  5. 外国産小麦は5品種しか輸入されていないのに対し、国内で栽培されている小麦は67品種あります。国産小麦は各自治体でブランド化して高く販売しようとしており、安くて、ある程度の品質を求めるという、消費者のニーズにあっていません。
  6. 小麦自体の消費量を減らし、どうしても小麦製品を買うのであれば、化学農薬を使わない有機栽培のものを使うのがよいと思います。

参考文献
1) 令和元年度食料自給率について、農林水産省(2020)
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012-16.pdf
2) 食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について、厚生労働省(2017)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000193425.pdf
3) 残留農薬基準値検索システム、日本食品化学研究振興財団
http://db.ffcr.or.jp/front/