キサンタンガムの製造方法、安全性、特性、用途と食品の使用例

ドレッシング、ソースからレトルト食品、冷凍食品まで、キサンタンガムはさまざまな食品に増粘安定剤や乳化剤として使われています。

キサンタンガムはタンクの中で細菌が作るものですが、発がん性はなく、許容一日摂取量も決められていないので、安全です。

ただ人間が消化・吸収できないなので、一たくさん食べるとお腹が緩くなることがあります。キサンタンガムの優れた特性と、どのような食品に使われているのか、説明します。

キサンタンガムは細菌がタンクの中で糖類を原料にして作る

Xanthomonas campestris (キサントモナス・キャンペストリス)という名前の微生物が生産する多糖類です。

キサントモナスが作るガム状の物質ということで、キサンタンガムという名前がついています。タンクの中の液体に、微生物と栄養分となるでんぷんを入れて温度を一定に保つと、微生物がでんぷんをキサンタンガムに変えて、液体の中にキサンタンガムが増えてきます。この液体を精製・乾燥・粉砕したものがキサンタンガムの粉末で、白色またはクリーム色のさらさらした粉末です。

キサンタンガムを作る微生物は、キャベツ、白菜、大根などのアブラナ科の作物の黒腐病や、芝生の青枯病を引き起こす病原菌で、見ることはできませんが、日本にもふつうにいます。この菌は、気温の変化や乾燥など、厳しい自然環境の中で生き延びるために、自分の体を守るための保護膜としてキサンタンガムを生産しています。われわれの身近なところにいる微生物から、キサンタンガムが生産されているのは驚きですね。

キサンタンガムは安全だが摂りすぎるとお腹に不調が起きることも

キサンタンガムは食べても安全なのでしょうか。

基本的には安全です。欧州食品安全機関(EFSA)が行った評価試験では、発がん性、遺伝毒性も含めて、安全性には問題なく、許容一日摂取量(ADI)の設定も不要と結論付けました。要は、どれだけ摂取しても安全、ということです。

キサンタンガムは、2個のグルコースと2個のマンノース、1個のグルクロン酸が結合したもので、食べても消化・吸収されません

腸内細菌によって分解され、分解されたものの一部が腸から吸収されるため、カロリーはゼロではなく、0.6 kcal/gです。これは片栗粉の3.3kcal/gと比べると、1/5以下です。ただ、キサンタンガムは消化・吸収されないため、多く摂りすぎると、お腹が張ったり、便が緩くなることがあります。

キサンタンガムの特徴、溶けやすく、粘度が高く、圧力によって粘度が変わる

キサンタンガムは、温水と冷水のいずれにもよく溶けます

でんぷんは水に溶けにくいのですが、キサンタンガムは側鎖に親水性のカルボキシル基(COOH)とピルビン酸(CH3COCOOH)があるので、水に溶けやすいのです。また水に溶かすと、濃度が低くても高い粘性を示します。

キサンタンガムの水溶液の特徴の一つに、シュードプラスチック性というのがあります。

これは強い力を与えると粘度が下がって軟らかくなり、力を緩めると粘度が上がって固くなるいう性質です。

例えば、ケチャップのびんを逆さまにしても、ケチャップは出てきませんが、びんを強く振ったあと逆さまにすると、ケチャップは出てきます。静置された状態では、キサンタンガムの分子がゲルに似た網目構造を作っているため、粘度が高い状態にありますが、振とう、撹拌などゲルに力を加えると、網目構造が破壊され、粘度が急激に下がります。力を加えるのをやめると、すぐに網目構造がフッ化挿し、もとの粘度が高い状態に戻ります。少し難しくなりますが、シュードプラスチック性と似た性質として、チキソ性というのがあります。この違いについては、この記事の最後の方で、説明します。

このほか、キサンタンガムの水溶液には熱安定性があるため、熱処理の前後で、性質が変化しません。また冷凍したのちに解凍しても、性質が変化しません。このほか広いpH域で安定しているため、酸性、アルカリ性いずれの条件でも使うことができます。さらに、塩分濃度が高い領域でも、安定しています。キサンタンガムそのものに味がないため、他の原料の味に影響しないことも、増粘安定剤としてのメリットです。

キサンタンガムの用途、使われている食品と使用目的

ドレッシングに、増粘剤、乳化剤、安定剤として使われています。

ドレッシングを野菜にかけたとき、粘度が高いほうが、野菜にうまく付着します。またドレッシングは、水分と油分の両方が含まれているため、これが均一に混ざった状態を保つ(乳化といいます)ために、使われています。さらにドレッシングの中の固形成分が沈澱せず、均一に混ざるための安定剤としての役割も果たします。

たれやソース類にも、増粘剤、乳化剤、安定剤、ゲル化剤などとして使われます。ドレッシングと同様に、食品への付着のしやすさの改善や、成分が均一に混ざった状態を保つほか、照り・つやの改善にも使われています。

佃煮類、漬物類には、安定剤、増粘剤、保形剤として使われています。佃煮の照り・つやを改善するほか、粘度を高くすることで液だれを防いだり、時間とともに具材から水分が抜けてしまうのを防いだりします。また漬物類でも、水分が抜けて乾燥するのを防ぐために、キサンタンガムが使われています。

レトルト食品では、増粘剤、乳化剤、安定剤として使われます。レトルト食品は、加熱殺菌していますが、キサンタンガムには耐熱性があるため、加熱の前後に性質が変わりません。

冷凍食品でも、安定剤や増粘剤として使われています。冷凍したものを解凍すると、食感が変わってしまったり、水分が抜けたりすることがありますが、キサンタンガムを加えることで、これを防ぐことができます。

このほか、増粘剤、乳化剤として、スープ、飲料類、インスタント食品に、水分を保持し、乾燥を防ぐための保形剤として、ホイップクリーム、バタークリーム、フィリングなどに、でんぷんの老化(乾燥)を防ぐための保形剤として、パンやパンケーキなどにも、広く使われています。

シュードプラスチック性とチキソ性の違い

キサンタンガムが示すシュードプラスチック性と似た性質に、チキソ性というのがあります。シュードプラスチック性もチキソ性も、力を加えると粘度が下がり、力を加えるのをやめると粘度が上がるという点では同じです。

では、何が違うのでしょうか。

シュードプラスチック性は、力を加えるのをやめると粘度はすぐに下がりますが、チキソ性の場合は、力を加えるのをやめてから粘度が下がるまでに、時間がかかるというのが、違いです。

チキソ性という特性は、塗料、インク、接着剤でよく使われます。チキソ性がある塗料では、缶に入った塗料をかき混ぜると軟らかくなり、刷毛に容易につけることができます。刷毛で塗料を塗っている間に粘度が徐々に高くなり、液だれすることなく、塗布面にしっかりと付着します。これがチキソ性ではなくシュードプラスチック性だと、塗る前に塗料の付いた刷毛が固くなってしまい、うまく塗れません。

まとめ

  1. キサンタンガムは、糖類を原料にして、タンクの中で細菌によって作られる。
  2. キサンタンガムは安全だが、摂りすぎるとお腹が緩くなることがある。
  3. キサンタンガムには、冷水・温水に溶けやすい、粘度が高い、力によって粘度が変わるシュードプラスチック性を持つ、耐熱性、冷凍解凍耐性、耐酸性、耐塩性がある、といった、優れた特性があります。
  4. キサンタンガムはさまざまな食品に広く使われている。